臨時休館中でも展覧会を満喫できる 『オンラインで楽しむ横浜美術館』【ネット DE アート 第2館】

2020.6.4
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ネット DE アート 第2館:オンラインで楽しむ横浜美術館

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多くの展覧会が開催中止や延期となった現在、全国の美術館や博物館では、オンラインで楽しめる様々なプログラムを発信しています。学芸員による愛にあふれた作品解説動画から、最新の技術を駆使したデジタルミュージアムまで。自宅で気軽にアートに触れられる機会は、気分転換や創造力を刺激するスパイスにもなります。新しい美術鑑賞の幅が広がるなか、今回は横浜美術館による取り組みを紹介します。
現在、横浜美術館のウェブサイトでは、『オンラインで楽しむ横浜美術館』と題したコンテンツを公開中。臨時休館中に閉幕した展覧会の詳細なレポート記事や、アーティストのインタビュー動画などを、豊富なテキストや動画、写真を通じて楽しむことできます。企画展の作品解説から若手作家の紹介、ヨコハマトリエンナーレ2020の貴重な資料まで。横浜美術館の魅力をふんだんに詰め込んだ各コンテンツの見どころをお伝えします。

オンラインで楽しむ横浜美術館

オンラインで味わう、爽やかで心地よい安らぎ『澄川喜一 そりとむくり』展

『オンラインで楽しむ横浜美術館』ページ内では、5月24日(日)まで予定されていたが惜しくも5月1日(金)に閉幕が決まった企画展『澄川喜一 そりとむくり』の展示風景やレポート記事が紹介されています。彫刻家・澄川喜一氏は、東京スカイツリー(R)や東京駅八重洲口「グランルーフ」など、数々の巨大構造物のデザイン監修を手がけたことでも知られています。

撮影:内海敏晴

抽象彫刻の先駆者である澄川氏の作品の魅力は、木の「そり(反り)」と「むくり(起り)」による、ゆるやかな曲線が生み出すシンプルな造形美。

《そりのあるかたち-1》1978年 欅 135×260×45cm 東京都現代美術館蔵、 (C)Sumikawa Kiichi 撮影:村井修

《そりのあるかたち》2018年 杉 215×85×50cm 作家蔵、 (C)Sumikawa Kiichi 撮影:江崎義一

素材に使用される木のねじれやそり、むくりなどの特質を生かした彫刻作品に囲まれた展示空間は「森林浴にも似たさわやかな効果を私たちに及ぼし、安らぎを与えるようです」(学芸員による「展示会の見どころダイジェスト」レポートより)。本展の見どころを章ごとに解説したレポート以外にも、「横浜美術館ブログ」の「アトリエ訪問記」では、普段は公開されていないアトリエ内部の貴重な写真を掲載しています。

さらに、展覧会特設サイト内のスペシャル項目「教えて澄川先生」のコーナーは、ぜひチェックしていただきたいもの。幼少期から現在に至る作家の制作秘話やプライベートな話まで、一問一答式のインタビュー記事になっていて、澄川氏の人柄が伝わってくるような回答に癒されます。戦時中の生活や高校時代の思い出、休日の過ごし方から好きなおにぎりの具、健康の秘訣など。作家の意外な一面に触れられるので、展示レポートと併せて楽しめます。

また、会場の雰囲気を伝える本展の紹介動画では、学芸員が日本刀を例えに「そりとむくり」についてわかりやすく解説しています。動画後半には澄川氏のインタビュー映像も。木と対話しながら制作する作家の「木は恋人だな、恋人以上だな」と笑う姿が印象的です。

「澄川喜一 そりとむくり」展 展覧会紹介

YouTube動画で作品鑑賞する『横浜美術館コレクション展』

『横浜美術館の西洋美術 木版挿絵からボルタンスキーまで―絵画・版画・写真・彫刻』(5月1日閉幕決定)は、YouTubeチャンネル「横浜美術館」内にて、担当学芸員による作品解説動画を公開中。「ヨココレチャンネル」と題して、これまでに全5作品が紹介されています。

本展は横浜美術館初の試みとなる、西洋美術だけで構成されたコレクション展。西洋作家による油彩画や素描、版画、彫刻など約1,000点と写真コレクションの所蔵品の中から選ばれた作品406点を、美術史の流れに沿って展示したものです。なかでも、横浜に暮らした版画コレクター、小島烏水(こじまうすい)旧蔵の16世紀から19世紀の西洋版画は見どころのひとつ。「ヨココレチャンネル」第3回の動画では、ウルス・グラーフによる木版画《百卒長のいるキリスト磔刑》を取り上げ、前後編に分けて、約20分間にわたる解説を聴くことができます。

ウルス・グラーフ《百卒長のいるキリスト磔刑》1506年頃 木版 21.8×15.5cm 横浜美術館蔵

本作は、シュ卜ラスブルクの人文主義者リンクマンが著した『キリスト受難伝』(1506年初刊)のための木版挿絵。動画前編では、木版画の基本的な説明や歴史、活版技術の発明によって、活版と木版画が組み合わさった挿絵本が誕生した経緯などを説明。途中、本作の裏面にあたる活版テキストの部分を拡大印刷したパネルも紹介しています。作品に描かれた聖書の場面や登場人物についても学芸員が詳しく解説しているので、聖書に馴染みがなくても大丈夫。作品上部の両端に見られる書き込みや、キリストの傷口から流れる血のような部分に関する意外なエピソードは、会場で作品を見るだけでは分からなかったかもしれない、当時の木版画事情に触れています。

