Rhythmic Toy Worldに訊く ギャップに次ぐギャップで見るものを惹きつけるバンドが新作で目指したもの

インタビュー
音楽
2016.7.3

Rhythmic Toy World Photo by Taiyo Kazama

Rhythmic Toy World Photo by Taiyo Kazama

――それを楽しめるっていうのは柔軟なバンドなんだなぁって感じます。

磯村:うん。でも内田は歌詞が大変だったと思います。先にCMの絵コンテが来てるわけじゃないですか。初めて、先に情景が決まってる歌詞を書くっていうことに対して、いつもと違うアプローチをしてて。実際に駅前に行って、家に帰っていくサラリーマンをずっと見てたらしいんです。そこで初めて自分の弱さを出してきたというか、生っぽい内田直孝っていうのが30秒間の歌詞だけでも見えるなっていうことは感じました。

内田:なんか、一緒だなって感じちゃったんですよ。会社帰りの人たちも、曲を作るためにここにポツンと身を置いている自分も。何の仕事をしてても、ため息は出ちゃうし。楽しい時は楽しいけど、嫌な時はあるしなぁっていうことが、ふとサビのメロディと歌詞にハマって。テーマも大人の青春みたいな要素があったので、「あの頃は……」みたいな部分も入れつつ、でもそれは決して悲観的なわけじゃなくて、あの頃よりも今が良いって思えるのは絶対的に大事だから。そこにたどり着くために一回自分の弱さを認めちゃうというか。そこから入ろうと思ってました。

――そうやって実際に駅前に赴くまでにも葛藤はあったわけですか。

内田:最初は家にこもってギター弾いて、何パターンかメロディを考えてて……ダサい話なんですけど、絵コンテを見ながら部屋で曲を作ってるとき、「俺めっちゃミュージシャンだな」って思ったんです(笑)。この絵に合う曲を作ってくださいなんて、昔めっちゃ憧れてたなって。でも実際なったらなったでめっちゃ焦ってるみたいな、納期もあるし(苦笑)。で、息苦しくなっちゃって外に行ったんです。

:そうだったんだ(笑)。

内田:もう分からなかったから、実際見てみよう、なんか絶対得られるはずだと思って。だから変な人だったと思いますよ、ベンチでずっと2時間ボーっと座ってて(笑)。夕方の5時から7時くらいまで定点を見つめて……危ない人ですよね、多分。でもそれで感じられたものは多くて、そこから1日2日のうちにメロディと歌詞が降りてきて、OKが出たんです。

――制作秘話、面白いですね。

内田:まあ、出来たからこそ言える話なんですけどね(一同笑)。毎回毎回そんな必殺技は使えないですけど。でも生まれるべくして生まれたタイミングだったと思います。

――この曲が出来たからこそアルバムにつながっていったという話もありましたが。

内田:「輝きだす」があって、僕は自分の弱さを人に見せるっていうことの強さに気付けたので、それがアルバムの一番のコアになって、そこから生まれるいろんな曲を書いていきました。なのでバンド観や人生観みたいな部分が、根本的に変わってるんですよ、前までの作品とは。だから以前と同じようなことを歌っている曲があっても、表現の仕方も聴こえ方も基本的に明るくてエネルギーに満ちてる曲になった。不思議なんですけどね。弱い言葉とか使ったりしているのに、前よりも強い元気な曲になったっていうのは、発見でしたね。

――弱さで言ったら、「MUSHIBA」なんてまさにそうで。

磯村:これは完全なる実体験だからね(笑)。

内田:制作期間中に虫歯の治療に行ってたんで。何年ぶりだろう、7~8年ぶりに歯医者さんに行って……こんな痛かったっけ!?みたいな(笑)。もう、情けなくて。でも大人だから子供みたいに泣いたりもできないし。で、その通っていた歯医者さんが知り合いの方で、僕らの曲も知ってくれていて「いろはにほへと」の中毒性が好きって言ってくれていて。その院長に「治療、超痛いっすわ」って言ったら、「この思いを中毒性のある曲にしてみてよ」みたいに軽く言われて(笑)。ちょうど候補を何十曲も書いてる時だったので、「わかりました!」って家に帰って速攻で書いた曲を会社に提出したら、(選考を)通っちゃったっていう。「これ、超いいじゃん!」って(笑)。次に通院したとき「通っちゃいました……次のCDに多分入ります」と(一同笑)。

