ラッパ屋・鈴木聡が新作『筋書ナシコ』を語った
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ラッパ屋 鈴木聡
ラッパ屋は1984年の旗揚げ以来、約30年間で40本以上、主宰者・鈴木聡による作・演出の舞台作品を上演してきた。基本路線は「おまぬけなコメディ」だが、そこには市井に生きる庶民の悲哀と表裏一体のところから生まれる笑いがある。これが幅広い観客層から共感をもって受容され、根強い人気を誇ってきた。そんな中、劇団としては1年ぶりの新作、第42回公演『筋書ナシコ』(作・演出:鈴木聡)を、6月18日(土)より東京・紀伊國屋ホールにて上演する(6月26日まで。12ステージ)。“筋書ナシコ”とは、「この先の筋書きが見えない、あるいは決まっていない状態および人物」を指すらしい。今なぜ、“筋書ナシコ”なのか。去る5月中旬に稽古場を訪ね、鈴木聡から直接に話を聞いて来た。
--『筋書ナシコ』の筋書は、今日(5月16日時点)の段階で完成してますか。
鈴木聡(以下、鈴木): まだです(笑)。いま、生まれつつあるところです。
--でも、大体の筋書きは出来つつあるんですよね?
鈴木: はい。筋書ナシコさん……彼女の本名は別にあるんですけど、そのナシコさんは40代で、自分のこれからの人生に対する筋書がないと悩んでいる。それが、お芝居の進行の中で色んな人と出会いながら、筋書が生まれては消え、また別の筋書きが生まれては消え、というのを繰り返してゆく話です。
--それは、鈴木さんご自身の経験とリンクする話なのでしょうか?
鈴木: そうですねぇ……僕は、もうそろそろ“晩年”なんですよ(笑)。57歳ですから。昔で言うと、完全に老人。隠居をするトシです。だって昔、僕の父親たちの頃は、サラリーマンの定年が55歳ですよ。平均寿命も70歳くらいだった。そういうことでいえば、もうすっかり人生出来上がっているトシになった。だけど実際は、全然、出来上がってる感じがしないんです(笑)。
--と、いうと?
鈴木: 僕らの世代は、本当に場当たり的にやって来たというか、ある意味では、いい時代だったんです。高度経済成長があって、バブルがあって、というね。面白いことがいっぱいあって、とりあえず目の前の面白いことをやっていればいいと。刹那的に生きてきた。はっきりとした目標がないから、達成感というのもよくわからないままに来ちゃったんです。だから今、僕がやってる作品は、果たして自分がやろうとしていたことなのだろうか、なんて考えているんです。そのことをずっと考えてきて、それが一つ一つの作品になってきたと思いますね。
--そう聞くと、筋書ナシコはやはりご自身の思いとも重なっていそうですね。
鈴木: 筋書ナシコも場当たり的に、目の前にある面白いことばかりを直感的にやってきた。だけど、今ふと立ち止まっている。そんな感じですかね。それに比べると、今の若者のほうが、ちゃんとしてる気がしますね。それは、やはり今が厳しい時代だからでしょう。目標を決めて、そこに向かって努力をしている人が多くなった。僕らより全然まじめです。だから、今の若い人を見て反省したりするんです。「ちゃんとしてるなぁ」って(笑)。
ラッパ屋 鈴木聡
--鈴木さんの世代に共通する感じ方ですね。
鈴木: ナシコもそういう思いがあるんですよ。ナシコは僕らよりも下の、40代という設定で、うちの劇団でいうと(ナシコを演じる)岩橋道子さん。あの人は僕よりも10コくらい下なのかな。彼女の話を聞くと、ギリギリ僕らの側にいるなと思います。ぼんやりしてて、場当たり的で。まあ、世代というよりあの人特有のことなのかもしれませんが(笑)。演劇なんかやってる人には、そういうのが多いのでしょうけど。
--ただ、鈴木さんは学生時代に演劇をやってて、博報堂に就職はしたけど演劇を続け、そして今は演劇に専念できてますよね。それは割と鈴木さんの描いた筋書とおりに運んだのではないですか。
鈴木: いやいやいや。そんなことないですよ。会社に入った時は、一度演劇をやめたつもりだったんです。サラリーマン新劇喇叭屋(現在の「ラッパ屋」に改名する前の劇団名)を始めた時だって、続ける気なんて全然なかったですからね。会社勤めしながら演劇なんてできないと思ってました。だって無理でしょう。でも一度始めちゃったら、またやろうみたいなことが重なって、いつの間にかズルズルと続いちゃったんです。
--なるほど、そこもある意味、場当たり的だったんですね。でも最近のラッパ屋は、悩める中高年世代に救いとか希望を見せてくれる喜劇のスタイルが確立されてきて、そこをさらに追求してゆくことが目標なのかな~なんて勝手に思ってるんですが。
鈴木: そこに自分の希望を見つけた、というのはありますね。ラッパ屋ではコメディをやってますけど、コメディって色んなコメディがあると思うんです。それは笑いの多い少ないではなく、喜劇を描く視点をどこに置くかということです。登場人物をどこから見て描くか。僕の場合、最後には希望のようなものに向かわせたい、至らせたいという思いがすごくある。というのも、今の時代をあまりハッピーなものとして捉えていない自分がいるからなんです。どこまでいっても消費構造の中に取り込まれてしまう息苦しさを感じます。すると、どういう心の持ち方や世界の見方をすれば、希望を見出せるのだろうか。そういうことは意識してますね。結果、僕と同世代の人たちに共感していただけたら嬉しいんですけど……ただね、それはほとんど自分のために書いてるといっていい(笑)。
ラッパ屋 鈴木聡
--今回の主人公を40代女性にしたのは?
