名作『南の島に雪が降る』の舞台に出演! 大和悠河インタビュー
2015.7.30
インタビュー
舞台
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間もなく70回目の終戦記念日を迎える日本。ちょうどその時期に上演されるこの作品『南の島に雪が降る』は、太平洋戦争の末期、戦地ニューギニアの首都マノクワリを舞台に描かれる、笑いと涙あふれる「戦地での芝居作り」の物語。兵隊たちの手作りの小道具や衣裳で、日本を忍ぶ芝居を上演、南方の小島に降るはずのない白い雪を降らせたという。
原作は前進座の俳優・加東大介が実際に経験した演芸慰問部隊の話で、1961年には渥美清、森繁久彌、三木のり平といった名優たちで映画化もされ好評を博した。その名作が、8月6日からの東京・浅草公会堂公演を皮切りに、名古屋、福岡、大阪で8月いっぱい上演される。
今回の舞台化で、加東の妻役として、また新たに書き加えられるオランダ人宣教師の娘の役でも出演する大和悠河。男ばかりの舞台に夢と郷愁と癒しを持ち込む役割を期待されている。
物語のなかで花になれたらいいなと
──この作品の原作には、柳家花緑さん演じる加東の妻しか女性は出てこないそうですが、今回、大和さん用に新しい役が作られたそうですね。
オランダ人の宣教師の娘で、日本語はできないのですが、歌を通して演芸慰問部隊の皆さんと交流していく役です。私はお話をいただくまでこの作品のことを知らなくて、まず映画を観たのですが、本当に感動しました。戦地で兵隊さんたちが演芸慰問部隊という一座を作って、お芝居を上演するんです。何もない場所で、工夫して着物を作ったり、かつらなども手作りで。
──兵士の方たちは喜んだことでしょうね。
着物を懐かしそうに触りにきたり、お白粉の匂いに「母ちゃんの匂いだ」と母親や妻のことを懐かしんだり、そういう話も描かれていて、胸が詰まりました。戦場ですから生と死のはざまで毎日を過ごしていて、普通の日常なんてないと思うのですが、でもだからこそその日常を保つためにも演劇が役に立った部分があったと思います。その演劇を一緒にやる役なので、兵士の皆さんに癒しとか楽しさ、夢を与えられる役割を、しっかり演じられたらと思っています。
──マドンナ的な明るさを与える存在ですね。
戦争のお話はどうしても暗いもの悲しいものが多いですよね。でも、この作品は笑いも多いし、明日死ぬかもしれない毎日の中で、一生懸命に生きている姿を描いていて、そういう物語の中で花になれたらいいなと。演出家の中島(淳彦)さんとお話をしたとき、「舞台上で劇中劇をやるのは難しいけれど、でも舞台だからこそ描けるものもある」とおっしゃっていたんです。私も宝塚での経験から、ファンタジーでなら華やかな場面も入れやすいかなと思いますし、出方もいろいろ工夫できるかなと思いました。現実離れした設定やファンタジー要素を取り入れるのに、私の存在をうまく使っていただければと思っているんです。
生と死が紙一重で分けられるのが戦争
──今年は戦後70年ということもあって、とても意味のある公演ですね。
──今年は戦後70年ということもあって、とても意味のある公演ですね。
戦争のことは、私も幼い頃から夏に映画やアニメなどで観て、一般的な知識はありました。日本に残された家族の暮らしなども、映画やドラマでは何度も観ています。でも戦地のことにはあまり触れる機会がなくて、この作品で戦争の現実、戦地での日々を少し知ることができました。花緑さんが、お祖父さまの柳家小さん師匠の体験を話していらしたのですが、伸びをして体を反らしたとき胸の前を流れ弾が通って隣の人を直撃したと。紙一重で生と死が分けられるのが戦争なのだと。
──それが日常だし現実なのですね。
でもそういう極限の中でも、演芸慰問部隊の兵士の方たちは、自分の役と一生懸命に取り組んで、掘り下げて深めていこうとするんです。それが人ごとではなくて、その気持ちは私たちとひとつも変わらないし、どんな状況下でもそこは一緒なんだなと感動しました。それから、観る方たちのお芝居を楽しもうとする気持ちも一緒で、どんな時でも人は娯楽を求めているのだと思いました。私は宝塚の初舞台が阪神淡路大震災のすぐあとで、こんな時期にこんなことをしていていいのだろうかと思ったりもしました。でも劇場が開幕したらお客様が沢山来てくださって、一生懸命観てくださったんです。戦地も同じで、気力と精神力だけで生きている戦いの中だからこそ、娯楽が必要なのだと思いました。
──現実が苛酷なときほど夢を見たいですからね。
夢が力になるんですよね。物語の中でも、お芝居で降らせる雪を、故郷の雪を最後に見たいからと、島中の兵士の方たちが観に集まってくるんです。遠い場所の人たちまで。とても切ないです。でも、悲しい場面もありますが作品全体はとても明るくて、笑いも沢山あります。私も歌ったり踊ったり、華やかさを持ち込んで一座を盛り上げようと思っています。
地元の温かさを感じた新歌舞伎座の『細雪』
──この『南の島に雪が降る』もそうですが、悠河さんは日本物の作品が意外と多いですね。
宝塚を退団したあとのほうが日本物のお芝居にご縁があります。私自身、着物もよく着ますし日本物のお芝居大好きなので、嬉しいです。
