安寿ミラがシックにドラマティックに人生を歌う!『la vie d’amour2016 ~シャンソンに誘われて~』
昨年初めて開催したシャンソン・コンサート『la vie d’amour』の好評を受けて、また新たなイメージを織り込んで、シリーズ2作目の『la vie d’amour2016 ~シャンソンに誘われて~』が、12月2日~4日に上演された(青山・草月ホール)。
ドラマ仕立ての第1部と、ショー形式で次々にシャンソンを聴かせてくれる第2部という構成で、監修は酒井澄夫、演出は児玉明子が手がけている。共演者は去年に続けて出演する中塚皓平、今年初参加の神谷直樹。そしてピアノ(田中葵)、バイオリン(土屋玲子)、アコーディオン(かとうかなこ)、ベース(佐藤哲也)の4人のミュージシャンが、舞台上で生演奏でパリの雰囲気を醸しだしている。
昨年の第1部のドラマは、シャンソンの人気曲「想い出のサントロペ」をモチーフに、夫を男性に奪われた妻の悲劇を描き、人生の苦みとアイロニーを感じさせるものだったが、今回はシャンソンの名曲「100万本のバラ」を使って、歌の世界の後日談といってもいい1人の女優の人生ドラマが展開される。
【あらすじ】
昔、1人の女優が絵描きと出会い、恋に落ちた。だがその恋はスターへの座への道と引き換えに、叶うことはなかった。そして時が経ち…女優が辿り着いた道、その彼女を待つ数奇な運命とは…?
オープニングは銀のドレスを着た女優(安寿ミラ)が「水に流して」を歌い始める。エディット・ピアフの持ち歌としても有名なこの曲は、タイトルの直訳は「私は決して後悔しない」という意味だ。その言葉が、主人公の女優にとって、まるで反語のようでもあり、またこの物語の通奏低音のようにさまざまな形でドラマを彩る。
コンサートで倒れた女優は、アルコール依存症と診断され入院する。そんな彼女に付き添うのは1人の看護師。中塚皓平が演じるこの青年は、もの静かな佇まいの中にどこか冷たくミステリアスな影があって、その存在が後半で大きく物語へと関わってくる。
看護師が見つめる女優の肖像画、そこから彼女は過去へと誘われていく。青春の日々、絵描きとの恋。絵描きに扮するのは神谷直樹で、素朴さと誠実さを感じさせる風貌で、女優へのひたむきな愛をかんじさせる。
白い寝間着の病人姿と銀のドレスの晴れやかな姿、過去と現在を行き来する中で安寿が歌うのは、「想い出を見つめて」「酒とバラの日々」「愛はあなたのように」「ラ・ボエーム」「白衣」、そしてドラマのモチーフの「100万本のバラ」。ドラマティックなその曲の世界が、繰り広げられる物語と絶妙にシンクロして、展開していく。
そんなある日、見知らぬ誰かから贈られたバラ。そこから一気に物語は結末へとなだれ込んでいく。そこで歌うラスト2曲はとくに圧巻で、届いたバラによって女優が希望を取り戻す「生きる」、そして失われていく日々と人生の儚さを歌う「貴婦人」は、第1部のクライマックスを締めくくるにふさわしい絶唱となった。
第2部のショーは、紫のジタン(ジプシー)風の装いで登場した安寿の「パリパナム」で幕を開ける。そしてジゴロ風の神谷直樹と中塚皓平も加わっての「パリ野郎」と、ショーならではの楽しさが一気に弾けていく。
後半は、ゴージャスな黒のロングドレスで登場。メンバー紹介もはさみながら、男女の恋の苦さを歌う「再会」から「甘い囁き」「恋心」と、大人の愛をシックに歌いあげていく。神谷と中塚も燕尾風の衣裳で端正に登場、時折り安寿も加わってのダンスシーンは華やかで楽しい。
ショーのクライマックスは、青春への哀歓を込めた名曲「帰り来ぬ青春」、そして、まるで長編映画を観るような「カルーソ」を歌いあげると、くず折れるような礼とともに幕の奥に安寿ミラは消えた。
再び幕が上がると黒い羽根をまとって登場、アンコール曲の「歌い続けて」を、彼女自身のメッセージを込めるように、丁寧に歌い終えた。
安寿ミラに、監修の酒井澄夫が今回のパンフレットの中でこんな言葉を贈っている。
──深緑夏代先生のお手伝いをしていた時に、まだ皆さんには歌える力はないから、歌わせないと言っていた曲があります。厳しかった先生も安寿さんなら、あんたやったらいいわ、歌ってみて。と言われる気がします──
それらの曲は「貴婦人」「生きる」「白衣」「帰り来ぬ青春」…。その1曲1曲に、強く、深く、心揺さぶられたことを書いておきたい。
(文/榊原和子 撮影/竹下力)
『la vie d’amour 2016』
~シャンソンに誘われて~
監修◇酒井澄夫
構成・演出◇児玉明子
出演◇安寿ミラ/神谷直樹 中塚皓平
●12/2~4◎草月ホール
〈料金〉8,800円(全席指定・税込)
〈お問い合わせ〉キョードー東京 0570-550-799(平日11:00~18:00、土日祝10:00~18:00)
http://www.kyodotokyo.com/la_vie_d'_amour2016