市川春猿が劇団新派に入団  来年1月『華岡青洲の妻』から河合雪之丞へ改名 

2016.10.29
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波乃久里子、水谷八重子、市川春猿、迫本淳一(松竹㈱代表取締役社長)、安孫子正(松竹㈱副社長/演劇本部長)

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10月27日、市川春猿、水谷八重子、波乃久里子、迫本淳一(松竹(株)代表取締役社長)、安孫子正(松竹(株)副社長/演劇本部長)の出席により会見が行われ、市川春猿が劇団新派に入団することが発表された。

冒頭、迫本松竹社長より、来年1月の三越劇場・初春新派公演『華岡青洲の妻』(平成29年1月2日~23日)において、市川春猿が「劇団新派入団」、並びに「河合雪之丞」への改名することが発表され、続いて河合雪之丞の名前の由来が発表された。 


安孫子副社長 
「河合」は、新派の名女方である「河合武雄」(1877-1942)より、ご遺族からのご快諾を頂き、名字を頂戴しました。河合武雄は、井伊蓉峰、初代喜多村緑郎とともに、「新派三頭目」と呼ばれる大正期の新派の盛況時代を支えた名優です。先月二代目を襲名した喜多村緑郎(市川月乃助改め)とともに、新たな河合・喜多村時代をつくっていってほしいと望んでおります。「雪之丞」は、かつて市川春猿の師匠である市川猿翁が名乗ろうとした名前で、猿翁に勧められたこともあり、頂戴しました。

水谷八重子
春猿さん、私の好きな名前なんです。春のお猿さんがきゃっきゃ喜んでいるようなかわいい感じ、そんな名前がなくなっちゃうのは寂しい気がしています。白雪姫みたいに…雪のようになっちゃうのかな、とも寂しいような気もしています。

私の中に、いろんな血があるような気がしていて、春猿さんを拝見していると別の血が騒ぐ気がします。我々女優がやりにくい役を、芝居を作るのが好きという部分があり、そっちの血が騒ぐ気がしています。そんな風に一緒にやっていけたらいいなと思いますし、いろんな夢を見させていただけたらと思っています。本当に楽しみにしています。今年いっぱい春ちゃんと呼ばせてね。


波乃久里子
新派に希望が出てきたように思います。(市川)月之助さんが入団し、春本由香ちゃんも入団、春猿さんも入団してくれて、本当に嬉しゅうございます。

昔、春猿さんの『明治一代女』(平成14年自主公演「市川春猿の会」)を拝見した時にこの方、歌舞伎より新派の方が合うんじゃないかなぁ。でも入って来てライバルになったらやだなぁと思いました。すごく素敵な『明治一代女』でした。先ほど松竹の安孫子副社長が「八重子さんや久里子さんに教えていただきなさい」なんて仰ってましたが、春猿さんのようなこんなベテランに教えるなんて無理です。と思ったんですけど、今日来たら、初々しい春猿さんがいたんです。本人曰く、新派にとっては一年生ですから。と。この方なら、花柳先生や八重子先生のこと少しお教えできるかな、と思いました。新派にとりまして素晴らしい柱になっていただけるのではないかと思っております。本当によく来てくださいました。


市川春猿
気持ちは入学式の前日のような小学校一年生の気分でした。うきうき、わくわく、した気持ちと、これからの課題、芸道に対する不安、自分に対する厳しい気持ちを持ちながら、入団の発表をさせていただきます。私は猿翁のもとで29年間勉強させていただきました。そこで感じたことは、周りの方々、師匠・先輩・同輩・後輩・周りの方たちに支えられたと強く感じました。今回、改めて、今までの皆様への感謝の気持ちと、自分に対する厳しい気持ちでいっぱいです。

私が新派に興味を持ったのは、歌舞伎と同じ時期です。勉強会でも、歌舞伎俳優ですが『明治一代女』という新派の作品をやりたくて、師匠に相談し、やらせていただきまして、大変勉強になりました。その時に、新派の作品をやり続けられたら、自分の役者人生は幸せだな、と思いました。スーパー歌舞伎をやっている時の新橋演舞場の監事室で、時間のある時は新派の台本を盗み読みをして勉強していました(笑)。

