青木玄徳インタビュー “中途半端なイケメン”役への思い「マイナスの部分がすごく大きいキャラクターを作りたかった」
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青木玄徳 撮影=西槇太一
映画『闇金ドッグス』から始まった、シリーズ最新作『闇金ドッグス3』が5月21日から公開となる。1作目は、山田裕貴演じる闇金業者・安藤忠臣を中心に、金のトラブルや男と女の関係で堕ちていく人々や、暴力や欲望に溺れて破滅していく人間たちを生々しく描きスマッシュヒットを記録した。そして、同じく山田主演の『闇金ドッグス2』をへて、『闇金ドッグス3』では安藤の相棒でホスト崩れ・須藤司の活躍が描かれる。
主演は『仮面ライダー鎧武』の戦極凌馬/仮面ライダーデューク役などで知られる青木玄徳。同作で青木は、等身大の“中途半端なイケメン”を演じ、映画初主演にして新たな境地を切り拓いている。シリーズのテイストを一変させた須藤というキャラクターを、青木は何を思い演じたのか。過去作から初主演にいたるまでの思いや、津田寛治、波岡一喜ら共演陣とのエピソードまで、たっぷりと語ってもらった。
いわゆる“キャラクター”みたいな役を演じることが多かった
青木玄徳 撮影=西槇太一
――『闇金ドッグス3』は青木さん演じる須藤が主役なんですが……正直、1作目の段階では彼が主役になるとは思いませんでした。劇中の早い段階でいなくなっていましたし。
それはぼくも思ってませんでした(笑)。
――主役になるとわかったときはどう思われました?
いやあ、ビックリしましたね。「『闇金ドッグス』で殴られて、それだけで終わってたよな?」と思いました。
――『闇金ドッグス』では、“中途半端なイケメンホスト”と言われ、さんざんな扱いを受けていました。
知らないおばちゃんと結婚させられますし(笑)。
――好かれるタイプでもないですし。そんな須藤が『闇金ドッグス2』では忠臣(山田裕貴)の相棒としてキャラクターを掘り下げられ、『闇金ドッグス3』ではどんどん魅力的になっていった。女性を食い物にしていたダメな男が成長していくところにグッときましました。どんな役作りをされたんでしょう?
たしかに1作目、2作目、3作目で成長が大きく描かれていますね。須藤の着地点を徐々に考えながら演じました。『闇金ドッグス2』と『闇金ドッグス3』は一緒に台本をもらったので。
――同時進行だったんですか?
『闇金ドッグス3』が後なんですが、『闇金ドッグス2』の間に色んなシーンも撮ったので、そういう意味では同時進行でやらせていただきました。『闇金ドッグス2』の須藤は、最後にはお金もちゃんともらってるので、本来だったらハッピーエンドなんですが。そこをあえて後腐れの悪い終わり方にしたのは、ななえ(菅野莉央)ちゃんに対して嘘をついて、結婚詐欺まがいなことをしたのが引っかかっているからです。
――ななえちゃんは何か悪いことをした人間というわけではなかったですしね。
お金好きでチャラい須藤ですが、目の前で忠臣がななえちゃんのお母さんから回収するのを見て、あまりの衝撃に「これは悪いことしたな」って気持ちになるような終わり方になっているんです。『闇金ドッグス3』で、「俺は女の味方なんで」と言うのは、ななえちゃんのことがあったから。とはいえ、闇金の仕事は続けるんですけど。引っかかった状態で、“最終的にひっくり返る”という感情を描きたいと思っていました。
――須藤は決して褒められた人間ではないんですが、3作目では元地下アイドルに丸め込まれたり、「女を風俗に沈める」と言いながらも冷徹にはなれない。
そうなんです。文字通り“中途半端なイケメン”(笑)
――そこが憎めないんですよね。『闇金ドッグス』は人間の最も汚い部分を描いたキツいシリーズなんですけど、須藤が主人公の『3』だけは少しさわやかな成長の物語になっていました。『仮面ライダー鎧武』の戦極凌馬や、『牙狼<GARO>〜闇を照らす者〜』の楠神哀空吏のような、人を見下ろすような人物とは違う、等身大のキャラクターを演じてみて新鮮だったのでは?
いわゆる“キャラクター”みたいな役を演じることが多かったので、こういう人間っぽい役はすごく新鮮でした。「こういうヤツいるよね?」というのを伝えたいと思いました。5人くらいで食事しながら、「こんな話があって、こんなオイシイ話があって、コイツ儲けたんだってよ!」「じゃあ、俺もやってみようかな」みたいな会話をするヤツ。そういうキャラクターを描けたらとは思っていたので、妙な感じで芝居をしないように気を付けました。
青木玄徳 撮影=西槇太一
「一生こういう見方で終わりたくねえ」と思った部分はありました
青木玄徳 撮影=西槇太一
――いそうですよね、須藤みたいな人間は。でも、今までのキャラクターの強いイメージを振り切るのって大変じゃないですか?特に、戦極凌馬は主演のスピンオフDVD『鎧武外伝』がオリコンランキングでトップになるほどの人気キャラなので。成功した作品のイメージがつきそうですが。
たしかにそうですね。
――役から抜けたいと思われます?
