ミュージカル『アニー』開幕前日ゲネプロレポ(会見動画あり)

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2016.4.23
"It's the Hard Knock Life"

"It's the Hard Knock Life"

 
丸美屋食品ミュージカル『アニー』の季節がやってきた。2016年は、4月23日より新国立劇場 中劇場で上演が行われる(8月には福井、大阪、福岡、名古屋を巡演)。今回、約9,000人が応募したオーディションの中からアニー役に選ばれたのは、河内桃子さん(スマイル組)・池田葵さん(トゥモロー組)。開幕前日にはスマイル組のゲネプロ(総通し稽古)が報道向けに公開され、さらに主要キャストによる会見も行なわれた。以下、“『アニー』にハマり続けること29年”のヨコウチ会長によるレポートをお届けする。
 
アニー(河内桃子)、ハニガン(遼河はるひ)

アニー(河内桃子)、ハニガン(遼河はるひ)

◆ミュージカル『アニー』の時代背景

先日のSPICE単独インタビュー で、河内桃子さんは、アニーの役作りのために「その時代の、実際の歴史(大恐慌の時代やルーズベルト大統領の政策など)を勉強しています」と答えてくれました。

ミュージカル『アニー』に描かれているのは、1933年12月のニューヨーク。その時代背景とは、どのようなものだったのでしょうか。劇中に出てくる貧民街「フーバービル(Hooverville)」からひもといてみましょう。

フーバーとは、フランクリン・ルーズベルト大統領(民主党)の一つ前の大統領ハーバート・フーバー(共和党)のことです。1929年からの世界的大恐慌もフーバー前大統領の失政によるものとされ、それが元で仕事も家も失った人々の集まった場所を民主党が非難を込めて“フーバー村”=「フーバービル」と呼びました。

フーバービル

フーバービル

「フーバーブランケット(毛布の代わりに古新聞を使うこと)」、「フーバーフラッグ(何もないポケットを裏返しにすること)」などという言葉も造られたのですが、アニーが劇中、59番ストリート橋ふもとのフーバービルに駆け込んだ際、皆がこれらを思わせる悲観的なことを次々と口にするのに対し、アニーがことごとく前向きな考え方で励ましてみせます。このときアニーが皆に「1928年以来の楽観主義」と呼ばれるのは、フーバーが大統領に就任したのが1929年と考えると納得できますね。

ところでフーバーといえばもう一人、劇中にもその名が出てくる初代FBI長官のジョン・エドガー・フーバーが有名です。しかし史実ではこの年に「FBI」の呼称はまだありませんでした。また、孤児院を抜け出したアニーがやって来た街角には「ルーズベルトを大統領にしよう」という些か古びた選挙ポスターが剥がされずに残っていることが舞台美術から窺えます。この時点は1933年12月なので、ルーズベルトの大統領就任(同年3月)から9ヶ月が経っている。なのに舞台の風景は相変わらず不況の真っ只中。つまり、劇中ではルーズベルトの例の有名な政策がまだ打ち出されていない、と暗に示しているわけです。しかしこれも史実において、その政策は既に大統領選挙の時に掲げられていました。なぜ史実どおりにしないのかといえば、やがてアニーがそれらに係わってくるからなのでしょう。そこはフィクションならではのご愛嬌であり、フィクションならではの醍醐味なのです。

ちなみに、同じ1933年の初め、ドイツでナチスのアドルフ・ヒトラーが首相に就任し、アメリカに警戒心を抱かせます。こうした現代史を頭に入れたうえで『アニー』を鑑賞すると、その面白さもますます深みを増してくることでしょう。

◆『アニー』の見せ場

さて、アニーは孤児院暮らしの毎日から、大富豪・ウォーバックス(三田村邦彦さん)のクリスマス休暇に招待されることになります。窓越しにセントラルパークを望む豪邸で、召使いたちが"I Think I'm Gonna Like It Here"の華やかな群舞でアニーを迎え入れます。たくさんの大人たちが、1人の孤児の女の子をあたたかく歓迎する姿。

ウォーバックス邸で "I Think I'm Gonna Like It Here"

ウォーバックス邸で "I Think I'm Gonna Like It Here"

