優美で笑いに溢れたウィーン・フォルクスオーパー「こうもり」開幕
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ウィーン・フォルクスオーパー「こうもり」(photo:Kiyonori Hasegawa)
ウィーン・フォルクスオーパー2016来日公演は、好評のうちに終了した「チャルダーシュの女王」に続いて20日からいよいよ「こうもり」の上演が始まった。オペレッタの代名詞ともいえる名作、その掛け値なしの本場もの、いわば「真打ち」の登場である。
このオペレッタが作曲された当時のシュトラウス・ファミリーの人気は非常に高く、ブラームスがそのメロディの才を羨んだほどだ(ちなみに「こうもり」初演の三年後、ブラームスは長年苦心した交響曲第一番を完成させている。そう、彼らはまったくの同時代人なのだ)。単独で演奏されることも多い序曲から始まって有名なアリア、ワルツにポルカ(「雷鳴と電光」によるバレエは第二幕の見せ場だ)の数々はそれだけでも聴衆を飽きさせることはない。数多くの登場人物たちの思惑が絡み合い、そこになりすましや入れ替わりも多用される筋書きは、言葉で説明しようとすればどうしても複雑になるが上演を見ればすべてが一目瞭然と、「こうもり」はお話も音楽も見事に機能する、舞台作品の鑑のような傑作なのだ。
ウィーン・フォルクスオーパー「こうもり」(photo:Kiyonori Hasegawa)
キャラクターテノールとして長年活躍するハインツ・ツェドニクの演出はこの入り組んだ作品を手際よく整理し、しかも作品を知り尽くす歌手ならではの目配りが細部まで行き届いたものだ。ちょっとした歌手の出入りと歌詞がこうも上手くつながる舞台はそれだけでも楽しめてしまう。
ウィーン・フォルクスオーパー「こうもり」(photo:Kiyonori Hasegawa)
ユーゲントシュティール調の装飾も美しいこの舞台では、オルロフスキー公爵の催すパーティーは大晦日に設定されており(これは監獄の日めくりカレンダーで示されるのだが、12月31日をめくると……)、ファルケ博士の復讐も、ロザリンデの浮気なアイゼンシュタインへの意趣返しも、すべては年越しの夜のオルロフスキー公爵の気晴らし。シャンパンの心地良い酔いの中で満場の笑いに変わって楽しいパーティーは終わる。酒、恋に歌と、オペレッタのすべてが詰まった作品はこの日も場内を魅了した。フォルクスオーパーの看板演目「こうもり」が”初日だから”と硬くなったりするわけもない。演技も音楽ダンスも、どこをとっても手なれたもので、スタンディング・オベーションの中初日の公演は終了した。休憩をはさんで約3時間半、とにかく楽しめる時間を過ごした。
ウィーン・フォルクスオーパー「こうもり」(photo:Kiyonori Hasegawa)
キャスト勢でもっとも活躍したのがアデーレを演じたベアーテ・リッターであることは多くの皆さまに同意いただけるだろう。彼女は歌と演技、そして踊りとオペレッタのすべての要素で場内を魅了した。
ウィーン・フォルクスオーパー「こうもり」(photo:Kiyonori Hasegawa)
またモーツァルトのオペラでご存じの方も多いだろうライナー・トロストが、「これでもか」と歌いまくることでそのまま笑いにつながる役どころのアルフレートを見事に演じていた。ヴェルディやモーツァルト、ベートーヴェンにプッチーニなど、数多くのオペラのフレーズを場面に合わせて歌って見せていたが、もっとも秀逸だったのは「ローエングリン」「フィデリオ」からのアリアがそのまま彼の境遇に合致していたあたりだろうか。
アルフレート(ライナー・トロスト)とロザリンデ(メルバ・ラモス)(photo:Kiyonori Hasegawa)
また、第二幕から登場したアンゲリカ・キルヒシュラーガーのオルロフスキー公爵は小柄ながらさすがの存在感、つい耳目がその動向を追ってしまう。そのエキゾティックな衣装も魅力的で、この喜劇の糸を引く存在を見事に引き立てていた。
アンゲリカ・キルヒシュラーガーのオルロフスキー公爵(photo:Kiyonori Hasegawa)
そして喜劇といえば外せない、フォルクスオーパーの総裁ロベルト・マイヤーが自ら演じるフロッシュのノリの良さと来たら! 後のチコ・マルクスを思わせる地口やアクションを交えた不条理ギャグの連続をテンポよくライヴで楽しめる三幕前半(ここにほぼ音楽はない!)の盛り上がりには大いに笑わされた。これはヴェテランの至芸、としか言いようがない、ぜひ皆さまにもお楽しみいただきたいところだ。
ロベルト・マイヤー総裁演じる酔っ払いの看守フロッシュ(photo:Kiyonori Hasegawa)
ウィーン国立バレエ団のワルツも優美としか評しようのない踊りを見せる。「チャルダーシュの女王」以上に見せ場も多くあったが、特にも「雷鳴と電光」の場面は私がこれからをその曲を聴く時に彼ら彼女らの美しい立ち居振る舞いを思い出さないことはないだろう、と思わせるほどだった。
ウィーン・フォルクスオーパー「こうもり」(photo:Kiyonori Hasegawa)
かくも耳にも目にも心地よいオペレッタの舞台が、聴衆を疲れさせることはない。そんなオペレッタの真髄を披露してくれるウィーン・フォルクスオーパーの来日公演は、「こうもり」の三公演の後レハールの「メリー・ウィドウ」へと続き、5月末まで東京文化会館で上演される。酸いも甘いも、酔も素面もなんでもありの大人のエンタテインメントの王道、ぜひ会場でお楽しみいただきたい。
5月20日(金)6:30p.m.
5月21日(土)2:00p.m.
5月22日(日)2:00p.m.
演出:ハインツ・ツェドニク
合唱:ウィーン・フォルクスオーパー合唱団
バレエ:ウィーン国立バレエ団
ロザリンデ:メルバ・ラモス(5/19, 21)、エリーザベト・フレヒル(5/20, 22)
アデーレ:アニヤ=ニーナ・バーマン(5/19, 22)、レベッカ・ネルセン(5/20)、ベアーテ・リッター(5/21)
イーダ:マルティナ・ドラーク
ファルケ:マルコ・ディ・サピア(5/19)、マティアス・ハウスマン(5/20, 22)、ダニエル・オチョア(5/21)
オルロフスキー公爵:アンゲリカ・キルヒシュラーガー(5/19, 20, 22)、マルティナ・ミケリック(5/21)
アルフレート:ライナー・トロスト(5/19, 20, 22)、ヴィンセント・シルマッハー(5/21)
イワン:ハインツ・フィツカ(5/19, 20)、マムカ・ニコライシヴィリ(5/21, 22)
フランク:クルト・シュライプマイヤー(5/19, 21)、ダニエル・オーレンシュレーガー(5/20, 22)
ブリント博士:ボリス・エダー(5/19, 21)、カール=ミヒャエル・エブナー(5/20, 22)
フロッシュ:ロベルト・マイヤー
『メリー・ウィドウ 』F.レハール作曲
指揮:アルフレート・エシュヴェ
演出:マルコ・アルトゥーロ・マレッリ
5月27日(金)6:30p.m.
5月28日(土)2:00p.m.
5月29日(日)2:00p.m.