『三婆』キムラ緑子にインタビュー!「大竹しのぶさんと渡辺えりさんについて行くだけです(笑)」
-
ポスト -
シェア - 送る
キムラ緑子
昭和を代表する小説家、有吉佐和子が書いた名作の一つに「三婆」という物語がある。
急死した金融業の男の妻、男の妾(めかけ)、男の妹と三人の女性がひょんなことから同じ家に住むことになり、ぶつかり合い、そして老いても必死に生きようとする人間の姿を描いた本作は、映画、TVドラマ、そして何度となく舞台化されてきた人気作品だ。
今年11月から新橋演舞場公演に向けて上演される『三婆』では、男の妾・駒代をキムラ緑子が演じる。キムラが本作に感じている事、また、共演する大竹しのぶ、渡辺えりとの間柄などを伺った。
――まずは、「三婆」に出演が決定されたときのお気持ちを伺いたいのですが。
今まで錚々たる方々が演じてこられましたし、映画やTVドラマでも親しまれてきた有名な作品です。そんな名作に呼んでいただいたことは、もちろん光栄なことで、心底嬉しかったんですが、正直言って、私がそんな大役を演じられるんだろうか、私で大丈夫なんだろうか、という不安のほうが、最初は大きかったです。また、同時に、「あ~、私も三婆に呼んでいただける年代になったのか…」という感慨もありました。
とにかく長く皆さんに愛されてきた名作ですから、演じる側の責任は重大です。でも、あの歴代の出演者リストに私の名前も加わるのか、と考えたら、だんだん幸せな気持ちのほうが強くなってきましたね(笑)
キムラ緑子
――これまで他の方が演じられた「三婆」ってご覧になりましたか?
最近では、水谷八重子さん、浅丘ルリ子さん、山本陽子さんが出演された文化座さんの公演を拝見しています。他の座組みの「三婆」もいくつか拝見していますが、演出と役者の顔ぶれが異なると、少し手触りが違う持ち味の作品になるものなんだな、とつくづくおもしろい作品だなと感じました。今回も、私たちならではの三婆を、どう演じ、どうお見せしていくのか、考えていきたいと思っています。
――駒代の役作りについて、今考えていることは?
芸妓さんを演じるのは今回が初めてです。一般的に、周りに芸妓さんがいる環境ってそうそうあることではないですが、私の知り合いに、祇園の有名な芸妓さんだった方がいるんです。美しい方で、発言がピシッとしていて、とても魅力的。人に対する接し方が、とにかく上手くて、自分を律する力もある方です。あの出会いは、今回の役を演じるためにあったのかしら(笑)。丸々真似るわけではないですが、そんな人物のイメージは、心の中のどこかに置いておきたいですね。
キムラ緑子
――本妻の松子(大竹しのぶ)、男の妹・タキ(渡辺えり)、そして妾の駒代が一緒に暮らすって想像もつかない展開なんですが…。
三人は、それぞれ自分の人生を一人で生きてきた人です。自分の生き方がシッカリある人たちが一緒に住んだら、そりゃそう簡単にうまくいく訳がないと思うんです。違和感もあるでしょうし、喧嘩もあるでしょう。ケンカして毒舌吐きまくると本当に嫌な相手なら、そこで縁が切れてしまうと思うんです。でもそうならないのがこの三人。どこかで何か惹かれあうものがあるんですね。
無茶苦茶言い合うけれど、何かわかるところがあり、どこかかわいいところがある。そこまで言えるか!って思うくらい言いあえたら…それがすがすがしく見えるくらいに演じたいですね。
――キムラさんと共演するお二人(大竹しのぶ、渡辺えり)が役どころ以上に強烈ですね!
今回、何が嬉しいって、大好きなしのぶさんとえりさんとご一緒できること。お二人の「人」が好き。優しくて大きくて深いんです。本当にすごいパワーがある人たちだから、とにかくシッカリと付いていくだけです。この二人が一緒なら安心してぶつかっていけますから。
――三人が共演する、と聞いたときのお互いのリアクションは?
実は、三人一緒のときに、共演の話を聞いたんです。聴いた瞬間「えー!何の役やるのー!?」って盛り上がって。
演出の斎藤(雅文)さんは、ある程度役者に任せてくださる方なので、しのぶさんもえりさんも、グイグイと引っ張っていかれると思います。稽古場が、楽しいんだけど、皆で悩みながらもああやろうこうやろうと話し合いながら作っていけたら、どんどん面白くなってくると思います。それに、しのぶさんもえりさんも純粋に演劇が好きな方たちなので、この作品の話にとどまらず、いろんなお芝居の話で、みんなでワイワイやれたらいいですね。「劇団」みたいな感じで。
キムラ緑子
――今回の脚本を読まれたと思いますが、どんな印象を持たれましたか?
元の小説は昭和30年代の作品ですが、今の時代にぴったりだなと思いました。孤独な老人たちは最後どうやって暮らすんだろう、核家族化して、娘夫婦のところに転がり込んだけど追い出される父親の姿とか、ものすごく切ないんです。芝居自体は、人間喜劇としてとてもおもしろいんですが、現代日本の老後問題が透けて見えるようなところがあって、最後がヒヤッとするような不思議な感覚があります。
――本作は、観る側も自分自身の老いや老後を考えるきっかけになりそうですね。
そんなきっかけになるような演技をしたいですね。老後真っ只中の方もいれば、まだまだこれからという若い世代のお客さんもいらっしゃると思うし。
――今回出演者の中にジャニーズJr.の安井謙太郎さんがいることもあり、10代後半~20代のお客様も多くいらっしゃるのでは?と思うんです。
若い人たちにとって、自分自身の老後はまだピンとこないと思いますが、自分のお母さん、おばあちゃんはいますから、「ああいう風に歳を取っていくんだ…最後、独りぼっちじゃん。切ないなあ」って思われるかもしれないですね。
いずれ誰もが経験することで、そこに向かっていく作品ですから、どの世代でも共感できる物語だと思います。
キムラ緑子
(取材・文・撮影:こむらさき)
■会場:新橋演舞場
■原作:有吉佐和子
■脚本:小幡欣治
■演出:齋藤雅文
武市松子:大竹しのぶ
武市タキ:渡辺えり
富田駒代:キムラ緑子
辰夫 :安井謙太郎(ジャニーズJr.)
お花 :福田彩乃
瀬戸重助:段田安則
■公式サイト:http://www.shochiku.co.jp/play/enbujyo/schedule/2016/11/post_269.php