チェロ奏者・新倉瞳にインタビュー、デビュー10周年記念コンサートを開催(演奏動画あり)
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新倉瞳(撮影:大野要介)
桐朋学園大学在学中の2006年8月にデビューアルバム『鳥の歌』をリリースしてから、今年でデビュー10周年を迎える、美貌の実力派チェリスト・新倉瞳。桐朋学園大学音楽学部を首席で卒業後、2010年からスイスのバーゼル音楽院に留学、その後もスイスを拠点に、ソリスト、室内楽奏者、クレズマー奏者として幅広い活動を繰り広げてきた。渋谷リビングルームカフェでの「サンデー・ブランチ・クラシック」にも出演し、好評を博した。そんな彼女が、来たる9月に、デビュー10周年記念コンサートを開催する。これまでの10年間のこと、そして演奏会に向けた意気込みなど、直接本人から聞いた。さらにSPICEのために演奏もしてくれた。
―――新倉さんは、現在はスイスを拠点として精力的に活動しています。バーゼル音楽院で師事したトーマス・デメンガ先生は、新倉さんと初めて会った時について、「彼女は私の前で演奏して、感想を聞くために遠く東京からやってきた」と驚いたそうです。どういった経緯で、スイスまで赴いたのでしょうか?
「私は、大学生という早い段階でデビューし、多くの方々に聴いていただく機会を持ちました。しかし、そのうちに自分が空っぽになるような、息が詰まるように感じた時期がおとずれたのです。その時、『殻を破るために、どうしても海外に出たい』と考えるようになりました。どこに行こうか悩んでいると、友人がデメンガ先生のことを教えてくれました。CDを手にしたら、バッハと現代音楽が並んでる、すごく難しそうな録音をされてるんですよね(笑)。でも、聴いてみるとバッハはとても楽しそうな演奏で、現代音楽も色彩豊かで、全く飽きのこないものでした。『この方はすごい、とにかくレッスンを受けてみたい』と思って、スイスに向かいました」
―――演奏家、教育者としてのデメンガ先生の、どういった面に惹かれたのでしょう?
「先生の弾くバッハは、古楽の様式に則った、とても軽快な演奏です。頭の中で様式を理解できても、それを自然に表現するのは難しいことです。レッスンの様子も自由で、私の持っているものも認めつつ、新しいところにも導いてくれる。『この先生なら、自分の幅が広がりそうだな』と感じました。日本での知名度はそれほど高くはないのですが、国際的なコンクールの審査員としても活躍されています。アメリカに渡った経験もあって、自由で枠にとらわれない面も持っています」
新倉瞳(撮影:大野要介)
―――新倉さんは、ソロ曲や協奏曲だけでなく、カメラータ・チューリッヒのような室内管弦楽や、室内楽演奏の活動も活発に行っていますね。ソロとは違う、合奏の魅力とはなんでしょうか?
「合奏の魅力は、語りだすと止まらないです(笑)。チェロは元々、通奏低音という伴奏用楽器として生まれ、花形楽器ではありませんでした。なのでチェリストは皆、誰かと合奏するのが大好きです。合奏は人間関係と一緒で、自己主張するばかりでなく、相手が気持ちいいように弾かないといけません。お互いが幸せな気分になれるのが合奏の醍醐味ですね。でも、ソロの演奏でも音楽の対話はあります。協奏曲でも、オーケストラの中にソロパートがあって、一緒に壮大な物語を作るものだと私は思っています。『相手にどんな言葉を投げかけたら、私の気持ちが伝わるだろう』という対話として考える。なので、ソロや協奏曲でも、音の厚みや役割が違うだけで、気持ちの部分で何かが変わるわけではないんです」
―――今年9月には、デビュー10周年記念コンサートを予定しています。「こんな公演にしたい」という希望はありますか?
「名前こそ“新倉瞳デビュー10周年コンサート”ですが、内容は盛りだくさんにしようと考えています。ゲストとして、私の大切な仲間である東京チェロアンサンブルにも出ていただきます。私の恩師でもある堤剛先生にも出演していただいて、ヴィヴァルディの『2つのチェロのための協奏曲 ト短調』を一緒に演奏させていただきます。コンサートを通じて、『お世話になった方々のおかげで、私はここにいる』ということを伝えられたらと思います」
―――曲目の中で、注目して欲しいポイントは何でしょうか?
