劇団鹿殺し15周年の集大成、伝説リバイバル公演『image-KILL THE KING-』年末に東京と大阪で!

2016.11.3
インタビュー
舞台

劇団鹿殺し『image-KILL THE KING-』合同取材会より、オレノグラフィティ(撮影/石橋法子)


古田新太、中村勘九郎をはじめ、業界内からも熱い支持を得る劇団鹿殺し。これまでCocco、石崎ひゅーい、堂島孝平などアーティストとの音楽劇も精力的に手掛け、演劇の枠に捕らわれない独自の世界観で注目を集める。活動15周年の今年は『キルミーアゲイン』『名なしの侍』とすでに2本の本公演を上演してきたが、節目の集大成として年末に初期の快作『image-KILL THE KING-』を東京と大阪で上演する。2003年の初演を観客として観ていたと言う初期メンバーのオレノグラフィティが大阪で3社合同取材会を開き、意気込みを語った。

「これぞ鹿殺し! 東京では初出しの、衝撃度に満ちた作品です」

--2003年初演『image-KILL THE KING-』をご覧になって、いかがでしたか。

当時17歳の高校生でしたが、演劇というものの概念を根底から覆されるほどの衝撃を受けました。僕は三谷幸喜さんのようなシチュエーションコメディが好きで、関西の劇団で言うと「スクエア」や「MONO」さんとか。会話やシチュエーション、人と成りの妙で面白おかしく見せるのが、演劇らしい演劇だと思っていたので。「あ、そんなこと関係ないんだ」と、本当に衝撃でした。

--筋書きや見せ方など、具体的にどんな点が衝撃的でしたか?

筋書き自体は本当に簡単で、「宇宙人が来てそれから逃げる」っていう(笑)。でもその中にたくさんの無駄があって。いきなり坊主が出て来て意味不明なことを喋ったり、訳の分からない清涼飲料水のCMが挟まったり。中島哲也さんや宮藤官九郎さんの映画とかではよく見かけるんですけど、当時演劇でそういうことをやっている人たちはいなかった。しかもそれが全部すごい熱量で押し寄せてくるから。見終わるまでずっと訳分かんないんですけど、「これは間違いなく面白かった!」と思えるものが残った作品でした。

劇団鹿殺し『image-KILL THE KING-』オレノグラフィティ

--10代で観ると、一層インパクトが強そうです。

衝撃度は高かったと思います。自分は野性爆弾さんなどのお笑いや、大槻ケンヂさんの曲が好きだったり、サブカルチャーの人間だったので。まさか自分が好きだったモノたちがこんな形で融合するとは。「自分の好きなものが全部ここには詰まってました」とアンケートに書いて帰った覚えがあります。関西で一番面白い劇団は劇団鹿殺しだっていうのを、初めて認識した公演でした。もちろんその時は、自分が入団するとは思ってもいませんでした。

--本作でオレノグラフィティさんが演じるのは黄金の男、ロキ夫。ある秘密を抱えた、元世界チャンプボクサーの体を持った人造人間です。

一応、ヒーローです(笑)。初演でロキ夫を演じた先輩は、毎日車などの塗装に使う金のラッカーを塗っていたそうです。落ちないし、肌に悪いですよね。肌呼吸もできないから、途中からボーッとしてくるという。よくやったな(笑)。今回何を使うのかは未定です。ロキ夫はこうと思ったら、その方向へ突っ走る一途な男。赤ん坊みたいな人間なので、自分の中にある純粋さや猪突猛進さを引き出せたらいいなと。30歳を超えてから油断するとぷにぷにしちゃうので、ボクサー役としては体をしっかり締めようと思います。

--劇団では入交星士さんと共に、音楽も担当されています。今回はどんな音楽に?

重低音が響くド派手なものにしたいですね。心臓を直に鳴らしたいという願望はあります。入交とは毎公演ごとに作る音楽の比率が変わるんですが、今回は僕一人で。というのも、入交が夏からデンマークに留学しちゃったんで。しかも『名なしの侍』の東京公演中に、「ちょっと明後日から行ってきます」って。おいっ、と(笑)。

劇団鹿殺し『image-KILL THE KING-』オレノグラフィティ

--(笑)。約10年前の作品ですが、変更点などは?

