KERAの半自伝的作品に出演する柄本時生、演出するマギーを独占インタビュー KERA CROSS 第七弾『シャープさんフラットさん』

17:00
インタビュー
舞台

(左より)マギー、柄本時生

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ケラリーノ・サンドロヴィッチ(以下、KERA)の多様な戯曲の中から、選りすぐりの名作を才気溢れる演出家たちが異なる味わいで新たに創り上げる連続上演シリーズ「KERA CROSS」。その第7弾では、2008年にナイロン100℃の結成15周年記念公演として上演された『シャープさんフラットさん』が、KERA作品には俳優として何度も出演しているマギーの演出で蘇る。初演時はホワイトチームとブラックチームの2バージョンがあり、ダブルキャスト2本立て興行という前代未聞の上演スタイルが話題となった作品だ。
時はバブル経済が崩壊へ向かい始める1990年代初頭。“笑い”を作ることに人生を賭ける男、辻煙(つじけむり)は、あることをきっかけにサナトリウムへ逃げ込み、そこで生活することに。恋人の美果や、サナトリウムで暮らす元芸人たち、そして煙が見る幻影の中に登場する父親らとのやりとりを通じて、悲劇を喜劇に返還して人生を過ごしてきた劇作家の生きざまが浮かび上がってくる……。

KERAが、この作品は半自伝的な戯曲であることを公言している通り、煙の言動には“笑い”に異常なほど強いこだわりを持つ作り手の苦悩が嫌というほど詰め込まれていて、しかもそれがまさに悲劇と喜劇の紙一重のような出来事ばかりで、もちろん笑えるのだがそれだけでは済まされない凄味ある展開へと転がっていく。そこにあるのはリアルとマボロシ、正気と狂気、笑いが生み出す軽妙さと深遠さ、それらすべてが混在する複雑な世界。
ナイロン100℃版のブラックチームでは大倉孝二、ホワイトチームでは三宅弘城が演じていた主人公の辻煙を、今回のKERA CROSSで演じるのは、KERA作品にはこれが初挑戦の柄本時生だ。ちなみに演出を手がけるマギーはブラックチームの一員として出演していたこともあり、作品への理解度および思い入れはおそらく誰よりも深いと言える。

本格的な稽古が始まるまで、まだもう少し間がある3月初旬、柄本とマギーに現在の心境や作品への想いを語ってもらった。

KERA CROSS 第七弾『シャープさんフラットさん』

ーーまずは、KERA CROSSに演出という立場では初挑戦となるマギーさんに、この企画への想いや、作品への思い入れについてお伺いしておきたいのですが。

マギー:実は、KERA CROSSという企画が生まれる直前くらいに「こういう企画が始まる」というお話は聞いていたんです。だから相当前から面白そうな企画だな、お客さんもワクワクするだろうなと思っていましたし、先に俳優として出演させてもらいましたけど(第4弾『SLAPSTICKS』)、自分にもし演出する機会があるのなら、ぜひぜひぜひ! という願望は持っていたんです(笑)。これはKERA CROSSに限った話ではないけれど、僕が他人の戯曲を演出する場合は“リスペクト”と“挑戦”の両輪がないといけないなと思っているんです。僕は30年くらい前からKERAさんとはよくご一緒していて、もちろん今回の脚本だって“バイブル”のように思ってはいるんですが、でもまさに聖書でたとえるとしたら「俺はキリストの隣で、この言葉を聞いていたんだよ。俺も一緒に作ったんだよ」という気持ちがあるというか(笑)。

ーーナマの声で、すぐ横で聞いていたと(笑)。

マギー:そうそう。KERAさんって、稽古場に作・演出家が自分の他にもう一人いるということを非常に前向きに捉えてくれる方なんですよ。それで「マギー、何かない?」と意見を求めてくれる。もうこの30年間、ずっとそういう関係でやってきているので。だからリスペクトは当然あるとしても、決して臆することなく挑戦できるという意味では、これまでKERA CROSSの演出を手がけられてきた方々と僕とでは、KERAさんご自身との距離感みたいな部分でちょっと違うかもな、とは思っています。でも、だからといって戯曲に大きく手を入れたり、奇をてらった演出をしようとは思っていません。ただただ純粋に戯曲に向き合って自分なりの角度、そして今回のキャストならではのアプローチを見つけたいと思っています。
 
