武満徹没後20年にN響が贈る、限りなきオマージュ
武満徹 (C)木之下晃
20世紀の日本を代表する作曲家、武満徹(1930-1996)がこの世を去ってから20年になる今年、様々な形で「武満徹没後20年」を記念する公演が行われている。
なかでも、国内では、NHK交響楽団(N響)が、今年から来年初めにかけて5つの公演で6作品を取り上げるのが注目される。その最初の演奏会となるのが、4月22、23日にNHKホールで行われる、第1833回定期公演。ここでは、武満晩年の作品のなかから「系図(ファミリー・トゥリー)ー 若い人たちのための音楽詩」(1992)が演奏される。指揮は、1995年に世界初演を指揮したレナード・スラットキン。
4月22日、同ホールで行われた最終リハーサルを聴いた。
(取材・文:唯野正彦)
「系図」は、ニューヨーク・フィルハーモニック創立150年を記念して委嘱され、谷川俊太郎の詩集『はだか』から選ばれた6つの詩にもとづく音楽詩。95年4月20日、ニューヨークのエイヴリー・フィッシャー・ホールでサラ・ヒックスの語り(英語版:ウィリアム・I・エリオット、川村和夫共訳)で初演された。その後国内では、岩城宏之指揮、遠野凪子の語りでまずテレビ放送用として制作され、同年9月7日、「サイトウ・キネン・フェスティバル松本」で小澤征爾指揮(語り:遠野凪子)サイトウ・キネン・オーケストラで日本語版舞台初演された。
山口まゆ
N響では、97年6月18、19日、第1327回定期公演でシャルル・デュトワ指揮(語り:遠野凪子)で初演、今回が2回目の演奏となる。
本作品で重要な役割をもつ「語り」にはこれまで、上記初演の二人をはじめ、国内では夏菜、上白石萌歌らが起用されてきた(録音では他に、吉行和子、小澤征良(英語版)などがある)。
今回語りを務めるのは、女優の山口まゆ。2000年生まれで現在15歳。子役としてさまざまな舞台を経験後、2014年本格的に芸能活動を開始。話題のドラマに主要キャストとして登場、最近では『インディゴの恋人』(NHK BSプレミアム)でのバレエシーンが話題となるなど、演技派として高い評価を得た現在、将来を期待されている若手女優のひとりだ。
「むかしむかし」で始まる彼女の一声を耳にしたとたん、そのはっきりとした美しい日本語の響に、まずは驚かされる。一点の曇りもないその声は、淡々としていながら、どこまでも自然だ。
「とおく」での一節。
「どうしてもわすれられないおもいでがあるといいな」
と語る場所では、武満が愛した楽器のひとつであるアコーディオン(大田智美)に伴われ、山口の「語り」が静かに私たちの心をうつ。
「『系図』は私にとっても、アコーディオンという楽器にとっても、宝物のような作品」だと語る大田の演奏にも耳を傾けたい。
スラットキンに導かれたN響は、輝かしいサウンドをプラスしながらも、武満特有の低音の厚みを保持した好演奏。
NHK交響楽団
●第1833回 定期公演 Cプログラム
2016年4月22日(金)7:00pm
NHKホール
http://www.nhkso.or.jp/concert/concert_detail.php?id=486
●第1833回 定期公演 Cプログラム
2016年4月23日(土)3:00pm
NHKホール
http://www.nhkso.or.jp/concert/concert_detail.php?id=487
●曲目
ベルリオーズ/歌劇「ベアトリスとベネディクト」序曲
武満 徹/系図(ファミリー・トゥリー)ー 若い人たちのための音楽詩(1992)*
ブラームス/交響曲 第1番 ハ短調 作品68
指揮:レナード・スラットキン
語り*:山口まゆ(女優)
レナード・スラットキン(C)Cybelle Codish
●2016年5月14日[土]6:00pm 15日[日]3:00pm NHKホール(定期公演Aプログラム)
武満徹/波の盆(1983/1996)
指揮:尾高忠明
●2016年9月14日[水]7:00pm 15日[木]7:00pm サントリーホール(定期公演Bプログラム)
武満徹/ア・ウェイ・アローン II(1981)
武満徹/ハウ・スロー・ザ・ウィンド(1991)
指揮:パーヴォ・ヤルヴィ
●2016年10月31日[月]7:00pm NHKホール(NHK音楽祭2016)
武満徹/マイ・ウェイ・オヴ・ライフ ー マイケル・ヴァイナーの追憶に(1990)*
指揮:トゥガン・ソヒエフ バリトン:ギャリー・マギー* 合唱:東京混声合唱団*
●2017年2月22日[水]7:00pm 23日[木]3:00pm 横浜みなとみらいホール
武満徹/弦楽のためのレクイエム(1957)
指揮:パーヴォ・ヤルヴィ