橋本さとし「立ち位置」に動揺? 橋本さとし×岸祐二×河原雅彦にインタビュー『ヴィンセント・ヴァン・ゴッホ』
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橋本さとし・河原雅彦・岸祐二
“炎の画家”とも言われ、『星月夜』『ひまわり』など2000点以上の絵画を残し、37歳の若さで自ら命を絶ったオランダ生まれの画家、ヴィンセント・ヴァン・ゴッホと、彼を支え続けた弟テオの、愛と葛藤、そして波乱に満ちた半生を描き出した二人芝居、韓国創作ミュージカル『ヴィンセント・ヴァン・ゴッホ』が、2016年9月、日本に初上陸する。
日本版の上演台本・演出を務めるのは河原雅彦。そしてヴィンセント役には橋本さとし、テオ役には岸祐二という、ミュージカル界の実力俳優コンビが出演する。橋本と岸といえば、さまざまな舞台で活躍する一方、ミュージカル「三銃士」から生まれたユニット「Mon STARS」としても大人気。
この三人が絡み合う『ヴィンセント・ヴァン・ゴッホ』」、果たしてどんな作品となっていくのか。
――本作でついに「Mon STARS」3兄弟の二人が兄弟役に! なんだか感慨深いです。しかも「二人芝居」ですし。
橋本:めっちゃ不安ですわ!!!…あ、いや岸に対して不安っていうんじゃなくて(笑)
岸:今、びっくりした(笑)
橋本:少人数で演劇するのが初めてなんです。
岸:僕もそう。
河原:僕も少人数の演出って初めてです。二人芝居ってね。
――まずはこの舞台の話が来た時の事をお伺いしたいのですが。
河原:(橋本に向かって)この作品、資料映像をご覧になりました?
橋本:観てないです。観ると「あ、ここ一緒だ。ここは違う」って違う考えが出てきちゃうんで。自分がオリジナル、自分から生まれたものでやりたいから観てないんですよ。曲だけは聴いてますよ。
河原:……さとしさん、たぶんこの舞台苦手だと思いますよ。
橋本:やめて!!(動揺)
河原:……説明します。なぜならこの舞台、プロジェクション・マッピングを多用するんです。
岸:(河原が言いたいことを察して)「立ち位置」ですね。
橋本:苦手だ!!(即答)
河原:ここからここへ、次はこれこれの間にここに移動して、で、お次はこっちにって、早い話段取りがものすごいいっぱいあって。「あー、さとしさん苦手だろうなー」って思った(笑)。
橋本:○△☆※!!!(言葉にならない悲鳴)
岸:俺もそう思ってました……(笑)
河原:ほぼ全編そうなりますから。それがこの舞台の見どころでもあるんですが。
岸:俺も韓国版の上演映像を観たんだけど、背景に絵があって、そこに役者が手を差し伸べると手の先からパッと絵が出てくるんです。そういう感じのがいっぱい!
橋本:俺、ちょっとならできると思うんですよ。『シャーロック ホームズ~アンダーソン家の秘密』で、自分の影から数字がバーッて飛び出してくる演出があって。それはできたんです。
河原:それって、そこにいればいいだけ?
橋本:そう! 「その場所にいてポーズ取ってください」でよかったの。
河原:それは、「あいうえお」の「あ」レベルですね(笑)。マッピングの中に入る俳優としては「あ」です!(キッパリ)
岸:俺、さとしさんが段取り間違えたら絶対笑う自信がある(笑)。
橋本:その練習、絶対しなきゃだめですね。
河原:映像に関してはもはや美術の一つになってますから変えることはできないんです。韓国バージョンのままです。
岸:しかも我々と違う組み合わせのメンバー(泉見洋平、野島直人、上山竜治、入野自由)もいるから、段取りを合わせていかないと。
橋本:それぞれの味で……じゃダメなんですか?
河原:えっとね……ダメです(笑)。
橋本・岸:(笑)
河原:もちろん自由に動ける場面もありますけどね。そのときは合図出しますから。思う存分自由に動いてください。
岸:じゃ、リーダー(河原)は客席の一番後ろにいてペンライトで合図だす、と。
河原:それ、俺の仕事じゃないよ(笑)。出てない若手がやれば……
橋本:(上山)竜治とかがやってくれれば。
河原:でも彼も、じっとしていられない子だからね。
橋本:(泉見)洋平もマイペースだしなあ。
岸:ノジー(野島直人)は得意なんじゃないの?
