トニー賞2016予想 兵藤あおみ×町田麻子 vol.3
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プレイの受賞予想はかなりハード
町田: プレイについてはスミマセン。語ること、一つもないので……(笑)。
兵藤: (笑)。プレイはね、ここ何年かイギリス勢に押されている感じがしていたけど、アメリカ勢が盛り返してきたかなって気がしますね。そんな中、演劇作品賞は 『ヒューマンズ』 が獲るのでは、と思ってます。どこか、トレイシー・レッツの 『8月の家族たち』 に近いっていうか。いわゆる、アーサー・ミラーとかユージーン・オニール的な、まさに家族劇っていう。
町田: ほぉ、アメリカ人が大好きなやつ!
『ヒューマンズ』PHOTO=BRIGITTE LACOMBE
兵藤: そう、会話の中から、家族それぞれの問題をあぶり出していくみたいな。後半ちょっとね、スリラータッチだったりもするんですよ。どこにオチがあるのか分からなくて、最後までドキドキしっぱなしで、面白かった。あと、アルツハイマー病患者を主人公にした 『父』 と同じく、こちらにも痴呆の老人が出てくる。2本続けて観たので、とても興味深かったですね。あと、評価が高い 『エクリプスト』 。女性の劇作家が書き下ろした、性奴隷となった女性たちの物語とあって、注目されています。
町田: どれもテーマが深刻そうですね。
兵藤: 英国王室を風刺した 『キング・チャールズ三世』 は、多少笑えたのかな?
町田: イギリス作品ですものね。
兵藤: プレイのリバイバル作品賞は、全然観ていないんだけど……どれもすごく評価が高いですよね。注目は、イヴォ・ヴァン・ホーヴェが演出した 『るつぼ』 と 『橋からの眺め』 が入っているところでしょうか。あと、ジョナサン・ケント演出の 『夜への長い旅路』 もかなりの好評。
『夜への長い旅路』ジェシカ・ラング PHOTO=JOAN MARCUS
町田: すごい評判いいですよね!
兵藤: しかし、アーサー・ミラー2本( 『るつぼ』 『橋からの眺め』 )に、ユージーン・オニール( 『夜への長い旅路』)って、すごい並びだね。
町田: ほんとだ、王道リバイバル。
兵藤: 『橋からの眺め』 は、ブロードウェイ入りする前のウエストエンド公演の模様をナショナル・シアター・ライヴで観たのですが、かなり斬新でしたよ。こういう描き方もあるのかって、ちょっとした衝撃でした。すでにクローズしているプロダクションなので受賞は厳しいかもしれないけど、ホーヴェの 『橋からの眺め』 を推したい気持ちがあります。あと、演劇の主演男優賞は 『父』 のフランク・ランジェラではないかなと。
『父』フランク・ランジェラ PHOTO=JOAN MARCUS
町田: これまで何度も受賞されていますよね?
兵藤: 過去に3度、今回受賞したら4度目になります。アルツハイマー病の初期の、比較的まだ意識がしっかりしているところから、どんどん深刻化していく過程を90分で演じ切るのです。
町田: しんどそうですね。週8回、よくやるなと!
兵藤: 御年78ですよ。恐れ入りますって感じ。あと、対抗として 『橋からの眺め』 のマーク・ストロングを推したいかな。すごく良かったので。演劇の主演女優賞は、誰も見ていないので何とも言えませんが……特に評価の高い、『エクリプスト』 のルピタ・ニョンゴか 『夜への長い旅路』 のジェシカ・ラングのどちらかかなと。
『エクリプスト』ルピタ・ニョンゴ(中央)PHOTO=JOAN MARCUS
町田: プレイについて話し始めてから、あからさまに口数が少なくてスミマセン(笑)。
兵藤: いえいえ(笑)。演劇の助演男優賞も 『ヒューマンズ』 のお父さん役、リード・バーニー以外、観ていない人ばかり……。ですが、『夜への長い旅路』 のマイケル・シャノンに獲ってもらいたいかな。単に、自分がファンだからというだけの理由ですが(苦笑)。
町田: 演劇の助演女優賞は 『エクリプスト』 と 『ノイゼズ・オフ』 から二人ずつ入っていますね!
