広瀬悦子(ピアノ) “鍵盤の魔術師”カツァリスとの共演が実現!

インタビュー
クラシック
2016.11.19
広瀬悦子(ピアノ) ©Carole Bellaïche

広瀬悦子(ピアノ) ©Carole Bellaïche

 ベートーヴェンの交響曲ピアノ独奏版全曲録音をきっかけに世界で認められ、“鍵盤の魔術師”の異名をとるシプリアン・カツァリス。多くのオファーを受けながら、これまで他のピアニストとの共演を拒み続けてきた彼が、2台ピアノのパートナーとして広瀬悦子を選んだ。そのいきさつについて、広瀬はこう語る。

「ある音楽祭のディレクターが、私をカツァリスさんに紹介してくださいました。カツァリスさんは私の演奏を聴いて、“説得力を感じ心から感銘を受けた。異なるキャラクター同士、補い合い、ぶつかり合って音楽を創ってみよう”と言ってくださって。最初は信じられませんでした。彼の交響曲全集は、歴史的な名盤です。一人でどんな表現もできて、音楽が完結しているので、ある意味、共演者は必要なかったのでしょう。そんな方と一緒に演奏できて光栄です」

「火の鳥」の2台ピアノ版を世界初演

 日本公演に先立ち、去る4月に、二人はストラヴィンスキー「火の鳥」2台ピアノ版を録音した(近日リリース予定)。カツァリスの友人のギリシャ人作曲家バストールが編曲を手掛けたもので、今度のかつしかシンフォニーヒルズ公演(12/1)が世界初演となる。

「ストラヴィンスキー作品は、一族の方からアレンジの承諾を得るのが難しいのですが、4、5ヵ月待ってようやく演奏できることになりました。せっかく二人いるのに役割が分担されて楽できるわけではなく、両者ともすさまじいテクニックで演奏しなくてはならない(笑)、ピアニスティックな魅力あふれる作品です。録音はとにかくハードでしたね。管や弦楽器と違い、ピアノという打弦楽器同士の共演は、縦の線を完璧に揃えようとするととても難しい。そのうえカツァリスさんは、普段はにこやかですが、ピアノのこととなると妥協を許しません。さらに私も主張があるほうなので、かなりぶつかり合いました(笑)。6日間お互い納得するまでテイクを重ねる中で、いろいろなフレージングや歌い方が生まれ、素敵だなと思う瞬間が何回もありました。そんなときには、やっていて幸せだなと感じましたね」

演奏機会の少ないデュオ編曲版バレエ音楽を披露

 また東京オペラシティの『ポーズ・デジュネ』公演(12/7)で、二人はE.ランガー編の「くるみ割り人形」、ドビュッシー編の「白鳥の湖」など、演奏機会の少ない編曲版でバレエ音楽の数々を演奏する。

「私もこれまで編曲作品をよく演奏してきました。いつも心がけているのは、例えばオリジナルが踊るための作品である場合も、ピアノならではの魅力が出て、イマジネーションが広がるようなテンポや表現をとること。その点で、二人の考えは一致していました」

 “完璧主義者”カツァリスとの共演は大変なことも多かったが、やはりたくさんのことを得たと振り返る。

「彼がフランスで師事していたブルショルリは、私にとって憧れでした。それに私もフランスで長く学んだので、もともと音楽観や演奏法には共通項が多くあります。心からの演奏と技術をもって、いかにピアノの魅力を人に伝えるか、その方法を、音や言葉を通して教えてもらいました」

 二人はかつしか公演で、ベートーヴェンの「第九」第4楽章も演奏する。広瀬はこのカツァリス十八番のレパートリーについて、「いつか全曲通して二人で弾いてみたい」と、今後への意欲を語った。

取材・文:高坂はる香
(ぶらあぼ 2016年12月号から)


シプリアン・カツァリス&広瀬悦子 ピアノデュオリサイタル
12/1(木)19:00 かつしかシンフォニーヒルズ モーツァルトホール
問合せ:LEGARE 046-872-4537
http://www.legare-music.info/


 
Pause Déjeuner(ポーズ・デジュネ)
シプリアン・カツァリス&広瀬悦子(ピアノデュオ)

12/7(水)11:30 東京オペラシティ コンサートホール
問合せ:カジモト・イープラス0570-06-9960
http://www.kajimotomusic.com/

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