『中津川 THE SOLAR BUDOKAN』が『中津川フォークジャンボリー』から受け継ぐ遺伝子

コラム
音楽
2016.9.6
「全日本フォークジャンボリー1971」実況盤の内ジャケットより

「全日本フォークジャンボリー1971」実況盤の内ジャケットより


2016年9月10日(土)11日(日)の2日間にわたって岐阜県・中津川公園内の特設ステージにおいて『中津川 THE SOLAR BUDOKAN 2016』(略称:NTSB)が開催される。現時点(9月6日)でなんと56組ものアーティスト出演が予定されている。オーガナイザーを佐藤タイジ(シアター・ブルック)が務め、“太陽光でロックする!”をスローガンに、3.11以降のエネルギー政策に警鐘を鳴らす、気骨のある音楽フェスだ。といっても、自然との融和を配慮したイベントだけに、会場の雰囲気は至ってなごやか、若者ばかりではなくファミリーなども楽しめると好評で、2013年より続いて来た。

中津川と聞いて、或る世代がすぐに思い浮かべてしまうのが、現在より約半世紀前に開催された『中津川フォークジャンボリー』(正式名称は全日本フォークジャンボリー)であろう。野外フェスの先駆けと言われる。その第一回目は1969年8月9日に開幕、あの有名な『ウッドストック・フェスティバル』(1969年8月15日~18日)よりも約1週間早い開催だった。第一回が好評だったため、同イベントは1971年まで三回開催された。

昨今の日本の音楽界では思想的・政治的な発言をするのが憚られるような空気が概ね蔓延しているが、フォークジャンボリーの頃は国中が、特に若者たちが政治的に非常に熱かった。いや、日本だけでなく世界中が反体制の熱気に満ちあふれていた。各地で学生運動が起こり、民衆はさかんにデモをおこなった。その矛先はもちろん権力に向けられていた。ベトナム戦争が泥沼化、米ソ対立の軍事的構図から世界の誰もが無関係ではいられなくなっていた。そんな時代背景の中から、従来の商業的なカルチャーとは一線を画した新しいカウンターカルチャーが音楽・美術・演劇・ダンスなど様々な表現ジャンルから次々と生まれてきた。そのひとつがフォークソングだった。

ピート・シーガー、ピーター・ポール&マリー、ボブ・ディラン、etc.。彼らにより先導される形で、商業的ポピュラーソングとは一線を画した、社会的なメッセージ性の強いフォークソングがアメリカで流行し、その影響は世界各国、もちろん日本の若者たちにも波及した。そんなムーヴメントの一つの象徴として企画されたのが『中津川フォークジャンボリー』だった。中津川労音を中心とする実行委員会は、前述の通り1969年8月9日~10日に最初のジャンボリーを開催した。会場は福岡ダムの人造湖・椛の湖の湖畔。近くの山を切り崩して整地し、イベント会場を設けた。出演は、五つの赤い風船、岩井宏、遠藤賢司、岡林信康、上条恒彦、ジャックス、高石ともや、高田渡、田楽座、中川五郎。高石事務所の協力を得てアーティストが集められたので、同事務所所属の関西フォーク系やURCというインディーズ・レーベルに関係する、メッセージ性の強いアーティストが多かった。約3,000人の動員を集めて、日本初の大規模野外フェスは成功裡に終わった。

その勢いを駆って、翌1970年8月8日~9日に第二回目が開催される。出演者が増え、観客も約8,000人となった。アマチュアも出演できる部門が設けられ、当時高校生だったなぎら健壱らが出演した。

さらに、その翌年の1971年は8月7日~9日と期間を三日間に拡大、観客も約25,000人まで膨らんだが、トラブルが続出し、収拾をつけることが困難となったため、この回を以てフォークジャンボリーは打ち切りとなった。

当初このイベントの最大のスターは岡林信康だった。「山谷ブルース」「友よ」など数々のプロテストソングの名作を歌い、“フォークの神様”と称せられていた。その“フォークの神様”が第二回の時にロックバンドを率いて登場し、聴衆をアッと驚かせた。それはまるで元祖“フォークの神様”というべきボブ・ディランがザ・バンドを率いて登場したかのような衝撃だった。「私たちの望むものは」などの名曲で岡林の伴奏を務めたのは当時ほとんど世間に知られていないロックバンドで、その名をはっぴいえんどといった。

第三回は、あがた森魚とはちみつぱい(ムーンライダースの前身)やガロなども参加したが、なんといっても語り草となったのがサブステージに登場した吉田拓郎だろう。音響トラブルでマイクが使用不可となった彼は、小室等と六文銭を伴奏に呼び「人間なんて」を延々2時間近く生歌で歌った。そこに会場中の観客が詰めかけトランス状態になった。さらに、その後、メインステージでは運営のありかたを巡って観客と主催者による緊急討論会が始まるなどして、状況はかなり混沌としたものになった。そのあおりを喰って出演できなくなったのが、はっぴいえんどだった……。

