来日版ならではの魅力は、キャストの熟成と身長!? 『キンキーブーツ』演出・振付のジェリー・ミッチェルにインタビュー
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ジェリー・ミッチェル (撮影:大野要介)
2016年、日本は『キンキーブーツ』イヤー! 7月21日に開幕した日本語版に続き、10月にはアメリカからツアーカンパニーがやって来る。日本語版演出のために初来日を果たした、ブロードウェイの超売れっ子演出・振付家のジェリー・ミッチェルに、来日版の魅力やシンディ・ローパーらとの創作過程について聞いた。
Kinky Boots National Touring Company. Photo: Matthew Murphy.
日本語版キャストは、富士山の頂上まで登り詰める!
――日本語版の初日をご覧になった感想は?
センセーショナルだったよ! (三浦)春馬と(小池)徹平をはじめ、キャストは全員目を見張るような仕事をしてくれたし、客席から拍手と笑いがたくさん起こったこともとても嬉しかった。カーテンコールでは拍手が鳴りやまず、最後にはキャストが観客に退場を促す事態になっていましたからね(笑)。本当に素晴らしい公演でした。
ジェリー・ミッチェル (撮影:大野要介)
――それだけ素晴らしい日本語版があっても、来日版も観るべきと思われるポイントをぜひ!
来日版キャストのほうが、背が高い。……というのは冗談で(笑)、ひとつには、『キンキーブーツ』はプロダクションごとに異なる顔を見せてくれる作品です。言葉の違う韓国はもちろんのこと、同じ英語圏のカナダやロンドンで誕生したプロダクションも、ブロードウェイ版とはかなり違うものになっていました。ですから日本の皆さんには、ぜひ日本語版と来日版の両方をお楽しみいただければと思います。
そしてもうひとつ、僕のこれまでの演出経験から言うと、キャストというのは公演を重ねる間にどんどん成長していくものです。今回の日本語版キャストも、初日でこれだけ素晴らしかったのですから、千秋楽には富士山の頂上にまで登り詰めることでしょう(笑)。その点で来日版は、ツアーが始まってから今まで、2年ものあいだ成長し続けてきているカンパニー。ブロードウェイ版は度々キャストが替わっていますが、来日版のキャストは、ほぼ同じメンバーで長い時間を一緒に過ごしてきています。今やファミリーのような一体感を持つ彼らが、『キンキーブーツ』のストーリーを共有して語る舞台は、とても感動的ですよ。
Kinky Boots National Touring Company. Photo: Matthew Murphy.
――『キンキーブーツ』のストーリーの、どんなところがいちばん好きですか?
人間らしいところですね。『キンキーブーツ』は、別の世界で生きていた人間同士が、思いもよらなかった共通点を発見し、共に問題を解決していくお話です。この“解決されるべき問題”というのは、良いストーリーに必ずあるもの。そしてその問題は、みんながひとつになって協力し合うことでしか解決しないんです。
――では、特にお気に入りのシーンは。
選べません! と言いたいところだけど(笑)、どうしてもと言われたら、工場のトイレでローラとチャーリーが《Not My Father’s Son(息子じゃないの)》を歌うシーンですね。僕と脚本のハーヴェイ(・ファイアスタイン)、音楽のシンディ(・ローパー)は最初から、原作映画のなかであそこがミュージカル版の軸になる、という一致した意見を持っていました。ハーヴェイはあのシーンを映画以上に膨らませたがっていて、その提案に応える形で、シンディが見事なまでに的確なあのナンバーを書いてくれたんです。自分は父から見たら失敗作だ、という共通した思いを抱える二人が成長していくというのは、とても力強くて普遍的なテーマだと思っています。
ジェリー・ミッチェル (撮影:大野要介)
シンディ作のナンバーを9曲もボツにしていた
――シンディさんが作詞作曲したナンバーたちを最初に聴いた時、どんな印象を受けましたか?
シンディと僕は20年以上前からの付き合いで、ハーヴェイもまた、この作品の前にも彼女と仕事をした経験がありました。ですから僕たちは、彼女なら素晴らしい作曲ができることは最初から分かっていたんですが、未知だったのは作詞の部分。シンディ自身ではなく登場人物の心情を書けるのかどうかが分からなかったので、最初にアプローチした際、まずは試しに3曲書いてみてくれるよう頼んだんです。そこで上がってきたのが、1幕冒頭の《The Most Beautiful Thing in the World(この世で一番素敵なもの》、最終的にはカットになったニコラのソロ《So Long Charlie》、そして《Not My Father’s Son》。
初めて《Not My~》を聴いた時、僕は泣きました。生涯忘れることはないであろう、特別な瞬間ですね。シンディはあれほどの大スターなのに謙虚で、人のためになることをしたいという思いが強い、とても“human human(人間らしい人間)”。『キンキーブーツ』のナンバーたちには、そんな彼女の心の大きさがそのまま反映されています。
Kinky Boots National Touring Company. Photo: Matthew Murphy.