「戦極凌馬からちょっと抜けたいな」と思った時期はありました。やっぱり、『仮面ライダー』シリーズの悪役は、世間の見方が他の悪役よりも悪役なので(笑)。そういう意味では、「一生こういう見方で終わりたくねえ」と思った部分はありました。ただ、戦極凌馬はすごく好きなキャラクターだし、この先、近いテイストのキャラクターを演じることになったら、“戦極凌馬の力”を借りようかな、とは思っています。
――なるほど。演技の引き出しとして“戦極凌馬”を持っているという感覚ですね。
ただ、今回みたいな役を演じるときに、凌馬や哀空吏が出ちゃうというようなことはないです。切り替えはしっかりできました。
――それはすごく感じましたね。須藤はホスト崩れで、芝居がかった言動もかなりありますから。女性を口説くときは、ものすごく大げさな言動が目立つ。
もちろん、そうです。だって、魔法のような話、ファンタジーのような話をするわけですからね(笑) 「そんな簡単に落とせるわけないじゃん」というような臭いセリフをサラッと吐くので。
青木玄徳 撮影=西槇太一
――でも、素の人間性が出る場面ではすごく自然体な演技をされていたのでハマっていました。『闇金ドッグス3』を観れば、須藤が戦極凌馬と並ぶ役なんじゃないかと思う人もいると思いますよ。
ありがとうございます。でも、戦極凌馬の壁は厚いですよ(笑)。
あのシーンで「やるじゃん!」と思ってもらえれば
青木玄徳 撮影=西槇太一
――ちなみに、今回の『闇金ドッグス3』は青木さんの長編映画初主演作です。やはり思い入れがあるのでは?
いやあ、かなりありますよ。まず、揃ってくれたキャストの方々の顔は絶対に忘れないと思います。主演をほぼやったことがなくて、いつも主役と絡むキャラクターが多いんです。なので、主演については慣れがないので……勉強させていただきました。
――舞台にはかなり出演されてますが、映画と勝手が違いますか?
全然違いますね。変に入れ込みすぎると映画は寒くなっちゃいますが、舞台は逆に熱くなるので。
――意識して演技されたんですね。でも、オーバーにならずに上手くコントロールされてるように見えましたが。
意識はしてるんですが。ただ、確信はなかったので、すごくおっかなびっくりでやっていた部分はあります、正直。
――周りの俳優さんに学ぶところが多かった?
ほんとにそうです。みなさんから学んでばかりです。
――芸能事務所社長役の津田寛治さん、ライバルの闇金業者役の波岡一喜さんとは『牙狼<GARO>〜闇を照らす者〜』『仮面ライダー鎧武』の2作品でもご一緒されてますね。現場の雰囲気はいかがでした?
お二人とのシーンはすごく緊張しました。ただ、「ブチ込んでいっても大丈夫なんじゃないか?」「何かしら返してくれたものに、ぼくが返せれば大丈夫なんじゃないか?」という、挑戦心みたいなものはありました。津田さんに対しても、波岡さんに対しても。
波岡一喜 (C)2016「闇金ドッグス2&3」製作委員会
『闇金ドッグス3』津田寛治 (C)2016「闇金ドッグス2&3」製作委員会
――やはり、信頼関係があったんですね。阿吽の呼吸のようなものが出ていました。
津田さんには優しくて嬉しい言葉をかけていただいて、波岡さんとは血だらけのシーンを撮らせていただいたんですけど(笑)。そのとき、波岡さんが「嬉しいな。俺、お前とこういうシーンが出来て本当に嬉しいよ」とおっしゃってくれて。
――あの血まみれのシーンは須藤が一番カッコいい場面ですよね。波岡さん演じる闇金の社長にボッコボコにやられるんですが、須藤がすごくカッコよくなる場面。
あそこは一番の見せ場ですね。でも、あのシーンは寒くて……。ご覧になるとわかるんですが、あの日は息が白くなるくらい寒くかったんです。みぞれみたいなものも降ってましたし。
(C)2016「闇金ドッグス2&3」製作委員会
――物理的にキツかったんですね。でもその甲斐あってカッコよかったです。
あの場面まで見損なわれている、マイナスの部分がすごく大きいキャラクターを作りたかったし、作れていると思っていたんです。あそこですごく頑張ることで、須藤はゼロに戻れたかな、と。ああいう嫌われ者、「ダメだ、こいつ」と周りから思われているヤツが見直してもらうのに、どれだけ大変なことをやらなければならないか。そういうことを出来たらやりたいな、と。あのシーンで「やるじゃん!」と思ってもらえれば、というくらいの気持ちで演じました。
青木玄徳 撮影=西槇太一
――『闇金ドッグス2&3』は主人公二人が黒のスーツに細いネクタイをして、『レザボア・ドッグス』のようなんですが。たしか、青木さんはクエンティン・タランティーノ監督が大好きなんですよね。
そうですね。タイトルが『闇金ドッグス』ですからね(笑)。
――すごくイメージが重なって、演じてて気持ちよかったんじゃないかと思いました(笑)。
もちろん!タランティーノ映画のような音楽が流れてきてくれれば最高でしたね。
――普段から映画はよくご覧になられるんですか?
