パリの展示レポート:パリの高級百貨店が「下町育ちのストリート・アート」を異例の展示
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パリの左岸、高級地区にある世界最古のデパート『Le Bon Marché』(以下、ボン・マルシェ)にて、驚くべき展示会が開催中と知り足を運んでみました。
この高級デパートは、日本人がイメージする「ザ・おパリ」な高級ブランドや店員、客が勢ぞろいし、一般市民が買い物をする場所ではない特別な空気が漂う場所です。このエリアにあまり用事のない私は、ボン・マルシェに入る前から背筋が伸び、ちょっとした緊張を感じてしまいます。
歴史ある建造物としても美しいこのデパートは、ただのデパートとしてではなく、新しい文化やアートの発信スポットでもあります。特に定期的に開催される、ショーウィンドウと吹き抜けになった空間を贅沢に使う展示会は、美術館顔負けの素晴らしいもので、 毎回パリジャンの好奇心をひきつけています。最近では中国人の現代アーティスト『アイ・ウェイウェイ』や、 95歳で現役活躍中のファッション・アイコン『アイリス・アプフェル』らの展示会が開かれたばかり。
私が冒頭で、「このボン・マルシェにて驚くべき展示が開催」と記したのは、こうした世界的アーティストを取り上げるボン・マルシェが今回、異色のアーティストの展示開催に至ったからです。というのもそのアーティストとは、パリ下町で活躍するストリート・アーティスト。その名は、フレッド・ル・シュヴァリエ。
フランス人でも彼の名前を聞いてもピンとくる人は少ないでしょう。でも、パリジャンならば誰でも彼の作品を一度は見たことがあるほど馴染みがあります。なぜなら、一度目にしたら忘れられない独特な顔を持つキャラクターが特徴的なのです。
特に、彼の作品が見られるのはボン・マルシェのある高級地区とは真逆のパリの北部・東部など、下町の小さな通りに出現します。事実、彼にとって高級エリアで展示会をするのは初めてとのことだとか。
筆者自身、パリ東部の20区の移民街に長いこと住んでいたので彼の作品は見慣れており、散歩がてら「あ、ここに彼の新しい作品が増えてる」という具合にとても身近なものでした。
それが今回、パリの下町とは遠い存在のボン・マルシェが、ストリート・アーティストであるシュヴァリエ氏のアートでハイジャックされているのです。ショーウィンドウや、本館吹き抜けでの展示はもちろんのこと、別館食品店で彼のアートがプリントされたエコバックや、お菓子まで販売されているという取り上げっぷり。
下町のパリジャンに、「いつも見慣れた私のアート」と親しまれているストリート・アートが、一気にパリのブルジョワ高級ステージに出現したことで、芸術品として広く認められることになったのです。
その驚きはうれしくもあり、なんだか寂しいような気もします。まるで、近所の友人がいきなりテレビで引っ張りだこの大スターになって、遠いところへ行ってしまったような……。今回の展示を見て、一番感じたのはそんな気持ちが入り交じった複雑な衝撃でした。
世界的に見ても、「ストリート・アート」といえば、ニューヨークやロンドンといった都市で盛んなイメージがありますが、実はパリでは1980年代頃からストリート・アートが見られるようになり、伝説のアーティストも存在しています。それまで知る人ぞ知る「下町アート」だったのが、じわじわと観光客にも知られ始め、パリ下町のストリート・アートを巡るツアーなるものも登場しています。
現在ではボン・マルシェで世界の名だたるアーティストと並んで、パリ下町のアーティストがスポットライトを浴びている光景を見ると、これからますますパリのストリートに世界が注目するのは間違いなさそうです。
ショーウィンドウは、彼がいつもそうするように、ストリート・アート風にデパートの壁に直接貼られていました。
日時:9月2日~9月15日
会場:Le Bon Marché @パリ
展示会オフィシャルサイト:http://www.lebonmarche.com/paris/fred-le-chevalier