筋書き、見せ方、下手したら最後のオチまで、根本的にガラッと変わるんじゃないかな。というのも、丸尾(作)もチョビ(演出)も当時のことを覚えていない。映像を見直しても「あんまりピンとこないね」と話てて。『ロッキー・ホラー・ショー』が好きだからロキ夫が出て来たり、好きなモノを全部詰め込んで「やりたいものはこうだ!」と投げ捨てた作品だったと思うので。今回も変更はしても、当時と同じ衝撃度を与えたい気持ちはあります。

--初演は大阪・心斎橋のウイングフィールドという小さな劇場での上演した。

すっごく狭いんですよ。入口から客席が見えるくらい。そこで、初演は入口から金玉を頭にかぶった男が出てきて「もうお前たちは帰れねえぞ!」と劇場ジャックから始まるっていう(笑)。ちょうど下北沢駅前劇場がウイングフィールドに近い空間なので、東京では濃密な初期の鹿殺しを、大阪ではそれをさらに昇華した、これからの鹿殺しを観せられると思う。当時は劇中歌もなく、終演後にセルフアンコールが舞台袖から7回聞こえて、突然、黒ブリーフにサスペンダー姿の男たちが「ガラやります!」と出てくる。今やっている、路上活動を経て進化した鹿殺しのライブパフォーマンスRJPの原点になることをやっていました。

--原点に帰る作品でもあるのですね。

そうですね。多分ここまで派手で訳の分からない作品は上京してから1回もやっていない。ある意味東京の人たちは観たことがない鹿殺しだし、関西の人たちは「そうそう!これが鹿殺し」というものになるんじゃないかな。受け入れられなくてもいいやっていうのが根本にあったスタイル。鹿殺しは「東京にいってひよった」と思っている人にこそ、観て欲しい。

劇団鹿殺し『image-KILL THE KING-』オレノグラフィティ

--上京して、ひよったわけではないと。

ひよってはないです、全く。僕らは間口を広げるための手段を画策しているだけなので。今回もハードコアなものをやると言いながらも間口は広げたい。そういう意味でも新作に近いものになると思う。絶対に「訳分かんなかった」という作品にはしたくない。旗揚げから2、3年目ぐらいの作品なので、当時よりは丸尾もチョビも技術や人間力は高まっていると思う。人生における訴えたいことも定まり、「あのとき本当は何が言いたかったのか」を、より明確に示してくれるんじゃないかな。集大成的な作品になると思います。

 

「悩みを一蹴できるパワーがある。不良から普通のお客さんまで楽しんで!」

ーー小さいころから、役者や作曲家への夢はあったのですか?

学生の頃は「演劇」「お笑い芸人」「AV男優」というのが将来の選択肢としてありました。好きなものがその3つしかなかった(笑)。結果、根性がなかったのかAVの道へは行かず、お笑いは「絶対に笑かさないとダメ」という壁が高すぎた。演劇の笑いの方が壁が低くて勝ちやすいと、当時の僕は思ったんでしょうね。

劇団鹿殺し『image-KILL THE KING-』オレノグラフィティ

--演劇部だったのですか?

小学生のころから演劇クラブで、高校生のときも部活に入ってました。ただもろ手をあげて「演劇が大好き!」と言える人間でもなくて。やっぱり、演劇ってどう考えてもダサいじゃないですか。圧倒的にバンドやサッカーやってるヤツのほうがモテるんです。そんなヒエラルキーの一番下に演劇があることに耐えられなくて。きれいで感動するものが好かれる高校演劇のなかで、「とにかく笑かしてやろう!と無茶苦茶なことをしてました。松本人志さんや板尾創路さんが好きだったので、ちょっとナンセンスなものをやったり。「やっぱ俺らが一番、最強にオモロイな!」と、当時の部長と須磨の「名谷駅」でポテトを食べながら話したり。青春でした(笑)。

劇団鹿殺し『image-KILL THE KING-』オレノグラフィティ

--現在もそのスタイルを貫かれている印象です。

演劇好きになったのって、劇団に入ってからなのかな。とはいえ、休日も絶対演劇を観るくらい好きという人と、同じくらいの熱量があるとは言えないけど。その点、今回客演で出演してくれるミッチーこと、小沢道成(鴻上尚史主宰『虚構の劇団』所属)さんは、演劇ラブな人なんで、その点すごく信頼できる。同年代では一番上手い役者さんだと思っています。面白い役者さんなので観て欲しいですね。

