トニー賞2016予想 兵藤あおみ×町田麻子 vol.2

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映画界のアカデミー賞、テレビ界のエミー賞、音楽界のグラミー賞と並び、四大アワードの一つといわれるトニー賞。アメリカ演劇界最大の名誉とされているその賞の行方が、日本時間の6月13日(月)午前に開催される授賞式にて明らかにされる。一体今年は、誰に、どの作品に演劇の女神が微笑むのか? ブロードウェイに詳しいライター二人(兵藤あおみ・町田麻子)が賞の行方を予想する対談はますます白熱する(全3回)。
 
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俳優賞は各作品に散らしていくか?

兵藤: ミュージカル部門主演男優賞は  『屋根ヴァイ』  のダニー・バースティンに獲ってもらいたいなと。もうずっと頑張っているんだもの。6度目のノミネートだよ!

町田: 昨年のケリー・オハラに続いて、6度目の正直となるかも(笑)?

「屋根の上のヴァイオリン弾き」ダニー・バースティン PHOTO=JOAN MARCUS

「屋根の上のヴァイオリン弾き」ダニー・バースティン PHOTO=JOAN MARCUS

兵藤: そうあってほしいけど、分かんない……リン-マニュエル・ミランダに行くかも。

町田: 確かに、リン-マニュエルに集約させたいって意図はありそうですよね。 『ハミルトン』 のすごさの一つとして、アメリカを開拓しようっていうアレクサンダー・ハミルトンと、ミュージカル界を開拓しようっていうリン-マニュエルが、重なっているところ。そういう意味では、あげたいっていうのも分かりますし、私も獲ってほしいです。ただ、自分で作った役を自分でうまくできて当たり前ってところもありますけどね……(苦笑)。ダニーが受賞したとしても、私は素直に拍手が送れます。

兵藤: 同じ 『ハミルトン』 からインしている、レスリー・オドム・ジュニアはどうかしら?

町田: (アーロン・)バー役の人ですよね。明らかにハミルトンが中心の物語なんだから、敵役が“主演”じゃないだろうって……突っ込みどころといえます(笑)。もちろん、良かったですよ。でも、 『ハミルトン』 にたくさんノミネートさせようっていう意図を感じてしまいます。

『ハミルトン』(右端:リン-マニュエル・ミランダ)PHOTO=JOAN MARCUS

『ハミルトン』(右端:リン-マニュエル・ミランダ)PHOTO=JOAN MARCUS

兵藤:  『スクール・オブ・ロック』 のアレックス・ブライトマンのノミネートは文句ないよね?

町田: はい! 彼の熱演でもっている作品といえますからね。

兵藤:  『シー・ラヴズ・ミー』 のザッカリー・リーヴァイもなかなか良かったよ。持ち前の甘いマスクとちゃめっ気が、作風にマッチしてた。あと、個人的には 『アメリカン・サイコ』 のベンジャミン・ウォーカーが選ばれなかったのが残念。昼はエリート会社員、夜は殺人鬼っていう二つの顔を持つ主人公を体当たりで演じていたんで。

町田: そうですよ! レスリーはいらなかったですよ、やっぱり(笑)。

兵藤: ということで、これまでのブロードウェイへの貢献も踏まえ、ダニーかな。

町田: 異論ナシです。6度目の正直。しかも、助演で知られる人が主演で獲るっていうドラマにも惹かれます。スピーチも期待できそうですしね。

兵藤: さて、『シャッフル・アロング』 のオードラ・マクドナルド、 『アレジアンス(忠誠)』 のリア・サロンガといった、大物歌姫たちが候補から漏れた、ミュージカル部門主演女優賞。 『カラーパープル』 のシンシア・エリヴォが有力と言われているよね。

『カラーパープル』シンシア・エリヴォ PHOTO=MATTHEW MURPHY

『カラーパープル』シンシア・エリヴォ PHOTO=MATTHEW MURPHY

町田: ここも、フィリッパ・スー演じるイライザが主役扱いになっているのが、私にはちょっとよく分からなくって。 『ハミルトン』 を全部門でノミネートさせたいからっていうだけに見えちゃいます。評判を聞いていると、シンシアの方がふさわしいような気がしますよね。

兵藤: トニー賞って不思議で、それまでの功績を踏まえて「なぜ、今?」って思えるようなタイミングで賞をあげちゃう場合もあれば、ポンって出てきた新星にいきなりあげちゃう場合もあるでしょ。後者でいうと、 『ジャージー・ボーイズ』 のジョン・ロイド・ヤングとか?