ーー数多くあるKERA作品の中から、この『シャープさんフラットさん』を選んだのはどうしてですか。

マギー:この作品には僕自身も出演していたんですが、初演時はブラックチーム、ホワイトチームに分かれていて、2バージョンあったんですよ。

マギー

ーー主人公もブラックチームが大倉孝二さんでホワイトチームが三宅弘城さんというように、すべての役がダブルキャストで。それぞれ、結末も違ったんですよね。

柄本:僕、そのことを今回まで知らなかったんです。なるほど、すごいことをやってたんですねえ。

マギー:そう、だからお客さんはブラックだけ見た人、ホワイトだけ見た人、両方見た人、いろいろいたわけで。出る側にとっても、実はそうやって2バージョンあるという企画性が大きかった。別に競っていたわけではなかったんだけど、いい意味でも悪い意味でも振り返ってみると、その企画性と戦っていた印象が強かった気がするんです。だから、この機会に改めて作品としてきっちり向き合ってみたかった、という気持ちが大きかったですね。

ーーでも、その2バージョンをうまく融合させて1本の脚本にするというのは、マギーさんとKERAさんの関係性があるからこそ可能なことかもしれないですね。出演もされていたから、作品への理解も深まっているはずですし。

マギー:そうかもしれないです。確かに、ブラックとホワイトの台本を並べた時に「このセリフは、この時の役者の個性から生まれたものだ」ということがわかるので、「今回の座組でこのままやるのはちょっと違うか」というような、取捨選択についてもきちんとやれたのではないかという思いはあります。
 
ーーそして今回、主人公の辻煙を柄本時生さんで、というお声がかかって時生さんはどう思われましたか。

柄本:最初は「おぉ、KERAさんの作品か!」と思いました。「そうか、そんなこと、あるんだ!」って。

マギー:「自分に来るんだ?」っていうこと?

柄本:そうです、「僕にあるんだ?」と。

ーーない、と思っていたんですか?

柄本:はい、僕にはそんな話は来ないものだと思っていました。

ーーどうしてですか?

柄本:なんでなんでしょうね。縁がないような気がしていたというか。

マギー:わかる。役者って勝手にそう思ってること、あるよね。

柄本:ありますよね。でも「あ、そうなんだ」と思ったと同時に嬉しかったですし、しかも演出がマギーさんだというから一気に安心感が僕の中で生まれましたし。それに、先ほどマギーさんも言われていたように、初演では作家自身が演出していた戯曲を別の方が演出するというこの企画そのものも、僕もすごく面白そうだと思うので。別の方法論を見つけるために考える作業って、僕はすごく好きなんです。だから、こういう企画に携われることが僕自身もすごく光栄ですし、とてもワクワクしています。それで一応、初演の大倉さんがやられていたバージョン(ブラックチーム)を映像で拝見させていただきました。きっと違うものになるはずだというのはわかっていたんですが、観たことがなかったので念のため観ておこうかと思って。

柄本時生

マギー:今回、僕は出演者にもスタッフにも「初演の映像は観なくてもいいよ」って言ってたんですけどね。 

ーーえっ! でももう、観ちゃったんですね?

柄本:そうです。スミマセン(笑)。

マギー:いや、観る分にはいいんだけど、どうしても……。

柄本:観たものに引っ張らてしまう人って、いますからね。

マギー:もしくは、引っ張られないためにわざとそれとは違うことをやりたくなってしまう人もいる。

柄本:ああ、なるほど。

マギー:何らかの影響が出てしまう可能性があるので、別に観なくていいからねと伝えてもらっていたんです。

柄本:スミマセンでした!(笑)

マギー:いやいや大丈夫。ま、そりゃあ、観たくなるよねとは思うんだけど(笑)。

柄本:もちろん、面白かったです(笑)。だけどKERAさんって、やっぱり興味深いな、とも思いました。脚本が、すごく強いというか、根源的に何かでありたいみたいな感じがあるというか。戯曲のために使うエネルギー量と、人前で見せるKERAさん個人の人間性とでは、どちらもKERAさんなんだろうけれど、根源的なところは戯曲のほうにあるような気がしたんです。つまり、僕らの前にいるKERAさんは嘘なのかも? とか、そんなことを考えながら観ました。