けっこう好きなほうですけど、マニアックなほど観ているかと言えば何とも言えないです。でも、デヴィッド・フィンチャーのフレームを動かさないカメラワークと、色合いが大好きです。タランティーノも好きですし。実を言うと、衣装合わせの時に『レザボア・ドッグス』の音楽がYouTubeで流れてたんですよ。
――ハードボイルドな作品もお好きなのかな、と思いました。
松田優作さんが大好きです。
――ああ!今回の『闇金ドッグス2&3』は『探偵物語』のような軽快なハードボイルド感がありますね。
そうですね。コミカルなところもありますし。
――洋邦問わず、憧れの俳優さんはいらっしゃいますか?
憧れの俳優さんが多すぎて(笑)。ただ、最近『スペクター』を観て、あらためてクリストフ・ヴァルツがすごいと思いました。『イングロリアス・バスターズ』で初めて見たときに、オープニングのユダヤ人ハンターとして登場するシーンにやられて。あの人、何を考えてるのか全然わからないんですよね。でも、イイやつをやらせてもめちゃくちゃ上手い。コミカルな役も凄く面白いし。
――クリストフ・ヴァルツを越えるつもりで。
そうなっていけたらなとは思いますね。あと、同じ『スペクター』に出ているレア・セドゥもいいですよね。単館系の映画に出ているときから「この人いいな」と思っていたんですが。
青木玄徳 撮影=西槇太一
――ちなみに、『闇金ドッグス』の続編は予定してらっしゃるんですか?
実現するかどうかは色んな事情で決まるので、わからないですが。
――是非、やって頂きたいですね。これから須藤がカッコよくなっていくので。
そうですね。もう一人、帰ってきてほしい人もいますし。ぼくの大好きな先輩でもあるんですけど。
――それは誰ですか?
高岡奏輔さんです。
――ああ、なるほど。1作目に山田さんを拾う役割で登場されてますね。高岡さんが野良犬のような山田さんを拾って、2作目と3作目で山田さんが野良犬のような青木さんを拾い上げる。4作目が実現した場合、また新たな野良犬が出てくるんでしょうか?
ああ!それいいんじゃないですか?次の野良犬が出てくる。
――英題は『STRAY DOGZ』(野良犬たち)ですしね。最後に、これからご覧になる方々に一言お願いします。
初めての主演映画『闇金ドッグス3』がついに上映するところまで来ました。どんな反応が来るのか緊張してるんですが、全員すごくキャラが濃いので、きっと面白いと思います。皆さん、ぜひぜひ観に来て下さい!
青木玄徳 撮影=西槇太一
インタビュー中、青木はつねにハキハキと、明るく演技について話してくれた。その姿は“陰と陽”で言えば、“陽”そのもの。どろどろとした『闇金ドッグス』シリーズが3作目でまったく違うテイストをはらんだのは、青木のこの資質によるところが大きいのだろう。1作目で脇役に過ぎなかった須藤が主人公となったように、青木自身も次々と映画・舞台で出演作を決め、次のステージに進もうとしている。『闇金ドッグス3』が今後の彼の活躍の、記念碑的作品であることは間違いない。等身大の、あらたな青木玄徳を是非スクリーンで感じてみてほしい。
映画『闇金ドッグス3』は5月21日(土)より 新宿バルト9他、順次公開
スタイリスト:吉田ナオキ 衣装協力:EGO TRIPPING 、GARROT TOKYO
インタビュー・文=藤本洋輔 撮影=西槇太一
青木玄徳 劇中に登場する「オッケーグー」のポーズで 撮影=西槇太一
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映画『闇金ドッグス3』
『闇金ドッグス3』 (C)2016「闇金ドッグス2&3」製作委員会
(2016年/日本/77分/カラー/シネマスコープ)
出演:青木玄徳
MEGUMI ・ 冨手麻妙 松林慎司 内田滋 山崎直樹
山田裕貴
波岡一喜 / 津田寛治
監督:土屋哲彦
脚本:池谷雅夫
企画・配給:AMGエンタテインメント
製作:「闇金ドッグス2&3」製作委員会(AMGエンタテインメント/JVCケンウッド・ビクターエンタテインメント)
(C)2016「闇金ドッグス2&3」製作委員会
公式サイト yamikin-dogs.com