大衆演劇の入り口から[其之拾五]前編・浅草が沸騰中!劇団炎舞、すべてを注ぐ東京公演
ラストショーの盛り上がりに、客席はいっせいに手拍子。(2016/6/4)
ぬっ、と。江戸時代から抜け出てきたような身のこなし、。
「悪い人でも舅は親…」(『夏祭浪花鑑』)
ストーン!と演者の腹の底から観客の体を通り、天井まで突き抜ける声。
橘炎鷹座長(2016/6/4)
「あの人何、なんであんなに上手いの…?!」
橘炎鷹(たちばな・えんおう)座長を初めて観た筆者の友人は、舞台に釘付けのままつぶやいた。3歳から舞台に立ち、名子役・若手として知られ、現在37歳。大衆演劇の座長さんはいずれも芸達者だが、炎鷹座長の古典的な芝居の巧さ・舞台での形の美しさは抜きんでている。
3年ぶりに東京に炎鷹座長が帰って来た。6月は浅草・木馬館、7月は十条・篠原演芸場。炎鷹座長率いる「劇団炎舞(えんぶ)」が、2か月間、内容がみっちり詰まった公演をお届けする。
「炎鷹まつり」 曲を替え、“役”を替え
6/4(土)、浅草の木馬館大衆劇場。本日の内容は「昼夜ネタ替え 炎鷹まつり」。
浅草木馬館。開演前の呼び込みの座員さんの姿が見える。(2016/6/4)
11時半頃に劇場に入ると、一階席の椅子の背にはズラリと予約の名札が貼られ、二階席も後ろまでみっちり埋まっていた。それでもまだ入って来るお客さんのために、スタッフさんがテキパキと通路に補助席の丸イスを並べていく。開演時刻12時になると、
「ただいまより、お芝居『利休の香炉』を開幕いたします」
流れて来るアナウンス。『利休の香炉』は、炎鷹座長演じる奉公人・豊松のトボけたキャラクターが楽しいお芝居だ。豊松のすっとんきょうな丸眼鏡に、思わず微笑みたくなる愛嬌がある。
橘炎鷹座長。芝居「利休の香炉」の豊松の姿のままの口上挨拶。(2016/6/4)
店の主人(橘魅乃瑠さん)にお使いを頼まれ、道順を確認する場面。右方向を“箸”、左方向を“茶碗”と言いながら、必死に覚えようとする。
「橋渡って、箸行って、さみしい道行って、ええと…」
「次、茶碗や」
「ちゃ、茶碗に橋あって、それ渡って、そしたらまた茶碗…?!」
だんだん混乱してきて、泣き声を出す様のおかしさと可愛さ!
続く舞踊ショーは「炎鷹まつり」。炎鷹座長が次々に曲を替えては出て来る。この一日だけで、一体いくつの“役”を見ただろう!
橘炎鷹座長。立ち役に迸る熱量は圧巻だ。(2016/6/4)
浪曲歌謡に合わせて赤穂浪士・赤垣源蔵になったかと思えば(左)、切ないラブソングがかかり、死を前に大切な人への思いを語る男になったり(右)。
橘炎鷹座長。女形では身体の線の美しさがよくわかる。(2016/6/4)
儚げな遊女・梅川を演じる一方で(左)、酒瓶を抱え、唐人お吉の渇いた哀愁も表現する(右)。曲の中に現れる人物が、どんな気持ちを抱えているのか…それぞれの役が腹の底までがっぷり飲み込まれ、炎鷹座長のしなやかに踊る骨肉にせり出してくるようだ。
夜の部のクライマックスの曲は『花道一人旅』。旅役者の人生を歌った曲だ。
橘炎鷹座長(2016/6/4)
“楽屋で産まれて舞台で育ち いつか覚えた立ち回り”
“役者の子供と馬鹿にされ 涙こらえたこともある”
今度は“役”を抜け出し、炎鷹座長自身の生い立ちと歌詞が重なる。歌の中の悲しみや喜びが、踊る身体に汲み上げられて、観客に降り注ぐ。
“お客さん、お互いに夢開いて生きていきましょうや”
セリフに合わせて、観客席を包むように腕を広げる。生きていくことの切なさに、舞台と客席が一緒に向かい合う。大きな拍手の中、感涙するお客さんの顔もいくつも見えた。
舞台にはじける炎舞メンバー
橘光鷹さん(2016/6/4)
若手リーダーの橘光鷹さん。立ち役はカッコイイ中にもどこかしっとりと、女形はキュートに。芝居では丁寧でひたむきな演技で、劇団炎舞の芝居の質を支えている。
橘鷹勝さん(2016/6/4)
若手の橘鷹勝さんは、ニパッ!と底抜けに明るい笑顔で愛される人気者だ。見ていると“芝居が大好き!”という爽快な気持ちが伝わってくる。演技力もめきめき向上中。
橘鷹志さん(2016/6/4)
橘鷹志さんはひときわ目立つクールな美形ぶり。個人舞踊のときに二階席にも駆け上がっていく姿には、お客さんを沸かせよう!という心意気があふれる。
橘魅乃瑠さん(2016/6/4)
ベテランでは炎鷹座長の父・“ボス”こと橘魅乃瑠さん。芝居での親分役はどっしりした風格で舞台に根を張るようだ。『夏祭浪花鑑』での義平次役は暗澹としたたたずまいが怖いほど。けれどニッコリ笑えば愛嬌たっぷり、お茶目な一面がのぞく。
北城嵐さん(2016/6/4)
特別ゲスト・北城嵐さんは強力な助っ人だ。芝居での炎鷹座長との丁々発止のやり取りは聴き応え抜群。あふれる渋さ、骨太な男のカッコよさに、「嵐~!」と声援が飛ぶ。
橘もん太さん(2016/6/4)
観ているとホッとするのが橘もん太さん。大きな体にゆったりと優しい人柄が現れる。ボスの歌のコーナーのとき、腕を左右に振って観客に振り方指導をするもん太さんの姿に、なんともおおらかな癒しがある。
他にも愛くるしい笑顔の橘美炎さん、心をこめた演技が胸を打つ橘紅葉さん、チャキチャキした美少女・橘麗花さん、ピカピカの新人・橘姫花さん、キュートさ満点の橘あかりさん・橘そらりさんの姉妹、時折ボスとの相舞踊を見せてくれる新野瑛巳さん。そして欠かせないのが、役者をしっとりと映えさせる照明に定評のある照明担当・橘みつおさん。元気いっぱいのメンバーが東京の舞台にはじける。
左から橘鷹勝さん、橘光鷹さん、橘炎鷹座長、橘美炎さん、橘鷹志さん(2016/6/4)
炎鷹座長は舞台姿と裏腹に、素顔はシャイだと聞きますが…東京公演に向けての思いを伺うべく、インタビューをお願いしました!
≪後編・「役の者と書いて役者」橘炎鷹座長インタビューin浅草木馬館≫に続きます!
期間:6/1(水)~6/29(水)
劇場電話: 03-3842-0709
●東京メトロ地下鉄銀座線「浅草駅」下車、徒歩10分
●つくばEX「浅草駅」下車、徒歩1分