――冒頭の音もそこで録ったとか。

内田:そうなんです。協力してもらって、タービンのウイーンっていう音とかも何パターンも録らせてもらいました。

――あの嫌な音が(笑)。

磯村:でもアレが一番マシな音だったんですよ。とことんヤバい音もあって、これは聴く人が聴かなくなっちゃうからって却下して。ギリギリみんなが大丈夫っていう音を選んで。

内田:そうそう、あとは時間ね。「~~!!」ってなったところで曲に入るっていう。そこはすごく戦いました。

――呼ばれてからのスリッパの音とかも異様にリアルですしね。

:臨場感ありますよね。

磯村:あれも実際に録った音からエンジニアさんが聞き分けて、良い感じの部分を使ってるんですよ。扉が閉まる音とかも、扉の向こう側に自分が行った感じで一枚壁を隔てた感じになってるし。あそこのギミックだけで、みんな相当アーティスト感出してました(笑)。

――もともとポストロックとかやっていたみなさんの「音」へのこだわりが「MUSHIBA」に。

一同:(笑)。

:還元されましたねぇ。

内田:いやぁ、「MUSHIBA」の制作秘話は是非聞いて欲しかったので良かったです(笑)。意外と一曲ずつそういう細かい話があるので。

Rhythmic Toy World Photo by Taiyo Kazama

Rhythmic Toy World Photo by Taiyo Kazama

――ですよね。本来は一曲ずつ掘り下げたいんですが、尺の問題もあるのでリード曲のことを。冒頭の2曲はどういうところから生まれたんでしょうか。

内田:「あなたに出会えて」は聴く人によっての捉え方に幅はあると思うんですけど、メインテーマとしてあるのは”自分の人生に影響を与えた大事な人との別れ”なんですよ。僕としてはバンド人生に影響を与えてくれた人へ向けた感謝の歌というか。

:でも僕は最初に聴いたとき、普通に恋愛の歌だと思ってて。だから人によっての捉え方で変わる曲で、面白いなぁと思いました。

――大事な人に思いを届けて先へ進むっていうところは、どちらにも言えるかもしれない。

:確かに。そこは共通してますね。

内田:恥ずかしがらずにストレートにありがとうって言わなきゃいけないことってあるし、泣きたいときは泣かないといけないと思うし。大人になって感情を殺しちゃうことってやっぱり多いと思うんですけど、この曲を聴いてるときだけでもみんなに素直な気持ちでいてもらえたらなって。だからまずは自分たちもすごくストレートに作ったし、それを一曲目に持ってくることで、なんていうか作品の純度を上げたかったというか。

――アルバムコンセプトを象徴する、まさにリード曲。

内田:2曲目の「Dear Mr.FOOL」は打って変わって。この曲は自分自身に向けて書いているんです。さっき話したように、ポップな曲を一曲書いたことで自分の人生が大きく変わったみたいに、一つの決断で人生が変わっちゃうことがすごく怖くなって。こうやってCDが出せるのも当たり前のことじゃないし、何かが間違ってたらここに居なかったのかな?っていう怖さを裏テーマにおいて、良いときに良いと気付けない、悪いときに悪いと気付けない愚か者にはならないようにしよう、それが出来れば目には見えなくともきっと幸せなんだろうっていう、そういう選択をしてこなかった“もう一人の自分”に対して書いた曲です。

――もし、うまくいかなくて腐っちゃっていたとしたら、みたいな。

内田:そう、そうです。それってみんなにも分かりやすいかなって。誰にでもダメなところと良いところがあって、やっちゃったなぁっていう経験もあって、あとで後悔するじゃないですか、どうしようもないんだけど。そういうアンチテーゼみたいな曲ですね。

