『ヨコハマトリエンナーレ2017』タイトルは「島と星座とガラパゴス」に決定 養老孟司やスプツニ子!らが登壇した記者発表会レポート

2016.10.11
レポート
アート

ヨコハマトリエンナーレ2017「島と星座とガラパゴス」構想会議メンバー

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横浜市で3年に一度行われる現代アートの国際展『横浜トリエンナーレ』。2017年8月4日~11月5日に第6回目が行われることが決定している。10月11日に行われたタイトル・コンセプトの記者発表では、ヨコハマトリエンナーレ2017ディレクターズの三木あき子、柏木智雄、逢坂恵理子、構想会議メンバーを務める養老孟司、スプツニ子!、リクラット・ティラヴァーニャ、スハーニャ・ラフェルの計7名が登壇した(※鷲田清一、高階秀爾はビデオメッセージで参加)。

左から、養老孟司、スプツニ子!

ヨコハマトリエンナーレ2017では、あえて一人の芸術監督を置いて統率するのではなく、チームでの協議制を採用している。国籍や世代を超えた複数のメンバーからなる「構想会議」での議論によって、既存の枠組みにとらわれない、自由な企画構成を目指そうという取り組みだ。

そんな構想会議を経て決定した本展のタイトルは、「島と星座とガラパゴス」。一見つながりが不明瞭に感じられる「島」「星座」「ガラパゴス」というキーワードだが、実はこれらには共通点がある。「島」は、独立したひとつの存在でありながらも、複数集まることで日本列島のような新しいひとつの集合体を形成する。「星座」も、同じように「星」という独立した存在を接続して考えられたものだ。「ガラパゴス」は閉鎖された環境でありながらも、その内には独自の進化や多様性を秘めているという二面性を持つ。

つまり、この三つのキーワードからは、孤立や接続性、想像力や道しるべ、独自性や多様性など、様々な共通テーマを見出すことが可能なのだ。こうして決定したタイトルを手掛かりに、複雑化している社会をアートの力で切り拓こうというのが、本展のキーコンセプトとなっている。

ヨコハマトリエンナーレ2017 イメージビジュアル

イメージビジュアルには、タイトルの「ガラパゴス」を象徴する存在として、「ガラパゴスゾウガメ」が採用された。亀の上に描かれているのは、横浜の街並み。これは、古代インドの宇宙観を表す「世界亀」から着想を得ている。デザインは、ニューヨークなどでも活躍する、クリエイティブ・ラボ「PARTY」が担当する。

ヨコハマトリエンナーレ2017 主会場案内図

主会場となるのは、横浜美術館、横浜赤レンガ倉庫1号館。どちらも横浜のシンボル的存在だ。そもそも、横浜という街を紐解くと、日本の近代化の拠点となった「開港」の地という歴史が浮かび上がってくる。さらに2017年は、日本における封建制の崩壊と近代化の起点となった「大政奉還」から150年という節目の年でもある。そうした歴史的背景も踏まえて、横浜という都市の独自性をアートで表現していくことが、この国際展のひとつのテーマになっているのだ。

ヨコハマトリエンナーレ2017ディレクターズ(左から、三木あき子、柏木智雄、逢坂恵理子)

2001年に初めて横浜トリエンナーレが開催されてから、今年で早15年。「この間に、世界は私たちの予想よりもずっと早いスピードで変化し続けてきたと思います」と、逢坂は語る。インターネットやSNSの急速な発達で個人の孤立化が進み、高度に複雑化した環境の中で、情報のみがひたすら氾濫していく。さらに、国内では東日本大震災、海外でも紛争や難民・移民問題、英国のEU離脱など、世界情勢も大きく揺らぎ続けている。そんな不安定な社会において、アートはどのような働きを見せるのだろうか。

養老孟司

養老は、「ネットなどのデジタルが『0と1で構成される世界』だとすると、アートは『0と1の間に存在する世界』。この間は無限です。でも、今の世の中を見ていると、0と1しかないように感じられてしまう。ネットに氾濫する情報のコピーが、今や世界のほとんどを動かすようになってきたからです。そこに対して、逆方向からアプローチをするのがアートなんですね」と、現代のネット中心社会に警鐘を鳴らす。世の中の一般常識や理論では太刀打ちできない問題に解決の糸口を提示するのが、アートの持つ可能性であると語った。

スプツニ子!

構想会議メンバーの中でも最も若い世代であるスプツニ子!は、「もうひとつアートにできることは、世界中に点在する『ガラパゴス』を繋げる役割です。宗教の違いなどがもたらす人種間の摩擦を、アートの力で少しでも緩和できるのではないでしょうか」と、言葉を続ける。

スハーニャ・ラフェル

 

本展のキーワードである「島」との繋がりが非常に色濃いのが、海外メンバーのスハーニャだ。彼女は島国・スリランカで生まれ、オーストラリア、香港と島国を渡り歩いた経験を持つ。そんな島国で培った自身のアイデンティティと、ディレクターとして多くのアジア人アーティストと交流してきた経緯から、複眼的な視点が持つ重要性について説いた。

 

リクリット・ティラヴァーニャ

自作のカレーを振る舞うパフォーマンスで有名なタイ人作家のリクリットは、過去にも二回、アーティストとして横浜トリエンナーレに参加している。「今回は違う役割で参加できて、とても嬉しく感じています」と挨拶を述べ、アメリカの奴隷解放を例に挙げながら、ネガティブな考え方からポジティブな考え方へと展開する歴史的パラダイムについて意見を述べた。

今回登壇した豪華メンバーらが編成する構想会議のほか、より幅広い分野の専門家を迎えた「ヨコハマラウンド」会議も、来年1月から実施される。現在、「国際展」と銘打った展覧会は国内外を問わず各所で数多く開催されているが、その中で、この『ヨコハマトリエンナーレ2017』はどのような独自性を見せていくのか。世界を取り巻くアートの存在意義をどのように発信していくのか。参加アーティストの発表を待ちつつ、今後の企画展開に注目したい。
 

 

レポート・文=まにょ

イベント情報
ヨコハマトリエンナーレ2017「島と星座とガラパゴス」

会期:2017年8月4日(金)〜11月5日(日)  ※第2・4木曜日休場 開催日数88日間
主会場:横浜美術館(横浜市西区みなとみらい3-4-1)、横浜赤レンガ倉庫1号館(横浜市中区新港1-1-1)
主催:横浜市、(公財)横浜市芸術文化振興財団、NHK、朝日新聞社、横浜トリエンナーレ組織委員会
構想会議メンバー:スハーニャ・ラフェル、スプツニ子!、高階秀爾、リクリット・ティラヴァーニャ、鷲田清一、養老孟司 逢坂恵理子、三木あき子、柏木智雄(ヨコハマトリエンナーレ2017ディレクターズ)

公式サイト:http://www.yokohamatriennale.jp/2017/
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