カトリーヌ・ドヌーヴ インタビュー フランスを代表する大女優はなぜゴリラと寝る役を引き受けたのか?
-
ポスト -
シェア - 送る
カトリーヌ・ドヌーヴ © 2015 - Terra Incognita Films/Climax Films/Après le déluge/JulieUe Films Caviar/ORANGE STUDIO/VOO et Be tv/RTBF/Wallimage
5月27日公開の『神様メール』は、神様の娘エア(10歳)が、人間界で人々と出会い奮闘するコメディ映画。カンヌ国際映画祭カメラ・ドール受賞の『トト・ザ・ヒーロー』で知られるジャコ・ヴァン・ドルマル監督による6年ぶりの最新作だ。劇中で神の下から飛び出したエアは、世界を旅し、さまざまな人間と出会い、“愛がみつかる奇跡”を起こしていく。奇想天外なエピソードの中には、ゴリラと恋に落ちる主婦の物語も登場。その主婦を演じる女優こそ、フランスを代表する女優カトリーヌ・ドヌーヴだ。フランスの最高勲章であるレジオンドヌールの栄誉にも輝いた大女優は、何を思い奇妙な役を演じたのか。オフィシャルインタビューで語っている。
© 2015 - Terra Incognita Films/Climax Films/Après le déluge/JulieUe Films Caviar/ORANGE STUDIO/VOO et Be tv/RTBF/Wallimage
映画『神様メール』について
© 2015 - Terra Incognita Films/Climax Films/Après le déluge/JulieUe Films Caviar/ORANGE STUDIO/VOO et Be tv/RTBF/Wallimage
――『神様メール』では、主婦の役で登場していますが、今回のように比較的小さな役でも出演することはよくありますか?
もちろん。私はこれまで、演じたいものだけを演じてきたの。シナリオを読み、面白いと思えば、主役でなくても引き受けるわ。長年そうしてきたように。
――今回この役を引き受けた理由を教えて下さい。
まずはシナリオがよく出来ていました。一風変わったユーモアがあり、それが素敵だったしスカッとする陽気なお話だったの。ドルマル監督がこの人物を私に、と話してくれたとき、このおかしなアイデアをとても気に入ったのです。
――シナリオでは、あなたが演じる裕福な主婦マルティーヌがゴリラと寝るシーンがあると分かったときはどう思いましたか? 斬新な美女と野獣バージョンです。なぜこの役に挑もうと思ったのですか?
実はその部分だけ、はじめは分かっていなかったの。ある夫婦がいて、夫が多忙なビジネスマンでという、よくある設定のお話だったのよ。それが、いきなりゴリラと出会い、一目惚れするという展開で、その素敵なお猿さんに会いに行ったり、ベッドインしたりと、非現実的なものが物語に収まっていくのがおかしくて、とにかく気に入ったのよ。
© 2015 - Terra Incognita Films/Climax Films/Après le déluge/JulieUe Films Caviar/ORANGE STUDIO/VOO et Be tv/RTBF/Wallimage
――迷わず、その小さなお話に入り込めたというわけですね。
“小さなお話”ではなくて、ゴリラが恋の相手になるという立派なラブストーリーよ。今回は超現実的でどこかズレた表現をしてみたの。はじめは無理だと思ったけれど、演じてみた結果、とても楽しかったの。そうすることで意外にも、ゴリラが登場するシーンの撮影がリラックスした、楽しい雰囲気になったのよ。ジャコ・ヴァン・ドルマル監督とは初めてだけど、またいつか組みたいわ。
――出演作を決めるときは、ご自分が演じたいものを選ぶのですか?
私はこれまで、演じたいものだけを演じてきたわ。デビュー当時からずっと。好きではないものもあるけど、全体的には、やりたい映画をやらせてもらっているわ。幸運だったのね。若い頃の映画はどれも成功したから、自由にさせてもらえたんだと思います。
――この役は一風変わっていますね。出演作中で最も奇妙な映画ですか?
そんなことはないわ。理性的なほうだと思うわ。日常では、皆もっと奇妙なことをするでしょう!? ゴリラとベッドにいるだけで非現実的で、一風変わったワクワク感があった。そして同時に、現場はとてもいい雰囲気だったの。ドルマル監督は、感じがよく、優しく穏やかで、私にとってとても素敵な経験だったのよ。
女優カトリーヌ・ドヌーヴについて
© 2015 - Terra Incognita Films/Climax Films/Après le déluge/JulieUe Films Caviar/ORANGE STUDIO/VOO et Be tv/RTBF/Wallimage
――以前フランソワ・オゾン監督の映画『しあわせの雨傘』では、詩を暗唱しながらジョギングしましたね。あの時あなたのイメージとは違う役を選んだのはなぜですか?「新しいカトリーヌ・ドヌーヴ」というイメージの体現ですか?
演じる上で、イメージなんて考えたりしないわ。自分のイメージなんてないし、私はいつも直球なの。 あの作品も独創的な面白いアイデアだったから出演した。「したいことはあえてする。だって私は錆びてなんかいないから」なんて言わずにね。(笑)でもあの役は私よりも少し若いような気がするわ。
――お気に入りの役ですか?
気に入っているというか、そうね、惹かれたわ。自分とそれほど違わず、型通りでもないところが、魅力的だったの。
――それはフランス人がもつあなたのイメージとは全然違いますね。
ええ。でも、フランス人は演じている私にはかなり寛大だと思うわ。雑誌の表紙とは違ってね。
――雑誌の表紙というのは?