兵藤: 『エクリプスト』 のセイコン・センブローは、2000年の 『RENT』 初来日公演の際、ミミを演じていた女優さんで。今も第一線で頑張っていて、感慨深いです。『ノイゼズ・オフ』 のアンドレア・マーティンは過去に2度受賞しているし、ショー自体、すでにクローズしてしまっているので、今回はないかな……。『ヒューマンズ』 でお母さん役を演じているジェイン・ハウディシェルは、数々の名作で脇を張ってきた大ベテラン。候補の中では、そのジェインの演技しか観ていないので、彼女に1票とさせてください。
トニー賞2016演劇部門予想(町田は観てないためゼロ回答)
町田: 演劇の装置デザイン賞候補の顔ぶれを見て、そういえば 『テレーズ・ラカン』 も今シーズンだったな、と気付きました。キーラ・ナイトレイ主演の。
兵藤: 残念ながら、あまり話題になりませんでしたね。同じく、シーズン前半にはブルース・ウィリス主演の 『ミザリー』 なんかもありましたが(苦笑)。
町田: あ、ありましたね(苦笑)。有名人でも容赦なく漏れるのが、トニー賞の面白いところです。
兵藤あおみ・町田麻子
兵藤: さて、装置デザイン賞は『ヒューマンズ』としておいてください。キッチンやトイレ、らせん階段など、見事に再現されたメゾネットタイプのアパートメントが物語の一部となって、存在感を発揮していました。あと演劇の衣裳デザイン賞……コスチュームプレイがなく、現代劇ばかりなので、選びにくいな。なぜ 『テレーズ・ラカン』 は入らなかったのかしら。
町田: 『テレーズ・ラカン』 の衣裳は良かったんですか?
兵藤: 舞台写真を見た限り、キレイだったような……。キーラ・ナイトレイが着ていたからかな。とりあえず、『夜への長い旅路』 としておきます。もう雰囲気重視(笑)。で、演劇の照明デザイン賞は……。
町田: あ、同じ人が2作品でノミネートしてる!
兵藤: 『るつぼ』 と 『橋からの眺め』 のヤン・ヴァースウェイヴェルドね。イヴォ・ヴァン・ホーヴェと組んでいて、彼の公演の舞台写真も撮っているの。
町田: へぇ。あ、『夜への長い旅路』 のナターシャ・カッツは、しょっちゅう受賞しているので。もういいと思います(笑)。
兵藤: では、『ヒューマンズ』 ということで。アパートメントが停電になるシーンがあったり、“明かり”が効果的に用いられるんです。そして、最後に演劇の演出賞は……。
町田: 『ヒューマンズ』 ってジョー・マンテロの演出なんですね。『ウィキッド』 好きとしては応援したいところです。
兵藤: そうなの。隙のないステージングになってて、さすがマンテロ!って感じ。でも今年は、イヴォ・ヴァン・ホーヴェかなと。
町田: ホーヴェ、リバイバル賞では2作品候補に挙がりましたが、演出賞は 『橋からの眺め』 だけなんですね、ノミネートしたの。
『橋からの眺め』PHOTO=JAN VERSWEYVELD
兵藤: 2本入ってくるかと思ったんだけどね。ちなみに、『キング・チャールズ三世』 のルパート・グールドは、『アメリカン・サイコ』 も演出しているの。彼と 『夜への長い旅路』 のジョナサン・ケントがイギリス人、ホーヴェがベルギー人、マンテロと 『エクリプスト』 のリーズル・トミーがアメリカ人と国際色豊か。唯一の女性演出家トミーにも注目です。いや~、全カテゴリーを予想してきたけど、今年はいっぱい外しそうだなぁ(苦笑)。
町田: 去年はピタリ賞でしたもんね、兵藤さん。
兵藤: うん、結構当てた。でも今年は 『ハミルトン』 を観ていない時点で負けなので。いろいろ反省しつつ、授賞式の日を迎えたいと思います。
トニー賞2016演劇部門予想(町田は観てないためゼロ回答)
町田: 去年の授賞式は、ちょっと軽すぎた感じがしませんか? もうちょっと格調高くてもいいのに、と思ってしまって。今年司会を務めるジェイムズ・コーデンも、やっぱりはじけちゃうのでしょうか?
兵藤: 彼がトニー賞最優秀主演男優賞に輝いた 『一人の男と二人の主人』 というお芝居、ご覧になりました?
町田: 観ていないんです。
兵藤: すごくチャーミングな人なんですよ、ジェイムズって。ちゃめっ気を振りまきつつ、トークショーで磨いたホスト力を存分に発揮してくれるだろうと期待しています。小回りのきくおデブちゃまなので、軽やかにステージを飛び回ってくれるはず!
町田: それは楽しみ!
兵藤: 『ハミルトン』 だけのシーズンかなと思っていたけど、振り返ってみたら、意外や意外、盛りだくさんだったなと再確認できました。
町田: あとは 『ハミルトン』 に賞が集中するのか、バラけるのか……結果発表を楽しみに待ちましょう!
NY2016(PHOTO=町田麻子)
WOWOWプライム
6月13日(月)午前8時 (同時通訳)
案内役:宮本亜門、八嶋智人/スペシャル・サポーター:井上芳雄
6月18日(土)夜7時 第70回トニー賞授賞式 (字幕版)
公式サイト:http://www.wowow.co.jp/stage/tony/