つかこうへい7回忌に『郵便屋さんちょっと』『新・幕末純情伝』を上演!横内謙介・岡村俊一 インタビュー

2010年7月10日に惜しまれつつその生涯を終えたつかこうへい。その七回忌にあたる今年、彼の戯曲の上演が続いている。その中で、つか作品としては初期にあたる『郵便屋さんちょっと』を取り上げる扉座の横内謙介、そして後期の代表作の1つ『新・幕末純情伝』を上演する岡村俊一。
 
この2人につか作品とつかこうへいという存在について語り合ってもらった演劇ぶっく6月号のインタビューを、別バージョンの写真とともにご紹介する。
 
岡村俊一・横内謙介

岡村俊一・横内謙介

リリックで純情な、初期つか作品の魅力を
 
──今回の演目を選んだ理由から聞かせてください。
 
横内 三回忌の時に岡村さんから「井上ひさしさんに比べてつかさんの三回忌は寂しい」という話があって。それでどうせなら初期のあまり知られてないものをと思って、『つか版・忠臣蔵~大願成就討ち入り篇~』を上演したんです。僕は高校の演劇部で発表していたものは全部つかさんの真似だったくらい“つかフリーク”だったから、『つか版・忠臣蔵』で久しぶりにつかさんの文体に触れたらとても気持ち良かった。僕はこの何年か大人の芝居を追求していて、「もっと感情抑えて」みたいな。
 
岡村 はははは(笑)。
 
横内 だからつか作品の、目立てばいいとか1歩前へ出ろみたいなのが面白くて。その『つか版・忠臣蔵』をつかさんの盟友だった幻冬舎の見城(徹)さんが気に入ってくれて、サポートしてくださって再演もできたわけですが。これしかないのも悔しいので(笑)、今回は違うのをやろうと。戯曲を探していて思ったけど、今、つかさんブームだよね?
 
岡村 風間杜夫さんたちが去年『熱海殺人事件』を上演なさって、錦織(一清)さんもずっとやっているから。

横内 いま出来る戯曲というのが限られていて、その中でやはりあまり上演されていないのをということで、『郵便屋さんちょっと』になったんです。この作品は純情なんですよ。つかさんの作品って後期にいくにつれ、天皇でも原爆でも女性への差別的な表現でも、どんどん過激になっていくけど、20代前半の頃は純情でリリックなんです。そういうのが扉座は似合うし、僕らがやることで、新たなつかこうへいの魅力みたいなのを掘り出せる可能性があるなと。ただ登場人物がすごく少ないことと、まだ郵便局が国営の頃の話で、国に対して私設の郵便屋で対抗するという話だから、それを民営化の時代に公僕としてがんばる郵便配達員というふうに改訂してやります。

──リリックという話が出ましたが、つかさんは詩を書いていたり、リリックな要素があったようですね。
 
横内 そもそも題名の元になっているのが、ビートルズも歌った「プリーズ・ミスター・ポストマン」で、私にラブレター来てない?という歌ですからね。のちの『飛龍伝』なんかに出てくる“革命の中の青春”じゃないけど、時代に翻弄されながらも純情な想いをどう守っていくかという、そういう時代のつかさんを感じるんです。しかも当時はアングラ全盛の世の中だから、ビートルズでもメッセージ性のある曲が受けていたわけで、その中でつかさんがあえてラブソングを使ったことに、のちのつかさんを考えると、逆に新鮮なものを感じるんです。劇中のラブレターの中身もたわいがなくて「僕はハンサムです」とか(笑)、あの時代としては、みんな革命の時代のルサンチマンとかを描くほうに行ってるのに、そうじゃないほうへ行くつかこうへいが、高校生の僕は好きだったんだろうなと。難しいことを語りつつも、「デートしたいだろ?」みたいな、ちょっとした本音を入れてくるのがよかったんでしょうね。
 
