エンタメの今に切り込む新企画【ザ・プロデューサーズ】第五回・中川悠介氏

インタビュー
音楽
2016.7.22

――いわゆる成功した人、経験した人と話をした時は、まずは疑問から始まる感じですか?

若いころは反論をしていましたけど、今はもうしないですね。

ザ・プロデューサーズ/第5回 中川悠介氏

ザ・プロデューサーズ/第5回 中川悠介氏

――一つヒットを作ると、みんながそれに気づいて一気に参入して、でもその瞬間からヒットは収束に向かっている気がすごくしています。ヒットと消費とカルチャーの関係に思うところはありますか?

カルチャー作る上で、ブームと消費って言葉の対義がすごく大きいと思っていて、ブームになると、後はどんどん落ちていく一方じゃないですか。そこってすごく大事だなと思っています。ひょっとしたらマスに落とし過ぎないということも重要かなと。マスからみたらちょっと尖っている、本当に尖ってる人達には尖って見えないというラインって、すごく重要だなと。例えばダンスひとつとっても、一般のダンスになりすぎないとか、すごく特徴があるみたいな“尖っている感”も重要だなと思っていて。

――TEMPURA KIDZのダンスは、見たことがないキレッキレのダンスです。

尖りすぎちゃダメなんですよね。そのバランスはすごく大事だなと思っています。

――中川さんがサービス精神が旺盛ということなんでしょうか。みんなが見たことないものを見せてあげようという。

見せてあげようという発想ではなく、これ面白いでしょ!でもなくて、これ面白くない?という感覚です。見てもらうことの重要性の方が大事だなと。押し付けはよくないと思っているんですよね。

――どちらかというとシェアしたい方でしょうか?

そうですね、今はそういう時代じゃないですか。

――昔は家に帰ってまずテレビをつけてという感じだったのが、今はスマホでSNSとかがメインになりました。

テレビもチャンネルをザッピングするというよりも、ちゃんと見に行く目的があって、そこに見に行くという事がすごく重要なのかなと思っています。

――色々なものが受容的な感じから、能動的になっていますよね。

テクノロジーがどんどん進化すればするほど原点に戻っていくのかなと感じています。

――音楽を楽しむメディアが増えたりしていますが、やっぱりライブやイベントに“わざわざ”足を運ぶ人が多いですよね。ライブやイベントで、いつも大事にされている事はありますか?

もちろん楽しんでもらうのが大前提ですけど、イベントに来てもらう人たちの“仲間意識”みたいなものはすごく重要だなと思っていて、イベントひとつとっても、キャスティングや場所にストーリーがないとダメだなと思ってるんです。それを見たくてみなさんがイベントに足を運んでくれるのですが、その理由の他にイベントに来てもらう、そこにいてもらう理由を作らないといけない。

――例えば中川さんがきゃりーさんのライブを見て、今日はいいライブだったと思う時は、どんなライブをやった時ですか?

ライブは本人とチームとで一生懸命考えて作り上げているものなので、僕も初日を見た時は感動するし、驚きもありますけど、やっぱり一番はお客さんの反応じゃないですかね。一緒に見たお客さんがすごく大事なんじゃないかなと思います。

――ライブで感じるリアルな感動って、一番残ります。

結局どんなにSNSが発達したって、スマホが発達したって一番の強みは実際その場所での体感、共感だと思います。

――サブスクリプション(定額制ストリーミング音楽配信)の登場で、若い人たちが音楽に触れる環境も変わってきました。業界が過渡期を迎えていると思いますが、中川さん的にはどこを見て、この先どこに向かっていこうとしているのかを教えていただけますか?。

自分たちが発信する、ある意味チャンスじゃないですか。サブスクでも何でも、新しいことが始まるということは、何か出来るということじゃないですか。今思うのは過度に煽りすぎて、サブスクブームというネタの記事がネットに溢れるのが嫌だなと。最近はニュースの価値、情報の価値が下がっている気がすごくしていて、そうなるとありがちなのは、ネットで話題になりすぎてリアルに売れる前に潰れちゃうというパターンが増えていく気がすごくしています。

――仰るとおりでニュースの質が落ちていて、ただ伝えればいいだけという感じになっています。これからはコンテンツホルダーであるプロダクションが本気でメディアになった時は、既存のメディア、特にエンタメ系のメディアは勝てないと思います。

一億二千万人に伝える時代は終わっていると思っていて、ちゃんとそこをセグメントして、自分たちの情報を欲しい人達に届ける幅の広さが重要なのかなと思っています。

――狭くもなく、広くもなくちょうどいいところということでしょうか?

ちょうど良いところというのが大事だと思っています。

ザ・プロデューサーズ/第5回 中川悠介氏

ザ・プロデューサーズ/第5回 中川悠介氏

――中川さんが色々な情報を取り込むときに、信用できる情報というのはどこから取り込むんですか?

やっぱりSNSが多いですよね。

――常にチェックされてる感じですか?

