『エリザベート』ルキーニ役・成河にインタビュー!「葛藤したり翻弄される役のほうがおもしろいじゃないですか!」

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成河

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1996年に日本で初演されて以降、何度となく再演を繰り返してきた大人気ミュージカル『エリザベート』。帝国劇場での東京公演は先日無事終了し、これから福岡・博多座、大阪・梅田芸術劇場、名古屋・中日劇場にて上演されることとなる。本作でエリザベート(花總まり・蘭乃はな Wキャスト)の命を狙う暗殺者であり、この物語のストーリーテラーの役割を担うルキーニを演じるのが成河(ソンハ)だ。(山崎育三郎とのWキャスト)初めての帝国劇場作品への出演、そして役者や演劇に対して感じている事などをじっくり聞いてきた。



――『エリザベート』東京公演を走り抜けた、今のお気持ちを教えてください。

『エリザベート』という作品に対する想いがどんどん深まっています。お客様にとってどうだったのか、とか。最初に思っていたものとは違っていたなと。ルキーニの事を考えるからこそなんですが、お客様にこの物語をどう届けたいのか、日々考えていました。

――帝国劇場という大舞台に立ってみていかがでしたか?

こんなに明るいピンスポットを浴びるのは初めてでしたね。しかもピンスポットに常に追われているのって経験したことがなかったです。帝国劇場といえば、1800人ですよ!1800人のストーリーテリング。最初の1、2週間は正直「自分が持たない」と思った。客席全員に届けようと思うと台詞を一言発するだけで汗だくで。

演出の小池(修一郎)先生もおっしゃっていたんですが、ストーリーテラーとは、お客さん一人ひとりの手綱を一本にまとめて背負う役。僕がやりながら思ったのが「ストーリーテラーの基本はバスガイド」……1800人を引率するガイドなんですよ。なかなかな体験でした。

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――すでに大変さが伝わってきますが、上演中にしんどいと感じたことはありますか?

中日あたりかな。体力的にもね。僕は後先考えないタイプ。Wキャストでこういう日程で上演する作品に出るのも初めてだったので…。「休み」があるじゃないですか。僕、公演中に2連休とか今までなかったので、そこでリズムをつくるのに非常に苦労しました。毎日、夜1公演ずつあるほうが簡単にリズムは作れますし。

――昼公演に出演して、その日の夜は休み、翌日はその逆だったり全休だったり……ですしね。

そう。そこで2連休とかが挟まると、自分のリズムを崩してしまうことが多々ありましたね。ひとえに僕の経験不足からくるものなんですが。そういうスケジュールに慣れている方々は当たり前のようにやっていらっしゃいますが、僕は慣れてなかった。休めるだけ休もうとしちゃうと、今度は睡眠に支障が出てきたりね。寝すぎてしまったり。「休むためのリズム」は勉強になりました。

キャストが日々変わるのが本当に新鮮で!本番を重ねて熟成されていくものは自分の役だけでなく、相手役との関係性もあるじゃないですか。相手役との関係性や呼吸が熟成しかけた!…と思ったら相手が変わっちゃうんで。再び最初の人と組むときにはともすると少し後退したところから始めなければならないこともある。2連続、3連続で同じ相手とやれて「ああ、ここはこうやっていけば深まっていくのかも!」とピンときたところで相手が変わって違うアプローチをしていかねばならない…一度リセットされてしまうのがもったいないところかもしれませんね。

――逆に東京公演の手ごたえは?

「狂言回し」としての腹は座ってきました。僕自身、この作品への思い入れや愛情は日々深まっていたし、それがそのままストーリーテラーとしてお客さんに伝えていけたらなと思えるようになりました。

エリザベートたちがファンタジーの世界を見せている一方で、ルキーニは常にリアルを見せていました。「おとぎ話じゃないんだぜ!」というセリフにすべてが込められていました。それを言うための役ですからね。

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――自分と同じ役を演じる「もう一人」が存在する舞台でしたが、山崎育三郎さんの存在をどう受け止めていましたか?

Wキャストと一緒に稽古をする、という経験がなかったので、どんなものかなと楽しみにしていましたが、いかんせん稽古日数が少なかったので、もう相手を気にしている場合じゃなかった。小池先生の中でも「ルキーニ」という役をもう一歩、形づくりたかったとおっしゃっていたので、稽古中は僕もいっくん(山崎)もそれぞれに小池先生に必死で付いていってましたね。

で、本番が始まったらチケットが取れないから相手の芝居を観に行くこともできないし(笑)。

――成河さんが演じる役は、『エリザベート』のルキーニ、『アドルフに告ぐ』のアドルフ・カウフマン、『グランドホテル』のオットーといい、運命に翻弄されたり運命を背負ったり強いられたり…物語の中で非常に重い役どころを演じる機会が多く、またそういった役がすごく似合う方だなと思っていました。

僕は芝居を観るのが好きで好きで好きで!そこからこの世界に入ったようなものです。そして登場人物の葛藤だとか翻弄されていく姿を観るのが特に面白いと思ってます。だから役をお引き受けするときも、そういうとらえ方をしているんだと思います。この人はどこに矛盾があってどこで葛藤しているのかと…『アドルフに告ぐ』なんて葛藤の塊でしたから!(笑)でもそういう役のほうがおもしろいじゃないですか! 観ていてもね。

成河

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――今35歳ということですが、いつか組みたい、一緒に仕事をしたい方っていらっしゃいますか?

