三田和代・愛華みれ・熊谷真実・若村麻由美のクロストーク!『頭痛肩こり樋口一葉』

インタビュー
舞台
2016.7.19
『頭痛肩こり樋口一葉』(左から)愛華みれ、若村麻由美、永作博美、三田和代、熊谷真実

『頭痛肩こり樋口一葉』(左から)愛華みれ、若村麻由美、永作博美、三田和代、熊谷真実


樋口一葉の没後120周年を記念して上演される井上ひさしの人気戯曲『頭痛肩こり樋口一葉』。本作に出演する三田和代、熊谷真実、愛華みれ、若村麻由美に話をきいてきた。4人は2013年に共演したメンバーであり、今年同じ作品で再会することとなった。
 
ちなみにそれぞれの役どころを簡単にご紹介。

・樋口夏子(=一葉)の母、樋口多喜:三田和代
・元旗本の幼女、稲葉鑛:愛華みれ
・一葉の旧友、中野八重:熊谷真実
・幽霊の「花螢」:若村麻由美
 

――再演が決まったときのお気持ちを聞かせてください。

三田: とにかく嬉しかったですね。前回演じたときは、世話焼きのおばさんみたいになっていたけど、今回は武士としてのプライドも交えながらやりたいと思います。

愛華: 待ちに待ったというか!まさか本当に再演が叶うと思ってなかったので、その時の事が蘇って今かみしめています。いい意味で初演を超えて、それでいて新鮮にやれたらいいですね。

熊谷: アッという間の再演だなって。深谷(美歩。妹の樋口邦子役)さんが(製作発表会見で)「今日の日のために頑張ってきた」と言ってましたが、井上作品に出るときは私も同じ気持ちになりますね。井上作品は自分を試されるような気持ちになります。特にこの作品に関しては本当にやりたかった役だったし「この役を熊谷さんに」と言ってくださったときの感動のままに再び演じたいです。

若村: 前回は稽古の段階から「幽霊ってこんなにハードなんだ!」という経験をし、稽古場の時から怪我を繰り返していました。そして本番でも怪我をしていたので万全の体調で望めなかったんです。想いとカラダが一致しなかったので、今度こそは怪我がないように……アスリートの気持ちがわかりますね!

三田: 着替えも大変なんですよね。「うわあー!」ってなりながらステージに出るの。

『頭痛肩こり樋口一葉』三田和代

『頭痛肩こり樋口一葉』三田和代

愛華: 三田さんがやっているから、私は文句が言えないの(笑)「しんどい!」って言いたいのに!

若村: 特に一番最初の三田さんの出が大変ですよね?

愛華: そもそも冒頭の「子役」って必要ですか?(笑)

熊谷・若村: アハハハハ。

三田: 最初はみんな「ボンボン盆の…」って歌いながら子どもの姿で登場するんですが、次の場面の事を考えると、もう人を蹴散らしてでも舞台袖にすぐ引っ込みたいんです。次の場面で私がお婆さん姿で最初に出ていかなければならないので。徒競走みたいに走って走って。

『頭痛肩こり樋口一葉』前回公演より

『頭痛肩こり樋口一葉』前回公演より

愛華: 三田さんが走るのを観て「ああ、(このお芝居が)始まるんだあ」って思っていました。

若村: あれ、まだ10歳に満たない子どもの役ですよね?

熊谷: そうですそうです。

若村: そこから一気にお母さんになるので、こんなに年齢を飛び越える役を観たことがない。

三田: 楽しいっちゃー楽しいけど、大変なんですよ!でも(演出の)栗山(民也)さんはその子どものシーンが一番大好きみたいで。みんなで子ども姿で写真を撮って差し上げたらものすごくうれしそうな顔になっててね。

愛華・熊谷・若村: えーーー!

『頭痛肩こり樋口一葉』三田和代・熊谷真実

『頭痛肩こり樋口一葉』三田和代・熊谷真実

――前回と同じ役を演じることになりますが、再演だからこそ力を入れたい、深めたいと思うのはどんなところですか?