町田: ジェシー・ミューラーもそうでしたよね。

兵藤: そう考えると、すでに受賞歴のあるジェシーと 『シー・ラヴズ・ミー』 のローラ・ベナンティを除く、ブロードウェイ・デビューの3人、シンシア、フィリッパ、そして 『ブライト・スター』 のカルメン・キューザックにチャンスがあるかなと。

町田: 『ハミルトン』 一辺倒でいきたいのか、散らすのかってところですかね……。

兵藤: 個人的にはシンシア推し。だけど、遅咲きのカルメンも気になる。

町田:  『ブライト・スター』 がここまで評価されているのは、彼女の力によるところも大きいでしょうから。いや~、未知数ですね。

兵藤: 未知数カルメン(笑)。でも、やっぱり私の予想はシンシアで!

町田: 今年の私は“ 『ハミルトン』 推しの人”なので、主役じゃないけどフィリッパにしておこうと思います(笑)。で、ミュージカル部門助演男優賞はジョナサン・グロフで決まりと。

兵藤: 助演男優賞候補5人のうち、3人が 『ハミルトン』 のキャストっていう……一体どうなっているんですかね(笑)?

町田: 兵藤さんは多分、クリストファー推しですよね?

兵藤: はい、『ハミルトン』 のクリストファー・ジャクソンじゃなくて、 『ウェイトレス』 のクリストファー・フィッツジェラルドのほうね。彼がノミネートされた時点で、私、タップダンス踊ってたもん。

町田: 私も彼、好きですよ!

兵藤: 超かわいくて、おまけに見事なショーストッパーぶりだった。ちょっとキモい男の役なんだけど、まあ、似合うこと似合うこと(笑)! 演出とアドリブの境が分からないくらい、はじけてて、カーテンコールが終わるまで見逃せなかった。

町田: あぁ、ちょっとあげたい気がしてきちゃいました(笑)……が、ここはやっぱり、ジョナサン・グロフに獲っていただきたい!

『ハミルトン』(ジョナサン・グロフ)PHOTO=JOAN MARCUS

『ハミルトン』(ジョナサン・グロフ)PHOTO=JOAN MARCUS

兵藤: グロフィーのどんなところが良かったの? キング・ジョージってそんなに大きな役ではないよね?

町田: 出番は少ないですが、出てくるたびにさらっていくんです。2回目から出落ちですもの……もう大爆笑。あと、ある意味で陰で支配しているような役どころなので、開演前のアナウンスもジョナサンが担当していました。「僕のショーへようこそ」みたいに。最前列で観ていて、唾を飛ばしながら歌うのがイヤでしたが(苦笑)、彼と役との一致感が素晴らしく、今となっては150パーセント、彼を支持!って感じです。トーマス・ジェファーソンとラファイエットの2役を務めるデイヴィード・ディグスも、ジョージ・ワシントン役のクリストファー・ジャクソンも良かったですが、ここはぜひ、ジョナサン・グロフに。

兵藤: じゃあ、町田さんのジョナサン・グロフと、私のクリストファー・フィッツジェラルドの一騎打ちってことで(笑)!

町田: 受けて立ちます(笑)! ただ、世間的にはデイヴィード・ディグスなのかな。あの人、もともとラッパーなんですよね、ミュージカルの人じゃなくて。そんな彼が 『ハミルトン』 に貢献した部分って、大きいと思うんです。

兵藤: じゃあ、助演女優賞は?

町田: ここも 『ハミルトン』 のレニー・エリス・ゴールズベリーかな。(プレイビルにあった女優3人が右手を上げてポーズを決めている写真を見ながら)私、このシーンがほんと好きで。この角度で決められるのは、この3人しかいないっていうか。象徴的な一場面の中心にいる人なので、やっぱり獲ってもらいたいなと。

『ハミルトン』(中央:レニー・エリス・ゴールズベリー)PHOTO=JOAN MARCUS

『ハミルトン』(中央:レニー・エリス・ゴールズベリー)PHOTO=JOAN MARCUS

兵藤: 私は 『シー・ラヴズ・ミー』 のジェーン・クラコウスキーか 『シャッフル・アロング』 のエイドリアン・ウォレンかなと。トニー賞最優秀助演女優賞に輝いた 『NINE』 以来、13年ぶりのブロードウェイ出演となったジェーンは、持ち前のコメディーセンスとキレッキレのダンスで存分に魅せてくれて、感動した。対するエイドリアンも若手ながら、名優たちの中で気を吐いていて印象的だった。ちなみに彼女は、2010年の 『ドリームガールズ』 の来日公演でローレル役を演じていたんで、ご存じの方も多いはず。

町田: あとは、『ディザスター!』 のジェニファー・シマード?

