1回落ちて200万円? 日米スタントマンの給料事情や高齢化問題まで アクション監督たちが語りまくる『アクションサミット』レポート後編
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アクションサミット後半では、給料や保険問題などシリアスなトークが繰り広げられた
4月29日、新宿・ロフトプラスワンでアクション監督、俳優、スタントマンらが一同に会したイベント『春のアクションまつり』が開催された。SPICEでは、同イベントの後半に設けられた、日本アクション業界の現在と未来を語るトークコーナー『アクションサミット』のようすを2回にわたるレポートを公開していく。前編のようすはこちら。後編となるこの記事では、『るろうに剣心』の谷垣健治氏をはじめとした日本を代表するアクション監督たちが、スタントマンの給料事情や高齢化問題、怪我をした場合の労災保険についてなど、シリアスなテーマについて語りまくる。
『アクションサミット』に参加したアクション監督、アクション・スタントコーディネーター、俳優は以下のような面々。司会は横山誠氏がつとめた。※以下、敬称略
映画『るろうに剣心』シリーズなど多数の作品でアクション監督をつとめた。「宇宙最強」の異名を持つアクションスタードニー・イェンの盟友として、多数の香港・中国映画にもスタントコーディネーターとして参加。日本俳優連盟アクション部会委員長。
辻井啓伺
ジャパン・アクション・クラブ(JAC)出身で、『宇宙刑事ギャバン』『大戦隊ゴーグルファイブ』などのスタントも経験したベテラン。近年も映画『テラフォーマーズ』『クローズZERO』シリーズなど、多数の作品でスタントコーディネートを担当。Stunt Japan代表。
下村勇二
映画『VERSUS -ヴァーサス-』、『GANTZ』シリーズ、『図書館戦争』シリーズ、『アイアムアヒーロー』などのアクション監督。ドニー・イェン作品にもスタントコーディネートなどで多数参加。ユーデンフレームワークス所属。
田渕景也
映画『HK/変態仮面』シリーズアクションコーディネーター、『進撃の巨人』シリーズスタントコーディネーター、ドラマ『仮面ライダーアマゾンズ』アクション監督などを担当。Stunt Japan所属。
横山誠
米ドラマ『パワーレンジャー』シリーズ、ドラマ『牙狼』シリーズなど、多数のドラマ・映画で監督およびアクション監督を担当。AAC STUNTS代表。
坂本浩一
米ドラマ『パワーレンジャー』シリーズ監督およびアクション監督など。映画『破壊王 DRIVE』ほか、海外作品でアクション監督などを担当。日本でも、ドラマ『仮面ライダーフォーゼ』『仮面ライダーゴースト』や、映画『俺たち賞金稼ぎ団』など多数の作品を監督。アルファスタント所属。
坂口拓(TAK∴、匠馬敏郎)
映画『VERSUS -ヴァーサス-』『デス・トランス』『極道兵器』などの主演、『魁!!男塾』などの監督、『TOKYO TRIBE』『虎影』などのアクション監督。
鈴村正樹
映画『片腕マシンガール』『デッド寿司』アクション監督など。『るろうに剣心』ほか多数の作品にもスタントで参加。現在は、ドラマ・映画『HiGH&LOW』アシスタント・アクションコーディネーターも。
園村健介
『東京無国籍少女』『珍遊記 -太郎とゆかいな仲間たち-』『THE NEXT GENERATION パトレイバー 首都決戦』『BUSHIDO MAN』など多数のアクション監督、『GANTZ』シリーズ、『ディストラクション・ベイビーズ』などのアクションコーディネーター。ユーデンフレームワークス所属
高瀨將嗣
ドラマ『特捜最前線』、ドラマ・映画『あぶない刑事』シリーズ、ドラマ『刑事貴族』シリーズ、『七星闘神ガイファード』、映画『ビーバップ・ハイスクール』シリーズ、『カムイ外伝』など多数作品の殺陣師。『ファンキー・モンキー・ティーチャー 2 東京進攻大作戦』『嗚呼!!花の応援団』(96年)など監督作も多数。高瀬道場主宰。日本俳優連合常務理事。
三元雅芸
俳優。『AVN/エイリアンVSニンジャ』『忍者狩り』主演など、アクション作品への参加多数。ゲーム『龍が如く』シリーズの主人公・桐生一馬のモーションアクターも担当。『極道大戦争』『忍者狩り』『虎影』出演で第4回ジャパンアクションアワード・ベストアクション男優賞最優秀賞を受賞。谷垣健治の下でスタントマンの経験も。
1回落ちたらいくら貰える?基本給は?日米スタントマン給料事情
左から、谷垣健治、辻井啓伺、高瀨將嗣、園村健介、三元雅芸、田渕景也、下村勇二、鈴村正樹、坂口拓、坂本浩一(敬称略)
横山:スタントマンのギャラの話をしましょうか。辻井さん、(スーパー戦隊シリーズなどの)戦闘員のとき、いくらでした?
