ミナモザが読売演劇大賞優秀作品賞『彼らの敵』再々演! 身近な人物の意外な真実に見る人間の怖さと不思議 瀬戸山美咲インタビュー
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瀬戸山美咲
瀬戸山 「私はいろんな事件を《自分のせいだ》と感じている」
笑福亭鶴瓶さんが、よく街で見かけた面白い人の話をするが、鶴瓶さんには面白い人と出会う才能があると誰かが言っていた。ならばミナモザの瀬戸山美咲にもなんだか似たような才能がある。瀬戸山の周りには、題材に困らないくらい、事情を抱えた人々が吸い寄せられてくる。2015年の再演時に第23回読売演劇大賞優秀作品賞を受賞した『彼らの敵』は、まさに彼女の“出会う”才能と“描く”才能が結実した作品だ。
2001年、現実に起きた出来事をベースにしたドラマを描きたくてミナモザを旗揚げしたが、なかなかやりたいことが実現できず悶々としていた。しかし元青空美人の役者で、海外でドラマターグをしていた中田顕史郎と出会ったのを機に、演劇活動と並行して続けていた週刊誌のライターをやめ、再び描きたいものを追求し始める。
瀬戸山 「初期のころは出演依頼をしても、こういう作品嫌いなんだよねって断られたりしてました。継続的に作品をつくっていく仲間にも出会えなくて、苦しかった。そんなころ中田さんと出会って。ちょうど東日本大震災があって週に一度今考えていることをシェアすることを始めたんです。それでドラマターグになっていただいて、ドキュメンタリー色の強い『ホットパーティクル』という作品を一緒につくりました。社会的な芝居をやる人も求める人も増えた時期で、賛否作品は両論をもって受け止めてもらえた。私自身、やっと自分の向かう方向がはっきりしてきた感じがありました」
『彼らの敵』(2015) 撮影|服部貴康
『彼らの敵』(2015) 撮影|服部貴康
ライターの経験からか、とにかく納得するまで時間をかけて取材をする。有名というわけではない一個人に話を聞き、演劇をつくり、演劇で考える。ただ、モデルになる人が一筋縄ではいかない。2013年初演の『彼らの敵』のモデルとなった服部貴康氏とはミナモザの舞台写真を撮ってもらうカメラマンとして出会った。瀬戸山とは時期は違うが、同じ週刊誌で仕事を活躍していた。相通ずる部分があったからこそ、二人はあまり深い話をしないまま10年を過ごした。ところがある時、飲み屋で人生の転機について話した際に、衝撃の事実を聞く。1991年の大学時代、パキスタンで川下りをしていたところを強盗団に誘拐・監禁された事件の当事者で、日本に戻ってきた後も、マスコミや世間から大バッシングを受けたというのだ。
瀬戸山 「まだ私がライターをしていたこともあって《瀬戸山、本にしてよ》と言われました。でも私は演劇で書かせてくださいとお願いしました。2年間、何度も話を聞いてわかったのは、バッシングを受けたり、パパラッチに追いかけられたりした辛さを服部さんがその当時もすごく引きずっているということでした。事件後に送られてきた手紙も持っていて、例えば60代の女性がすごい達筆で《あなたたちは日本の恥だ》なんて延々と書いている。不愉快さと怒りを感じると同時に、見ず知らずの若者に対してその手紙を書くエネルギーに驚きました。また、とある週刊誌の記事がめちゃくちゃ適当で、帰国後に不憫に思ったパキスタン大使館員の方の仲立ちで、編集者と話す機会があったらしいんです。でも先方はクレーム処理は日常茶飯事なので服部さんたちは簡単に負けてしまう。怒りをどこにぶつけていいのかわからない状態で服部さんはもやもやしていたんですね。ところが、それだけ嫌な思いをしているのに、やがて彼は週刊誌のカメラマンになって女子アナのマンションを張り込んだりするんです。パパラッチに追われたものにしか撮れない写真があるんだって」
『彼らの敵』(2015) 撮影|服部貴康
瀬戸山の作品には、たびたび、自身を彷彿とさせる女性が登場する。『彼らの敵』では、服部氏と、もしも同じ時期に同じ編集部で、カメラマンとライターとして出会っていたら、という設定で物語を展開させている。
