アントニオ猪木対モハメド・アリのルールで「見応えのある凡戦をする」と語る田村潔司の胸中とは
田村潔司/慎重に言葉を選びながら試合への想いを熱く語った 撮影=シン・上田
7月31日に有明コロシアムで開催される武道イベント『巌流島 WAY OF SAMURAI 公開検証 Final』。元UFCファイターの菊野克紀、元十両力士の星風などが出場する見どころ満載のビッグマッチである。なかでも注目を集めているのが、UWFを皮切りにRINGSやPRIDEで活躍したプロレスラーの田村潔司の試合。元WBFボクシング世界ヘビー級王者のエルヴィス・モヨ(ジンバブエ)と、猪木・アリ戦ルールで一騎打ちを行うという。
猪木・アリ戦ルールとは、今から40年前の1976年6月26日、アントニオ猪木とモハメド・アリが日本武道館で試合をしたときに適用された、ほとんどのプロレス技が禁止という猪木にとっては圧倒的に不利だったルールのことである。
田村潔司/左側は今回の試合をマッチメイクした谷川貞治氏 撮影=シン・上田
総合格闘技が定着した現在、なぜこのルールで戦うのか。田村潔司がこの試合に対する意気込みを語った。
少年時代はアントニオ猪木派
――先日、テレビ放映された『モハメド・アリ緊急追悼番組 蘇る伝説の死闘 猪木VSアリ』をご覧になったそうで。
はい。録画して見ました。その次の次の日ぐらいに、この試合の話をいただいたんですよ。猪木・アリ戦を見たばかりで凄く影響されていたところに、このタイミングでオファーがあったので、面白そうだなと思いました。すぐには決断できませんでしたが、割とすんなりと(試合に出ることを)決めました
――この番組をご覧になった感想は?
まず試合の前に、両者の生い立ちというかストーリーが放送されて、とても興味深かったですね。そして試合は3分15Rでしたが、早送りせずに見ました。試合内容は凡戦と言われてますが、そういうイメージはまったくなくて、集中して見ることができました
――40年前にリアルタイムでは……。
僕が小学校1~2年生のときですから、おそらくテレビでは見てないと思います。猪木とアリというのは誰でも知っているじゃないですか。試合は見てないにしろ、猪木・アリ状態(立っているアリと寝ている猪木)という言葉が凄く耳に残っていたので。猪木さんとアリさんが戦ったということが、いつの間にか頭に入ってました
――猪木さんとお会いしたことはありますか?
はい、回数でいったら5~6回はあります。IGF(猪木が会長を務める団体)にも2回出たことがありまして、大会の打ち上げのときに、僕らが食べているテーブルに猪木さんが来られて、ちょっと声をかけていただきました
――猪木さんは、格闘家たちを相手に異種格闘技戦を繰り広げてきました。田村さんが格闘技色の強いプロレス団体のUWFに入門されたのは、猪木さんの影響もあったのでは?
僕が中学生のとき、金曜夜8時に見ていた猪木さんの試合は戦いでした。僕はどっちかというと、馬場さんよりは猪木さん派。(僕の中に)残ってますよね、戦いのプロレスというのが。昭和の新日本プロレスは戦いがメインで、キングオブスポーツでしたから
ボクサー対策にはローキック
田村潔司/キックが使えるかどうかが勝負のカギを握っている 撮影=シン・上田
――UWFとUWFインターナショナル時代の先輩レスラーの高田延彦さんも、猪木・アリ戦を彷彿させる試合を、元WBC世界ヘビー級王者のトレバー・バービックとしたことがありました(1991年12月22日)。
猪木・アリ戦をそのままを持ってきたと思うんです、レスリング対ボクシングという構図を。あの試合もルールが微妙でした。ローキックを使う高田さんと、ローを嫌がるバービックという展開がありました
――ローキックは反則と主張するバービックは、トップロープを飛び越えて逃げましたよね(1R2分52秒 試合放棄で高田の勝利)。
バービックにとってはローキックは禁止という認識だったかもしれませんね。でも、膝にサポーターを着けていた記憶があるんですよ。確か白いサポーターを。サポーターを着けているということはローを警戒しています。ローで蹴られると警戒してたのに、なぜ蹴るんだと文句を言うのか……。よくわからないんですけど
――1992年5月8日、田村さんも元WBCライトヘビー級王者のマシュー・サード・モハメッドと試合をされましたが、ボクサーと戦われた感想は?
ローで蹴って、相手が脚をもっていかれて倒れたんです。で、すぐバック取ってスリーパーホールドで勝ちました。僕らは蹴りも掌底も関節技も武器がいっぱいあるけど、ボクサーは殴るしかないじゃないですか。ロープエスケイプがあったとしても、僕らは武器が多い分、有利だと思うんですよ。当時の異種格闘技戦という枠の中では、プロレスラーの方が強いという答えは出ています。ただ、時は流れて総合格闘技が確立し、ボクサーも対策が練れるようになりましたけど
見応えのある凡戦になると断言
田村潔司/田村にとっては久々に素手で戦う試合になりそうだ 撮影=シン・上田
――今回の試合は、猪木・アリ戦ルールをベースに、現代風にアレンジしたルールになるようですが。相手はグローブを着用し、田村さんは素手ですか?
素手になると思いますね。僕はどっちかというと相手に合わすつもりです
――素手でやるとしたら、UWF時代の得意技だった掌底を使えますけど。
でも、理想を言えばオープンフィンガーグローブを着けたいですね
――正式なルールはまだ決まっていません。
前日の記者会見ぐらいまでにはルールが出来上がってくるのでは。当日決定だと、ちょっと困りますが
――ルールが決まらないと不安ではないですか?
不安はないですね。不安は、相手の体重が110キロというところだけですかね。110キロのボクサーのパンチを受けたことがないので。相手がミット打ちしている映像を見ると、しっかり重いパンチ打ってるなと。それを見ると威圧感とか恐怖心あります
――やはりローキックは使いたいですよね。
使いたいですよ、正直言うと。でも、ローキックが使えたら多分、僕が勝っちゃうと思うんです。だからローキックはないほうがいいと思います。ローキックがあると、ボクサーに勝ち目はありませんから
――この試合の注目すべきところは?
凡戦を期待してほしいですね。凡戦の意味の中に、見応えがあるかないかでいえば、あると思います。猪木・アリは見た目は凡戦ですけど、微妙な駆け引きがあって、見応えは凄くあるんです。で、今回の僕の3分5Rの試合、おそらく凡戦になると思います。でも、その凡戦に深い意味があることを期待してほしいですね
インタビュー・文=シン・上田