――わりとポップにエグいことを言っていくスタイルで(笑)。

内田:あはははは! 聴く人の心を傷つけることが目的じゃないですからね。曲だから言えることってあるじゃないですか。本当はみんなもそういう言葉を思いっきり叫びたいんだろ?みたいな。だったらそういう曲を作れば、みんなもオフィシャルで誰に迫られることもなく叫べるという。

――しかも楽しく。

内田:そうそうそう! 誰も嫌な気にならないし、ストレスも発散できちゃう。会社の嫌な奴とか思い浮かべて歌っちゃえば良いじゃん、俺らが受け止めるから。そういう遊び場であり、思い切りスカッとできるポップな曲ですね。

――他の収録曲にも色々名曲ぞろいで。僕は「ミーン宣言」とかも好きですし。

内田:おお。僕も大好きなんっすよ! なんか聴いてて自分が元気出てくるんですよねぇ。

――そして、リリース後にはツアーが。ファイナルは赤坂BLITZということで、その先も含めて今の展望や目指すものを聞いて良いですか。

磯村:僕らがバンドを組んだときに、最初内田が「大阪城ホールでライブがしたい」って言ってたんです。そこはゴールじゃないんですけど、ひとまずの目標として。内田はBUMP OF CHICKENさんがすごく好きで、彼らを観に行ったときの衝撃がすごかったらしいんですよ。それが大阪城ホールのライブで、そこから“バンドをやろう!”と思ったらしくて。だから結成したときに、大阪城ホールでライブがしたいっていう思いをチームも含めて全員で共有したんです。そこからだんだんライブの規模も大きくなってきて、今回は赤坂BLITZじゃないですか。僕ら的には結構挑戦といえるキャパ数だとは思うんですけど、今回の作品がライブを詰め込んだものになってることが武器になるはずだし、ここからまたライブバンドとして新しくスタートできるんじゃないかって。大阪城ホールまではまだ遠いですけど、そこに近づける一枚になったんじゃないかなと思うので、まずは気合を入れて今回のツアーを回りたいと思います。

内田:僕は、スタンスとして、今までは「ありがとう」って感謝だなと思ってたんですけど、今回からは還元っていう言葉を使っていこうかなと思ってます。感謝だけだと一方的な感じがするというか、感謝して終わりみたいな。でも還元っていうのは相手の手元に届いているっていうことですよね。今までお客さんから感じさせてもらった思いを、もっとこうしたい、こういう景色を見せたいなっていうところから、この曲たちが生まれたので、どんな反応をもらえるかも楽しみだし、そういう還元をしていくツアーにしたいなと思います。還元っていう単語を押し通していきますよ。だって……大感謝セールよりも大還元セールの方が得しそうじゃないですか? 消費者側は(笑)。欲しいだけ持って行ってもらえれば!

須藤:そうだね。これからこのアルバムを引っさげて回る中でどんどん巻き込んで色んな人と楽しみたいなと思っていて。僕らの見ている先はもっと先ですけど、このツアーで一歩先へ進めたらっていう希望と楽しみがありますね。磯村が言ったみたいに新たな幕開けというか、ファーストとは色も変わっていて、そこでまた聞き応えもあると思うし、ファーストとセカンドを混ぜたらまた良い塩梅になりそうな気もするし。

内田:それはあるよね。このアルバムがあることで過去曲たちの輝きも増すという。

――「輝きだす」。

内田:あ、そうっす(笑)。そこも楽しみですよね。カッコ良い曲はもっとカッコ良くできるだろうし、お茶目な曲はもっとお茶目になるんだろうし。

:……じゃあ、自分も最後にいいですか?

須藤:お?

