芸人・ぼく脳へインタビュー 漫画から音楽まで、あらゆるジャンルを横断する彼が唱える「お笑い最強説」とは

インタビュー
アート
2016.5.21
蟻の巣を着用する「ぼく脳」

蟻の巣を着用する「ぼく脳」

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2016年4月22日(金)~5月4日(水)まで、新宿眼科画廊にて行われていたグループ展『KOJIKISYSTEM. 2016 a/w』。このグループ展に参加していた「ぼく脳」へインタビュー取材を行った。ぼく脳は、独自の文章構造をもったテキストと、奇妙なビジュアルの漫画を発表し、Twitterなどでコアな支持を集めている注目の人物だ。そんな彼に、作品づくりについてや影響を受けた物事などについて、たっぷりと語ってもらった。

 

展示の様子 撮影:nobprometheus

展示の様子 撮影:nobprometheus

--今回の作品はすべて新作ということですが、本展示のテーマはありますでしょうか?

テーマは「ファッション」です。『KOJIKI SYSTEM』というタイトルは、一緒に出品している水野しずさんというカリスマが企画したんです。水野さんはちょっと頭が良すぎて、僕もあんまり理解し切れてないんですけど、とりあえず「ファッション」らしいです。

「ファッ ション」は服を着るだけではなくて、生き方が重要なんだと思っています。全然知らない人がただおしゃれな服を着てランウェイを歩いて いるファッションショーとか僕は全然面白くなくて。その人の歴史の中で、面白いことが起きたことの表出をファッションと言うんだろうと思っています。だから今回の展示もギャラリーに搬入して飾って終わり、ではなくて、客がランウェイを歩いていく様な仕掛けを作ったりしています。ランウェイは、まだ出来上がってないんですが。

--今日が展示最終日ですよね?(笑)

はい(笑)でも別に完成しなくてもいいんです。こういう絵とかいろんな体験としてのファッションを感じてもらえれば。

画廊って来て見たら終わりじゃないですか。あんまり人のエネルギーが動くことが無い。ましてや、このダンベルなんて真逆じゃないですか。展示しているのは筋トレをするという行為なんです。あれで完 成ではなくて、誰かがあれをやってくれて、それを見てくれる人がいて完成というか。展覧会は、もっとエネルギーが動いているものの方がいいと思うんですよね。

展示作品《日本昔話のオープニングで龍にまたがっている赤ちゃんの体幹を手に入れるためのトレーニングメニュー》 撮影:nobprometheus

展示作品《日本昔話のオープニングで龍にまたがっている赤ちゃんの体幹を手に入れるためのトレーニングメニュー》 撮影:nobprometheus

展示作品を実演するぼく脳 撮影:nobprometheus

展示作品を実演するぼく脳 撮影:nobprometheus

--「エネルギーの動き」という点ではNature Danger Gang(※ぼく脳が所属するバンド)のライブパフォーマンスにも通じますね。

そうですね。あれって最前列で見ていても楽しくないと思うんですよ。でも、客込みで少し引きで見てると楽しい。僕たちより全然お客さんの方がすごいんですよ、エネルギーが。僕らはただそれを引き出しているだけです。

Nature Danger Gang(以下、NDG)には本当におかしい奴なんて一人として居ないですからね。みんなほんとは真面目なんですよ。まじめに期待通りふざけてるんで、だからリアルな人達に は勝てないんです。NDGの理念は最強のフェイクになることで、実はめちゃめちゃ考え尽くされています。本当にやばい奴がやばいことやってもそれなりには面白いんですけど、それはわざわざ舞台でやることではないというか。だったらもうフェイクはフェイクで、僕らは作り込もうということです。メンバーはどう思っているかわかりませんが、少なくとも僕はそう意識しています。

Nature Danger Gangライブの様子 撮影:nobprometheus

Nature Danger Gangライブの様子 撮影:nobprometheus

--フェイクである方が、本物のエネルギーが集まる場を作りやすいという事ですね。

そうだと思いますね。NDGは 特に視野を広く持たないとダメなんですよ、大所帯なもんで。ただ、大してみんな冷静ではないですけどね。お酒飲んでやってるし。

--そもそもNDGに入られた理由は?