マギー:うん、わかるわかる。ご自身の中でパブリックでは少しチューニングを変えているようなところ、ありそうな気がするもん。 

ーーしかも『シャープさんフラットさん』という作品には特に、そう思わせるものが強くあるかもしれないですよね。

マギー:実際、この作品はKERAさんが自分の半生を投影しているというか、自分自身の今までのことをまっすぐ出しているところがあるから。

ーー“半自伝的”とも言われていますし。

マギー:別に、サナトリウムにいた経験はないだろうけどね。ただ当時、三宅さんがこの作品を「化け物のような」と評していたことがあって。今回、再演するにあたって三宅さんに「なんで化け物だと思ったの?」と聞いてみたんです。そうしたらやっぱり、三宅さんは僕よりずっと長くKERAさんと一緒に過ごしてきた中で、この作品は特に「KERAさんが自分をさらけ出したな」と感じたらしくて。それで「これは絶対にうわべをなぞってセリフを言ってはいけないな」と思ったそうなんです。もちろん僕も同じことを感じていて、よく「命を削る」という言い方をしますけど、これこそまさしく命を削って書いているなと思うセリフが、この作品には本当にたくさんあるんですよ。それに、なんだか本当に筆が走っているんですよね。特に時生くんが演じる煙のモノローグとかも、一筆書きのような整ってない勢いがあるから、そこはそのまま活かしたいと思ってます。そういう、作品全体に通じるアンバランスさが魅力でもあるから。

(左より)マギー、柄本時生

柄本:そうだったんですね。ああ、なるほど。

マギー:けど初演時は、演じる役者たちもしっかりと咀嚼できずに、やはり勢いで演じていた部分もあったんですけど、今回はある程度俯瞰したり、批評的な視点でも読めるわけで。だからこそできるアプローチも生まれてくるはずです。初演の良さを残しつつ、今回のカンパニーだからこその解釈も入れながら、みんなで再構築してみたいと思っています。

ーー時生さんは、このキャストの顔ぶれでやることに関してはどんな想いがありますか。初共演の方も多そうですが。

柄本:そうですね。まず高梨臨さんとは初めまして、です。食事している時に偶然、何度か一緒になったことがあるくらいで。マキタ(スポーツ)さんとは『みんな!エスパーだよ!』というドラマでご一緒してから、すごく仲良くしていただいていて。あと、安達祐実さんとは……。

マギー:実家に来たことがあるって、安達さんが言ってたよ。「私の弟と繋がりがあったみたい」って。

柄本:そう、ご実家に行かせていただいたことがあるんです。

ーーえっ、どういうことですか(笑)。

柄本:ちょっと事情があって、お祭りのおみこしを担ぐ時に着るハッピを探してると言ったら貸してもらえることになって、それを返しにいっただけなんですけど(笑)。

ーーちょっとしたご縁があったんですね。

柄本:だけど、安達さんってなんだかすごくカッコイイですよね。そんな印象を持っています。トリンドル玲奈さんは……妹さんと共演したことがあったんじゃないかな。

マギー:家には行ってないの?

柄本:行ってないです(笑)。トリンドル玲奈さんのほうは、うちの兄貴夫婦の家に泊まったことがあるそうですけど。

ーーいろいろ複雑になってきました(笑)。

柄本:あと、岩男海史は僕の通っていた小学校の後輩です。

マギー:へえ。年齢はどれくらい離れてるの?

マギー

柄本:2歳違いですね。今、彼がやっているブランドのモデルを僕と嫁がやらせていただいていたりします。あとは、みなさんと初めましてだと思うのでどうなるんだろうと、とても楽しみです。
 
ーー今回の稽古本番に向けて、特に楽しみに思っていることは。

柄本:基本的に、僕は稽古が好きなんですよ。だから何があっても大丈夫というか。つまり結局は悩むんですけど、そうやってどうすればいいんだろうと考えながら稽古すること自体が、とても好きなんです。

ーーマギーさんとはお付き合いは長いけれども、演出を受けるのは初めてになりますが。

マギー:舞台で、ご一緒するのは初めてだよね。

柄本:そうです。だからそのことも楽しみで。きっと、たくさん悩むんだろうな。ちなみに、稽古時間も長くても大丈夫なタイプです。

ーーマギーさんの稽古って、長いほうですか?

柄本:そういうこともまだ全然わかってなかった。

マギー:僕も自分が役者をやるから、そこが良くも悪くもという部分でもあって。何回も「もう一回、もう一回」って言う演出家は嫌がられるんじゃないかとか、ついどこかで思ってしまうじゃないですか。

柄本:アハハハ!