「東京チェロアンサンブルとの共演では、6人の合奏でフォーレのパヴァーヌを演奏します。フランスの薫りとともに、民謡のような哀愁もある素敵な曲で、チェロの音域の広さも生かせています。シューベルトの弦楽五重奏曲では、神奈川フィルのコンサートマスターで、同じくバーゼル音楽院で学んだ崎谷直人さんと共演します。とても繊細な音を奏でるヴァイオリニストで、是非アンサンブルをしたいと思ってお願いしました」
新倉瞳(撮影:大野要介)
―――今回の特別ゲスト、桐朋学園大学で師事した堤剛先生への思いとはどのようなものでしょうか?
「合奏する曲にヴィヴァルディを選んだのは、2台のチェロの曲が限られているということもありますが(笑)、私自身がスイスでバロック音楽を学んで以来、注目をしている作曲家だから、というのが大きいです。堤先生はバロックと異なるオールド・スタイルなのですが、音楽というのは掛け算で良さが増えていくものです。スタイルの違う師弟の共演がどうなるか、今から楽しみです。堤先生に初めに教わったのは、大学2、3年生の時。霧島国際音楽祭の夏のマスタークラスで師事して、正式に生徒になったのは大学院の時です。その時から変わらず、生徒を家族のように大事にしてくれます。また、私のやる事やアイディアを、全てポジティブにとらえて下さるんです。恩師であり、自分の人生を支えてくださっている存在だと思っています」
―――デメンガ先生、堤先生……恩師と良い信頼関係を築いていることが窺えますね。
「本当にそう思います。読売日本交響楽団首席奏者を務めた毛利伯郎先生も、大切な恩師です。毛利先生には12年間習い、私の基礎の全てになっています。そんな毛利先生とデメンガ先生は、アメリカ時代の友人同士なんです(笑)。そういった縁も、私とデメンガ先生を引き合わせてくださったのだと思います」
―――10年の演奏家生活の中で、ずっと変わらない想いは何でしょうか。逆に考え方で変化したことは何でしょうか?
「変わらない思いは、『何ごとも、真正面から向き合うことは大切だ』ということ。逆に変わったことは、自分のダメなところを受け入れられるようになったことです。そのおかげで自分のいいところもわかって、楽しめるようになりました。もう一つ、身につけた考えがあります。人間の感動というのは、理屈で引き出せるものではありません。でも、私たちはプロフェッショナルとして、感情を伝えるために技術を持って弾かないといけない。人を感動させるには、気持ちだけでも技術だけでもダメなんですね。それはこの10年で実感したことです」
―――デビュー10周年も通過点。三越伊勢丹とのドレスプロジェクトなど、活動も多彩に拡げられつつありますね。今後、どこに向かって行かれるのでしょうか?
「第一は、自分を高め、深めること。そこからさらに幅を広げるため、洋服のコラボレーションや、開催中のルノワール展(~8/22まで国立新美術館)などの美術展とのコラボもしてきています。クラシック音楽は、日本ではまだまだメジャーではないので、音楽が皆さんの生活の一部になるようにしていきたいです。怖がらずに色々なことに挑戦するのは、同時に自分を深めることにも繋がっていくと思います」
新倉瞳(撮影:大野要介)
■日時:2016年9月16日(金)19:00
■会場:サントリーホール ブルーローズ(小ホール) (東京都)
■出演:
ゲスト / チェロ:堤剛
チェロ:新倉瞳、東京チェロアンサンブル、特別弦楽合奏団(コンサートマスター﨑谷直人)
■曲目:
バッハ:無伴奏チェロ組曲第1番
フォーレ:パヴァーヌ
シューベルト:弦楽五重奏曲 ハ長調より 第1楽章
パガニーニ:ロッシーニのモーゼの主題による幻想曲
ヴィヴァルディ:2つのチェロのための協奏曲 ト短調 K.531
■公式サイト:http://www.hitominiikura.com/