内田:珍しいな(笑)。

:(笑)。やっぱり僕らのファンとかお客さんが、色んな人に勧めて欲しいなと。ストレートだし、直孝の歌詞も一個ステージから降りたような近いものになっていて、自分の弱さとかを表しているので、分かりやすいし共感しやすいと思うんです。だから周りの人にも勧めたら共感できるんじゃないかって。「分かるよね」みたいな。3曲目の「あの日見た~」とかは自分もめちゃめちゃ響いたんですよ。

――高校サッカーとか甲子園のテーマでも行けるくらいの青春感。

内田:全然部活とか燃えてなかったのに、まるで自分もそういう青春を送ったかのような(一同笑)。

:僕はそこに感動しちゃって。それくらい色んな人にとって浮かびやすく幅広いと思うので、色んな人に聴いて欲しい一枚です。

内田:それでライブに来てみてもらって、見た目からもう裏切られて、ライブのスタイルにも裏切られて……良い意味でですよ? そうやってヤミつきになっていってもらえたら。最終的にね、「それが楽しくて仕方ない」って言って笑顔で帰ってもらえることだけを僕たちは願っているので。そのためにどんどん面白いことを考えて、やっていこうと思います。


撮影・インタビュー・文=風間大洋

Rhythmic Toy World Photo by Taiyo Kazama

Rhythmic Toy World Photo by Taiyo Kazama

リリース情報
2ndアルバム『「HEY!」』
2016年7月6日(水)発売 
STR-1040/¥2,500+税 
※封入特典:全国ツアーワンマン公演先行受付シリアルコード 
<収録内容> 
1. あなたに出会えて 
2. Dear Mr.FOOL 
3. あの日見た青空はきっと今日に続いている 
4. ウソカマコトカ 
5. 輝きだす 
6. MUSHIBA 
7. ミーン宣言 
8. かごめかごめ 
9. W.W 
10. カルテット 
11. Cheki-Cheki 
12. 24時間方程式 
13. Team B

 

ツアー情報
『「HEY!」の「HEY!」による「HEY!」の為のツアー』
■対バン公演 
7月15日(金)【千葉】千葉LOOK w)BARICANG 
7月22日(金)【長崎】長崎STUDIO Do! w)MAGIC OF LiFE / ALBRIGHT KNOT
7月23日(土) 【熊本】熊本Django w)MAGIC OF LiFE / 彼女 IN THE DISPLAY(NEW)
7月24日(日) 【大分】大分club SPOT w)MAGIC OF LiFE/ Shout it Out / OA. Vitaminotes
7月26日(火) 【福岡】小倉FUSE  w)BUZZ THE BEARS / Shout it Out / THE FOREVER YOUNG (NEW)
7月30日(土) 【福島】郡山 CLUB #9 w)Wienners
8月2日(火) 【秋田】秋田LIVESPOT2000 w)KNOCK OUT MONKEY/OA. S.C.B(NEW)
8月3日(水) 【岩手】岩手the five morioka w)KNOCK OUT MONKEY 
8月10日(水)【兵庫】MUSIC ZOO KOBE 太陽と虎 w)SABOTEN / FABLED NUMBER
8月11日(木・祝) 【京都】京都GROWLY w)NUBO / FABLED NUMBER
8月19日(金) 【神奈川】LIVE HOUSE 小田原姿麗人 w)ircle / Shout it Out / OA. TEDDY
8月23日(火) 【群馬】前橋DYVER 
8月25日(木) 【石川】金沢LIVE HOUSE vanvanV4  w)THE FOREVER YOUNG / SABOTEN(NEW)
8月26日(金)【富山】富山SOULPOWER w)THE FOREVER YOUNG / ENTH / LONGMAN (NEW)
9月10日(土) 【静岡】静岡UMBER w)BACK LIFT (NEW) and more!
9月11日(日)【三重】松阪M’AXA w)POT(NEW) and more!
9月13日(火) 【岡山】岡山CRAZYMAMA 2ndRoom 
9月14日(水) 【香川】高松DIME 
9月18日(日) 【栃木】HEAVEN'S ROCK 宇都宮 VJ-2 
9月22日(木・祝) 【北海道】札幌BESSIE HALL w)LACCO TOWER
9月24日(土) 【茨城】水戸LIGHT HOUSE 
■ワンマン 
9月30日(金) 【広島】広島4.14 
10月2日(日) 【福岡】福岡Queblick 
10月6日(木) 【宮城】仙台MACANA 
10月12日(水) 【愛知】名古屋CLUB QUATTRO 
10月14日(金) 【大阪】心斎橋Music Club JANUS 
10月21日(金) 【東京】赤坂BLITZ
 
 
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