横内謙介

横内謙介

右も左も笑うのが、つかこうへい
 
──この『郵便屋さんちょっと』には『熱海殺人事件』の原型みたいなものが入っているそうですね。
 
横内 レトリックは一緒なんです。「お前、振られるとわかっているラブレターを配達できると思うか?」というのは、『熱海』での「こんなブス殺しの事件を俺たちが捜査できるか?」と同じで、「俺たち郵便屋は国民の幸せのために働くので、みすみす不幸にするために配達できないだろう」という、逆説的な熱い想いみたいなのはどの作品も一緒なんです。
 
岡村 つかさんの場合、言いたいことはただひとつでも、それを何通りかに言い換えていく。題名でいえば『初級革命講座 飛龍伝』になったり『熱海殺人事件』になったり、『ストリッパー物語』になったり。さっき過激になっていくという話が出ましたけど、つかさんが有名になる前は直接的表現をひたすら抑えているんですね。それで世間に知られるようになってからあからさまに表に出すようになった。だから若き日の本はとても奥ゆかしくて、同時に裏側にはすごく深いものが流れている。でも直木賞を取ってからは、「有名である俺が言わなきゃいかんことがあるだろ」みたいな書き方になって堂々としている。『新・幕末純情伝』は、まさにそういう仕事の集大成として書かれたと思います。
 
──『新・幕末純情伝』はつかさん自身、色々なバージョンで演出していますが、岡村さんのは原型ですか?
 
岡村 いや違います。「新」とついているように、パルコ劇場でやった『幕末純情伝』を、つかさん自身がこれじゃわかりにくいだろうと、かなり練り直したんです。それを踏襲しています。
 
横内 その初演にうちの岡森(諦)が出てたんです。「ついにうちの俳優がつか作品に!」と凄く興奮して初日の客席にいたのを覚えてる(笑)。
 
岡村 近藤勇でしたね。
 
──過激な作品を作っていても、政治的にはつかさんは醒めていた気がします。
 
横内 ニュートラルというか、右も左も笑う部分があって、では自分の居場所は?と探してる。それが特に若い頃は、ひりひりと自分にも重なってきました。「演劇やるなら過激じゃないと」という時代に、「右翼も左翼もバカなんだぞ」と言ってくれた(笑)。
 
──どちらにも付かない、付けないポジションは、つかさんの出自から来ているのでしょうね?
 
岡村 いつも「それはお前らから見た右だろ」みたいなことを、言葉には出さずに言ってるんです。去年上演した『いつも心に太陽を』という作品でも、水泳の国体選手の物語なんですが、「俺はお前らのルールにのっとってハンディキャップもつけないで戦ってるのにどうして勝てないんだ?」というような台詞が出てくるんです。ちょうど直木賞を受賞する前の年の作品で、芝居の中で日の丸がひらひらとはためくのがとても象徴的でした。
 
岡村俊一

岡村俊一

実は有象無象たちのために書いていた
 
──『新・幕末純情伝』は新撰組ですが、つかさんにとってこのモチーフは?
 
岡村 新撰組は『蒲田行進曲』の劇中劇シーンがもとになっているんです。『新・幕末純情伝』の主人公は沖田総司ですけど、つかさんが書きたかったのはヒーローのつらさで、『蒲田』の銀ちゃんと坂本龍馬は同じだと思います。
 
──横内さんは『新・幕末純情伝』への興味は?
 
横内 劇中に新撰組の隊員たちとか有象無象が出てくるでしょう。『蒲田』なら大部屋、うちの劇団に合うのはそっちなんだよね(笑)。でも、つかさんの凄いところはそっちにもちゃんと生を与えて、ドラマを与える。主人公はいるけど肝は民衆で、それが『熱海』なんかでは削ぎ落とされて大山金太郞1人に象徴されていく。『広島に原爆を落とす日』でも一番泣けるのは、「私の故郷は四国です。そこに落としてください」と言って散っていく兵隊たちで。そういう周りの人たちの在りようを大事にしていて、もっと言えばメインストーリーなんかどうでもいいんじゃないかと。作家としての僕からはそういうふうに見える。今も忘れられないのは、『リングリングリング』で幕が開くと裸の男たちが30人ぐらいいて、1人1人名前を呼ばれて力瘤見せて走り去っていく。それだけなんだけど、そういう人たちをこれだけ使う人っていないなと。それで主役が光れば光るほど、周りのヤツラもその光をもらって輝く。脇役にちゃんと命が与えるのが、つかさんなんだなと。
 
