無限の可能性を秘めた新時代の幕開け〜ミュージカル『ジャージー・ボーイズ』New Generation Teamゲネプロレポート
New Generation Team(左から)山野靖博、加藤潤一、大音智海、石川新太
ミュージカル『ジャージー・ボーイズ』が、東京・日比谷シアタークリエで2025年8月10日(日)から絶賛上演中だ。
本作は、1960年代に一斉を風靡したコーラスグループ、ザ・フォー・シーズンズの栄光と挫折を彼ら自身のヒットナンバーで綴るカタログ・ミュージカル。2005年にブロードウェイで誕生し、2016年にシアタークリエで日本版が初めて上演された。日本版の演出は初演から継続して藤田俊太郎が務める。これまで様々な劇場や形態で公演を重ねる過程で、RED・WHITE・BLUE・BLACK・GREENといった個性豊かなチームが生まれ、色とりどりのハーモニーが紡がれてきた。
今回の2025年公演では、Team BLACK・Team YELLOW・Team GREENに加え、長年アンサンブルキャストとして作品を支えてきた大音智海・加藤潤一・石川新太・山野靖博らによるNew Generation Teamが誕生。9月4日(木)と5日(金)に限定2公演での上演が実現することとなった。実力のあるアンサンブルがプリンシパルへ抜擢されることは、スター性が重視される傾向がある日本の商業ミュージカルにおいて稀有なこと。業界にとって希望が感じられる画期的な取り組みでもあり、多くのミュージカルファンから注目が集まっている。
そんな日本のミュージカル界の希望とも言えるNew Generation Teamのゲネプロが、9月4日(木)昼に行われた。以下、ゲネプロの模様をお届けする。
はじまりはニュージャージー州の貧しい片田舎。”天使の歌声”を持つフランキーは、成功を夢見る兄貴分のトミーとニックのバンドグループに迎え入れられる。早速3人での音楽活動が開始されたが、何かが欠けていた。鳴かず飛ばずの日々が続く中、作曲の才能溢れるボブが加入する。しかし金もコネもない彼らを待っていたのは過酷な下積み生活。その中でも音楽性を着実に磨き、才能を開花させていく。そしてついにボブの楽曲と4人のハーモニーが大物プロデューサーの目に留まった。彼らは《Sherry》をはじめとする全米ナンバー1の楽曲を次々に生み出していく。しかし輝かしい活躍の裏では、莫大な借金やグループ内での確執、家族の不仲など、さまざまな問題が勃発し、グループを引き裂いていく。成功の光と挫折の闇。あまりに劇的な春夏秋冬を駆け抜けていく4人が、その先で見たものとは―。
開演前の客席は、とてもゲネプロとは思えない特別な熱気に満ちていた。誰しもが口々にNew Generation Teamへの期待を語り合っており、改めて今回の取り組みへの注目度が感じられる。いざ開演すると、客席からは待ってましたと言わんばかりの大きな拍手と歓声が沸き起こった。そうして多くの人が心待ちにしていたNew Generation Teamは、まだ何色にも染まっていない、未知の可能性を秘めたハーモニーを響かせてくれた。
グループのメンバーの出会いから、デビューして間もない頃の瑞々しさ、下積み時代を経てスターとしてスポットライトを浴びる輝かしい瞬間、4人のバランスが取れたチームワークと美しいハーモニー……これら全てにおいて、ザ・フォー・シーズンズとNew Generation Teamが、紛れもなく共鳴し合っていた。
物語はザ・フォー・シーズンズの軌跡を春夏秋冬になぞらえて、トミー、ボブ、ニック、フランキーの順でそれぞれの視点からストーリーを語っていく構成になっている。4人の異なる視点がグループの光と闇を浮かび上がらせ、物語に深みを与えていく。春夏秋冬の順に、New Generation Teamのキャストをひとりずつ紹介していきたい。
物語は、ザ・フォー・シーズンズ誕生の立役者であるトミー・デヴィートから始まる。トミーを演じるのは、2020年のコンサート版から本作に加わった加藤潤一。フランキーをバンドに迎え入れ、面倒見の良い兄貴分としてあらゆる面で手ほどきしていく。トミーが時折見せる温かい眼差しからは、フランキーを実の弟のように想っていることが伝わってくる。トミーはグループのことも誰よりも愛していたのだろう。だからこそ手段を選ばずに突き進み、いつのまにか大切なものを見失ってしまう。破滅へと向かいながらも、まっすぐで不器用な愛に溢れるトミーだった。
グループがスターダムへと一気に駆け上がる大きなきっかけとなったのが、ボブ・ゴーディオの登場だ。才能溢れるクレバーなシンガーソングライターであるボブを演じたのは、日本初演と再演で本作に参加していた石川新太。フランキーの“天使の歌声”を初めて耳にしたその瞬間から、ボブにはずっと先の未来まで見えていたのかもしれない。「この声のために曲を書かねば」と直感を得た彼は、確かに先見の明があったのだ。一見スマートな男に思えるが実は誰よりも野心家で、内に秘めた炎を静かに燃やすボブを、石川は見事に演じきっていた。
