これがシギー流“ポップのすべて” Shiggy Jr.のツアー・ファイナルにみた新しい価値観
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Shiggy Jr. Photo by Yosuke Torii
ALL ABOUT POP Release Tour『”ワンマン”スかこれ。~東阪編~』 2016.11.27 EX THEATER ROPPONGI
10月にリリースしたフルアルバム『ALL ABOUT POP』を携えてのツアー・ファイナルとなったこの日、バンドにとって過去最大キャパのEX THEATER ROPPONGIには、20代男性と思しき友人同士や、長年ポップスやロックを聴きこんできたと見受けられるミドルエイジの男性もいれば、女の子同士のファンもいるし、カップルもいた。そう。難解じゃないけどどこかおしゃれなポップスとしてのShiggy Jr.も、アイドルポップスが楽曲志向にシフトする中でアイドルを通して発見されたShiggy Jr.も、ジャンルにカテゴライズされない新鮮なバンドとしてのShiggy Jr.も、どんな見方も入り方も自由なんだという事実をファン層の厚さでまず実感してしまった。振り切れたテンションのライブが想像できるバンドのライブとはまた違う、こんな心躍る開演前の期待感は久しぶりだ。マイケルやワム!、クイーンやRUN DMCからブルーノ・マーズまで、70sから現在までのMTVヒッツが開場BGMで流れる中、暗転とともに今度はそれらがサンプリングされたオープニングSEが流れるのも、いかにも“ALL ABOUT POP”を標榜するシギーらしい。
Shiggy Jr. Photo by Yosuke Torii
シンプルに楽器だけがセットされたステージは広いが、サポートを含むメンバーが登場し、「サマータイムラブ」のイントロとともにセンターに設置されたアルバムジャケット同様の江口寿史によるあの女の子の絵がスルスルと上昇、歌いながら池田智子(Vo)が現れると、会場のハンドクラップが曲の一部のように音楽を立体的にしていく。アルバムの曲順通り、続けて「恋したらベイビー」「ホットチリソース」と、ポップソウルとレアグルーヴィな彼らを代表するイメージのナンバーが立て続けに披露されたのだが、なにしろ隙間のある生音のアンサンブルが心地いい。原田茂幸(Gt、Cho)の16ビートのカッティングの正確さ、森夏彦(Ba)のパフォーマンス的じゃない自然なスラップを盛り込んだファンクネス溢れるプレイ、手数の少ないドラミングによってむしろ踊れるビートをシュアに叩き出す諸石一馬(Dr)。この日はおなじみの植木晴彦(Key)に加え、マニピュレートとギター、鍵盤で花井諒も加わった編成だが、ブラッシュアップされたアレンジで、池田のボーカルが引き立つ。
Shiggy Jr. Photo by Yosuke Torii
「これが満員のEX THATERかー! 後ろまで見えてますよ!」と感激しつつも、これからじっくりワンマンライブを戦い抜くぜ!(とは言わないけれど)という姿勢も見せる池田。歌いながらファンのクラップやシンガロングに「一緒に!」「素晴らしい!」と、会場を束ねて気持ちを上げていく彼女は今日はさらに頼もしい。
Shiggy Jr. Photo by Yosuke Torii
爽やかなグリーンのライティングが朝を思わせる「HOME」は、忙しい毎日、大きな幸せじゃないとしても、帰りたい場所があることへの感謝がまっすぐに心にしみる。原田のアコギも曲に平熱の温度感を添えていく。かと思えば二人の女性ダンサーが加わって、セクシーなパフォーマンスを展開する「I like it」では、諸石のドラムパッドや、森のシンセベース、花井のシーケンスが今っぽいR&Bの音像を立ち上げていたし、さらにアーバンな「groove tonight」も音へのこだわりが素晴らしい。曲ごとに妥協のないサウンドスケープを描く徹底した意志を見た。
Shiggy Jr. Photo by Yosuke Torii
