[対談]松居大悟×志磨遼平(ドレスコーズ)「表現者は全員幸せになるべきだ」~舞台『イヌの日』をめぐって
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(左から)松居大悟 志磨遼平(ドレスコーズ)
ゴジゲン主宰・松居大悟が、4年ぶりに劇団以外の公演を手がける。尾上寛之、玉置玲央、青柳文子ら同世代の俳優陣を集めて、8月10日より下北沢ザ・スズナリで上演する作品は長塚圭史の傑作戯曲『イヌの日』だ。本作上演に向けて松居が「この人と語りたい!」と熱望したお相手は、ドレスコーズの志磨遼平。松居は毛皮のマリーズ時代から志磨を敬愛し、2014年にはドレスコーズ『スーパー、スーパーサッド』のMVを監督している。そんな縁のある二人が再会し、大いに語り合った。
松居 『イヌの日』って、初恋の子を防空壕に閉じ込めてずっと世話をするけど手は出してない、という話で。その感じが志磨さんだなと思って、ぜひ話がしたくて。なんなら一緒に作れないかな、くらいのことを思っていました。
志磨 台本を見せてもらったけど、すごく面白そうだと思った。演劇は素人なので聞きたかったんですが、長塚圭史さんの原作と今回の上演台本はどう違うんですか? 松居くんはどういうことをやっているの?
松居 まずは、長塚さんに『イヌの日』をこういうふうにやりたいと提示して、それを長塚さんの世界観の中で、一本筋を通して調整していただいた感じです。
志磨 じゃあ、せりふとかは長塚さんが書いている?
松居 そうですね。『イヌの日』には、小さい劇場でやった初演バージョンと、大きい劇場でやった再演バージョンの二種類があるんですが、初演をベースにして、再演バージョンの要素を取り入れたいとお願いして。それに対して長塚さんから「じゃあ約束として、松居がせりふを作らないでほしい」という話があって。
志磨 演技を指導するのは?
松居 それは全部僕ですね。長塚さんから台本をいただいた後は僕がやっていて、台本も稽古場に入ったら任されて。で、劇中に登場する防空壕って、中津という男の子が15年かけて作った作品みたいな感じなんですよ。中にいる人も中津が思うように教育したのに、外の人が傷をつけて、どんどんグチャグチャになっていくみたいな……。一生懸命守ろうとしたものを作品にしたり、それが壊れてしまったりする様子は、集団作業にも似てるなって。
志磨 うん。素晴らしい設定だと思った。
松居 防空壕の中にいる人も、もしかしたら「もう出たい」とか、いろいろ思っているかもしれないんだけど、そこから出るっていうことはつまり、過ごしてきた15年間を否定することになるというか。
志磨 なるほどね。
松居 だから、外が地獄かどうかは重要じゃなくて、そこで過ごしてきた時間が重要で。僕は演劇が嫌いになりそうで、主宰するゴジゲンを休止していた時期があるんですけど。でも解散しないで、劇団を復活させたのは、劇団員の目次立樹と過ごしてきた8年が終わるのが嫌だったというところもあって。志磨さんもドレスコーズではなく、志磨遼平名義でやってもいいわけですよね。もはや毛皮のマリーズの曲もやるし、そこの境界は曖昧になっているというか。
志磨 僕は……、日本の中流家庭に育って、父母も健在で友達もいて。で、「もっと売れ線を」みたいなこともそこまで言われず(笑)、自分がかっこいいと思う曲を発表できるのは、すごく恵まれていると思っていて。で、それを失ってみたいという欲求がどうしてもある。破滅願望じゃないけど……、たとえば仲間がいても、僕の性分だと想像してしまうのは、その仲間と別れるときのこと。それに魅力を感じてしまうのが怖いけれども、だから僕はバンドを組んだからには絶対解散したかった。解散ライブをしたいと本当にずっと思ってた。きっとすごく感動するやろうなって。いざ解散してみると、なんてこともなくいつも通りで、なんかおにぎりとか食べて「じゃあ次は何日に」と言ったりして……、まだ予定もあったりするんだけど(笑)。
松居 なるほど(笑)。
志磨 でも、自分の脳内ではすごくロマンチックなことが起きていて、自分の大事なものが奪われることにドラマを感じてしまう。だから、ドレスコーズもたぶん、僕にとってはそういうドラマの一つで、それを志磨遼平と言っちゃうとプラスしかなくなるから。やっぱり幸せな状態から幸せを減らしていってドラマに見立てたい、という気持ちがすごくある。
松居 そういうことですか。
志磨 まぁ防空壕の中も外も、どっちにも幸せはあるだろうし、大変なこともあるとは思うけど。防空壕の中を僕らの世界だと限定することによって、その設定の中でなにがしかの関係が成り立っているんだけど、その幸福が崩れていく様子が、僕にとっては感動的なんだよね。たとえば奥田民生さんみたいなさ、渋谷直角さんのマンガじゃないけど、ああいう人はやっぱすごく強く見えて非ドラマチックというか……、すごく淡々と、なにがあっても「ん?」みたいな感じで進むという。斉藤和義さんとかもそうだろうけど、ああいう人は強いよね、人間として。
