『王家の紋章』の楽曲はここから生まれる!作曲家シルヴェスター・リーヴァイにインタビュー

インタビュー
舞台
2016.6.12
シルヴェスター・リーヴァイ

シルヴェスター・リーヴァイ


時空を超えた愛とロマンを描くミュージカル『王家の紋章』が、今年8月、帝国劇場にて上演される。現代に生きる少女キャロルが古代エジプトにタイムスリップ、そこで古代エジプトの少年王・メンフィスと出会い、運命に翻弄されながらも二人は愛を深めていく。本作の音楽を担当するのは、『エリザベート』『モーツァルト!』など名作ミュージカルの楽曲を数多く手がけてきたシルヴェスター・リーヴァイだ。本作の打ち合わせのために来日したリーヴァイが、本作にどのような思いを抱いているのだろうか、話を伺ってきた。



――「王家の紋章」の音楽担当を引き受けた決め手は何だったのですか?

私は、10年以上前からファンタジー作品の作曲をしてみたいと思っていたんです。私の70歳の誕生日のお祝いに、東宝さんからこの仕事のオファーをいただきました。
私にとって「王家の紋章」は琴線に触れる作品です。作者の細川姉妹(細川智栄子あんど芙~みん)は、人間のあらゆる側面……愛、苦難、誰かと闘うこと、誰かを憎むことなどをすべて漫画のなかに反映させています。そんな作品に音楽をつけさせていただけることはとても幸せなことですね。

来日するようになってからの約20年間、漫画については非常に興味を持ち続けていたと語るリーヴァイ。

とあるラーメン店に入ったとき、そこには漫画が置かれていたんですが、お昼になると大人たちがその漫画を読みながら現実逃避をしている姿…それが今も印象に残っています。人間というのは完全に大人にならない。いつまでも少し子どもの部分を残すことで「希望」というものを見出すのではないでしょうか。

――原作の漫画はお読みになりましたか?

東宝さんが「王家の紋章」の最初の4巻をすべて英訳して持ってきてくれたので、それを読みました。おかげさまで漫画の核となるところが理解できました。この作品が何十年も人気を博している理由の一つだと思うのですが、登場人物すべてにカリスマ性があり、それぞれの個性を醸し出している。誰一人として純然たる「悪」だけの人はいないんです。非常に魅力的なアイシスについても、持っている力を多くの場合、ネガティブなことに使ってはいるんですが、でもそれは完全に「悪」とは言えない。イズミルにしてもメンフィスを相手に復讐という気持ちから戦いますが、それだけの気持ちではないんです。

私は、メインキャラクター一人ひとりの性格がわからないと作曲ができないんです。それは「エリザベート」であっても全く同じこと。エリザベートの内面を理解できなければ作曲はできないし、フランツ・ヨーゼフ、トート、ルキーニについても彼らを知らなければ書けないんですよ。

「実際、私が4巻を全部読んだことを証明しましょう」というリーヴァイは、メインキャラクターを一人ずつ詳細に解説し始める。

例えばキャロル。キャロルのことを思うと自分の若い頃を思い出すんです。昔、男友達に「ほら、あの子を見てごらんよ」と言われたがその場では「興味ない」って答えました。だが、その後まさにその子と恋に落ちたんです(笑)キャロルはもともと現代のNYにいて、その時はボーイフレンドもいました。古代エジプトにタイムスリップしたときにメンフィスを見ても全く興味がなかったのに、あっという間に恋に落ちるんです。

この後も「メンフィスは…アイシスは…イズミルは」と次々に解説するリーヴァイ。いわゆる「登場人物紹介」を読んだだけではわからない、キャラクターの性格や人間関係といった深いところまで、驚くほど理解を深めていた。

シルヴェスター・リーヴァイ

シルヴェスター・リーヴァイ

――そんな個性豊かなキャラクターを演じるキャストについてどのようなイメージを抱いていらっしゃいますか?

3月に来日したときに、メインキャストの方々にお会いしたのですが、メンフィス役の浦井健治さんは、その時すでに「ファラオ」というキャラクターをまとわれていると思いましたね。もちろん言うまでもなくハンサムでセクシーでしたよ!

「セイコサン」(←リーヴァイの言葉ママ。新妻聖子)は、10年前『マリー・アントワネット』の時に知り合って、当時から感銘を受けていました。彼女のコンサートにも足を運びましたし、3月の製作発表の時用に歌の稽古をしたときにも会いました。彼女を非常に愛しています。

宮澤佐江さんは、東宝の方からメールで宮澤さんの写真が送られてきたんです。一目見て「キャロルだ! 」 3月に会ったときにも「やっぱりキャロルだ! 」と思いました。イキイキとしていてオープンで、ちょっと生意気に見える印象もあって(笑)本当にキャロルをやってくださることを楽しみにしています。

1年半か2年くらい前、『二都物語』を観まして、濱田めぐみさんを僕の作品に出してほしいとスタッフの方にお願いしていました。役者としても歌い手としても素晴らしい方なので。その願いがかなって今ハッピーです。

あと、イムホテップ宰相は、非常に大事な位置づけのキャラクター。この役を私の友人・山口祐一郎さんがやることが分かっていただけに、作曲は楽しくできましたね。

――今回の舞台で用いられる楽曲はどのようなものになりそうですか?

まず、エジプトやトルコの何かの楽曲を引用するようなことはしたくなかったです。あくまでも楽曲の「要素」として、その音色や雰囲気を使いたいと思っています。例えばアルメニアの伝統的な木製楽器「ドゥドゥク」の非常に丸みを帯びたメランコリックな音色は、イズミルやその妹ミタが登場するときに使いたいですし。
このほか、弦楽器はトルコのウード、中国のハープ、ペルシャのサントゥールなどを個別ではなく楽器ごとの音色を組み合わせて使っています。

例えばメンフィスならば、若くしてファラオになったばかりのときの不安感や今後の希望、自分は優秀なファラオになれるだろうか、と考えている頃は、メンフィスという人格にその気持ちがプラスされなければならない。ところが同じメンフィスでも恋に落ちたときはまた違う気持ちがプラスされる。同じメンフィスであってもいろいろなエモーションのあり方があるので、その感情に合わせて楽曲を作っていきますね。


ミュージカル『王家の紋章』の雰囲気を味わってみたい方は、名前を挙げた楽器の一部をネット検索して聴いてみるとリーヴァイの想いの片鱗に触れることができるだろう。
ただ、あくまでもそれは「音色」。そこからどのようなメロディが生まれるのか。そしてそのメロディにキャストの歌声が乗せられるのは、もう少し先の話。リーヴァイが紡ぐ新たな「音」の誕生を、どうぞ楽しみにお待ちいただきたい。

公演情報
ミュージカル『王家の紋章』
 
■日程:会場:
2016年8月5日(金)~8月27日(土) 帝国劇場
プレビュー公演:8月3日(水)・4日(木)

■原作:細川智栄子あんど芙~みん「王家の紋章」(秋田書店「月刊プリンセス」連載)
■作曲・編曲:シルヴェスター・リーヴァイ
■脚本・作詞・演出:荻田浩一

■出演:浦井健治/宮澤佐江・新妻聖子[Wキャスト]/ 宮野真守・平方元基[Wキャスト]/ 伊礼彼方/濱田めぐみ/山口祐一郎/ほか

■公式サイト:http://www.tohostage.com/ouke

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