兵藤: 大穴だね。ギャンブル依存症のシスターを演じて、どっかんどっかん笑わせてくれた。でも、さすがに受賞はないかな……(苦笑)。なのでここは、レニー推しの町田さんに対し、私はエイドリアンを推しておきます。

町田: 『シャッフル』 で唯一受賞するのが若手のエイドリアンだったら、それはそれですごいサクセスストーリーになりますね! 

兵藤あおみ&町田麻子のトニー賞2016予想 (・・・時には希望も含めて)

兵藤あおみ&町田麻子のトニー賞2016予想 (・・・時には希望も含めて)

縁の下の力持ちといえる、スタッフたちにも注目

兵藤: ミュージカル装置デザイン賞はどうかしらね。

町田: あっ、ここに 『アメリカン・サイコ』 が入ってる!

兵藤: そう、見ごたえある舞台装置だったよ。白い箱の中に照明や映像を投影する形になっていてね。あと面白かったのが、舞台の両サイドに小さめの盆が設置されていて、キャストや装置の出ハケに使われるんだけど、上からだとカセットテープに見えるという。ウォークマンなどを生み出した、80年代という時代背景にマッチした、遊び心ある仕掛けだと思う。

町田: なるほど!

『アメリカン・サイコ』PHOTO=JEREMY DANIEL

『アメリカン・サイコ』PHOTO=JEREMY DANIEL

兵藤: 話題の 『ハミルトン』 の装置はどうだったの?

町田: 振付との融合感がすごかったです。アンディ・ブランケンビューラーの振付が生きたのは、盆のおかげだって思うと、やっぱり装置も欠かせないなと。

兵藤: 私、『シャッフル~』 がノミネートされたのが、ちょっと意外で。原作の児童書を舞台化した『タック・エヴァーラスティング』 の装置の方が、大掛かりかつカラフルで見ごたえがあったから。そう思うと、『シー・ラヴズ・ミー』 のカラフルでかわいい、まるでドールハウスのようなセットは、印象的だったなと。衣裳と合わせて受賞してもおかしくないかも。

町田: では、私が 『ハミルトン』 、兵藤さんは 『シー・ラヴズ・ミー』 を推すってことで。

兵藤: 続いて、ミュージカル衣裳デザイン賞。ここで初めて 『タック~』 が入ってくるとは、不思議! さっきも言ったように、装置の方で候補に挙がると思ってたから。

町田: いや、でも衣裳も 『ハミルトン』 です。すいません、ほんとしつこくて。

兵藤: 衣裳だけは、いわゆるコスチュームなんだよね。そこが面白い。

町田: そうなんですよ! 髪の毛は、まんま現代人なのに、衣裳がわりときちっと時代劇っていうところが、新しさの一つだと思うので。ぜひ!

兵藤: 私もね、『ハミルトン』 だと思うんだけど、いかんせん観てないので……。だから、『シー・ラヴズ・ミー』 を推しておきます。予想がバラけるほうが面白いしね。

『シー・ラヴズ・ミー』PHOTO=JOAN MARCUS

『シー・ラヴズ・ミー』PHOTO=JOAN MARCUS

町田: ちなみに、ミュージカル照明デザイン賞も 『ハミルトン』 がいいです(笑)。

兵藤:  『ハミルトン』 ?  『春のめざめ』 じゃなくて?