三田: 樋口多喜は初演はソフトな感じ、柔らかい感じで作ったんですが、劇評が「やさしいお母さん」って書かれていて、それじゃあ足りないんじゃないかって思ったんです。百姓の出だけど武士への憧れが強くて、やっと武士になれたと思ったら平民に落ちぶれちゃう。でもどこか武士でいたい。娘にも厳しい。世間からどのように観られているのか、という想いが強い人だったと思います。「武士としてのプライド」が根底にあるんじゃないかなって。今回はそこをもっと演じてみたいですね。

愛華: 三田さんがお変わりになるのなら私はより……! 私なんてもう反省することしかないのですが、三田さんがパワフルになるなら私たちはもっといろいろなものを三田さんから盗みながら!三田さんは「武士道」っておっしゃったけど、私は「生まれもって」ってのを心の中に置かなきゃならないと思っています。最近では「平等」「平等」って言っている世の中だから、ピンとこないお客さんもいらっしゃると思うんですけど、「階級」があって、そこにすがっていたりプライドがあったりっていう、その時代じゃなきゃいなかった人たちをきちんと演じようと思っています。そういえば祖父とか祖母がそういうことをやたら言ってたなあという記憶がどこかにあるので、それを紐解きながら時代の空気感を見つめ直してみようかと思います。

熊谷: 私が演じる八重さんは、小学校の先生から女郎に身を落とす、転落の人生。初演のときは無我夢中でしたが、今回は全体重かけて彼女と向き合う覚悟です。

『頭痛肩こり樋口一葉』熊谷真実

『頭痛肩こり樋口一葉』熊谷真実

若村: 今みんなの話を聞きながらふと思ったんですが……私、再演って初めてなんですよ。

愛華・熊谷:ええー!? そうっかー! 初体験なんだ!

若村: 再演ものをしたことがなくて、どんな感じなんだろう。初めて読む戯曲のつもりで取り組みます。何よりも心掛けるのはケガをしないように!(笑)

三田: (若村が演じる幽霊の)花螢さんって、浮かんだり飛んだり跳ねたり…私たちは見えない芝居をしないとならないんだけど。

愛華: ぐるぐると常に浮遊しているんですよね。

若村: ここにいたかと思うと、あちらに……ってね。言葉で言うのは簡単なんですが、栗山さんが「この段階でこっちにいなきゃダメだよー」「ええー!私、足でそこまで走るんですけどー(笑)」ってやり取りがよくあって。

『頭痛肩こり樋口一葉』愛華みれ・若村麻由美

『頭痛肩こり樋口一葉』愛華みれ・若村麻由美

――幽霊だから本当はないはずの足で走れ、と(笑)

若村: でもお客様の中に「あの幽霊、ワイヤーで吊っているの?」って思ってくださった方がいらしてて……。

熊谷: いや本当にそう思うくらい浮遊していたの!

若村: それを聞いて「よし!」って思いました。次は万全な足首で臨みます!

『頭痛肩こり樋口一葉』前回公演より

『頭痛肩こり樋口一葉』前回公演より

――改めて感じる本作の魅力とは?

三田: 「生きる」という魅力。いろいろなストレスがありますけどみんな必死で生きている。崖っぷちまで追い込まれているんですが、みんな一生懸命に生きているというところが時代を超えて伝わる感動の源だと思います。その時代が、ということではなく、今の若い人が見ても「スッゲー!一生懸命生きてるな!」って感じるはず。それは井上先生のエネルギーでもあると思います。

愛華: 生々しくもたくましくも、そして繊細な想いをみんな持ち合いながら……それは人であるならば感じられるものだと思うし、それを私たちが舞台で届けないといけないと思うんです。なんでこんなにキャストのみんなと仲良くなったんだろうと思い返したら、みんな「必死」だったから。性格も何もかも違う女優さん方だけど、一緒に「助けて!」「よろしくね!」とかいろいろな想いも含めてやっていたんです。自分も「生きてたなあ」と思いましたね。だからまた生きていたいですね。