辻井:日給4,000円です。トランポリン、マットなしで飛び降りようが何しようが4,000円でしたね。税金引かれて3,600円。
横山:30年前ですけどね。でも、物価はあんまり変わってないですよね(笑)。
辻井:当時もジュースは100円ですから(笑)。
横山:高瀬さんは?
高瀬:時効だから申し上げますけれども、『ビーバップ・ハイスクール』のパート1で、走る電車が鉄橋に差し掛かったときに、川へ背中向きで落ちるスタントがあったんです。これが1回7万円でしたね。
辻井:その頃の7万円て破格ですよ。
高瀬:いや、当時のジャパンアクションクラブ(JAC)の方に、「あれはいくらでやったんですか?50万ですか? 100万ですか?」って訊かれましたよ。「7万円です」って言ったら、「バカですね」って言われました(笑)。
辻井:昔のJACの人は「給料袋が立った」ってよく言いますからね。
横山:テレビでバク転が出来る人はJACにしかいなかったですからね。
谷垣:ハイフォールの料金設定は、たまにすごい差がありますよね。
横山:ハイフォール=落っこち?
谷垣:ええ。誰かが『survive style5+』で「ひと落ち200万円」と言ってたんです。「40メートル落っこちて、2回やったら400万円」って話を聞くと、ハイフォールってだいぶ人によって考え方が違うな、と思って。
辻井:『元気が出るテレビ』で飛び降りて、10万円です。
横山:バブル時代に一番人気があったバラエティで10万円っていうのは、だいぶたたかれてたんだと思いますけど(笑)。実際はどうなんでしょう。みんな妥当なお金を貰ってるんでしょうか?
田渕:いや、妥当なことやってないと思いますね。
谷垣:厳しい(笑)。
前編につづいて、スタントマンたちに激を飛ばす田渕景也氏(中央)
田渕:ぼくは、自分の提示額の倍の仕事しなきゃダメだと思います。もし、1日10万円欲しかったら、誰もが「これは20万円払わないと彼を雇えないな」っていう仕事をしてほしいですよね。でないと、例えば「このスタントは5万円だったから、10万円払うから次は倍のことやってくれ」って言われても、たぶん出来ないと思うんです。そう考えると、欲しい額の倍くらい、誰もが納得するぐらいの仕事をしていかないと。今ある額は妥当ではないかもしれないですけど、もっと個々のプレイヤーの(力量を)上げていったほうがいいと思うんです。
谷垣:ただ、スタントだったら10メートルで10万円、20メートルで20万円、という考え方があるけど、吹き替えとか、裏方のワイヤーセッティングとか、インサイドワークはどうなるのかとなると、またちょっと難しいところですよね。スタントマンにもいろんな人がいて、スタントが得意な人だけじゃなく、インサイドワークが得意な人にしか出来ない仕事って、今はあるでしょ、絶対。そこがやっぱり価値かなって気もするので、「いてくれてよかったな」って思ったら、それが妥当なお金かな。
田渕:ぼくは「1日のスタントマンのギャラがいくら」というのじゃなく、ビデオコンテを作って、「このシーンをいくらで買いますか?」という、そういうあり方のほうがいいと思うんです。「ぼくはこのシーンをこう作りました。1,000万円で買いますか? 1億円で買いますか?」と。1億円で買ってくれたら、それをみんなに上手く振り分けできれば。
坂本浩一氏は高校卒業後に渡米 以降、日米両国で活躍している
谷垣:今の話に近いことだと、横山さんは前に、「『DRIVE 破壊王』(※編注:マーク・ダカスコス主演の日米合作SFアクション)で面白い画が撮れたんで、2,000万円予算を足された」という話をされていましたよね。
坂本:それは、映画が完成する前にアクションシーンを見たプロデューサーが、「このクオリティだったら、もう少しお金を足して、アクションシーンを増やして映画を完成させましょう」って言ったことで成立した話です。海外(アメリカ)が日本と違うのは、組合で基本給が全部決まってるいるところですね。
横山:映画俳優組合(※編注:The Screen Actors Guild、略称・SAG。現在はテレビ・ラジオ芸能人組合と合併し、SAG-AFTRA)ですね。
坂本:向こうではスタントマンもパフォーマーなんで、(画面に)映るじゃないですか。スタントマンも俳優組合に属していて、組合には俳優用の契約書、それからスタントマン用の契約書が別にあるんです。スタントマンで(現場に)入るときには、契約書で1日いくらとか、週給いくらとか、ベースが決まっているんです。それが最低賃金で、今のスタントマンだと日給10万円です。