──4月には『細雪』が大阪新歌舞伎座で再演されて、大きな評判を呼びました。
物語の地元での公演でしたから、船場なまりひとつとっても「違う」と言われたらどうしようと思ったりして、ちょっと恐かったんです。でも台詞で「上本町に行って」と言ったら、お客様が嬉しそうに笑ってくださって、ホッとしました。泣いたり笑ったりしながら観てくださる中にも、やはり親近感というか地元ならではの温かさをすごく感じました。毎日大勢のお客様に来ていただいて、とても幸せな公演でした。
──姉役の三人の女優さんの中に、昨年6月の明治座公演から加わったわけですが、四女の妙子をとても自然に、そして少し色変わりな役柄をうまく見せていましたね。
昨年、とても温かく姉妹に加えていただいて、今年は姉妹としてのコミュニケーションもさらに自然に取れて、より家族の一員という気持ちが深まりました。この名作に私を起用していただいてありがとうございましたという気持ちです。昨年宝塚OGで上演したブロードウェイミュージカル『CHICAGO』の時にも思ったのですが、良い本は何もしなくてもそのままでいいというか、本が教えてくれるんですよね。そして、何回やってもその度にいろいろなことを教えてくれるし、発見があるんです。『CHICAGO』も『細雪』も、素晴らしい作品と出会える幸せを、毎日のように感じた公演でした。
セーラー戦士5人を今回の公演で送り出す
──そして9月には当たり役の1つ、タキシード仮面でミュージカル『美少女戦士 セーラームーン』に出演しますね。今年1月の上海公演も大成功と聞いていますが。
お客様の熱狂ぶりがすごくて、日本のアニメ文化のすごさを感じました。昨年のフランス・パリでの「JAPAN EXPO 2015」もそうですが、日本のアニメやコミックが、世界中で愛されているのを感じます。その作品を通して良い交流ができますし、お互いの国の理解を深めるうえで大きな力になるのを感じました。上海へは、宝塚時代に月組上海公演(1999年)で行ったことがあるんです。その時の舞台を観てくださった方たちが、「あの大和悠河がまた上海に来る」と盛り上がって、すごく歓迎してくださって、本当に嬉しかったです。
──ところで、今回の『美少女戦士 セーラームーン』-Un Nouveau Voyage-は、セーラー戦士たちの卒業公演となるそうですね。
今回が3作目になりますが、セーラー戦士たち5人がこの作品で卒業します。これまでの2作や海外公演で、カンパニーのチームワークはしっかり出来ていますので、5人のラストを飾るのにふさわしい素敵な舞台になればいいなと思っています。タキシード仮面役については、竹内直子先生の描かれている絵の素敵さや空気感を、さらに大事に表現したいですね。
──悠河さんのタキシード仮面は絵のイメージ通りで、漫画を具現化するために、大きな役割を果たしていますね。
それまで男優さんが演じていた役ですから、私のタキシード仮面はある意味賭けみたいなものだったと思うのですが、おかげさまで好評をいただいて、こうして続けて演じることができて、私も取り組み甲斐があります。
──その公演も期待が膨らみますが、最後に『南の島に雪が降る』への意気込みを改めてぜひ。
南の島で戦っている兵士の皆さんが、自分たちで演劇を上演するというお話で、とても身につまされますし、切ない部分もあるのですが、楽しい場面や笑いもいっぱいあります。柳家花緑さんをはじめ男優の方たちも豪華な顔ぶれで、その舞台に少しでも華やかさを持ち込むことができればと思っています。原作にはない、オランダ人宣教師の娘リリィとの2役の予定でしたが、なんとそれに加えてさらに新たに、1幕と2幕の両方で、男役をお見せすることになりました。この作品での男役を、どう演じるか。私自身とても楽しみにしていますので、皆様もどうぞ楽しみに観にいらしてください。
やまとゆうが○東京都出身。95年宝塚歌劇団入団。天性の華やかさと抜群のスター性で早くから抜擢され宙組トップスターとして人気を博す。 09年卒業後は、「CHICAGO」のロキシーや「細雪」他数多くの主演・ヒロインを務め、ミュージカルを中心とした舞台、テレビなど幅広い分野で実力派女優として活躍する一方、本の執筆や連載などマルチな才能を見せている。『南の島に雪が降る』の後は、『美少女戦士セーラームーン』タキシード仮面、初春新派公演などの他、東劇にて『大和悠河が語るメトロポリタンオペラの魅力』等が控えている。
〈公演情報〉
『南の島に雪が降る』
原作◇加東大介
脚本・演出◇中島淳彦
出演◇柳家花緑、大和悠河/川崎麻世、松村雄基、柄本時生、佐藤正宏、酒井敏也、冨家規政、佐々木勝彦 ほか ●8/6~9◎浅草公会堂
〈料金〉S席¥8,500 A席¥7,000 B席¥5,000(全席指定・税込)
●8/14~23◎中日劇場
〈料金〉A席¥8,800 B席¥5,000(全席指定・税込)
●8/25◎キャナルシティ劇場、
●8/27◎梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ
〈お問い合わせ〉
東京公演:ジェイ.クリップ 03-3352-1616(平日10:00~19:00)
名古屋公演:中日劇場0570-55-0881
【取材・文/宮田華子 撮影/安川啓太】