筆者はとくに、秘書グレース(木村花代さん)が、「これから2週間、楽しいことばかりよ!」と、とびっきりの明るさでアニーを迎えるところ、召使い長・ドレーク(泉拓真さん)の周囲への目配りがたまらなく好きです。

その後、アニーたちはブロードウェイのマジェスティックシアターにショーを観に向かいます。「この子はずっと、孤児院に閉じ込められていたから」と、ウォーバックスさんの自宅から歩く一行。ウォーバックスさんにとって、ニューヨークはふるさと。五番街からの排気ガス、タクシードライバーの喧嘩、胸やけするようなホットドック。そこに交差する未来のスター(北川理恵さん)、ストリートチャイルド(五十嵐陽菜さん)。スーツケースを持って夢いっぱいにあらわれる人も、貧困者も、お金持ちも、皆ここニューヨークで生きている。そのきらめきが、第1幕"N.Y.C."という曲の見せ場でもあります。

ストリートチャイルドから花を買うウォーバックス(三田村邦彦)

ストリートチャイルドから花を買うウォーバックス(三田村邦彦)

タイムズスクエアにて

タイムズスクエアにて

河内桃子さんに「くにくにの声が好き」と言われていた三田村邦彦さんの歌声もステキなんです。そしてマジェスティックシアターで上演されるショー。さきほどフーバービルについてご説明しましたが、このショーでは、現在の日本版には出てこない幻の名曲、“Hooverville (We'd Like to Thank You, Herbert Hoover)”が使われているのです。しかも多彩なアレンジで! この選曲は、筆者の涙腺をゆるませてしまうものでした。

タップキッズたちによるダンスショー

タップキッズたちによるダンスショー

◆ジョエル・ビショッフのラストプロダクション

16年続いたジョエル・ビショッフさんの演出も今年が最後とのこと。今回とくに、場面場面の引き締まりとスピード感、丁寧で細かい心情を表現する演者たちが光ります。

ルースター(大口兼悟)、ハニガン(遼河はるひ)、リリー(野呂佳代)

ルースター(大口兼悟)、ハニガン(遼河はるひ)、リリー(野呂佳代)

グレース(木村花代)、ハニガン(遼河はるひ)

グレース(木村花代)、ハニガン(遼河はるひ)

子どもたちはもちろんのこと、会見で河内桃子さんが言っていたように、大人キャストがイイのです。トボけた味のルースター(大口兼悟さん)、「めんどり」のような動きをするリリー(野呂佳代さん)、「35歳の女性と20歳の男性の恋」のラジオドラマに夢中なミス・ハニガン(遼河はるひさん)。また、アンサンブルの皆さんは様々な役を演じているのですが、とりわけ鹿志村篤臣さんを探すのが筆者の趣味でもあります。

リリー(野呂佳代)、ルースター(大口兼悟)、ハニガン(遼河はるひ)

リリー(野呂佳代)、ルースター(大口兼悟)、ハニガン(遼河はるひ)

アニーに職務質問する警官(鹿志村篤臣)

アニーに職務質問する警官(鹿志村篤臣)

そして会見でトゥモロー組アニー役の池田葵さんが言っていたように、綺麗な曲がたくさん。筆者は毎年、幕が開く前の"Overture"から早くも曲泣きが止まりません!

"Overture" (指揮:田尻真高)

"Overture" (指揮:田尻真高)

◆歌の力・舞台の力

1933年のアメリカ合衆国の話であるにもかかわらず、世界の中で日本ほど、ミュージカル『アニー』が上演されている国はないと思います。なんと、今年で上演31年目を迎えるのです。なぜこんなに受け入れられているのか。それは、代表曲"Tomorrow"のラストフレーズを、「明日は、幸せ」と訳したことが最大の要因ではないでしょうか。

サンディーに"Tomorrow"を歌うアニー

サンディーに"Tomorrow"を歌うアニー

本来の歌詞は「You're always a day away」。あなた(=明日)はいつだって1日先に行ってしまう、明日になった時点の明日はまた1日先。筆者は、その苦さを含んだニュアンスもとても好きです。だけど、「明日は、幸せ」と言い切ってくれることで、「どんなことがあっても、明日までくらいついていこうよ」という気持ちになります。