河原:……別にペンライトの係決めなくていいから!
河原雅彦・岸祐二
――と、いまから前途多難の様相ですが、橋本さん大丈夫ですか?
橋本:今から俺逃げてます。
岸:僕は『BIOHAZARD THE STAGE』の時にマッピングを使って顔を変形させていく見せ方はやりましたね。
河原:じゃあ、問題ないですね。
橋本:……俺、テオの役やっていいかな?
岸:テオも大変ですよ!!
河原:イーゼルを出してキャンバスを置くと、そのキャンバスに映像が当たって絵が浮かび上がる場面もあるんですよ。
橋本:それ、もしイーゼルを置く位置がずれたら?
河原:絵がぼやーっとなります(笑)。
岸:その場面にいれば俺が直すことになるんだろうな……
橋本:だいたいの場面でテオも出てるでしょ?(すがる勢いで)
岸:でもゴッホ一人のシーンもありますよ。(笑顔で突き放す)
橋本:そうなんだ……(ため息) プロジェクションマッピングを使用する芝居は、映像で表現したり奥行も出せたり。客席で観ている分には「すごいなあ。技術はどんどん進んでいるんだなあ」って思うでしょうが、実際そこに立つとなると不便ですよ!!
河原:ステージ上も小道具はテーブルとイスくらいでしょうしね。でも、今回は映像素材があらかじめそろっている分、稽古場で早めに練習できますから。
橋本さとし・河原雅彦
――河原さんは韓国でオリジナル版の舞台を観たそうですが、いかがでしたか?
河原:最初に観たとき、素敵な作品だなあって。でも俺は何の仕事をすればいい?とも思いました。プロジェクション・マッピングが占める割合が多い分、俳優の動かし方も自ずと決まってくる。おまけに歌が占める割合も大きいので、構成部分も変えられない。となれば日本版としての突破口をどこにするか。訳した台本を見せていただいて、日本版でイケると思ったのは兄弟の関係に対するアプローチ、だなと。それで上演台本を書かせていただきました。
お国柄だと感じたんですが、オリジナル版は史実をアレンジして、完全にわかりやすいエンターテイメントに振ってるなと感じました。画家ゴッホと弟テオについて、オリジナル版は苦悩はしていてもどこか爽やかで美談に見える。『絵にとりつかれた兄に寄り添う弟』といった健気な兄弟愛に焦点を絞ってるな、と。でも日本版では、同じエンターテイメントでも、それぞれの苦悩や葛藤、切迫感がよりグチャグチャに伝わる感じで伝えていきたいと思ってて。いろいろ調べていくと、二人の関係は大分いびつなものに感じます。弟もアタマがどこかおかしいと思うんです。そこまで兄に尽くせるってどういうこっちゃ!?って。ありえないほど美しい兄弟愛の裏側には、ありえないほどの闇もある。ありえないほどの闇は、それが深ければ深いほど物語をファンタジックに染め上げるエンジンになりますから。全体の印象では違う手触りのものになると思いますよ。
……まあ、「立ち位置」には行ってもらわないと。そこは変わりませんが。
岸:居残り稽古は覚悟しておかないと。
橋本:途中で関係なく動いているかも……
岸:それ、俺が困るだけですって。
河原:でも、ゴッホ目線で言えば、舞台上で狂っている場面も多いですから。段取りを狂わせたことへのストレスで、さとしさんが狂人に見える分には僕は構いません(笑)。
橋本:自分のアタマの中のイメージと現実とが違っていて……
岸:途中で笑い出してしまったとしても……
河原:役作りに見えると思います!(笑)
橋本さとし・河原雅彦・岸祐二
――橋本さんがヴィンセントを演じるために、今考えていることは何ですか?