──岡村さんもよく稽古で、「面白かったら場面増やしてやるから」と、若い役者さんたちを叱咤激励していますね。
 
岡村 僕はそういう意味ではつか演劇の中継ぎをしたいと思っていて、何十年後かにやる人たちがやりやすいようにする、そういうポジションだというのが、七回忌にして思うことなんです。つかさんは、商業演劇とうまく折り合いをつけながら、有象無象を沢山集めて、そこから少しでも羽ばたかせたいと思っていた。それを実際にやっていたと思います。
 
岡村俊一

岡村俊一

実態が出てくるとイメージがその中に収まってしまう
 
──そういえば衣裳も基本的には全員一緒ですね。そしてジャージでも出すけどタキシードでも出す。
 
岡村 ジャージも本当はなんでもよくて、着ているもので説明するなと、芝居でちゃんとわからせろということなんです。そして正装したいんならタキシードを着ろと。中途半端はないんです。僕は、本当は装置も衣裳も派手なのが得意なほうなんですけど、つかさんの芝居に関しては、このスタイルの有効性を感じたので、それでやってるんです。衣裳なんかなくても4人集まれば『熱海』ができるという。

横内 僕は『つか版・忠臣蔵』では衣裳を使いましたけど、『郵便屋さんちょっと』はジャージです。道具は建てないでやるのがいつも基本ですし。つかさんは劇場というものへの150%の信頼があって、演劇がある時期、劇場を疑って色々実験していった中で、劇場をとても愛して信頼していた人で。劇場で、明かりが当たって役者が立つ、あとは言葉しかない、というのが役者は一番鍛えられますよね。そこは僕もつかさんの作品では大事にしたいし、袖幕が愛おしく見える舞台でありたいなと。それと劇場を見せるという演出もつかさんならではだよね。岡村さんもよく使っているけど、大黒(幕)を開けると燈台が並んでるとか上から照明降ろしてくるとか。

岡村 第三舞台で有名になったけど、紀伊國屋ホールでそういうこと初めてやったのはつかさんですからね。シアターサンモールの搬入用のセリも、つかさんがこけら落としで使いましたから。舞台装置は嫌いだけど劇場にあるものを使うのはOKなんですよね。
 
横内謙介

横内謙介

横内 それこそ初期の頃、俳優座で『出発』を観たとき、なにもない舞台で芝居していて、一場面だけ大黒が開くと大漁船の上で加藤健一さんがギンギラギンの格好で「東京五輪音頭」を歌ってて(笑)、彼が消えたらまた何もない中で芝居して(笑)。出るとなったらとことん派手で、それはスーパー歌舞伎も同じなんです。猿之助(現猿翁)さんが「なんでも出てくる能舞台」を発注していましたけど、基本はからっぽの劇場で色々なものを出して見せる。そういう歌舞伎の方法論と通底してるんです。

岡村 昔、草なぎ剛くんで『蒲田行進曲』を青山劇場でやったとき、沈む床を階段状にして出しましょうかと、つかさんに舞台監督が絵を見せたら、ぱっと見て「いらない」と。客が頭の中で見ればいいので、実態が出てくるとイメージがその中に収まってしまうのが嫌なんでしょうね。出さなければどこまでも高い階段になるから。
 
──では最後に七回忌へ向けての公演の抱負を。
 
横内 三回忌の『つか版忠臣蔵』は保険をかけて、中心に山本亨さんに来てもらったんですけど、今回は劇団員だけで、中心は山中崇史でいきます。つかさん風に言えば「山中崇史スペシャル」で(笑)、山中はつかさんのことをまったく知らない役者なんですけど、真ん中の郵便局長をやらせます。木村伝兵衛的なポジションです。つまり、つかこうへいの文体を今の役者でやる。それがチャレンジかなと。でもつかこうへい的世界観は大事にして作ります。「山中崇史スペシャル」です。
 
