羽田美智子流の美術鑑賞の楽しみ方とは? 『ゴッホとゴーギャン展』講演会&座談会レポート

2016.11.15
レポート
アート

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芸術の秋、平日のとある夜。東京都美術館『ゴッホとゴーギャン展』の関連トークイベントが、大人の女性限定でひっそりと開かれた。

開催されたトークイベントは2本。大橋菜都子氏(東京都美術館学芸員)による基調講演『ゴッホとゴーギャン展・見どころ紹介』と、羽田美智子氏(女優)・大橋菜都子氏(東京都美術館学芸員)・行武知子氏(『日経おとなのOFF』編集長)が登場したスペシャル座談会『画家をもっと身近に感じてみませんか』の2講演だ。

まず大橋氏の講演では、展覧会の見どころ3点を紹介。1つ目はゴッホが描いた自画像の画風の移り変わりだ。試してみたい絵の技法がどんどんどんどん湧き上がってくるものの、モデルを雇うお金がなかったゴッホ。そこで彼は、自身の自画像作品で思いついた技法を描きいれ、試していたのだという。

見どころの2つ目は、ゴッホとゴーギャンの描き方の違い。ゴッホは激しい筆使い、鮮やかな色彩で知られている。一方ゴーギャンは、輪郭性をしっかり描いて面に色を置いていくような、平面的かつ装飾的な画面構成が特徴だ。そんな両者の違いが最もよく表れているのは、それぞれの『収穫』作品であると大橋氏は語る。

大橋菜都子氏(以下、大橋氏)ゴッホが手がけた『収穫』の作品について、自身は「ある1点の静物画を除き、ほかのすべての作品を完全に圧倒する」と言っていました。2人の『収穫』を比べると、ゴッホは現実の世界を絵画の中に再現しており、ゴーギャンは現実から着想を得ながらも、夢や記憶や想像を絵画に取り入れて作品にしているという違いがあります。

最後の見どころは、ゴッホとゴーギャン2人の交流の足跡を辿ることができる点だ。これについて大橋氏は以下のように解説した。

大橋氏:ゴッホが描いたゴーギャンの肖像画はありません。でも、『ゴーギャンの椅子』という作品は、ゴッホが彼をどう見ていたかが表れている、ある意味肖像画的なものといえます。一方、ゴーギャンが描いたひまわりは、なかなか見る機会が少ない絵でしょう。私たち同様に、ゴーギャンにとってもひまわりはゴッホを象徴する花でしたので、本作からはゴッホへの追悼やオマージュを感じることができます。こうした2人交流の足跡を感じられるのも、本展の見どころでしょう。

 

続く座談会では、羽田美智子氏が感じたこの展覧会の見どころを語った。

羽田美智子氏(以下、羽田氏)この展覧会では、2人の物語が交錯したのち離れ、それぞれがどんな風に活躍していったのかがストーリー仕立てになっています。わかりやすくて、とても面白かったですね。私は、何故ゴッホは『ゴーギャンの椅子』の上にろうそくと本を描いたのだろうと考えていたのですが、ゴッホにとってゴーギャンは、想像力を鼓舞してくれるような道標のような存在だったのではないでしょうか。尊敬のまなざしをもっていたように感じます。対するゴーギャンはゴッホに対して少しつれないように見えますが、最後の最後に描かれたゴーギャンによるひまわりは、まるでゴッホへのラブレターのように感じてしまい、涙が出ました。絵画展を見ているというよりは、壮大な大河ドラマを見せていただいたような気持ちになりましたね。

この感想を受け、大橋氏は本展を開催するまでの背景を語った。

大橋氏:これまでのゴッホ展は幾度となく開催されてきましたが、新しい切り口でゴッホを見せたいという想いがありました。ゴッホ研究者の第一人者であるシラール・ファン・ヒューフテンさん(『ゴッホとゴーギャン展』監修者)からのご提案もあり、今回の企画が生まれました。

さらに話題は、美術鑑賞全般についてへ。行武編集長からの質問で羽田氏、大橋氏はそれぞれ絵画作品の楽しみ方を語った。羽田氏は19歳で芸能界に入った後、セゾン美術館で開催されたウィーン美術展で、クリムトの『接吻』やエゴン・シーレ作品など様々な絵画に出会って感銘を受けたという。その後、実際にウィーンにいく機会があり、画家と絵のつながり、画家の人生に触れる体験があったことが美術へ関心を持つきなきっかけになったとのこと。旅先で好きな美術館に行き、好きな作家に出会うと、またその作家のゆかりのある場所へ旅をする。そんな羽田氏の楽しみ方に、聞いている筆者も思わず胸を高鳴らせた。絵の楽しみ方は旅の楽しみ方でもあり、それは人生の楽しみ方とも言えるのかもしれない。

大橋氏:1つの展覧会を見て、好きな作品とそうではない作品が必ずあると思います。1つ1つを真面目に全て見るとちょっと疲れてしまうので、自分の好きという感覚を素直に感じることがいいと思います。そこからまた、別の展覧会に発展できたら素敵だと思いますね。

羽田氏:人が精神を込めて作ったものには何か魂があって、それを受け取るこちらの感性が問われているような気がします。作家さんが自分の人生に問いかけるものが必ずあり、作品を目の前にすると、その作家の息吹を感じられる。それが本物の絵を見る一番のメリットだと感じます。筆の跡って人生の足跡にも似てますよね。時代や人種を超えて、作家たちがどういうものをよしとして、なにを美と捉えていたのかを教えてもらえる。それが大好きなんですよね。

 

絵と旅と人生のつながりを、心地よくじんわりと感じる……。そんな秋の夜長の講演会となった。また、『girlsArtalk』では『ゴッホとゴーギャン展』のレポートも詳しくお伝えしているので、ぜひチェックしてみては。


 

文=Yoshiko

イベント概要
羽田美智子さん&学芸員さんに学ぶ美術展の楽しみ方〜画家をもっと身近に感じてみませんか〜
開催場所:日本経済社新聞カンファレンスルーム

 

イベント情報
ゴッホとゴーギャン展
会期:2016年10月8日(土)~12月18日(日)
会場:東京都美術館 企画棟 企画展示室
休室日:月曜日
開室時間:9:30~17:30(入室は閉室の30分前まで)
夜間開室:金曜日、11月2日(水)、3日(木・祝)、5日(土)は9:30~20:00(入室は閉室の30分前まで)
観覧料:
当日券  一般 1,600円 / 大学生・専門学校生1,300円 / 高校生 800円 / 65歳以上 1,000円
団体券  一般 1,300円 / 大学生・専門学校生1,100円 / 高校生 600円 / 65歳以上 800円
※団体割引の対象は20名以上 ※中学生以下は無料 ※身体障害者手帳・愛の手帳・療育手帳・精神障害者保健福祉手帳・被爆者健康手帳をお持ちの方とその付添いの方(1名まで)は無料 ※いずれも証明できるものをご持参ください
特設サイト:http://www.g-g2016.com/