橋本:この前KERAさん(ケラリーノ・サンドロヴィッチ)と『8月の家族たち August: Osage County』の仕事しているときに、この舞台に出ることが発表されたんですが、そのときKERAさんに言われたんです。「さとしさん、大丈夫?ゴッホって、キ●ガイだよ!」って一言。
河原:……端的にゴッホを表現しましたね(笑)。
橋本:僕の中で「クレイジーなもの」と言えばロックだったり破壊していく人ですが、それって自分にないものへの「憧れ」でもあるんです。確かに僕は「自由人」と言われますけど、キ●ガイではない。キ●ガイの役だからといってエキセントリックに演じるというのはまたちょっと違うと思うので、まずはヴィンセントのキャラに委ねていこうかなと思います。リーダーとも『時計仕掛けのオレンジ』で一緒にお仕事していて信頼している演出家ですから、僕を客観的に見てくれるリーダーに委ねていこうと思います。
橋本さとし
―― 一方、岸さんは弟のテオ役ですが、先ほどの話だとテオも普通じゃないようですが…。
岸:Mon STARSをやっているおかげで、実体験として……思考回路がおかしくなければこの人たちとはつきあえないと思っていまして(笑)。 もう一人(石井一孝)はもっとクレイジーですから。
橋本:(笑)
岸:さとしさんと同い年の兄がいるんですが、さとしさんのほうがより信頼関係があるかも(笑)。だから兄さん的なさとしさんのために何かしよう、と思う気持ちは昔からあるんです。それが自分の中にちゃんとあるので、自然に役に入っていけばいい。そしてリーダーに委ねればいいかな。
俺は割と優等生に見られるんですが、最近周りの人に「だいぶおかしいよ」とか「変わった人」と言われるようになって。俺、もしかしたらおかしいのかな?と思うことが最近あるんです。
橋本:いや、十分おかしいから(笑)。
岸:リーダーが僕のおかしいところをぎゅーっと引っ張り出してくれると思っています。
岸祐二
――岸さんと河原さんは今回初めて仕事するんですよね?お互いにどんな印象を抱いていましたか?
岸:河原さんは、サイコでディープな人だと思ってます。褒め言葉ですが。
河原:褒め言葉として!? サイコってサイコパス?
橋本:サイキッカー?
河原:それ、超能力者じゃん(笑)
岸:変わっているというか。
橋本:リーダーは、ほんまにシニカルな人。まっすぐな自分を斜めに見るクセがあるから。一緒に写真を撮っても絶対映っちゃいけないポーズとかするし。「おい、Twitterに載せられへんやんけ!せっかく撮ったのに!」とかある。
河原:恥ずかしいんですよ……無防備で写真を撮られるのって。
岸:そんなリーダーにずっと共感するものがあって、いつか一緒にお仕事したいと思っていたんですよ。
――逆に河原さんから見た岸さんは?
河原:僕、音楽ものの舞台を作るのが大好きなんですが、これまで岸さんとやられてきた本格的できちんとした舞台とは違う畑だったから……。
岸:それ誤解だと思いますよ。僕だいぶゲリラなほうなんで。
河原:そうですか?それは安心する。
橋本:この三人の共通点は……みんなKISSが大好きなこと!
河原:おお! 大好きですね。メイクをすることでバカみたいに暴れられるあの感じが(笑) 。そんなワケで岸さんにはちゃんとしているイメージでいました。さとしさんは「立ち位置」を除けば……
橋本:(笑)
河原:ヴィンセントがとても合っていると思うんです。ヴィンセントとテオってものすごくいっぱい手紙をやりとりしているんですが、それを書籍で読むとめちゃくちゃおもしろいんです。10年くらいやりとりしているんですが、お兄ちゃんからの手紙のほとんどが「お金くれ」「○○フランありがとう」から始まるんです。これをさとしさんに置き換えると「お金ありがとう」の話から延々KISSの話をずーっとしているようなもので。とはいえ、テオに「すまない」とは猛烈に思っているので、自分が描いた作品をどんどんテオに送り続けているのですが、これがちっとも売れない。なのに、異様に確信には満ち溢れていて、「いつか俺たちは世界に認められる」と手紙を結ぶこともしょっちゅう。もう、ホント無茶苦茶ですよ。かと思えば、いきなり娼婦と結婚するってダダこねたりね。「お前、絵のこと頑張れや!」って、テオじゃなくても言いたくなっちゃう。
橋本:ヴィンセントはそこに疑問がないんですね。確かにそんな兄に応えている弟もおかしいわ。
河原:で、兄貴が死んじゃうと生きがいがなくなったのか、すぐに弟も死んじゃうんです。兄の存在が弟にとっても人生の支え……というか弟も兄に強烈に依存していたとも受け取れる、そのいびつさが面白いなと。その状態って逆に感動的になるんじゃないかな?
橋本さとし・河原雅彦・岸祐二
――今回橋本×岸コンビに加えて先ほど話が出ました4人の若手も演出することになりますが、いつも以上に大変なんじゃないですか?