【ヨココレチャンネル第3回-前半】横浜美術館コレクション展 「横浜美術館の西洋美術」担当学芸員によるピックアップ作品解説

「生々しくて力強い表現が特徴」と学芸員が語る後半の動画では、作者ウルス・グラーフの変わった経歴を紹介。また、『キリスト受難伝』の著者・リンクマンについても話題に上げています。

【ヨココレチャンネル第3回-後半】横浜美術館コレクション展 「横浜美術館の西洋美術」担当学芸員によるピックアップ作品解説

ほかにも、第1回の動画では抽象絵画の父・カンディンスキーの《網の中の赤》をピックアップ。なんとなく気難しい印象のある抽象画ですが、「あみだくじのような絵柄」と話す学芸員の例えに、筆者は親近感を抱きました。イギリスの版画を3作品取り上げた第2回のシリーズ動画は、各作品が5分以内の動画に収まっているので気軽に見られます。本展をもっと詳しく知りたい! という方は、全7章の解説テキストを併せて読むと、近代以前の美術から戦後に至る美術史の流れを把握することができてオススメ。

新進気鋭の若手作家の活動紹介から、ヨコトリ2020の資料も公開中

「New Artist Picks(NAP)」は、横浜美術館による将来活躍が期待される若手作家を紹介する小企画展。『柵瀨茉莉子展|いのちを縫う』は、会期を変更し開催される予定とのことなので、今からアーティスト情報をチェックしておくのもよし。

《いとの日-2》(部分)2019年 花びら、葉、銀糸、髪の毛、猫の毛、祖母のトレーナー 60.0×54.0cm 作家蔵

柵瀨茉莉子(さくらいまりこ)氏は、木片や木の葉、花びらなどの自然物を素材に、縫うことを自身の表現手段にしている作家です。本展には、亡くなった祖母が生前着ていたトレーナーに、庭に咲いていた草花や彼女の遺髪、飼い猫の毛など、思い出の数々を縫い込んだ《いとの日-2》や、山に咲く草花を摘み、大きな布に縫い付けた新作《山の記憶》などが出品されています。

彼女の作品は、個人的な記憶や経験を起点としたものですが、どこか私たちの心に寄り添い、静かに語りかけてくるような温もりを感じます。作家のインタビュー映像内では、「大事な人のことを思い出すような時間になったらうれしい」と柵瀨氏が語る場面も。

横浜美術館(NAP)柵瀨茉莉子展|いのちを縫う

アーティストの生い立ちや、作品を「縫う」行為に対する考察など、より詳しく知りたい方は、学芸員によるテキストもぜひご一読を。

2001年からはじまったヨコハマトリエンナーレは、3年に1度開催される現代アートの国際展。第7回展となるヨコハマトリエンナーレ2020「Afterglow-光の破片をつかまえる」は、インドの3人組アーティスト集団ラクス・メディア・コレクティヴをアーティスティック・ディレクターに迎えて開催されます。

ヨコハマトリエンナーレ2020「Afterglow-光の破片をつかまえる」

彼らは、思考の源となる“ソース”と呼ばれる資料をもとに、キュレーションを行います。ソースとは「時代や文化的背景の異なる実在の人物の生き方や考え方を例示する資料」のこと(横浜トリエンナーレ組織委員会による『ソースブック』についての解説より)。ラクス・メディア・コレクティヴは、あらかじめ用意したソースを公開し、それらをアーティストや関係者と共有しながら、展覧会の世界観を作り上げていくようです。そうはいっても「ソースとは一体何ぞや」という疑問が残ります。実はこの“ソース”が、ヨコハマトリエンナーレのサイトにて、『ソースブック』としてPDFで配布されています(オンラインで閲覧可能)。

ソースブックは、展覧会のコンセプトとラクスが選んだ5つのソース(資料)の文章を抜粋し編集した冊子で、ノーベル化学賞を受賞した生物学者・下村脩の研究や、16世紀の南インドの王国で編纂された占星術百科事典など、時代も背景も異なる人物や書物が紹介されています。ソースの中には、不可思議なものもあれば、繰り返し読んでいくうちに理解できそうなものもあり。クリエイティブな思考を刺激したい、新しい知識を吸収したい、思考の幅を広げたいという時の読み物としてもおすすめです。

さらに、2019年11月30日(土)に開催したヨコハマトリエンナーレ2020のプレイベント「エピソード00 ソースの共有」で披露されたパフォーマンスの詳細版動画も公開中。気になるアーティストがいたら、『ヨコハマトリエンナーレ2020』の公式YouTubeチャンネルも要チェック。各パフォーマンス映像のロングバージョンが視聴できます。

近代以前の美術から、日本で活躍する作家たち、現代アートの祭典まで、様々な時代のアートを網羅する横浜美術館の魅力を、ぜひオンラインでも存分に味わってください。


文=田中未来、画像提供=横浜美術館

美術館情報

オンラインで楽しむ横浜美術館
https://yokohama.art.museum/news/news/data-20200331-1095.html

横浜美術館
神奈川県横浜市西区みなとみらい3丁目4番1号
https://yokohama.art.museum/

ヨコハマトリエンナーレ2020
会期:2020年7月17日(金)~10月11日(日) 
https://www.yokohamatriennale.jp

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