『ALL ABOUT POP』で聴ける楽曲の多彩さは、派手なギミックではなく、演奏形態でメリハリをつけていく。一つ象徴的だったのが女性シンガーソングライター的な「手紙」。この曲をどうライブで表現するのかが楽しみだったのだが、「lovin’ you」と「手紙」はアコースティック・セットでの披露となった。原田はアコギ、森はウッドベースで、まずはオーガニック・ヒップホップ・テイストの「lovin’ you」を、そしてこの編成が最大限に活きた「手紙」で、池田の透明なハイトーンを広い会場の隅々まで届ける。アルバムリリース後の、しかもワンマンならではの新しい発見があるブロックだった。そのまま、シギーならではの軽快なアンセムとも言える「TOWN」につないでいったことが、<辛いとき笑えばいいのさ>のシンガロングを心から歌いたくなる力強い流れを作っていたと思う。生きてるだけで幸せ、誰かを愛せるから――明るいし、突き抜けたポップソングだが、ちょっと泣きそうになる。なんてカラッと真実を歌うのだろう、と。
Shiggy Jr. Photo by Yosuke Torii
一転、エレクトロニックでベースミュージックのニュアンスもあるダンサブルな「GHOST PARTY」。諸石が「俺たちがロックでロックなバンド、Shiggy Jr.だー!」と絶叫してスタートしたハードロック調の「dynamite」では、原田と森のソロ合戦――森が背面弾きすれば、原田はジミヘンよろしく歯で弾いたりと沸かせ、男性ファンの拳も上がる上がる。ガラッと音像を変えつつ、最速BPMの「oyasumi」に突入するとフロアはさらに沸点に近づき、ファルセットのエモーショナルなサビでタオル回しが展開する「oh yeah!!」までのブロックはロックバンド然としたアクティブなステージングで、池田はステージを所狭しと駆け、お立ち台で熱唱し、時にはお立ち台に座って表情豊かに歌う。確かライブが始まった時は「EX THEATERのステージ広っ!」と感じていたはずだが、すっかりそんなことは忘れていたよう。
Shiggy Jr. Photo by Yosuke Torii
「oh yeah!!」のエンディングにシーケンスが空間を加圧するように鳴り、背景が開くとそこには銀ラメ幕が鎮座し、まさにエンタテイメント・ショーといった高まりを演出。突き抜けるような「LISTEN TO THE MUSIC」の歌い出し。きらびやかなシンセサウンド、モータウンポップを想起させるメロディが、この地下の会場ごとどこか遠くに飛ばしてくれそうな心地になる。
Shiggy Jr. Photo by Yosuke Torii
「幸せです、ありがとう!」と満面の笑みの池田は、このツアー、そしてこれまでのバンドの歩みを振り返って、ファンが背中を押してくれていること、その思いに対してどう自分は返していけばいいのか、模索したこと。でもとにかく伝えたいのは「みんなと生きてることそのものが、もうパーフェクトだってこと」と、感極まった状態で率直な気持ちを話した。……のだが、昨日、お風呂で一生懸命考えたんだけどなんかうまく言えなかった、というニュアンスも彼女らしい。ライブではフロントマンとして、また取材やラジオなどでも先陣を切って、バンドを引っ張ってきたいけもこちゃんの緊張と達成感と感謝。心震える瞬間だった。素の気持ちが飾らないアレンジに乗るポップロック、「スタート」で本編を締めくくった意味も、すんなり飲み込めた。
Shiggy Jr. Photo by Yosuke Torii
Shiggy Jr.は“ポップのすべて”という言葉を、アルバムタイトルにだけ付けたわけじゃない。バンドのアティチュードのことを指しているのだ。アンコールも含めてどんどん表情を変える多彩な曲、でもあくまでも軸はバンド、という20曲を堪能させてくれた彼ら。内省と深遠を追求するバンドもかっこいいけれど、ポップを極めることもまた最高にかっこいい。今、あらゆる世代の音楽好きにShiggy Jr.のライブをお勧めする。例えばブルーノ・マーズの「24KMagic」にハマってる人も!
取材・文=石角友香
Shiggy Jr. Photo by Yosuke Torii
2. 恋したらベイベー
3. ホットチリソース
4. day trip
5. HOME
6. keep on raining
7. I like it
8. groove tonight
9. Beautiful Life
10. lovin'you
11. 手紙
12. TOWN
13. GHOST PARTY
14. dynamite
15. oyasumi
16. oh yeah!!
17. LISTEN TO THE MUSIC
18. スタート
[ENCORE]
19. サンシャインモーニング
20. Saturday night to Sunday morning
2017年2月15日(水)大阪府 Music Club JANUS
2017年2月21日(火)東京都 新代田FEVER