マギー:それで「今日はこのくらいにしといてやろう」ってなることもあるけど。

柄本:僕としては「もう一回、もう一回」は大丈夫ですけどね。

マギー:いわゆる“ダメ出し”の時間は、わりと長いほうかも。

柄本:ものすごく厳しくて、凹まされたらどうしよう(笑)。

マギー:特に、初めて通して稽古した直後は、僕のトークライブか? ってくらい、延々しゃべり続けるかも。40分くらい、平気で一人でしゃべるから、そこは楽しみにしておいて(笑)。

柄本:そういうのも、面白そうだなあ(笑)。

柄本時生

マギー:でも絶対にみんなが笑える言い方にする、というのは心がけているから。

ーーただひたすら、ダメを出す言い方ではないんですね(笑)。

マギー:みんながアハハって、笑える時間にはするつもり。

ーーだから“トークライブ”だと。

マギー:そうそう。そしてみんなが笑ってくれたら、だんだん僕もノってきちゃうから。

柄本:ふふふ。僕は元々、長い稽古が好きだから楽しみですよ。

マギー:それなら嬉しいな(笑)。

ーーマギーさんとしては、今回の辻煙役を時生さんにどう演じてもらいたいと現時点では思われていますか。

マギー:大倉くんや三宅さんとはもちろん違う、時生くんならではアプローチがあるとは思っていて。いくつも、お願いしたいことはあるんですけどね。でも、この役に時生くんがいいなと思った一番の理由は、いろいろな役者さんがいる中で、やっぱりこの役は“笑い”についてこだわりすぎてこじらせてしまっている人なので。“笑い”というものに憑りつかれている人というところに、リアリティを持たせられる役者さんって、数多くいないと思うんですよ。ちょっと陰のある男前はいっぱいいても、そういう人がカッコよく悩んだ表情をしていても、“笑い”に対する感覚が元で人間関係までうまくいかなくなってる人には見えないかもしれない。

柄本:ああ、それはわかります(笑)。

マギー:その点、時生くんが黙って悩んでいる姿には、頭の中で「これは前にやった、これは誰かがやってたはず、もっと面白いものはなんだ?」と笑いについてもがいている日々も見えてくると言うか。そのリアリティを表現できる、セリフを言わない立ち姿からも、彼なら辻煙を表現できそうだという期待があって。それで時生くんにオファーしました。 

ーーそれを聞いて、時生さんはどう演じたいと思われていますか。

柄本:僕としてはどう演じたいという感覚が、あまりないんです。とりあえず、やってみないとわからないし。

マギー:うん、いいと思う。そのほうが、僕もありがたいです。もう、こうして隣でしゃべっている時生くんを見ているだけで、既に辻煙は時生くんで絶対大丈夫だと確信できました!(笑)

柄本:はい、僕も一生懸命頑張らせてもらいます!!

(左より)マギー、柄本時生

取材・文=田中里津子    撮影=敷地沙織

公演情報

KERA CROSS 第七弾『シャープさんフラットさん』

作:ケラリーノ・サンドロヴィッチ
演出:マギー
 
出演:
柄本時生 高梨 臨 安達祐実 田中俊介 トリンドル玲奈
森 準人 岩男海史 白石優愛 土屋 翔 小野晴子
松永玲子 マキタスポーツ 堀部圭亮
 
【東京公演】
日程・会場:2026年6月19日(金)~7月5日(日)紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA
※6/24(水)昼夜公演は収録のため客席にカメラが入ります。予めご了承ください。
※開場は開演の30分前。
※未就学児童入場不可。
※車椅子でのご来場は、をご購入の上ご来場の3日前(土日祝は除く)までにキューブにご連絡ください。
 
料金(前売・当日共/全席指定/税込)>
●平日昼・土日公演:9,900円
■平日夜割:9,400円
東京公演一般発売:2026年4月25日(土) 10:00~
主催・お問い合わせ:キューブ 03-5485-2252(平日12:00~17:00)
 
【名古屋公演】
日程・会場:2026年7月11日(土)13:00・18:00/7月12日(日)13:00 Niterra日本特殊陶業市民会館 ビレッジホール
料金>
11,000円(前売・当日共/全席指定/税込)
名古屋公演一般発売:2026年5月9日(土)10:00~
主催・お問い合わせ:キョードー東海 052-972-7466
(月~金 12:00-18:00 土 10:00-13:00※日・祝日休み)
 
【大阪公演】
日程・会場:2026年7月18日(土)12:00・17:00/7月19日(日)12:00 サンケイホールブリーゼ
料金>
11,000円(前売・当日共/全席指定/税込)
大阪公演一般発売:2026年4月25日(土)10:00~
主催:サンケイホールブリーゼ キューブ
協力:リコモーション
お問合せ:ブリーゼセンター 06-6341-8888(11:00~15:00)

企画製作:キューブ
 
 
▼公演の最新情報はこちら
https://www.cubeinc.co.jp/archives/theater/keracross_7 
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