「リアル脱出ゲームと観客参加型演劇」 ~OM-2, PortB, 冨士山アネット~ by 大塚正美 [チケットプレゼント企画] 【特別企画:観客参加型演劇】
-
ポスト -
シェア - 送る
●観客参加型の醍醐味は自分だけの物語が作れること
これら黄色舞伎團2を体験して以降、同じように観客参加型の演劇はないかと探し、実際に行ってみたりしたが、強く心に残るものはなかった。野外劇も観る/観られる関係を飛び越えるものではない。いつしか僕は20年以上、演劇鑑賞からほとんど離れてしまっていた。
しかし、2010年以降、冒頭に書いた『夜の遊園地からの脱出』をきっかけに、『リアル脱出ゲーム』にはどんどんのめり込んでいった。スタジアムや遊園地といった広い会場で大人数で行うものから、ライブハウスで5~6人ごとのチームで争うもの、マンションの一室で10人1チームで行う小規模なものまで、かなりの数の公演に参加した。演目によっては、目隠しをされて誘導されたり、役割を与えられ台詞を言うような要素もあり、参加欲を十分に満たしてくれる。
『リアル脱出ゲーム』の公式サイトには、こう書かれている。
「見知らぬ人とともに閉じ込められるという限定された状況でこそ、人は自由に熱狂できる。なぜならその場所にはきちんと自分で切り開くべき物語があるからだ」
これは『リアル脱出ゲーム』の魅力であると同時に、観客参加型演劇の醍醐味でもあると思う。いずれも各公演ごとに限定されたルールがあり、参加者はそれに従って動くことで、「自分だけの物語」を作ることができる。役者ではなく、参加者が主人公になれるのだ。
この『リアル脱出ゲーム』を体験して以降、同好の志と知り合いになり、近年も新たな形の観客参加型演劇やパフォーマンスが多く行われていることを知った。例えば、2010年のフェスティバル/トーキョーで行われた『パブリック・ドメイン』。これは、ヘッドフォンから流れるプライベートな質問に応じて動くことで、参加者による群集劇が形作られていくパフォーマンス。同様に、2011年の横浜トリエンナーレで行われた『サトルモブ』も、参加者がヘッドフォンから流れる指示に従って行動し、他の参加者とともに物語を作っていく演目だった。
スタッフである視覚障害者のアテンドによって、真っ暗闇に連れて行かれる『ダイアローグ・イン・ザ・ダーク』(2009年〜)は有名かもしれない。視覚が制限されると他の感覚が敏感になり、今までになかった風景を感じ取ることができる。また、暗闇で無言でいると存在が消えてしまうので、他の参加者と積極的にコミュニケーションせざるを得ない。これは新鮮で、単純に楽しい体験だった。
こういった近年行われた参加型演劇の中でも、個人的に特に気に入ったものを2つだけ紹介したい。
●東京全体を巡るゲーム要素の濃い演劇
1つ目は、PortBの2010年フェスティバル/トーキョー出展作品『完全避難マニュアル 東京版』。最初に参加者がWebサイトで簡単な心理テストに答えると、自分が行くべき「避難所」と呼ばれる場所の地図が提示される。これが山手線の29駅すべての周辺にある。どんな場所なのか事前には示されていない。実際に自分の足を使って行ってみて初めて、「避難所」の正体が分かるという観客参加型演劇だ。
僕は29個所全部は回れなかったが、いくつかの「避難所」には行くことができた。囲碁サロン、ブックカフェ、デパートの屋上など。これらに実際に行き、そこが「避難所」にされている理由を考えるわけだ。
Port B『完全避難マニュアル 東京版』
回った中で思い出深いのは、目黒の避難所。Web上の地図には、避難所への行き方とともに、こんな記述があった。
「新宿への「トンネル」が通じています。一日先着5名まで。黒いカバーのついた本が本棚に並んでいます。(中略)一冊を手に取り、店を出る際レジの店員さんに避難マークをお見せください」
目黒駅から地図通りに道を辿ってみると、「避難所」は普通のコンビニだった。その雑誌コーナーに、本当に黒いカバーでくるまれた本がある。1冊をもらい外に出てカバーを開いてみたら、中身は村上春樹の『ねじまき鳥クロニクル』だった。ページが折られた箇所を読むと、主人公が新宿に西口にたたずむ様子が描かれている。また、新宿西口の「新宿の目」から都庁の展望台へのマップも同封されている。要するに都庁の展望台が、目黒のコンビニから通じる次なる「避難所」だというのだ。小説を読みつつ、僕はわくわくしながら新宿に向かった。現実世界を舞台に物語が展開されるゲームをプレイしている感覚だった。
ちなみに同じPort Bでは、地図とラジオを手に指定されたスポットを巡り、その場所でしか聞けない話に耳を傾ける『光のない』(2012年)や、その拡大版『東京ヘテロトピア』(2013年)も体験した。いずれも、現実世界にもう1つの地図が重ねられたような、リアルRPGとも言える不思議な感覚を味わうことができた。