「全日本フォークジャンボリー1970」記録DVDジャケットより

「全日本フォークジャンボリー1970」記録DVDジャケットより

話をNTSBに戻すと、反原発といったメッセージを前面に掲げていることで、フェスとして異色視する向きも多いだろう。しかし本来、音楽の野外フェスとは、思想やメッセージ性を帯びながら生まれてきたものだった。なかんずく、フォークジャンボリーが行われた中津川の地で開催されるフェスなのだから、その思想的DNAが健在であることは祝福されるべきであり、そこに参加する人々は“中津川”の名に恥じぬ意義深いフェスとして誇りをもって楽しむことができる。

「思想的DNAはわかった、しかし音楽的遺伝子は?」といった問いかけが今更ながら出てくるかもしれない。今回の出演アーティストに「フォークソング部」というのがある。NAOKI(SA)&上原子友康(怒髪天)のユニット。よもやそこにフォークジャンボリーへのオマージュがないはずはなかろう。だが、もっと直接的なのが見出せる。「LIVE FOR NIPPON ~Pray For 熊本~」、高田漣・東田トモヒロ・山口洋のユニットである。このうち高田漣は、言うまでもなく、前述三回のフォークジャンボリーすべてに出演した故・高田渡の息子である。ここにはレトリックではない本当の遺伝子的繋がりが見出せてしまうのだ。

さらに、である。NTSBに参加する「AFTER SCHOOL HANGOUT」というユニットには、鈴木茂の名を見ることができる。彼こそは、前述したはっぴいえんどのギタリストとして、大瀧詠一・細野晴臣・松本隆とともに史上初の日本語ロックに挑み、その後のJ-POP、City-Popの礎を築いた男である。

そういうこと(フォークジャンボリーのこと)を踏まえれば、また別の感慨を覚えながら、NTSBを深く味わうことができるというもの。「そんな半世紀も前のこと、わかりっこない」と思う世代も多かろうが、このインターネット時代、各種資料がネットに存在する。youtubeを探せば映像記録さえ豊富だ。もちろん正規のライブ音源もCD化されているし、記録映像もDVD化されていて、いずれも入手は難しくない。また、最近では週刊誌のサンデー毎日が二週に渡って(2016年7月24日、31日)、フォークジャンボリーを回想する山本コータローと杉田二郎の対談を掲載した。これがとても面白いので未読の人は図書館その他で探すとよいだろう。

(文:安藤光夫)

公演情報
中津川 THE SOLAR BUDOKAN 2016

開催日時
Day1: 2016年 9月10日(土)
Day2: 2016年 9月11日(日)
※ 雨天決行(荒天の場合は中止)
出演: 
9月10日(土)
シアターブルック、AFTER SCHOOL HANGOUT(林立夫&沼澤尚 with 鈴木茂, 森俊之, 沖山優司 featuring Leyona and 高橋幸宏)、チャットモンチー、DJダイノジ、怒髪天、H ZETTRIO、麗蘭、ましまろ、MONGOL800、NAMBA69、OVERGROUND ACOUSTIC UNDERGROUND、RIZE、SA、Spinna B-ILL、10-FEET、Dragon Ash、SCOOBIE DO、THE BLACK COMET CLUB BAND、cro-magnon、加藤登紀子、シシド・カフカ、中川敬(ソウル・フラワー・ユニオン)、オレスカバンド、NO GENERATION GAPS(うじきつよし・佐々木亮介)、Dachambo、DJ NOBU A.K.A. BOMBRUSH! with IO, DONY JOINT & YOUNG JUJU (KANDYTOWN / BCDMG)
Village Of illusion
LIVE: フォークソング部  : NAOKI(SA)&上原子友康(怒髪天)、藤井一彦(THE GROOVERS)、Rei 
DJ:SEIYA、DJ PAIPAI & SWEET RAVE、DJ 吉沢dynamite.jp
Midnight illusion 
瀧澤賢太郎、DJ EMMA、KEN ISHII
 
9月11日(日)
ACIDMAN、a flood of circle、赤い公園、THE COLLECTORS、ダイノジ(Talk&Live)、the HIATUS、インディーズ電力 大取締役会、Nothing’s Carved In Stone、THE King ALL STARS(加山雄三、佐藤タイジ、古市コータロー、名越由貴夫、ウエノコウジ、武藤昭平、山本健太)、八代亜紀、さかいゆう feat. 福原美穂 、the LOW-ATUS、ROVO
浜崎貴司 GACHI SOLAR SPECIAL(浜崎貴司、仲井戸“CHABO”麗市、佐藤竹善(Sing Like Talking)、PES(RIP SLYME)、山田将司(THE BACK HORN))、MANNISH BOYS、LIVE FOR NIPPON 〜Pray For 熊本〜 (高田漣.・東田トモヒロ・山口洋)、 片平里菜、黒木渚、真心ブラザーズ、ストレイテナー、チャラン・ポ・ランタン、BimBamBoom、Young Juvenile Youth、OZROSAURUS、ROTH BART BARON、TheSunPaulo、Yasei Collective、iCas(インディーズ電力 大取締役会)
(タイムテーブルは後日発表)
 
開催場所:
岐阜県中津川市 中津川公園内 特設ステージ
(岐阜県中津川市茄子川1683-797)

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