そんなに依存はしていませんが、たまに見てチェックしています。若い人達はTwitter、インスタはちょっとオシャレな人達、Facebookはおじさんというイメージですね。そんなにリサーチはしないんですよね、リサーチしたら全部成功する訳じゃないですし、そのリサーチが邪魔しちゃうこともあるのかなと思っていて。

――きゃりーさんを始め、世界に向けて日本の文化を発信することに力を入れていらっしゃいます。

日本でやっていることが、世界で通用すると昔から思っていたので、その重要性ですよね。それは別に海外のやり方にカスタマイズする必要はないとずっと思っていて。日本でやっていることを、そのまま海外でやっていくことなのかなっていう。

――海外のフォーマットに合わせることなく、日本でやってるいることをそのまま持って行くべきなんですね。

迎合する部分も必要だと思いますが、日本らしさも大事だと思います。もちろんその国の文化とか国民性を理解することは大切です。

――2014年から『MOSHI MOSHI NIPPON FESTIVAL』をスタートさせ、日本の文化を海外からの観光客に紹介するというインバウンド、またワールドツアーで世界中の人々に発信しています。

そうですね、今年も11月にやります。やっぱり2020年は意識しています。というより2021年に残せるコンテンツを作りたいなと思っていて。みんな見ているのが2020年じゃないですか。それはいいことだと思いますが、2020年がゴールではなく、その先が大切だと思います。

――中川さんの考え方が、すごく分かりやすい事例ですね。みんながそこに集まっているからではなく、そこに行く過程、その先ということをいつも見据えていらっしゃいます。

そうですね、目の前の事も大事ですけど、その先を常に見てないとダメになってしまうと思っています。

――2021年に残すことって、今もう具体的に頭の中にあるのですか?

今はまだ具体的にはありませんが、イベントにも外国人がいっぱい来るようになって、2021年にこれから作り上げる“それ”を目当てに、わざわざ日本に来てもらえるようにしたいです。

――中川さんは、内閣官房の「クールジャパン戦略推進会議」の構成員も務めています。

クールジャパンバブルだと思っていいます。2030年に海外からの旅行者を6000万人にして観光立国を目指しているのはすごくいいことだと思うんのですが、クールジャパンという言葉に頼りすぎていて、「クールジャパン、お金出るんでしょ?」ってよく聞かれるんですけど、決してそうではないんです。しかるべきファンドがあって、そこにいくには結局大手企業にしか無理ですし、色々なプロセスを通らなければいけないし。お金があると勘違いされている部分が、クールジャパンにとってマイナスイメージになっていると思います。

――今一番気になっている分野は何かありますか?

エンタメ業界とIT業界を融合すると面白いかなと思います。共通言語がないじゃないですか、ITと音楽って。一流企業と音楽。我々の会社はその接着剤になれると思うんですよね。両方のことがわかっていますし、そこは自信があります。自分の頭の中では、常にどんな業界に行くかわからなくなっていますし、とにかく色々な人に会って、それこそ政治家とも話をしなければいけない場面もありますし、それはすごく重要だなと思っています。

――人と人、産業と産業をつなげるのって面白いですよね。毎日お忙しいとは思いますが、頭をオフにするときは、何をしていますか?趣味に夢中になるとか……。

趣味はよく聞かれますが、今はほぼないですね。

――一日休みがあったら映画を何本もまとめて観るとか…

映画観たの『木更津キャッツアイ』が最後です(笑)。本も読まないし。人と喋ってるの好きですね。

――ライブは行きますか?

あんまり行かないですよね。なんか、気を遣われるのが苦手なんですよね。だから気を遣わない人と集まっているのが好きですね。

――業界の同世代と方とプライベートで集まることも多いんですか?

多いですね。Facebookで同年代が集まっているの見ると、ネガティブな事を言う人も結構いますけどね。でも盛り上がってるの見せるとか、楽しそうにやっているのを見せることって一つの人生の演出だと思っていて。会社ももちろんそうですし。そういうことがエンタメ業界に実はもっと必要なんじゃないかと。エンタメの会社は一番遊んでいないとダメじゃないですか。僕はそう思います。遊んでるふりだけでもした方がプラスなんじゃないかと思います。

――この企画にも登場していますが、スターレイの丸野さんや中川さんのような若い世代の経営者に、この業界をかき回してもらって新しい価値を生み出してもらいたいです。

でも僕達はわからないことはやらないんですよ。儲かりそうだと思っても、自分達がわからないのに深くやってしまうと失敗することが多いと思っていて。そこの線引ですね。多分、業界の方達からは生意気だと思われていると思うんですよ。結構パッと出のイメージを持たれているのですが、会社ももう9年目なんです。結構下積みは積んでいるつもりですが、今は自分たちのやりたいように自由にやっているイメージがあると思うんです。でも意外と泥臭い部分もありつつ、それを言わずに表にアピールせずにやるのが重要だなと。そのバランスだなと思っています。たまたま僕は人見知りしないタイプなので、誰とでも話ができるので、それがプラスになっていると思います。

 

 

<編集後記>

成功の形も、幸せの形も多種多様。だからこそ能動的に人々は情報を貪り、「共感」という満足感をシェアしていく。今回の中川さんとお話させてもらって、そのメカニズムに早い段階から感覚的かつ知識的な部分でもきづき実践されていることが、今のアソビシステムのカルチャーの隋になっているような気がしました。エッジとマスのバランス、誰よりも楽しみそれを発信していくこと、今回得た大きな金言かもしれません。

 

企画・構成・編集=秤谷建一郎 撮影=風間大洋 インタビュー・文=田中久勝
 

プロフィール
中川 悠介(アソビシステム 代表取締役社長)
 
1981年、東京生まれ。イベント
運営を経て、07年にアソビシステムを設立。「青文字系カルチャー」の生みの親であり、原宿を拠点に地域と密着しながら、ファッション・音楽・ライフスタイルといった、原宿の街が生み出す“HARAJUKU CULTURE”を、国内はもとより世界に向けて発信し続けている。自主イベント『HARAJUKU KAWAii!!』を2011年〜全国各地で開催し、近年は、KAWAIIのアイコン・きゃりーぱみゅぱみゅのワールドツアーを成功させた。昨年5月には、新プロジェクト「もしもしにっぽん」を発表し、日本のポップカルチャーを世界へ向け発信すると同時に、国内におけるインバウンド施策も精力的に行っている。

 

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