岡村 じゃこちらは「松井玲奈スペシャル」で(笑)。今回はできれば新しいキャストで生まれ変わらせたいと思っています。それがつかこうへいを伝えていくことだと思うので。とにかく今回は松井玲奈に賭けます。
 
岡村俊一・横内謙介

岡村俊一・横内謙介

よこうちけんすけ○東京都出身。82年「善人会議」(現・扉座)を旗揚げ。以来オリジナル作品を発表し続け、スーパー歌舞伎や21世紀歌舞伎組の脚本をはじめ外部でも作・演出家として活躍。92年に岸田國士戯曲賞受賞。扉座以外の最近の作品は、『浪花阿呆鴉』(脚本・演出)ミュージカル『奇想天外☆歌舞音曲劇げんない』(脚本・演出・作詞)、『HKT指原莉乃座長公演』(脚本・演出)、スーパー歌舞伎ll『ワンピース』(脚本・演出)など。
 
おかむらしゅんいち○広島県出身。演出家・プロデューサー。旧銀座セゾン劇場プロデューサーを経て、91年演劇制作会社R・U・Pを設立。『飛龍伝』『蒲田行進曲』『つかこうへいダブルス』などをプロデュース。少年隊『PLAYZONE』や劇団EXILE公演、『透明人間の蒸気』『あずみ』明治座の早乙女太一公演などを演出。最近作は『熱海殺人事件 Battle Royal』『怪談・にせ皿屋敷』『つかこうへいダブルス2014』『つかこうへいTriple impact』『AZUMI 幕末編』『引退屋リリー』など。
 
〈公演情報〉


幻冬舎プレゼンツ つかこうへい×扉座第2弾
『郵便屋さんちょっと2016』
原作◇つかこうへい 
上演台本・演出◇横内謙介
出演◇岡森諦、中原三千代、有馬自由、山中崇史、犬飼淳治、高橋麻里 、累央、鈴木利典、岩本達郎  ほか
●6/18、19◎厚木市民会館 小ホール
●6/23~7/3◎座・高円寺1
〈料金 東京公演〉一般/前売・当日共 4500円   学生3000円(扉座でのみ取り扱い。中学生以上の方は当日学生証をご持参ください)ミナクルステージ(6/23のみ)3,000円 無謀ナイト(6/27の19時:学生限定の無料公演・詳細は劇団HPでご確認ください)(全席指定・税込)
〈料金 厚木公演〉一般/前売4200円 当日4500円
  学生1500円(厚木市文化会館・扉座でのみ取り扱い。中学生以上の方は当日学生証をご持参ください)
〈お問い合わせ〉劇団扉座  03-3221-0530(平日12:00~18:00)
〈HP〉 http://www.tobiraza.co.jp/


〈公演情報〉

つかこうへい七回忌特別公演
『新・幕末純情伝』
作◇つかこうへい 
演出◇岡村俊一
出演◇松井玲奈、石田明
細貝圭早乙女友貴味方良介荒井敦史、伊達暁永田彬  ほか 
●6/23~7/3◎天王洲 銀河劇場
〈料金〉
S席(1階・2階)¥6,800 A席(3階)¥5,800(全席指定・税込) 
7/6~17◎紀伊國屋ホール
〈料金〉
¥6,800 (全席指定・税込) 
7/22~24◎梅田芸術劇場メインホール
〈料金〉
S席(1階・2階)¥6,800 A席(3階)¥5,800(全席指定・税込) 
〈お問い合わせ〉東京音協
03-5774-3030 (平日11:00~17:00)

 

【文◇宮田華子 撮影◇岩田えり】
演劇キック - 観劇予報
シェア / 保存先を選択