松居 志磨さんは役者としても活動することがあるじゃないですか。そのときって、パズルのピースになる側に回ると思うんですけど、それってどんな感じなんですか? (石崎)ひゅーいが僕の映画に出てくれたときに、彼はふだんソロで音楽活動をしているから、「みんなでものを作るって、なんて楽しいんだ」と言っていて。一人でやってきた人の考え方ってそうなんだろうなと思ったんですけど。
志磨 僕は、善し悪しの決定権が僕にないことが新鮮だし、不安でもあったというか。とにかく僕に決定権があれば「まぁ、これでよし」とするところまではいけるから。で、それを発表して「あかん」と言われたら「まぁ、しゃーないか」と思える。でも、他の人が「それで全然いいんですよ」と言って善し悪しを決定して、自分が「えっ!?」と思うものを人に見られるのはすごく不安。でも「好きに使ってください」という感じは、気持ちよくもありましたね。
松居 なるほど。
志磨 ぶっちゃけ今はうまくなりたい、と思っています。うまくなりたくなってしまいました。そういう気分なんですよ……。全然あれなんですけど、もしなにかあれば、ぜひ勉強させてください(笑)。
松居 ぜひ(笑)。そういえば、こないだゴジゲンで稽古をしていたときに、志磨さんが書かれたコラムをみんなで読んでたんですけど。
志磨 えー!
松居 海で楽しくやりながら曲を作ったら、聴く人にもその景色が見えて楽しくなる、というようなことを書かれていたじゃないですか。
志磨 あぁ、うんうん。
松居 そういうことって、創作にとって当たり前のことじゃないか、みたいな。つまり表現者は全員幸せになるべきだ。そうするとみんなに幸せを配れるんだって。苦しんで作ったものを見聴きして苦しくなったりするのって、自己満足になっちゃうんじゃないか。幸せになろうぜ、と書いてあるのを読んで、集団作業もちゃんと楽しくしないとダメだと思ったんですよね。そうすれば、そこで感じた匂いや記憶が作品に出て、みんなが幸せになるんじゃないかな、と今はものを作る上では考えてますね。
志磨 なにがしか偉そうなことを言うとすれば、ものを作る人は、ちょっと時代みたいものを感じ取って作品に反映すると思うんです。それで僕もすごくエッジィな、自分の中のヘイトフィーリングみたいなものを、ガーンとぶつけていた時期が確かにあって。そのときはたぶん、もう周りがぬるぬるしているように感じられて、嫌だったんでしょうね。
松居 ああ、わかります。
志磨 でも今は二人とも、作品の受け手に「幸せにあるべきですよ」というのを与えようとしている。それはたぶん自己満足ではなく、もうちょっと世の中をよくしようという大それた使命を、ものを作る人は知らず知らずのうちに受けているからだと思うんですけども。二人とも今は、そういうモードなんだろうと思います。「僕らが幸せにならないと、まず!」って。
(文:小杉厚 撮影:関信行)
【プロフィール】
1985年11月2日生まれ。福岡県出身。劇団「ゴジゲン」主宰。全作品の作・演出・出演を務める。12年に映画『アフロ田中』で監督デビューし、15年には『ワンダフルワールドエンド』がベルリン国際映画祭に出品。その他の監督作品に『スイートプールサイド』『私たちのハァハァ』など。ミュージックビデオ制作やコラム連載など活動は多岐に渡る。今冬には最新監督作となる映画『アズミ・ハルコは行方不明』が公開。
1982年3月6日生まれ。和歌山県出身。毛皮のマリーズのボーカルとして2011年まで活動。2012年にドレスコーズを結成。シングル『Trash』『トートロジー』、アルバム『the dresscodes』『バンド・デシネ』、E.P.『Hippies E.P.』をリリース。2014年9月より、ドレスコーズは志磨遼平のソロプロジェクトとなり、以降、アルバム『1』『オーディション』をリリース。2016年10月12日には3DCGアニメ映画「GANTZ:O」主題歌シングル『人間ビデオ』リリース。
◆日程:2016年8月10日(水)~8月21日(日)
◆会場:ザ・スズナリ(下北沢)
◆作:長塚圭史
◆演出:松居大悟
◆出演:尾上寛之、玉置玲央、青柳文子、大窪人衛、目次立樹、川村紗也、菊池明明、松居大悟、本折最強さとし、村上航/加藤葵、一色絢巳
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◆企画製作:ゴーチ・ブラザーズ
◆公演に関する問い合わせ:ゴーチ・ブラザーズ TEL.03-6809-7125(平日10:00~18:00)
◆公式サイト: http://inunohi.wixsite.com/2016