肉体が語る言葉のない物語 東山義久『BOLERO 2016~モザイクの夢~』開幕!

レポート
舞台
2016.11.3

 

交錯する人びとの夢と、それを阻む障害、更にそこからの飛翔をダンスで綴る意欲作Entertainment Dance Performance Show『BOLERO 2016~モザイクの夢~』が天王洲銀河劇場で上演中だ(6日まで)。
 

『BOLERO』は、男性エンターテイメント集団DIAMOND☆DOGSのリーダーとして、またエンターティナーとして活躍を続ける東山義久が、肉体の可能性を追求することを旗印に新たに立ち上げたカンパニーで、2013年に『BOLERO~Paradise Lost~』が上演されている。
 
それから3年。今回の『BOLERO 2016~モザイクの夢~』は、構成・演出に小林香を迎え、更に大きな世界の創造を目指してスタートした。ここに、DIAMOND☆DOGS旗揚げに参加し、現在世界的に活躍を続けている辻本知彦と島地保武が、12年ぶりに東山と共演を果たす。また、宝塚歌劇団でかつて共にトップ娘役を務め、現在女優として幅広く活動している風花舞と星奈優里、振付家としてまた卓越したダンサーとして輝き続ける原田薫、ジャズユニット「Fried pride」のボーカリストShiho、そして精鋭ダンサーたちの参集と話題が重なり、大きな期待を集めての開幕となった。
 

そんな舞台は、壁に隔たれ閉ざされた世界からはじまる。当然想起されるのは東西冷戦時代の東ベルリン。軍靴の響き高らかな世界で人々は、いつか飛翔する夢を心に持ち続けながら生きていて、その多くの登場人物たちの中に際立つ3つのグループがある。1つは亡命を希望する女(星奈優里)と、大金と引き換えに亡命を請け負う男(東山義久)。1つはすでに壁の中でもがくことから飛翔し、自らの妄想を真実だと思いこむ精神疾患を患った女(風花舞)と、彼女を現実に引き戻そうとする男(島地保武)。そしてもう1つは、重い病を抱えた末の弟(長澤風海)の命を助ける為に、なんとか治療費を工面したいロマの姉(原田薫)と、上の弟(辻本知彦)。彼らを中心に、物語は時にぶつかり、時にすれ違いながら怒涛のように進んでいく。
 

Shihoの歌うどこかで退廃的なメロディーに乗せた歌詞と、短いモノローグ。それ以外に舞台に言葉はない。にも関わらず、描かれるテーマ、流れる物語は確かに客席に伝わってくる。そこには、ダンス表現が持つ驚くばかりの雄弁さがあって、ある意味で台詞劇以上に、肉体が語る言葉が鮮烈だ。しかも、東山を筆頭に舞台を創り出す面々が、それぞれ異なる出自と異なる言語を持っているが故に、紡がれるストーリーのドラマチックさがより倍化していく。それはこの作品のタイトル「モザイクの夢」が語る通りの、出演者たちの個性を一色の絵の具として混ぜ合わせるのではなく、個々のモザイクとして捉えて形創ることで、大きな絵を描こうとした演出の小林香の意図、そして個性豊かな出演者たちそれぞれを活かしきった手腕あってこそだろう。閉ざされた壁を思わせる背景の開け閉め、照明の使い方も実に効果的で、切なさと美しさの双方があることに感心した。
 

その個性豊かな出演者たちは、物語世界を生きる住人として、ダンスを通じて見事に役柄を演じきっている。東山義久は失いたくないものがないからこそ、強く生きていられると信じていた男が、運命的に出会った女との関わりによって変わっていく様を豊かな表現力で演じ、踊っている。DIAMOND☆DOGSの中では常にリーダーであり、中性的なパートを担当することも多い人だが、『RHYTHM RHYTHM RHYTHM』『カルメン』など、特に今年の仕事の中でどっぷりと恋に落ちる男を演じてきていた蓄積が、今回の舞台にも活きていて目が離せない。いつもながらのスター性と共に、作品毎に進化している東山が観られることも、この舞台の大きな魅力の1つと言えるだろう。
 

そんな東山の相手役というポジションの星奈優里は、壁を越えようと試みることで過去に大きな傷を負っている女性が、尚、壁を越えようとする強さの中に、流れ続ける悲しみを表したのが真骨頂。いつもながらのしなやかな舞台姿に、美しさや蠱惑的な妖しさなど、複雑な色があって見応えがある。
 

一方風花舞は、可憐な容姿から繰り出される颯爽とした「カッコいい」と呼びたいダンスの名手だが、今回は自らの妄想の中で生きようとする女性の脆さ、はかなさを表出して新鮮かつ、宝塚の娘役時代をも想起させる懐かしさが共にある。閉ざされた世界の中で、尚閉じこもることで自由を得ている女性の、ギリギリのバランスを描き出し、痛々しいまでに愛おしい。 
その感覚が生まれた中には、風花と共にある島地保武の包容力によるところも大きいと思う。バレエからコンテンポラリーダンスの世界で、確かな実績を残してきた人が、自在なアート表現を素地にしつつ、明確な答えのある役柄を演じきっているのに、感嘆させられる。
 

そして、ロマの三姉弟に扮した、原田薫、辻本知彦、長澤風海もまた、強烈な印象を残していく。三人それぞれがまず極めて個性的でありながら、きちんと絆を分けた姉弟に見えるのは驚異的だ。特に原田のダイナミック、長澤のどこかこの世の者でないかのような浮遊感を、辻本の土の香りがする個性がまとめていて、全体を通してもこの舞台のモザイク画を形作る上でのキーパーソン的な役割を十二分に果たしていた。
 

更に、物語にキーワードを持ち込むShihoの歌声の魅力と共に、彼らの夢を阻む「壁」の象徴のように登場する中塚皓平をはじめ、穴井豪、橋田康、神谷直樹、田極翼、畠山翔太 、NAOKIがもたらす各々の生き様が、舞台に奥深さを与えていて、1度の観劇では目が足りないばかりだ。
 

終幕に展開されるラヴェルの「ボレロ」が、ジャズ、バレエ、ストリートダンス、コンテンポラリーとアレンジされていく様も見事なもので、このメンバーでしか創りえない、今ここにしかない舞台を堪能できる仕上がりとなっている。
 



(【取材・文・撮影/橘涼香)
 

〈公演情報〉


Entertainment Dance Performance Show
『BOLERO 2016-モザイクの夢-』
構成・演出◇小林香
出演◇東山義久/辻本知彦、島地保武/穴井豪、橋田康、神谷直樹、田極翼、長澤風海、中塚皓平、畠山翔太 、NAOKI/風花舞、星奈優里/原田薫/Shiho(Fried pride)
●11/2~6◎銀河劇場
〈料金〉S席9.000円 A席6.500円(全席指定・税込) 
〈お問い合わせ〉公演事務局 03-3492-5300(平日14:00~18:00)
http://www.gingeki.jp/archives/2910 

 
演劇キック - 宝塚ジャーナル
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