ーー一方、作曲家としてのバックボーンは。

ずっと趣味でL’Arc~en~Cielのコピーバンドでキーボードをやっていました。L’Arc~en~Cielにキーボードの人なんていないから、何コピーしてんだって話で(笑)。それ以外全くだったので、劇団で音楽やるつもりなんて全くありませんでした。それが、たまたま入交さんが作る音楽に、僕が鼻唄をつけるのが得意だったので。一番最初に作ったのが、今年『名なしの侍』公演で自分でも歌った「田舎の侍」でした。

劇団鹿殺し『image-KILL THE KING-』オレノグラフィティ

--劇団15周年については、どんなお気持ちですか。

僕は入団して11年ぐらいですが、僕自身はあんまり17歳の頃から変わってないなと。昨日久しぶりに神戸に帰って来て、道を歩いてたらクサクサした気持ちが湧いてきて。よく考えたら10代の頃も、おんなじ感情を持っていたなと。

--表現のエネルギー源みたいなものが、今も変わらずにあるということでしょうか?

何が原動力かは、分からないんですけど。自己顕示欲はすごく強いですね。多分心の中にやるせない感情がずっとあって。死ぬじゃないですか、人間て絶対。「なんで僕たちは生まれて来たんだろう」って中二病(思春期)の時に考えることを、今でもたまに思ってて。どうせ死ぬのに、なんのために芝居続けて、ご飯食べて、生きているのか。昨日も実家までの帰り道に歩道橋があって、そこから色んなマンションの光が見えるんですよ。その光全部に暮らしがあって、生活があって、人生がある。僕と同じように悩んだりしている人がいるんだって思ったら頭の中が「うわー!」となった(笑)。

ーー分かるような気がします。

僕はこの中でどの立ち位置にいるんだろう。どうやって生きていくのが正解なのか。考え始めるときりがなくて。そんな事いいから、生きろよ、仕事しろよ、飯食って幸せになれよって話なんですけど。高校の時は登校拒否しながら演劇部だけには行ってました。筋肉少女帯の「蜘蛛の糸」とか聞きながら、下校するみんなと入れ違いで登校して。楽しかったです(笑)。

劇団鹿殺し『image-KILL THE KING-』オレノグラフィティ

--現在は、外部公演への出演や楽曲提供も多く、俳優・作曲家としてご活躍です。

今年は15周年ということで、劇団でも本公演を立て続けに3回とか初めてやって。その間にも外部公演の音楽を作ったり、三田佳子さん主演ミュージカル『スーベニア SOUVENIR~騒音の歌姫~』や、乃木坂46さん主演舞台『嫌われ松子の一生』に出演させてもらったり。色んな形の演劇があるし、色んな人たちの演劇に対する思いがある。演劇に対する見方が変わる経験ばかりでした。僕の演劇はまだ確立されていない、まだまだ自分が一番下手くそで、一番何も分かっていない。まだまだチャレンジャーでいられると思い知らされた1年ですね。

--チャレンジ精神は、今回の舞台でも十二分に発揮されそうです!

引きこもりの子にも観に来て欲しい。なかなか外に出られないのは分かるんだけど、でも「もうどうでもいいよ、そんなこと!」って闇を一蹴できるだけのパワーがあるので。22歳以下は千円安い3500円で観られるヤング券というのも発売していますのでぜひ。不良からもちろん普通のお客さんまで、絶対楽しんでもらえる作品にしたいと思います。

劇団鹿殺し『image-KILL THE KING-』オレノグラフィティ

(取材・文・撮影:石橋法子)

公演情報
劇団鹿殺し『image-KILL THE KING-』

写真:江森康之

■作:丸尾丸一郎
■演出:菜月チョビ
■音楽:オレノグラフィティ
■出演:菜月チョビ、丸尾丸一郎、オレノグラフィティ、橘輝、鷺沼恵美子、浅野康之、近藤茶、峰ゆとり、有田杏子、椙山さと美、メガマスミ、木村さそり(以上、劇団鹿殺し)

■公式サイト:http://shika564.com/
 
<東京公演>
2016年11月23日(水)~12月4日(日)
会場:下北沢駅前劇場


 
<大阪公演>
2016年12月8日(木)~11日(日)
会場:ABCホール

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