金髪でエレガントなパリジェンヌ。でも映画なら、奇妙な私を見ても、特別な衝撃はないと思うの。衝撃的なことって、現実に毎日あるでしょう!?私はサプライズが好きなのよ。
――ロック精神があって、意外です。
ロック精神かどうか、でも、型破りな方が好きね。
© 2015 - Terra Incognita Films/Climax Films/Après le déluge/JulieUe Films Caviar/ORANGE STUDIO/VOO et Be tv/RTBF/Wallimage
――ご自分がカトリーヌ・ドヌーヴ、というオーラを出していると思いますか?
そんなこと言ったこともないわ。そんなものはないわ。謙遜じゃなく「私はこうです」なんて、あらたまった表明などしないわ。
――ご自分のイメージ像は嫌いですか?
私はずっとこうよ。いつも、こうしているだけ。
――今回の作品もそうでしたが、若手の映画監督に信頼を寄せていますね。彼らの初期作品に出たり、監督たちと知り合ったり、最近はジェローム・ボネルやジョアキム・ラフォースといった監督とも組みたいそうですね。
ええ。『神様メール』のように私からメールを送りつけたりしないわ。(笑)映画の話をしたくて、手紙を書いただけ。出演させてなんてお願いをしているわけではないの(笑)。映画はジャンルを問わず好きだから、監督が好きだし、若手監督は特にね。
――あなたのほうから発信して経験を伝えているのですか?
観て吸収してほしいと思っているの。質問すべてに答えないこともあるし、それでいいと思っているわ。
――直観的ですが、仕事上の人間関係もそうですか?
そうよ。人間関係には時間がかかることもあるけれど、自然体でいるの。現場で迷惑かけたくないものね(笑)。
――若手監督への好奇心は、仕事上だけですか?
指導してくれる人が必要なだけ。信頼関係を築くためなら、若い監督に指導してもらうのもいいと思うわ。「あれを見ておいて」なんて言うだけじゃなくね。それ以外の興味はないわ。
――歌もヒットし、ビデオクリップにも出演し、女優としては大活躍ですが、監督になることは考えませんか?
監督はまったく別の職業だわ。私も知らない技術的なことが要求される。カメラの置き方だけ分かればいいというような、簡単なことではないのよ。
――若い女優が監督になり、いきなり映画作りを始める場合もありますが。
彼女たちは喜んでやっているわ。リスクとは思わずにね。テーマとストーリーが本当に自分の作りたいものなら、徹夜してでもやるわ。この人のは見たくないと思うことも、正直いえばある。TVなら仕方なく見ることもあるわ。でも、映画は妥協が許されないから、俳優が監督したからといって、素晴らしい作品になるとは限らないのよ(笑)。
――今後、挑戦してみたい役はありますか?
いつも忘れないようにしていることはあるの。同じ路線を走らないように、前進し続けるということ。そもそも、賛辞をいただくことが私の原動力ではないし、一度もそうだったことはないのよ。やりたいものはたくさん頭の片隅にあるけれど、芝居か、音楽かは、わからない。ただ、変化のない路線を進まないために、挑戦すべきことは何かということをいつも考えています。
ヨーロッパの現状について
© 2015 - Terra Incognita Films/Climax Films/Après le déluge/JulieUe Films Caviar/ORANGE STUDIO/VOO et Be tv/RTBF/Wallimage
――あなたは中絶禁止法の撤廃を求めた「343人の宣言」に参加したり、死刑法の撤廃のために、パリのアメリカ大使館に出向いたりもしていますが、現在の深刻な難民問題の映像を見て、衝撃を受けますか?
衝撃だわ。信じられないことに、あれだけ大勢の難民が押し寄せてきているのに、ヨーロッパは大事なことが十分に出来ていないのだから。
――それに対して怒っていますか? どんなお気持ちでしょうか?
怒るというより、とても大きな悲しみと言っていい。ハンガリーでは、壁を越えようとしている人々を通さないよう邪魔しているのよ。移民が通るだけなら、通してあげればいいのに。昔はともかく、今の政治体制でハンガリーに行きたい人なんていないわ。同じヨーロッパだというのに、非情なエゴイズムだと思うわ。
――本当ですね。ドイツの例でいえば、8,000人の難民を受け入れました。
すごいことよね。あんなことが出来たドイツは賢明だわ。ほかの国も、尻込みせずによりよいことをすべきなの。イタリアも、ともあれ立派ね。漂着した大勢の難民がはじめに押し寄せてくる悪条件の土地柄にもかかわらず、真偽を判断し、受け入れ態勢をとり、彼らの言葉を話そうと試みたり、寛大な態度だわ。極右や反対する人々も大勢いる中で、とにかくよくやったと思うわ。
映画『神様メール』は5月27日(金)、TOHOシネマズ シャンテ他ロードショー
(2015年 フランス、ベルギー、ルクセンブルク/カラー/115分/スコープサイズ/5.1ch サラウンド/フランス語)
日本語字幕:松浦美奈
監督:ジャコ・ヴァン・ドルマル
脚本:ジャコ・ヴァン・ドルマル、トーマス・グンズィグ
出演:ピリ・グロワーヌ「サンドラの週末」、カトリーヌ・ドヌーヴ『8 人の女たち』、ブノワ・ポールヴールド『ココ・アヴァ ン・シャネル』、フランソワ・ダミアン『エール!』、ヨランド・モロー『ミック マック』
★公式サイト http://kamisama.asmik-ace.co.jp/
© 2015 - Terra Incognita Films/Climax Films/Après le déluge/JulieUe Films Caviar/ORANGE STUDIO/VOO et Be tv/RTBF/Wallimage