瀬戸山 「私も演劇がやりたいと思っているのに気づくと週刊誌に携わっていて、しかも男性目線で女性を書く記事や潜入取材ばかりで悩んでいた。同じ穴のムジナの二人が喧嘩をするんです。ある意味、この作品は私自身の懺悔でもあります。芝居を観た服部さんには《瀬戸山はいじわるだ》って言われました。でも少しすっきりしてくださったみたいです」
『彼らの敵』初演のあとに、日本人の戦場ジャーナリストと元ミリタリーショップ経営者がISILに捕まって殺された事件があった。
瀬戸山 「事件の報道を見ていて、また似たようなことが起きていると感じました。また“自己責任”という意味が誤って使われていた。服部さんの時もそうでしたが、少しでも人と違うことをすることを許せない人たちがこんなにたくさんいるんだと改めて感じました。服部さんにとってはバッシングしてくる人が敵だけど、周りからすれば服部さんは排除したい対象。ただ、本当の意味での敵は他者ではない。本当に自分を苦しめているのは自分自身で、最後に闘うべき相手も自分だと考えています」
『彼らの敵』(2015) 撮影|服部貴康
瀬戸山のそんな思考は、世の中の事件をすべて自分に関係していることとして受け留めるところに端を発する。
瀬戸山 「一人ひとりの人間の歪みやウミがたまって、結果現れるのが犯罪や事件だと思う。私はいろんな事件について《自分のせいだ》と感じている。自分が変わることで社会が変わると思う。だから、どんなに大きな出来事を描く時も、一人の人間の変化を書きたいと思っています」
そんな瀬戸山の視点を、当事者ではないのだからその地点から描くべきだと非難する声もある。瀬戸山が投影された登場人物が重すぎると伝わるのか《あの役さえ出てこなければよかった》なんていう声も耳にする。でも、たぶん、瀬戸山がそれでも描き続け、突き抜けた時に、それは際立ったカラーになるのだと思う。きっと、まもなくのことだ。
2001年、ミナモザを旗揚げ。代表作に振り込め詐欺集団をジェンダー的視点から描いた『エモーショナルレイバー』、震災後の自分自身を描いたドキュメンタリー演劇『ホットパーティクル』、心の基準値を巡る短編『指』、資本主義と消費社会を描いた短編集『国民の生活』、外国の軍隊に入る日本人を描いた『WILCO』、架空の原発事故を描いたドイツの小説の舞台化『みえない雲』など。また動物愛護センターに辿り着いた犬と人間を描いたリーディング劇『ファミリアー』は地域の劇場や小中学校での上演を重ねている。
2014年、パキスタンで起きた日本人大学生誘拐事件を描いた『彼らの敵』が第58回岸田國士戯曲賞最終候補となる。2016年、同作品が第23回読売演劇大賞優秀作品賞、ラジオドラマ『あいちゃんは幻』で第42回放送文化基金賞脚本賞を受賞。世田谷パブリックシアター『地域の物語』、ロンドンバブルシアター『ヒロシマの孫たち』など、コミュニティの人々とつくる演劇にも継続的に携わる。
■出演:
西尾友樹(劇団チョコレートケーキ) 大原研二(DULL-COLORED POP) 浅倉洋介
山森大輔(文学座) 菊池佳南(青年団) 中田顕史郎
■会場:KAAT神奈川芸術劇場〈大スタジオ〉
■料金:一般 3,500円、学生2,000円/高校生以下1,000円(要・証明)
■問合せ|バレット TEL.080-5489-7854(10:00~19:00)、info@minamoza.com
■公式サイト:http://minamoza.com/
21日(木)19:00 服部貴康(写真家・本作品モデル)
22日(金)14:00 服部貴康(写真家・本作品モデル)
23日(土)14:00 萩原健(明治大学国際日本学部教授)
KAATの公演の
観劇前後に、劇場から歩いてすぐの中華街でお食事、ショッピングをお楽しみください。
対象店舗及びサービスの詳細は、横浜中華街ホームページの下記ページ参照。
http://www.chinatown.or.jp/feature/tie-up/