横山:そんなに上がったの? ぼくが15年前に行ったときは、まだ600ドルくらいでした。
坂本:900ドルくらいが1日8時間拘束の基本料金です。9時間からは時給割りの1.5倍、12時間以降は時給割りの2倍出るんです。さらに何をやるかによって危険手当もついてきて、いくらになるかは作品の規模によって変わっていく。例えば、大きな予算の映画だったら、10メートル落っこちた場合には、500ドル、1,000ドルあげましょう、とか。小さな映画だったら、もっと小さいかもしれないです。スタントの予算によって変わってくるんですけど、基本的にみなさん基本給を全部支給されています。ほかにも、その人にどうしても出演して欲しい、というときは「ダブルコントラクト」といって、基本給を倍にして契約する決まりもある。逆にそういう決まりがあるから、やりやすいところはあるんです。
辻井:それはスタントコーディネーターが決めるんですよね。
坂本:危険手当はそうですね。現場でスタントコーディネーターが見ていて、その日の働きによって「君はこれだけ。きみはこれだけ」と金額を決めていく。1日が終わって、「お疲れ様でした」となった後に、「サインアウト」と言って、時間を全部記録した紙にサインするんです。助監督が全部記入していって、基本給にプラスされた給料が支払われる。
谷垣:日本だとグロスでスタントの会社に予算がおりて、「その中でやりくりしてくれ」という感じになる。今の話を聞いていると、もちろん働く系統は出来ているけど、アメリカではそれぞれが会社と個人契約でやるってことですよね。
坂本:基本的に、組合を通して個人契約で結んでいく感じです。
横山:まあ、ハリウッド映画の産業の大きさと、日本の映画・芸能産業を同じにしちゃいけないんだけど。
谷垣:これをまともに日本のスタントマンが言い出すと、制作会社はほとんど潰れますよね。
横山:ハリウッドも、テレビシリーズはロサンゼルスで制作しているものはないですよね?
坂本:いや、逆に映画はカナダとかに行くんですけど、テレビシリーズはロサンゼルス内が多いです。
横山:映画はどんどん逃げちゃってるんですね。海外のほうが(製作費が)安いから。
谷垣:ぼくのやった『ブレイド2』とか、『モータルコンバット2』もアメリカではやらなかった。ほとんどヨーロッパ。プラハでやったり、ルーマニアでやったりとか。
横山:だから、一概にルールを作るのがいいのか悪いのかはわからないですけど。でも、今の話を聞いてると、日本もアクション部がきちんと部署としてできてきている、そんな感じがしますよね? 高瀬さん。
高瀬:そうですね。若手の皆さんが一生懸命頑張った成果だと思います。わたしは、ちょうど前の世代から今の若手に至るまでの過渡期に仕事を始めたんですけど、その頃は撮影所システムが崩壊しだした時期だったんです。1971年前後は、日活が一般映画をやめて、大映が倒産して、規模がどんどん縮小していった。スタントの料金は最終的には作品の予算規模にある程度左右されるんだな、というのは否めないと思うんです。我々が「この基準でいきたい」と言っても、「今回は通常の5分の1の予算なんです」と言われると、当然(ギャラも)5分の1にされるケースは避けられないですね。このあたりのルール作りは、実演家としてのスタントマン、そしてそれをフォローするアクションコーディネーター、アクション監督ががっちりと共通認識を持っていると請求し易いんですけど。おのおのがまちまちで、付き合いがあるところとはある程度妥協しなければいけない、というのがジレンマです。SAGのようなきちっとしたユニオンがあればいいんですけれども、日本にはそういった意味での組合はないですから。ほんとに命がけで作業している、演技をしているスタントマンやアクションプレイヤーは、もっともっとケアされてもいいんじゃないか、とつねづね思います。
「志穂美悦子って、いつの時代だよ!」 進むスタントマンの高齢化
谷垣:最近は役者がすごくやる気を出してるというか。前はぼくよりちょっと上の役者さんって、「え~、アクションやるの?」みたいな感じだったんですけど、今は色んな作品が出てきて、俳優をやってく上で必要な素養と思っている人がほとんど。しかも、「俺もカッコよく撮ってもらいたい」と思っている人も多い。やっぱり、役者のモチベーションは上がっている気がすごくします。
辻井:三浦春馬は「佐藤健には負けたくない」って言ってました。
田渕:俳優も観てるんですよ。谷垣さんの作るアクションの映像を観て、「こういう風に撮ってもらいたい」って。