河原:大変なので思考を止めてます(笑)。
橋本:僕も『レ・ミゼラブル』でWキャスト、トリプルキャストを経験してますが、頭がおかしくなりますね。自分が自分のペースで築き上げてきたものを違う人が同じ役で僕の後にやったりするのって、「何が正解なのか」と心をかき乱されるんです。だから僕は自分の稽古じゃないときはずっと稽古場の外にいて他の人の演技を見ないようにしていました。
岸:僕の個人的な意見ですが、僕らで段取りを作っていくのを彼らが見てそれぞれに段取りを覚えていくのが手っ取り早いんじゃないかな。入野くんは初めて一緒に仕事をするからまだわからないけど、洋平とノジーは慣れていると思うし。
橋本:若いからね。覚えるのも早いし。
河原:で、ある程度稽古が進んでさとしさんに余裕が出来てきたら、若い子たちの稽古を「乱す」という意味不明な役割を……「立ち位置」に入ったら舌打ちするとか(笑)。
橋本:嫌だなそれ(笑)。俺、みんなに愛されたいタイプだから。
岸:こういうシステマチックなものは一緒にいてやるほうがいいですよ。さとしさんが「これはなんでこうなの?」ってリーダーとディスカッションしているのを一緒に聴いていれば彼らは同時に覚えていけると思う。
橋本:俺はその一方でそれぞれの組があえて孤立したものであっていてほしい。それぞれの味があるほうがおもしろいなあ。リーダーはそれぞれ用にダメ出しをしてくると思うし。僕は他の人の稽古が怖くてあまり見れないような気がするけど。
岸:大丈夫ですよ。見るのが必要なシーンとそうでないシーンがあると思うから。
橋本:若手はスイッチキャストにも慣れてると思いますよ。だって『レ・ミゼラブル』」なんて稽古で一度もあったことがない人と本番で「初めまして」ってことあったもの。
岸:「今日、君だったの?」とかね。
橋本:いやぁ、でも恥ずかしくて見られたくないなあ。芝居を作る段階では人の目を意識できるまですごく時間がかかるんです。稽古中は関係者以外の人がくるのも気になるし。僕が信じるのは演出家の言うことと自分の中から出てくるものだけ。それ以外は信じられない。特に同じ役をやる人が見るのってプレッシャーなんです。
岸:僕は気楽に構えてますね。今までの経験もあるけど。これは生理と合ってないなと思うところがあったら、ここはこう動きたいけどどうですかね?と相談して変えたりしてもらう。ヒトに見られるのは僕も嫌なんですが、自分が他人の演技を見るのは気にならない。他人の演技を見てもうひとりの自分がこの役はどう見えているのかを想像している、他の人のいいところを盗むタイプです。
――そんな楽しくなりそうな(!?)稽古がもうすぐ始まりますね。
橋本:自分の中でもヴィンセントに興味が沸いてます。とにかく一日でも早く歌いたい。
岸:歌稽古ね。
橋本:稽古が始まるころには自分なりのヴィンセントをリーダーに見せていきたいですし。そこをスタートにしたい。そのほうが自分も楽やし。僕はスロースターターなので今のうちにいろいろやっておかないと。
河原:二人きりだから歌の分量もめちゃ多いですしね。難易度が高い歌もありますし。
岸:ラップとかもね。「秋田名物、八森ハタハタ……」になぜか近い感じのが(笑)。あと、二人で歌う曲もある。
――ロックからバラード、ラップとバラエティに富んでますし。
橋本:へえー。……取材受けてる側なのに、めっちゃみんなに教えてもらってますね、僕。
河原:「ヴィンセントに興味持ってます」とか言っといて、「へえー」って(笑)。
橋本:このペースで稽古に標準合わせたら絶対だめですね(笑)。
河原:だからそこがヴィンセントっぽいんですよ(笑)。
橋本さとし・河原雅彦・岸祐二
<プレビュー公演> 2016年9月2日(金) かめありリリオホール
<東京公演> 2016年9月7日(水)~24日(土) 紀伊國屋サザンシアター
■音楽:ソヌ・ジョンア
■訳詞:森雪之丞
橋本さとし(ヴィンセント) 岸祐二(テオ)
泉見洋平(ヴィンセント) 野島直人(ヴィンセント) 上山竜治(テオ) 入野自由(テオ)
■公式サイト:https://musical-gogh.themedia.jp/
●一般発売 7/23(土)10:00~