物語が中盤に差し掛かると、度重なる金銭トラブルや家族の不仲など不穏な空気が流れ始める。そんなとき、何かにつけ「俺も自分のグループを作るかなあ」とぼやくのは、陰ながらグループを支え続けてきたニック・マッシだ。ニックを演じるのは、本作の日本初演がミュージカルデビューだった山野靖博。基本的に口数が少ないニックだが、いざ彼が密かに抱えてきた本心をさらけ出すシーンでは、やるせなさと切なさが滲み出る。山野の歌声は終始安定感があり、耳に心地よい艶のある重低音でコーラスを支えていた。
トミーとニックがグループを去り、物語の季節は冬に突入。日本で4人目となるフランキー・ヴァリを演じたのは、日本初演からコンサート版を含め本作に出演し続けてきた、大音智海だ。序盤の少年期はまさに“坊や”で、あどけなさが残る表情や立ち居振る舞いがとても愛らしいのだが、歌い始めるとスターそのもの。随所で見せるキレのあるターンも実に美しい。“天使の歌声”と称される歌の説得力も十分で、新たなフランキー誕生の瞬間には客席から盛大な拍手が送られていた。劇中でのひとりの男としての成長も目覚ましく、人生の岐路に立ったときに発せられる感情が凝縮された歌声に、何度も心が揺さぶられた。
『ジャージー・ボーイズ』を支え、理解し、愛してきた4人のハーモニーは、彼らを支えるカンパニーの存在があってこそ実現したものなのだろう。彼らが伸び伸びと実力を発揮できるように、脇を固める芸達者な俳優陣、最高の音楽を奏でるバンドメンバー、影ながら支えるスタッフ陣。そして何より、ザ・フォー・シーズンズをスターに押し上げた“一般大衆”のように、劇場へ通い作品を応援してきた観客たち。2016年の日本初演から一歩ずつ着実に歩みを進めてきた軌跡が、2025年の今に繋がっていた。
New Generation Teamの成功が、その名の通りミュージカル界の新時代の幕開けになるかもしれない。そんな期待を感じざるを得ない、可能性に満ちた公演だった。
上演時間は休憩込みの計3時間。シアタークリエにて9月30日(火)まで上演される。New Generation Teamの公演は残念ながら9月5日(金)で終わってしまうが、大音・加藤・石川・山野の4人はアンサンブルとして本作に引き続き出演する予定だ。様々な形で作品を支える彼らの活躍も、どうぞお見逃しなく。
取材・文・撮影=松村 蘭(らんねえ)
公演情報
■脚本 マーシャル・ブリックマン&リック・エリス ■音楽 ボブ・ゴーディオ ■詞 ボブ・クルー
■演出:藤田俊太郎
フランキー・ヴァリ 中川晃教
トミー・デヴィート 藤岡正明
ボブ・ゴーディオ 東 啓介
ニック・マッシ 大山真志
ボブ・クルー 加藤潤一
ジップ・デカルロ 阿部 裕
ノーマン・ワックスマン 戸井勝海
メアリー ダンドイ舞莉花
ロレイン 原田真絢
フランシーヌ 町屋美咲
リードエンジェル 柴田実奈
ハンク LEI’OH
ドニー 山野靖博
ストッシュ 杉浦奎介
ジョーイ 石川新太
フランキー・ヴァリ 小林 唯
トミー・デヴィート spi
ボブ・ゴーディオ 有澤樟太郎
ニック・マッシ 飯田洋輔
ボブ・クルー 原田優一
ジップ・デカルロ 川口竜也
ノーマン・ワックスマン 畠中 洋
メアリー ダンドイ舞莉花
ロレイン 原田真絢
フランシーヌ 町屋美咲
リードエンジェル 柴田実奈
ハンク 大音智海
ドニー 山田 元
ストッシュ 伊藤広祥
ジョーイ 若松渓太
フランキー・ヴァリ 花村想太
トミー・デヴィート spi
ボブ・ゴーディオ 有澤樟太郎
ニック・マッシ 飯田洋輔
ボブ・クルー 原田優一
ジップ・デカルロ 川口竜也
ノーマン・ワックスマン 畠中 洋
メアリー ダンドイ舞莉花
ロレイン 原田真絢
フランシーヌ 町屋美咲
リードエンジェル 柴田実奈
ハンク 大音智海
ドニー 山田 元
ストッシュ 伊藤広祥
ジョーイ 若松渓太
フランキー・ヴァリ 大音智海
トミー・デヴィート 加藤潤一
ボブ・ゴーディオ 石川新太
ニック・マッシ 山野靖博
ボブ・クルー 原田優一
ジップ・デカルロ 川口竜也
ノーマン・ワックスマン 畠中 洋
メアリー ダンドイ舞莉花
ロレイン 原田真絢
フランシーヌ 町屋美咲
リードエンジェル 柴田実奈
ハンク LEI’OH
ドニー 山田 元
ストッシュ 伊藤広祥
ジョーイ 若松渓太
※「TeamBLACK」、「TeamYELLOW」に加え、TeamYELLOWの配役をベースにフランキー・ヴァリ役のみ花村想太が演じる「TeamGREEN」、さらには、フレッシュなキャストで贈る「New GenerationTeam」の公演を1公演予定。
■製作:東宝株式会社、WOWOW
■作品公式HP https://www.tohostage.com/jersey/
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