谷垣:ほんとに、ヘタなプロデューサーよりぼくらの特性を観てると思います。この間、綾野剛が「坂口さんはこう撮って、誰々さんはこう撮って、辻井さんはこうで」って、ぼくに解説してくれましたよ(笑)。みんな、アクションをやる機会が増えてるから、それぞれのアクション監督の特性をわかっていて、ぼくらも二人三脚でやれる。ぼくらの声は(製作サイドに)届かなくても、役者の声は届くから、上手く……ね(笑)。
下村:役者さんはスタントマンより絶対数が多いですしね。
坂本:全体的にスタントマンは人材不足ですね。やっぱり今、現場で30、40代のスタントマンが頑張ってること自体がいけないことで。ぼくらが始めた頃は、「このおじさん、30歳過ぎて大丈夫なの?」って思っていたくらいじゃないですか。例えばぼくらの年代だと「ジャッキー・チェンになりたい」っていうのがあったから、どんなスタントでもやりたいというのがあったけども、そういう目標が無いから今は若い子が育ってこないですよね。
谷垣:スタントがやりたかったんですよね。アクションというより、スタントがやりたかった(笑)。
坂本:そうそう。芝居はやりたくなかったんですよね(笑)。
谷垣:高いとこから落っこちたかった。この人(辻井氏)ほどじゃないけど(笑)。やっぱり、JACの人って、もとからバケモンみたいな人が多いじゃないですか。ぼくらは違うやり方として、3階から落ちて、2階でバウンドして、ノーマットで下に落ちるってことしか勝負のしようがないな、と。
坂本:最近は、痛がることをやろうとする人があんまりいないですよね。ぼくらの頃は、仕事終わってどこか痛くないと、仕事した気分にならないじゃないですか。
一同:(笑)
坂本:痛いと終わったときに、「ああ、仕事したなあ」と思うけど、最近の若い子は、「これ、痛いからちょっと……」って言う子ばっかりなんで。
辻井:スタントマンは痛くないと、「もうちょっとやれるな」って思っちゃうんですよね。ぼくらって、妥協との勝負なんですよ。怪我したら負けなんで、怪我をせずにどこまでできるかが勝負なんです。それが成功すると、「もうちょっと痛いことしてればよかったな」って思っちゃう(笑)。
坂本:でも、目標になる人たちはぼくらが作らなきゃいけないです。
谷垣:いまだに「第2の志穂美悦子」とか言うでしょ? 「志穂美悦子って、いつの話だよ!」ってことがあるわけで。ベストアクション男優賞の三元さんはどう思いますか?
三元:ありがたいことに、ぼくはアクション作品に参加させていただく機会をたくさん頂いていまして。ジャパンアクションアワードは今年で4年目ですけど、正直ずーっと意識していたんです。ここに呼んでいただくために頑張っていたところもあったので、ぼくは賞を頂いて光栄というよりも、本当に恐縮な気持ちが強くて、今日は心地よいプレッシャーを持ち帰らされたな、という思いです。「アクション以外はやりません」ということではないんですが、小さいときに「ジャッキー、カッコいいな」と真似したように、今度は自分がやらせてもらう作品で、刺激を与えられるアクションを俳優部として提示するべきだ、ということは考えています。
谷垣:俳優もアクション監督もやってる坂口くんは、どう?
坂口:俺は俳優はやってないですけどね。引退して、アクション監督とかをやらせてもらってますけど。『RE:BORN』(TAK∴名義で坂口が主演、下村監督で制作中)は、最後に(下村氏と)2人で作りたいと思ってやってるんで。前に77分1カットで、ルールなしの時代劇をやったんですが……。
谷垣:『狂武蔵(くるいむさし)』ですね。
坂口:『狂武蔵』には、ルールなんかないんですよ。目を突いてもいいし、喉を突いてもいい。その撮影中に歯が4本砕けて、腕も折って、肋骨3本くらい粉砕して、そのとき、「ああ、俺は俳優やれないな」って思ったんです。たぶん、死にたいんだろうな、って。
谷垣:(苦笑)
坂口:『RE:BORN』もそうだけど……俺は強さを求めた結果、この世界に入りこんだやつなんで。三元なんか、俺を俳優と思ってないと思う。
三元:いや、思ってますよ。『RE:BORN』にはぼくも参加させてもらいましたけど、ネットにも動画が上がっている“ウェイヴ”(※編注:肩甲骨を使って身体操作を行う独自の技)っていうアクションを使うために、毎日練磨、鍛練されてたじゃないですか。それは表現者・被写体として、俳優部として出られているということですよね。お客さんを楽しませてあげたい、そういう思いに絞っていくのは俳優だと思います。
「血に飢えている」と言い放つ坂口拓
坂口:ほんとに? 俺、血に飢えてんだよ。
一同:(爆笑)
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