『滝の白糸』から毎年、新派の作品を勉強させていただき、新派作品にのめりこんでいきました。新派の女方芸を勉強して、後世に伝えて、新しい作品、いいものを皆様にご覧いただきたい。ひとりでも多くのお客様に見ていただくことを目標に頑張りたい。退路を断って入団させていただきたい。皆様のお力添えを平にお願い申し上げます。


市川猿翁(司会より代読)
皆様、本日は私市川猿翁の弟子である市川春猿の為、このような席を設けていただき、誠に有難う存じます。幼い頃より古典芸能の世界に憧憬を抱き、国立劇場の歌舞伎俳優研修を経て私の元へ入門して来たのが、懐かしく思い出されます。

この“雪之丞”という名前は、かつて私が名乗ろうと一度は心に決めた大切な名前です。これからも私の弟子として、常に全力で取り組んでほしいという思いを込めて、“雪之丞”の名前を彼に薦めました。同期の二代目喜多村緑郎と共に切磋琢磨して、新たな道を歩んでいってほしいと願っています。その為にも、水谷八重子さん、波乃久里子さんをはじめとした新派の諸先輩方からご指導ご鞭撻を賜り、一心に新派の継承・発展に励んでほしいと思います。

新派の大先輩方、関係ご各位をはじめ、今後とも皆々様の温かき応援を宜しくお願い申し上げます。

質疑応答】

──屋号、家紋などは?

師匠の猿翁より「雪之丞」の名前から、「白兎屋(しらとや)」と命名頂いた。雪の白さと、猿翁の干支である兎から。合わせて、家紋も新たにします。

──新派入団の経緯は?

昨年暮れに思い至り、今年1月中旬に師匠の猿翁に相談しに行った。猿翁からは、「大賛成!」と言われた(本人、感極まり目頭を熱くする)。昔から、「あなたは新派が合っている」と言われていた。その後、2月中旬に会社(松竹)に相談し、この度の発表となりました。

──四代目市川猿之助からの反応は?

今年8月歌舞伎座でお話しして、千穐楽には猿之助さんの楽屋に澤瀉屋一門を全員集め、猿之助さんから一門のみんなへご説明いただいた。みんなで春ちゃんを応援しよう、とありがたい言葉をかけていただきました。


【市川春猿プロフィール】

昭和45年(1970)11月29日、東京都に生まれる。本名近藤弦。63年3月国立劇場第九期歌舞伎俳優研修修了。同年4月歌舞伎座『忠臣蔵』仕丁・諸士ほかで初舞台を踏む。同年7月三代目市川猿之助(現猿翁)に入門し、歌舞伎座『義経千本桜』腰元ほかで二代目市川春猿を名乗る。平成6年(1994)3月、猿之助(現猿翁)の部屋子となる。平成12年4・5月新橋演舞場『新・三国志』彩霞で名題昇進。

澤瀉屋一門の若手女方として研鑽を積み、二十一世紀歌舞伎組『雪之丞変化2001年』お初、スーパー歌舞伎『ヤマトタケル』弟橘姫は再演を重ねる当り役となる。平成18年7月歌舞伎座、坂東玉三郎演出の『夜叉ヶ池』百合・白雪姫に抜擢され主演。透明感のある役から、伝法な役柄まで魅力的に演じ、その存在感を発揮している。

入門して間もない平成2年5月には、平幹二朗主演『ヘロデ王』にサロメで出演するなどその個性を乞われ、舞台、朗読劇など活躍の場を広げている。

平成14年8月には自主公演「市川春猿の会」で、新派の名作『明治一代女』お梅に取り組む。新派には、平成22年10月花形新派公演『滝の白糸』滝の白糸で初参加。以降、平成24年10月『葛西橋』おぎん、菊枝、美也子の三役、舞踊『小春狂言』芸者小春、11月『滝の白糸』滝の白糸、平成25年10月『婦系図』お蔦、平成26年1月『明治一代女』沢村仙枝、8月『狐狸狐狸ばなし』おきわ、平成27年6月『残菊物語』尾上菊之助、平成28年9月『振袖纏』お徳、『婦系図』河野菅子に出演。平成19年3月、第28回松尾芸能賞新人賞受賞。
市川春猿の歌舞伎俳優として最後の舞台は、平成28年10月秋季公演『松竹大歌舞伎』(10月1~26日・全国公演)。『獨道中五十三驛』やらずのお萩。

平成29年1月三越劇場、初春新派公演『華岡青洲の妻』に青洲の妻加恵で出演。劇団新派に入団し、河合雪之丞と改名する。