(ミュージカル『レ・ミゼラブル』演出家の)ジョン・ケアードさんとは、『夏の夜の夢』『十二夜』とご一緒しましたが、「またいつか一緒に作品を作りたいね」って話をしています。ジョンもそういってくださっています。それがとっても嬉しくて。ジョンからいろいろな事をたくさん教えていただきました。で、その夢を実現するにはどうしたらいいかなと考えています。もっと様々なことをがんばらなくてはならないです。

――お仕事のジャンルで言うなら、ミュージカルとストレートプレイとありますが……。

この質問を受けるたびに、いつも言おうと思っていることがあるんです。「ストレートプレイ」という言葉が好きじゃないんです。だって、おかしいでしょ?「ミュージカル」があることを前提に「ストレートプレイ」と言っているんですが、本来、逆ですからね。何千年も前のギリシャ悲劇はなんだったんだって話になります。資本主義的だったり消費社会的だったり……その中で生まれた言葉なんだと思いますし、今はアメリカでもイギリスでもそういう言葉を使うようですが。

「ミュージカル」というジャンルは、もっと革新的で変革期・発展途上期にある分野なんじゃないかなと思うんです。オペラと舞台演劇を融合させたらどうなるんだろう、とか、まだ実験の段階なのかと。

でも「ミュージカル」が世界スタンダードで、それ以外が「演劇」っていうジャンル分けっておかしいなって思います。その「ストレートプレイ」と言われる中身は重層的に広がっている訳だし。

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僕が思うのは仮に「ミュージカル」と「ストレートプレイ」という言い方をするのなら、それより前に「翻訳劇」というものを僕らはもう少し考えるべきなんじゃないかなと。『エリザベート』は「ミュージカル」である前に「翻訳劇」なんですよ。翻訳劇って、作るのが実はすごく大変で、特殊なものだし独特なつくり方をしなければならないんですが、どうしてもそのプロセスが省かれていることが多くて…翻訳家さんと話をするたびに皆さんおっしゃるのが、翻訳家さんは皆さんものすごく大変な想いをされていて、それでも100%の翻訳なんてないっておっしゃるんです。

日本にも優れた劇作家さんが山のようにいらっしゃいますし、…「ミュージカル」と「それ以外の演劇」と呼ばれるのは由々しき問題だと思っています。文化的土壌がやせ細っていくように思います。

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――今の話を伺って思うのですが、成河さんが身につけた知識や経験、考え方を若い世代に伝えていくことに興味はありますか?35歳という年齢ですと、そろそろそういう場面に出くわすこともあるように思うのですが。

稽古場でそういう事態が起こったり必要になったときは、何か自分にできることをしようとか探したりとかはしますね。僕自身も先輩や周りの人にいろいろな事を教えていただいたんですが……好きな言葉があって。「教わる気のないヤツは何を教えても育たない。教わる気のあるヤツは何も教えてなくても勝手に育つ」。たぶん会社に勤めている方はもっと実感があると思うのですが、役者業や芸事ってまさしくこの言葉がど真ん中なんじゃないかと。僕はいい背中を見て育ったという思いがあるので、もし自分にできることがあるのなら背中を見せてあげられたらな、と思いますね。もし若い人が「あ、ストプレでしょー?」とか言ってたら怒りますけど(笑)。

「俳優は感性で勝負、役者って感性で突っ走っていくものだ」というのが、何か風潮としてあってよくないなと思っています。学ぶ場所が少ないってことも原因の一つなんでしょうが、俳優の仕事って勉強しなければ絶対できないことだと思うんですよ。一生懸命やってもやってもまだ足りないくらい。自分で何をするべきか選ばなければならないし、選ぶためにはいっぱい舞台を観なければならない、何になりたいのかを考えなければならない…そのプロセスを簡単に省いてしまう傾向が今あります。そこに由々しきものを感じています。「センス」とか「感性」はあとからついてくるものであり、そこで勝負をさせるのは良くないと思いますね。

――最後になりますが、今回『エリザベート』は博多座をはじめ、地方でも上演されます。地方公演に向けて楽しみにしていることは?

博多座に初めて立たせていただくんですが、どの俳優さん、どのスタッフ、そしてお客様に聞いても、みんな「博多座は、すごくいい劇場だ」っておっしゃるんです。そこまで演者や作り手、観客に愛されている劇場っていいですよね。劇場は生き物のようなものだと思うし、その劇場ごとに独特の空気が生まれる。劇場ってそういうものであってほしいと常々思っているので本当に楽しみにしています。

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公演情報
ミュージカル『エリザベート』
 
【福岡】
■2016年8月6日(土)~9月4日(日)
■会場:博多座
http://www.hakataza.co.jp/sp/lineup/h28-8/index.php
 
【大阪】
■日時:2016年9月11日(日)~9月30日(金)
■会場:梅田芸術劇場メインホール
http://www.umegei.com/elisabeth2016/
 
【愛知】
■日時:2016年10月8日(土)~10月23日(日)
■会場:中日劇場
http://www.chunichi-theatre.com/presents/2016/10/10gatsu1.html

 

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