藍井エイルについて。 ー彗星のような彼女の軌跡ー
藍井エイル 撮影=菊池貴裕
藍井エイル無期限活動休止。激震を走らせたこの報道だが、SPICE編集部アニメ/ゲームジャンルは設立当初から藍井エイルには何回もインタビューを行わせてもらい、共にこんな企画をやりましょう!と色々と話した関係性だった。だからこそ今回の報道はショックであり、思う所も沢山ある。この報道を受けてアニメ/ゲームジャンル編集長・加東が藍井エイルに向けて思いを綴った。今年行ったインタビューの撮りおろしフォトを再掲載し、彼女を思う。
2016年10月14日18時、藍井エイル公式サイトにお知らせが上がった。
「無期限活動休止」
11月4日・5日の武道館ワンマン公演を最後に無期限の活動休止に入るという発表は関係者・ファンの間に衝撃をもたらせた。
奇しくも10月19日のデビュー5周年記念日に初のベストアルバム『BEST-E-』『BEST- A-』を発表した所のこの発表。体調不良により活動休止中の彼女が下した決断は辛く厳しいものだった。2011年にデビューした藍井エイルがこの5年間で残したものは何だったのだろうか。
彼女にインタビューしたことが何度かあるが、いつも藍井エイルはコロコロとよく笑い、はっきりと自分の思いを伝えてきた印象がある。言葉を選びつつもしっかりとこちらの目を見て語る彼女を見て、この人は誤解されたくないのだろうと勝手に思った。
慎重に言葉をチョイスしてまっすぐにその思いを伝える、ライブで聞いた彼女の歌と同じように語る姿は何かの存在証明のようでもあった。
藍井エイルがアニソン界に残したインパクトは絶大である。デビュー曲「MEMORIA」でその歌声を披露した藍井エイルは、その後の『機動戦士ガンダムAGE』第四部・三世代編主題歌「AURORA」、『ソードアート・オンライン フェアリィ・ダンス編』主題歌「INNOCENCE」などで注目を集めた。力強くも切なさを感じさせる歌唱に激しく、どこか懐かしさを感じさせるメロディが耳に忘れられない物として藍井エイルを存在づけた。そして彼女の代表作ともいうべき『キルラキル』主題歌「シリウス」。作品と完全にマッチングしたこの楽曲で藍井エイルという存在は完全にアニメファン、アニソンファンにロックされたと思う。
そして2015年は藍井エイルにとって躍進の年となった、世界ツアー『ROCK THE WORLD!』は5万人の動員。5月にはLiSAと共にミュージックステーションに出演。11月には日本武道館単独公演を満員で成功させた。
続く2016年は全国ツアー『D'AZUR-EST』を行いほぼ全公演のを完売させ、追加公演のNHKホール単独公演も成功。初めてのニューヨークでの単独公演も行い、活動休止前のラストシングルとなった「翼」を引っさげてミュージックステーションへの出演も果たした。
名実ともに藍井エイルはアニソン界を、いや、日本のガールズポップを牽引する存在になりつつあった。だからこそ今回の無期限活動休止はショッキングな出来事であり、残念でならないのだ。
藍井エイル 撮影=菊池貴裕
藍井エイルはまるで彗星のようだ。遠く彼方から夜空を舞い飛ぶように現れ、美しい軌跡を描き出し、誰もを魅了して遠く消え去ってしまった。
彗星の天にたなびく尾は、太陽から放射される熱で蒸発した彗星の表面物だ。それがガスや塵になり、太陽風や放射圧によりたなびく。
藍井エイルが彗星なのだとしたら、それを照らし出した太陽は何なのだろうか? 僕は彼女にその答えを聞いたわけではない、あくまでもこれは僕の憶測だが、きっと藍井エイルの太陽は彼女に力をもらい続けたファンだと思う。
再三に渡って彼女はファンとつながっていたい、一緒にすごい景色が見たいと言い続けていた。自身を不器用だという彼女からこそ存在の証明を立てるように激しく歌い、思いをメロディに載せ続けた。インタビューで「自分には中身がないと思ってたんです、でも私には、私の得意なことがあるって今は思える」と語っていた藍井エイル、その自信を与えたのはきっと満員の客席を藍く染めていたファンであり、彼女の背中を支え続けたスタッフなのだろう。
熱いファンの思いを受けて藍井エイルは熱を帯び、輝く光を放っていたのだと、僕は信じたい。
藍井エイル 撮影=菊池貴裕
そう、藍井エイルのライブにはいつも“熱”があった。他のアーティストのライブで感じる熱量とは少しだけ違う、心の芯がじんわりと燃えていくような熱。ライブの帰り道ではいつもその熱を抱きしめるように帰路についていたことを思い出す。
それはきっと藍井エイルがステージではまっすぐだったから、まっすぐに歌を僕達の胸に投げ込んできたから、心の一番奥底に灯るような熱さをくれたんじゃないか? 自問自答するように、今彼女の事を考えている。
彗星は一生心から消えないくらいのまばゆさを残して去っていく。これから先、藍井エイルというアーティストがどうなるのかは今の僕達にはわからない。わからないなら信じて願うしかない。何年周期なのかはわからないけど、きっとあの全天を覆うような藍の光は僕達に降り注ぐ。
だって、彼女は今年のインタビューで言ってくれたのだ。「3年後にさいたまスーパーアリーナ2DAYSをやりたい」と。
言葉にしたりとか、実際に誰かに伝えたりとか、こういう夢があるんだって言うことによって、本当に力が宿るような気がしてる、とはにかみながら語ってくれた夢は、藍井エイルが言うからこそリアリティがあって、僕はそれをインタビュー記事の見出しにした。3年後には本当にそこにいけると思ったからこそである。
まだ藍井エイルの歌は止んでいない。
ベストアルバムも、武道館2DAYSもまだ残っている。この2つは藍井エイル5周年の祝いでもある、ならば最大に祝おうじゃないか。最大級の「おめでとう」と「ありがとう」と、「さよなら」を込めて。
稀代のシンガー藍井エイル、伝説になるにはまだ早すぎるから、この胸の奥の熱を届けに武道館に向かいたい。
藍井エイル 撮影=菊池貴裕
文=SPICEアニメ/ゲーム編集長 加東岳史 撮影=菊池貴裕
■会場:日本武道館
■日時
2016年11月4日(金)OPEN:18:00 START:19:00
2016年11月5日(土)OPEN:16:00 START:17:00