もともと吉本で芸人をやっていたんですが、クビになったんです。その頃俺はTwitterで漫画を描いていたんですが、ちょうど友達のバンドのライブに出る機会があって、そこにNDGも出てたんです。そこでNDGのユキちゃんっていう女の子が「漫画のファンです」って声をかけて くれて。よかったら参加してくださいよって軽い感じで誘われました。俺が「これ、練習とかしてるんですか?」って聞いたら一回もしたことないって言うから、それならやってもいいかなと(笑) そういう感じで入りました。

Nature Danger Gangライブの様子(※右がぼく脳) 撮影:nobprometheus

Nature Danger Gangライブの様子(※右がぼく脳) 撮影:nobprometheus

--NDG3周年ライブの舞台装置(女性器をかたどったもの)はすごかったですね。

すごかったです。あれは知り合いの大道具さんに頼んで作ってもらったもので、奥行かなりあるんですよ。僕はちょっと閉所恐怖所気味なので、通り抜ける時むちゃくちゃ怖かったです。しかも、制作費がめっちゃ高くて、客どんだけ入っても赤字なんですよ。あれのせいでモチベーションあげるのが難しかった(笑)

--ぼく脳さんご自身は元々芸人さんという事ですが、「ぼく脳」という芸名だったんですか?

その時は本名でやってました。相方はジーコ!JAPANっていうむちゃくちゃな名前でした。僕がボケをやっていたんですけど、相方の担当はツッコミじゃなくて「驚き」っていう役割でした。「ボケ」と「驚き」のコ ンビっていう(笑) 全然ウケなかったですけどね。その相方は、実家の和菓子屋を継ぐために芸人をやめてしまいました。

ぼく脳という名前は「ぼ くの脳みそ」っていう意味です。"僕は関係ないよ、すべて、ぼくの脳みそがやっていることだよ"っていうことを言いたいんです。あと無機質な感じを出したかったんですよ。人間味あふれる感じは嫌だったんで。

--出品作品や、Twitterに投稿される内容のアイデアはどんな時に湧いてくるんでしょうか?

湧くことはないですよ。本当に考えて考えて考えまくります。なにかしてたらポンと浮かぶって事はあんまりないです。とにかくむちゃくちゃ考えていますね。

ネット大喜利ってわかりますか?この世で一番アングラな競技 なんですけど、それがむちゃくちゃ面白いんですよ。短歌とかに近いですかね。お笑い芸人の大喜利はその人の答えじゃないですか、その芸人さんが言うから面白いっていう。でもネット大喜利って匿名で、パソコンの文字だけ。短歌みたいな明確なルールは無 いんですけど、言葉の無駄な贅肉をちゃんと削がなきゃいけないんです。どれだけ削ぐかが勝負になってくる。僕は、そこが軸になっています。僕の描いてるものは言葉の組合せがかなり省略した感じなんですよ。文章構造的には随分おかしいんですけど、それがネット大喜利の世界だと正しいというか、ウケるんです。そういう今までにない言葉の使い方とか、新しい文法とかを生み出す言葉遊びに近いと思うんですよね。

言葉に添えて絵も描いていますが、基本的に絵は無くていいんですよ。言葉だけじゃわかんないだろうなって時に、親切心で絵を付けてるくらいな感じです。伝えるために、ウケるために絵を描いているんです。あ、でも僕の言葉の組み合わせにめっちゃうまい人が描いた絵を付けたいって気持ちはありますね。美大生とかと組んでやってみたいって思ったりします。すごい緻密な絵とか描いてもらって。ウケないと思いますけどね(笑)

展示作品《ゲルニカの通り抜け方》 撮影:nobprometheus

展示作品《ゲルニカの通り抜け方》 撮影:nobprometheus

 --作品制作においても「ウケる」っていうことがやっぱり第一にあるんですね。

やっぱりそうですね、ウケたいじゃないですか。「自分がいいと思ったらいい」みたいなアー ティストの人っているけど、それって自己満足だし、ウケないでしょ?その人たち。絶対ウケた方がいいですよ。僕は芸術家肌じゃないんで「自分がいいと思ったらいい」ではなく「ウケなかったらよくないもの」として見ちゃいますね。

--今回の出品作でお気に入り作品はどれですか?