町田: あっ! そういえばキレイだったぁ。

兵藤: なんか、初演はパープルっぽい色彩とチカチカした印象が強かったんだけど、今回は青や、白、淡い黄色など、もっとピュアなイメージで。作風にも合っていた気がする。

町田: 確かに。でも 『ハミルトン』 は最前列で観ちゃったせいか、照明にもいちいち「いやん、ステキ」とか思ってしまい(笑)。 『春のめざめ』 もほんと良かったんですけどね。

町田麻子

町田麻子

兵藤: 美しさでいえば 『春のめざめ』 や、今回候補に挙がらなかった 『屋根ヴァイ』 が印象的だったけど、プロジェクションマッピングなど、セットの一部としての照明効果というか、現代の照明技術の最先端っぽいものを感じた 『アメリカン・サイコ』 に1票入れたいかな。照明と映像は別物って考えだと、本末転倒になっちゃうけど。

町田: そのうち、映像賞とかもできるんですかね。

兵藤: というか、すでにあってもおかしくはないよね。さて、ミュージカル演出賞ですが、たぶん 『ハミルトン』 でしょ(笑)?

町田: どうでしょう、『春のめざめ』 も良かったですからねー。

兵藤: あら、意外。

町田: 私、最終的に何かが 『ハミルトン』 に降臨したと思っていて。あのかっこよさが全てトーマス・カイルの功績とは言い切れないところがあるんですよ。だからまあ、素晴らしいステージングだったけれど、疑惑があるうちは、手放しで称賛できないかなと。

兵藤: 疑惑……(笑)。

町田: その点、 『春のめざめ』 が素晴らしかったのは、明らかに演出のマイケル・アーデンのおかげだろうなって思えるので。とはいえ、やっぱり希望は 『ハミルトン』 ですけどね! 13部門制覇してほしいです。

兵藤: ちなみに、候補者4人のうち、3人がリバイバル作品の演出家というね。

町田: ほんと、象徴的ですね! 『屋根ヴァイ』 が入ってないですが、これはほかが良すぎて、致し方なく漏れてしまったんでしょうか?

兵藤: その通り! バート(レット・シャー)、惜しかった……。ということで、私は『春のめざめ』 にしておきます。まだ若いマイケル・アーデンの今後への期待も込めて。

兵藤あおみ

兵藤あおみ

町田: ミュージカル部門の最後、振付賞は、『ハミルトン』 のアンディ・ブランケンビューラー一択ではないでしょうか。

兵藤: 一択と言われても……観てないんだよー! ちなみに、ここにやっと 『オン・ユア・フィート!』 が出てきたよ(笑)。

町田: セルジオ・トルヒーヨは素晴らしい振付家ですし、『オン・ユア・フィート!』 の振付も良かったですよ。でも、やっぱり新しいんです、『ハミルトン』 の振付は!

兵藤: 私は候補作5本のうち、『屋根ヴァイ』  と  『シャッフル・アロング』  しか観ていないの。

町田: 突出した感じではなかったですか?

兵藤: セヴィアン・グローヴァー振付の 『シャッフル~』 は、ダンスシーンが満載でゴージャスだった。あのオードラ(・マクドナルド)まで軽快にタップを踏んでいて、ステキだったな。あと 『屋根ヴァイ』 は、有名な婚礼の場面で、ジェローム・ロビンスのオリジナル振付を踏襲しつつも、新しさが盛り込まれていて。キレのあるパワフルなダンスシーンに仕上がっていた。ただ、ここはセヴィアンにあげたいかな。

兵藤あおみ&町田麻子のトニー賞2016予想 (・・・時には希望も含めて)

兵藤あおみ&町田麻子のトニー賞2016予想 (・・・時には希望も含めて)

vol.3に続く
 
(構成:兵藤あおみ)

●兵藤あおみ : 演劇ライター。シアターガイド編集部出身。年に2~3度NYを訪れ、ブロードウェイの新作をチェックするのをライフワークとしている。生粋のレントヘッド。

●町田麻子 : フリーライター(演劇、ダンス、美術)。早稲田大学第一文学部演劇映像専修卒。10代からブロードウェイ観劇旅行を毎年続けるミュージカルおたく。でもやっぱり日本語で観たいので趣味は翻訳版の妄想キャスティングです。好きな作品『レ・ミゼラブル』etc.

 

放送情報
生中継!第70回トニー賞授賞式
WOWOWプライム

6月13日(月)午前8時   (同時通訳)
案内役:宮本亜門、八嶋智人/スペシャル・サポーター:井上芳雄

6月18日(土)夜7時 第70回トニー賞授賞式 (字幕版)
公式サイト:http://www.wowow.co.jp/stage/tony/​
 
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