『頭痛肩こり樋口一葉』愛華みれ

『頭痛肩こり樋口一葉』愛華みれ

三田: 今の時代、平和なようで何が起きるかわからない危機感があるじゃないですか。お先真っ暗とは言わないけれども、本当に危機感が常にある。この作品は決してのんきな作品ではないですね。だから今の世でも絶対通じるものだと思う。パソコンやスマホの画面しか観てない若者たちの耳にも聞こえてくるような言葉がいっぱいあると思うんです。井上さんのものって普遍的だと思いますね。いつみても「古い」と思わないんですよ。

熊谷: 私も井上先生の遅筆を経験しておりますし(笑)、今考えるとそのときは大変だったけど、この先何百年も台本が残るとしたら、そのときの事は大したことではなかった、帳消しになるように思います。もちろん新作がもう見れないのはさみしいですが、今ある台本は決して古くなることはないと思いますね。

若村: 次の世に残る作品だと思います。普遍性があると思います。シェイクスピアもそうですがこの作品もそう。その中で女たちが頑張っている作品ですが、その中では男たちも影にいてがむしゃらに生きている。私が演じる幽霊は、一葉が貧しい中、必死で生きている中で、常に死を思う…生きるということは死を思うことだと思うのですが、その中で登場してきた役割だと思います。「先ず臨終の事を習って、後に他事を習うべし」という言葉がありますが、死というものを受け止めたり考えたりするからこそ、今一生懸命に生きようと思いますね。

『頭痛肩こり樋口一葉』若村麻由美

『頭痛肩こり樋口一葉』若村麻由美

三田: 改めて一葉って天才ですね。こんなに短期間でこんなに多くの作品を残してて。この年齢でこれだけの奥深さを感じていたんだなと思うと怖いくらいです。

若村: ものすごく意識が長けている人ですよね。自分たちよりもっとひどい階級で生きている女たちを『にごりえ』に描いたり。

三田: 『十三夜』には「虚無」というものがありますよ。「悲しい」とかそんなものではなくて「月だけが見ている」という世界。「十三夜の月だけだ 片方は西に片方は東に」って。何も成就しない世界が…。『頭痛肩こり~』には、一葉の作品が随所に出てくるんです。井上先生、うまいなって思います。

『頭痛肩こり樋口一葉』前回公演より

『頭痛肩こり樋口一葉』前回公演より

(取材・文:こむらさき 写真:大野要介)
 
関連情報

(一葉役)永作博美さん NHK『あさイチ』プレミアムトークに出演決定!
7月22日(金) 午前8:15~
『頭痛肩こり樋口一葉』の稽古の様子も紹介されます。

http://www1.nhk.or.jp/asaichi/archive/160722/1.html
 

樋口一葉没後120年記念 
東宝・こまつ座提携特別公演『頭痛肩こり樋口一葉』


■日時・会場:
2016年8月5日(金)~25日(木)日比谷シアタークリエ(東京)
2016年9月3日(土)~4日(日)兵庫県立芸術劇場文化センター 阪急中ホール(兵庫)
2016年9月7日(水)新潟県民会館(新潟)
2016年9月15日(木)電力ホール(宮城・仙台) 
2016年9月17日(土)南陽市文化会館(山形)
2016年9月22日(木)びわ湖ホール 中ホール(滋賀)
2016年9月25日(日)アルカスSASEBO 大ホール(長崎)
2016年9月28日(水)~30日(金)中日劇場(名古屋)

■作:井上ひさし
■演出:栗山民也
■出演:永作博美、三田和代、熊谷真実、愛華みれ、深谷美歩、若村麻由美

 東京・兵庫・山形・滋賀・長崎

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