――創作過程で、シンディさんやハーヴェイさんと意見がぶつかったことは?
今回に関しては、そうしたことがなかったんですよ。僕はその理由のひとつとして、3人の考え方がそもそも似ていたことがあると思っています。というのは、僕たちは性的マイノリティを支援したり、エイズ問題解決のための資金を集めたりする活動をそれぞれに行っているんですね。つまり『キンキーブーツ』のストーリーを伝えるにあたって、はじめから共同体のような状態にあったんです。実は僕とハーヴェイは、シンディが書いてくれたナンバーを9曲もボツにしたんだよ(笑)。それでも彼女は、文句ひとつ言わずに何度でも書き直してくれました。
シンディとハーヴェイだけじゃなく、創作チームは今もファミリーのような関係で、日本語版初日のことも、その日のうちにみんなにメールで報告しました。舞台の映像を添付して、「僕たちが信じる『キンキーブーツ』の力が日本でも発揮されて、これ以上誇らしいことはない!」と書いたら、シンディからはすぐに返事がきましたね。彼女は日本が大好きですから、とても喜んでいましたよ。
――象徴的なベルトコンベアーのシーンは、どのように誕生したのでしょうか。
……長くなりますよ(笑)。手短に言うと、そもそもはハーヴェイの脚本に「靴がベルトコンベアーに乗って運ばれてくる」と書かれていたんです。その上で踊ることができたら楽しいだろうなと思った僕の頭に、かつてルームランナーの上で歌ったり踊ったりするミュージックビデオを見た記憶が蘇りました。その映像をセットデザイナーに見せて、テーブルぐらいの高さのルームランナーを造ってもらったんですが、その上で踊ってみたら何度も転倒してしまって(笑)。工房と何度もやり取りをして手すりやスピード調節ボタンを付けてもらい、出来上がったものを使って10人のダンサーと4週間稽古場にこもって、完成したのがあのシーンというわけです。プロセス全体としては、あの1曲だけで6か月もかかっているんですが、とても楽しい日々でしたね。
Kinky Boots National Touring Company. Photo: Matthew Murphy.
――日本の印象と、日本の皆さんへのメッセージをお願いします。
日本に来たのは初めてですが、僕をハッピーにしてくれる国ですね。日本人キャストが全身全霊で作品に取り組んでくれたことがとても嬉しかったし、何より皆さん時間に正確なのが素晴らしい! 僕は幼い頃から、時間を守ることは相手に対する敬意の表れであり、逆に守らないのは無礼なことだと教わって育ちました。だから遅れられると腹が立つし、劇場に観客が遅れて来ることも好きじゃない。日本ではみんながオンタイムで動く、そのことがどんなに感動的かは、もう言葉には尽くせないくらいです(笑)。
そしてメッセージとしては、とにかくあらゆる人に『キンキーブーツ』を観てもらいたいですね。「自分が変われば世界が変わる」「相手を受け入れ、自分自身を受け入れる」といった、今日の世界においてとても大事なメッセージが詰まっていますし、何より死ぬほど楽しい作品ですから!
ジェリー・ミッチェル (撮影:大野要介)
(取材・文:町田麻子)
■日程・会場:
<東京>
2016年10月5日(水)~10月30日(日)東急シアターオーブ
<大阪>
2016年11月2日(水)~11月6日(日)オリックス劇場
■日程・会場:
<東京>
2016年 7月21日(木)~8月6日(土) 新国立劇場 中劇場
2016年 8月28日(日)~9月4日(日) 東急シアターオーブ
<大阪>
2016年 8月13日(土)~8月22日(月)オリックス劇場
■脚本:ハーヴェイ・ファイアスタイン
■音楽・作詞:シンディ・ローパー
■演出:ジェリー・ミッチェル
■日本語版演出協力/上演台本:岸谷五朗
■訳詞:森雪之丞
■出演:
小池徹平/三浦春馬
ソニン/玉置成実/勝矢/ひのあらた/飯野めぐみ/白木美貴子/施鐘泰(JONTE) 他
■公式HP: http://www.kinkyboots.jp/