#野水映画 “俺たちスーパーウォッチメン” 第十回レビュー『ライト/オフ』
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TVアニメ『デート・ア・ライブ DATE A LIVE』シリーズや、『艦隊これくしょん -艦これ-』への出演で知られる声優・野水伊織。女優・歌手としても活躍中の才人だが、彼女の映画フリークとしての顔をご存じだろうか?『ロンドンゾンビ紀行』から『ムカデ人間』シリーズ、スマッシュヒットした『マッドマックス 怒りのデス・ロード』まで……野水は寝る間を惜しんで映画を鑑賞し、その本数は劇場・DVDあわせて年間200本にのぼるという。この企画は、映画に対する尋常ならざる情熱を持つ野水が、独自の観点で今オススメの作品を語るコーナーである。
あなたは幽霊の存在を信じるだろうか? 私は信じる派だが、信じないという方も多いだろう。今回紹介する作品は、そんな信じない派の監督、デビッド・F・サンドバーグが、『死霊館』『ソウ』シリーズのジェームズ・ワンのプロデュースで撮りあげた長編映画デビュー作。監督は幽霊を信じないけど作品は超弩級幽霊ホラー! それが本作『ライト/オフ』だ。
(C) 2016 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC ALL RIGHTS RESERVED
ひとり暮らしのレベッカの元に、実家で暮らす幼い弟が「電気を消すと何かが来る」と助けを求めてくる。レベッカは弟のため“何か”の正体を突き止めようと実家に乗り込むが、たくさん用意した明かりは、一つ、また一つと消えてゆく。果たしてその“何か”の正体とは。そして、なぜ襲いかかってくるのか。
『ライト/オフ』は、YouTubeで1億回以上も再生されたサンドバーグ監督の短編『Light Out』を長編映画化した作品だ。誰もが一度は考えたことがあるであろう、「暗闇にもしも何かが潜んでいたら?」という想像を深化させたのだという。
冒頭では、短編そのままに、電気を消すと“何か”が現れ、点けると消えるシーンが繰り返される。「電気を消して何かいると思ったら、そんな何回もパチパチ確かめないで!」と叫びたくなるほど背筋がヒヤッとする場面だ。もちろん怖がらせるための仕掛けだから当たり前なのだが。
この不気味さには、以前紹介した『心霊ドクターと消された記憶』(16)でも触れた、“湿度がある”和製ホラーと同じ恐怖を覚えた。最近の海外ホラーの雰囲気は、クリーチャーを使った派手なものではなく、つねに嫌な感覚がまとわりつくような日本的な怖さを感じることが多い。今回の『ライト/オフ』には、特に日本のホラーゲームや漫画のようなエンタメ性を感じた。
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『零』という和製ホラーゲームシリーズでは、まさに懐中電灯のようなもので幽霊を照らして怯ませる攻撃方法があるし……などと思っていたら、どうやらサンドバーグ監督は『呪怨』シリーズや、ホラー漫画家・伊藤潤二先生の作品など、日本のホラーに精通しているよう。日本のホラー漫画好きとはいい趣味をしている! 私も伊藤潤二作品を全部持っているホラー漫画収集家なのでうれしくなってしまった。伊藤潤二先生といえば、映画化・ドラマ化もされた『富江』が有名。『富江』をはじめとした伊藤潤二ワールドのクリーチャーは、ウェッと気持ち悪くなるようなものが多く、怪奇現象のほとんどは原因が明かされずに終わる。『ライト/オフ』が、そんな気味悪さ(褒め言葉である)をリスペクトして作られているのなら、なるほど納得というものだ。
本作で暗闇に現れる“何か”の正体は、ストーリーが進むごとに徐々に明かされていく。最終的に明らかになるその風貌にもインパクトがあるのだが、特筆すべきはそのクリーチャーっぷりではない。どんな姿をしているのか暗闇の中で全貌をつかめないこと、そして、それがいつどこにでも現れるということだ。
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“よくわからないもの”というのは、対処のしようが無いから怖い。真夜中に登場!みたいなイメージが強い幽霊と違って、本作の“何か”はたとえ昼間でも暗がりさえあればやって来る。さらにただ現れるだけでなく、逃げれば追いかけて来て、部屋のドアをガチャガチャドンドン……! サンドバーグ監督は我々観客に息つく間を与えない。私は、暗闇はともかく追いかけられるのが異常に怖いので、柄にもなく体をビクッと強張らせてしまうことも少なくなかった……。
しかし、この作品は怖いだけではなく、家族の絆や確執も描いていると私は感じる。テリーサ・パーマー演じる主人公・レベッカは色っぽい美人。しかし、部屋にはメタル音楽のポスターやドクロのオブジェなどが沢山あり、どちらかというと不良っぽいイメージだ。おまけに彼氏のブレッドはタトゥー入りのバンドマンと、B級ホラーなら真っ先に餌食になりそうなカップルなのだが(笑)。
ただし、レベッカは、弟・マーティンのために立ち上がる強さを持っている。
とはいえ、怪異に恐怖する一面もあれば、母親に反発する年相応な一面もある。そんなどこにでもいる女の子だからこそ、私は身近に感じ応援したくなってしまった。
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一見クールで何事にも興味がなさそうに思える彼女の心内が次第に明かされ、わだかまりが解けていくのは、ある意味作品の本質なのかもしれない。弟のマーティンは自分よりも母親のことを気遣える、幼いながらにしっかりした子。それなのに、姉弟の母親はちょっと駄目な人だ。うつで悩んでいても、薬も飲まずセラピーにも行かず、自分の元を離れたレベッカに恨みごとばかり。自分勝手な面が見え隠れする。観ていて「あーもう!しっかりしてお母さん!」と思いたくなること間違いなし。
そんな母親にはレベッカもウンザリしているのだが、それでも親子の縁は切っては切れないもの……。その親子関係のもつれがクライマックスに効いてきて、あなたの心にも何か感じるものを残してくれるはずだ。私のように涙もろい方は、念のためハンカチをお忘れなく!
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映画『ライト/オフ』は8月27日よりシネマート新宿、シネマート心斎橋ほかにて公開。
映画『ライト/オフ』
(2016年 / 原題: Lights Out / アメリカ / 81分 / シネスコ / デジタル)
監督:デヴィッド・F.サンドバーグ
製作:ジェイムズ・ワン
脚本:エリック・ハイセラー
出演:テリーサ・パーマー / ガブリエル・ベイトマン / ビリー・バーク / アレクサンダー・ディペルシア / マリア・ベロ
配給: ワーナー・ブラザース映画
電気を消したら“それ”は来る
レベッカはある日、離れて暮らす幼い弟から思いもよらない話を聞かされる。
「電気を消すと、何かが来る」。“それ”は一体何なのか?なぜ彼女たちを襲うのか? やがてレベッカたち家族に隠された恐ろしい秘密が明らかになる時、史上最恐の一夜が幕を開ける……。