これ(《タッキー&翼の&のファンの人》)が一番面白いです。これは100%ウケる。わかりやすいですし。これ(《葛飾北斎の浮世絵の船に乗ってるこの人の3秒後のモノマネ》)もウケます。まあこの状況ならもっと濡れてるだろうっていう感じですけど。この人たちなにしてるんでしょうね?こんな海荒れてんのに。

これらは僕らしさとわかりやすさがいい感じにマッチしてますね。なかなか展示でモノマネやんないでしょ?(笑)

展示作品《タッキー&翼の「&」のファン(ライブ中ずっとふたりの間を見てる)》 撮影:nobprometheus

展示作品《タッキー&翼の「&」のファン(ライブ中ずっとふたりの間を見てる)》 撮影:nobprometheus

展示作品 ものまねシリーズ 撮影:nobprometheus

展示作品 ものまねシリーズ 撮影:nobprometheus

--ご自身が影響を受けたと思う作品などはありますか?

クレヨンしんちゃんですね。パンクじゃないですか、 しんちゃんって。 アートで影響受けたものとかはわかんないです。全然芸術のこととかわかんないんで、おもしろの方しかわからないです。

なんか、アートの方の人の「面白い」と、俺の「面白い」は違うんじゃないかと思いますね。「楽しい」と「面白い」も違うと思っています。NDGは「楽しい」寄りなんですよ。この「面白い」と「楽しい」の違いを、僕はわかっているつもりなんですけど、なかなか言語化できなくて。みんなに伝えたいんですけど、なかなか難しいですね。美術はなるほどっていう面白さだけど、大喜利でなるほどって言われたらめちゃくちゃ嫌なんですよ(笑) ボケて、"おおー、なるほどねー!"とかそんなの最悪でしょ。面白は難しいですね

--今後目指したい方向性や、やりたい活動はありますか?

僕はお笑い最強説を唱えたいんですよ。芸術の中でお笑いが絶対最強だと。お笑い界は熱いっすよ、今。昔一緒にステージ立ってた地下芸人みたいな人たちが売れていて、本当ありえないけどすごい熱いですね。感動しちゃいます。

まあ、僕は変わらずこんな感じでやっていくと思いますけどね。結局リアルには勝てないし。NDGも難しいですよね、みんな個人で活動してどれだけ力を伸ばせるかじゃないですか。もうみんなあの感じでいくのはきついと思っているんじゃないかな。もともとSEKIさんもいつ解散して もいいって言ってるし。3年続けられたのが奇跡に近いんじゃないですかね。あとはもう 個人で活動して、売れて、その後でみんなでなんかやったりしたらいいんじゃないかなと思います。

Nature Danger Gangライブにてコントをするぼく脳 撮影:nobprometheus

Nature Danger Gangライブにてコントをするぼく脳 撮影:nobprometheus

ぼく脳 撮影:nobprometheus

ぼく脳 撮影:nobprometheus

 

彼が紡ぎ出す不可思議な言葉の組み合わせには、どこか心地よさがある。彼には彼の数段飛ばしの独自の論法があり、回り回って全てが繋がっていく。そこが彼の表現が生み出す奇妙さであり、最大の魅力でもある。

ところがこの表現方法は、「既存の土俵で、彼が生み出した独自の競技を戦っている」ようなものだ。だから、今のところ試合が成り立っていない。現在は少数派であっても、いつか彼と同じ競技を戦う出場者が増えた時が楽しみで仕方ない。Twitterなどで彼が支持を集めている現状をみる限り、そういう流れは既に来始めているようだ。(土で固めた土俵の神聖さなんてたかが知れているが)

ぼく脳という人物を理解するのはそう簡単ではない。ルール通りに理解しようとしても不可能だろう。しかしそこにこそ、彼の魅力の根本がある。とにかく今後要注目な人物であることに違いない。

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