鈴木: 今の時代は女の人のほうが選択肢の幅があると思ってるんです。会社員になるとかフリーターになるとか、結婚するとかしないとか、水商売に行って、いきなり社会のトップみたいな人と出会えたりとかね。おしゃれだって、ものすごくファッショナブルになろうと思えばできちゃいますしね。すると寄ってくる男も付き合う世界もガラリと変わってくるじゃないですか。テレビを見ていても女性が主人公のコメディが多くなってきた。コメディってぶっちゃけたり滑ったり転んだりで、昔は男のものだった。今は女の人のほうが正直に喋って、それが世間で怒られなくなったんです。40代女性ともなれば、少し開き直った感じで何をやっても大丈夫、恐いものナシですよ。自由に喋り、自由に選択肢の幅を考えられる、そういう駒として(40代女性が)いちばん動かしやすい。
--そういう女性が筋書のないことで悩むというのは、何らかの“焦り”に突き動かされて、ですか?
鈴木: いや、もうちょっと哲学的なことですね。今まで僕ら日本人は平和な時代に豊かに生きてこられた。世界のニュースを見ると、本当に大変なことばかりです。日本はなんて恵まれた国だろうと思います。これって、世界から見たら、憧れですよ。それなのに、何故かみんな、あまり幸せそうではない。うつ病になって自殺しちゃったりするじゃない。これは一体何なんだろうって。これから、平和で豊かな国が今よりも増えてくるかもしれませんが、僕らがモルモットとなって、先に考えておくべき問題なのかもしれないなぁって。
ラッパ屋 鈴木聡
--ところで今回は、客演の役者さんが多いですね。
鈴木: 今回おかやま(はじめ)さんや三鴨(絵里子)さんが出られないということもあり、助けてもらおうと思って、来ていただいています。コメディって、演技のニュアンスとか間合いとかテンポ感とかそういうことが非常に大事なので、そういうことを間違いなくやってくれるであろう人たちです。カムカムミニキーナ松村(武)さんは前回の公演から続いて。彼はベテランみたいな貫録があるけど、実際は僕より10コくらい若い(笑)。演劇集団円の谷川清美さんも何回か客演してもらったり、僕がパルコ劇場に書いた芝居にも出てもらったりしたお馴染みの人です。青野竜平さん(新宿公社)と林大樹さんにもまた出てもらいます。彼らは前回のオーディションで出会いました。それから、ともさと衣ちゃんは、以前、若くて可愛い子はいないかという時に、東京乾電池の舞台を観に行って出会った人です。
--脚本はあて書きですか?
鈴木: 基本、役者へのあて書きですね。
--稽古をしながら筋書が変わることは?
鈴木: それはないですね。ただ、登場人物のキャラクターが膨らむことはあります。
--演じる役者本人のエピソードがキャラクターに付与されるようなことはありますか?
鈴木: 昔はありましたね。というのも、若い頃は芝居を作る時に即興のエチュードをやってたんです。そこから面白いものを僕が拾う。つまり役者は面白いことをやらないといけないから、どんどん自分のことを喋るようになるんです。……ただ、数年くらい前から、みんなエチュードを嫌がるようになってきた。辛いと。嫌だと(笑)。もちろん、みんなトシをとってというのもあるけれど、プロとしてやってる俳優さんて、エチュードってあまりやらないよね。それは劇団ならではの作り方みたいだね。よその劇団の話聞いても、若い頃はやっていたけど、今はセリフがないとできないと、そういう感じですね。
ラッパ屋 鈴木聡
--鈴木さんは演出家としては厳しいほうですか?
鈴木: 何かを投げたりとか、そういうことはしませんね。それどころか、台本が書けていないと、謝りながら低姿勢で演出します。褒めたりするんですよ、「素晴らしい!」とか(笑)。でも、台本が全部書き上がると、急に態度が大きくなる。「全然ダメだ!」とか(笑)。
--ラッパ屋は大人の芝居という印象がありますが、今回のお芝居は、どういう人たちに観て欲しいですか?
鈴木: 最近は若い人にも観てもらいたいですね。20代の人とか。まあ、あまり“若い人に”なんていうと、よけい年寄りっぽく思われる(笑)。ただ、若い人も観れば面白がってくれるんですよ。というか、どの世代でも演劇を見るような人、劇場に足を運ぶような人は、何かを考えたい人が多いと思うんです。だから世代を超えて観に来ていただき、笑いながら、大事なことを一緒に考える機会を作れたらいいなと思います。筋書のある人もない人も、考え直したいという人も、ぜひ観に来てください。
ラッパ屋 鈴木聡
(取材・撮影・文:安藤光夫)
■日程
■会場:紀伊國屋ホール (東京都)
■脚本・演出:鈴木聡
■出演:
岩橋道子、ともさと衣、木村靖司、俵木藤汰/松村武、谷川清美/岩本淳、浦川拓海、青野竜平、林大樹/福本伸一、弘中麻紀/大草理乙子、宇納佑、熊川隆一、武藤直樹
■公式サイト:http://rappaya.jp