会見では、ご自身もアニーくらいの年齢の頃に新潟地震を経験した三田村邦彦さんが熊本の地震にふれ、「まだ生活のことで精いっぱいで、余裕はないと思いますが、とにかくふんばっていただきたい。負けずにやっていただきたい」とおっしゃっていました。

"Tomorrow"のスピリッツが九州にまで届くことを願っています。

"Tomorrow" 後ろにサンディーの名の由来となるポスターが…

"Tomorrow" 後ろにサンディーの名の由来となるポスターが…

◆果たしてアニーの運命は

SPICE単独インタビュー でも、「(アニーは)いつも前向きで、自分だけじゃなくてみんなにも元気をわけてあげられる子だと思います」と言ってくれた河内桃子さん。4月9日にTV放送された今年の『アニー』オーディションのドキュメント特番では、河内桃子さんがお隣に住む方の希望の星になっているシーンが映されました。

いま、舞台上では大富豪ウォーバックスさんの希望になっているアニー。彼女の前向きさに触れ、ウォーバックスさんは、アニーを養子にしたいと思い始めます。金銭ばかりを長年追い求め、孤独だった大富豪に初めて芽生える感情。アニーがいつもボロボロのロケットを首から下げているのを見て、ティファニーで新しいものを買ってプレゼントするのですが、アニーはそれを箱ごと振り払ってしまう。これは筆者がニューヨーク・ブロードウェイで観劇した際には無かった演出なので、前の演出家さんの時代から続く日本版(とくに、オーディションでの課題)ならではの伝統芸なのでしょう。

そのロケットは、アニーの両親が彼女を孤児院に置いていった時に子に残した大切なものだった。そのことを聞いたウォーバックスさん。ホワイトハウスだってFBIだって国際連盟だって思いのままに動かせる彼だから、アニーの両親も探し出せるだろう。でも、もしアニーの両親が見つかったら……。アニーを励まし、張り切る周囲をよそに、床に散らばったティファニーの箱を拾うウォーバックスさんの淋しげな笑顔に涙してしまいます。

(ティファニーの)新しいロケットなんか要らない!

(ティファニーの)新しいロケットなんか要らない!

放り投げられたティファニーの箱を拾うのは…

放り投げられたティファニーの箱を拾うのは…

だけどアニーの心中はとても複雑。ウォーバックスさんの気持ちもわかっている。"You Won't Be an Orphan for Long"(もうすぐ孤児じゃなくなるよ)という曲で終わる第1幕。果たしてアニーの運命は?!

遼河はるひさんが「動じない芯の強さ」「何があっても負けない」と評した2人のアニー役、河内桃子さん・池田葵さんが大人キャストを引っ張り、綺麗な曲をよりいっそう綺麗に響かせる名作舞台。物語の結末とともに、ぜひとも客席で見届けてください!

(取材・文=ヨコウチ会長、撮影=安藤光夫)

初日前日に行なわれた主要キャストたちの会見をSPICE動画でご覧ください!
河内桃子/池田葵、三田村邦彦、遼河はるひ、木村花代、大口兼悟、野呂佳代
 
公演情報
丸美屋食品ミュージカル『アニー』

■期間:2016/4/23(土)~2016/5/9(月)
■会場:新国立劇場 中劇場 (東京都)

■脚本:トーマス ミーハン
■作曲:チャールズ ストラウス
■作詞:マーティン チャーニン
■演出:ジョエル ビショッフ

■出演:
アニー:河内桃子[スマイル組]/池田葵[トゥモロー組]
<大人キャスト>
三田村 邦彦(ウォーバックス)
遼河 はるひ(ハニガン)
木村 花代(グレース)
大口 兼悟(ルースター)
野呂 佳代(リリー)
園岡 新太郎(ルーズベルト大統領)
■公式サイト:http://www.ntv.co.jp/annie/

※地方公演
[福井]8月 6日(土)~ 7日(日)フェニックス・プラザ 大ホール
[大阪]8月10日(水)~16日(火)シアター・ドラマシティ
[福岡]8月20日(土)~21日(日)福岡市民会館
[名古屋]8月26日(金)~28日(日)愛知県芸術劇場 大ホール


 

 
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