布袋寅泰 ロックを体現する男のシルエット、『8 BEATのシルエット【BEAT 7】』最終日

2016.12.5
レポート
音楽

布袋寅泰『8 BEATのシルエット』【BEAT 7】2016.12.1(THU) NHKホール 撮影=山本倫子

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布袋寅泰 35th ANNIVERSARY『8 BEATのシルエット』
【BEAT 7】Maximum Emotion Tour ~The Best for the Future~
2016.12.1(THU)NHKホール

布袋寅泰35th ANNIVERSARY『8 BEATのシルエット』で描かれる8つのシーンの中でも、最も大規模でアクティブなプログラム。26本に及ぶ全国ツアーのファイナル公演、『【BEAT 7】“Maximum Emotion Tour~The Best for the Future~”』が、12月1日、東京・NHKホールで開催された。

19時5分。開演前から続いていた怒号のような布袋コール、祭りのような掛け声と拍手を切り裂いて爆音が轟き、187センチのシルエットがステージに姿を現すと、場内の興奮はいきなり沸点へと到達する。1曲目は「POISON」。菊池武夫デザインのスタイリッシュなロング・コートをひるがえし、ゾディアックの布袋モデルギターを抱え、左足を上げて得意のステップを踏む布袋。いつ見ても何度見ても、おおっ!と思わず声が出る。これがロック、彼がロック。続けて「BEAT EMOTION」、そして早くも「NO.NEW YORK」。ハイキック、風車奏法、足上げステップ、全部出し。BOφWYのライブを生体験したオーディエンスは、もう少数派だろうか。時間は戻らないが歌は残る。<SHE HAS A BEAUTY FACE>。会場全体の大合唱がその証だ。

布袋寅泰『8 BEATのシルエット』【BEAT 7】2016.12.1(THU) NHKホール 撮影=山本倫子

セットリストは、時代を超えたベスト選曲。COMPLEX「BE MY BABY」も、35年の歴史の一コマとしてさらりとやってのける。ギターはゼマティス。クールなデジタル・ビートに、セクシーなクリア・サウンドがよく似合う。「SERIOUS?」は、94年のアルバム『GUITARHYTHM Ⅳ』から。へヴィなブルース色の濃いシニカルなメッセージ・チューンは、あの頃よりもむしろ今の時代にフィットしている気がする。「サレンダー」も同時期の、チャート2位を記録したビッグ・ヒット。ギター・ヒーローから多彩なコンポーザー&シンガーへ、そのポテンシャルを解放したメランコリックなロック・チューン。その輝きは今も色褪せない。

「光のような、風のような、35年でした。いろんな出会い、戦い、思い出が詰まったたくさんの曲を、みんなと一緒に楽しみたいと思います」

美しいメロディのポップ・バラード「ラストシーン」から、ミラーボールが回るミステリアスなダンス・ロック・チューン「WILD LOVE」、そして強烈にエフェクティブなギターソロが炸裂する「WANDERERS」へ。「WANDERERS」は2007年リリースのアルバム『AMBIVALENT』から、当時のバンド名にも使われた思い出深い1曲で、ミドルテンポの深いグルーヴ、大人の色気をたっぷり感じさせるサウンドが、92年リリースの「WILD LOVE」の若いフィーリングと並ぶと、より引き立って聴こえる。曲順もいい感じだ。

「僕の一番お気に入りのバンド。やっと出会えた気がします」

最高の賛辞と共に紹介されたメンバーは、岸利至(Manipulator、Percussion)、井上富雄(B)、黒田晃年(G)、奥野真哉(Key)、そしてザッカリー・アルフォード(Dr)。ルースターズのメンバーだった頃の井上、デヴィッド・ボウイ・バンドのメンバーとして共演したザッカリー、“25年前に初めて見たロック・コンサートが布袋寅泰だった”という黒田、それぞれのメンバーとの出会いについて、長い時間を割いてエピソードを披露する布袋。名義はソロでも、やはり本質はバンドマンだ。「ギターが二人いないとできない曲を」と紹介した「Stereocaster」は、原曲のCharとのスリリングなギターバトルを、黒田と共にさらにホットにアップグレードしてみせる。ムーディーな「ESCAPE」では、リードを黒田に任せてミニマルなリフを正確無比に刻む。前にいてもうしろにいても、たったワンフレーズで彼だとわかる、圧倒的な存在感。

布袋寅泰『8 BEATのシルエット』【BEAT 7】2016.12.1(THU) NHKホール 撮影=山本倫子

2016年の最新曲「8 BEATのシルエット」から、1988年の初ソロアルバム『GUITARHYTHM』の実質的なオープニング・チューン「C’MON EVERYBODY」へ。デジタル時代のロックンロールという、布袋寅泰の永遠のテーマを時を超え体現する2曲は、原点であり未来への出発点だ。強烈なエイトビートに乗ってフロントの3人がステージ最前線に展開し、サビではオーディエンスと共にジャンプを決める。そして14曲目、満を持して登場した「Dreamin’」。日本のロックに新時代を切り拓いた、BOφWYの栄光を象徴する、すべての若きドリーマーたちに贈る至高のアンセム。すさまじい熱気と歌声のパワーが、ステージからも背後からも押し寄せてくる。歌い終えた布袋は満面の笑顔でピックを投げ、両手でガッツポーズを決める。まるでゴールを決めたストライカー。喜びが体全体からあふれ出している。

ここからはラストまで一直線だ。布袋スタイルのビートロックの王道を行く「SCORPIO RISING」でぶっ飛ばし、トリッキーな変拍子の「TEENAGE EMOTION」はサビを丸ごとオーディエンスに託し、95年のナンバーワン・ヒット「スリル」はステージ最前線で黒田とツイン・リードを決める。<俺のすべては、おまえたちのものさ>。歌い替えた歌詞に、大歓声が降り注ぐ。全17曲、1時間45分。なんと濃密な、なんとエモーショナルなロック・ショーだろう。

「俺の夢をかなえてくれた人に、今日はお恩返しをしたい。プリーズ・ウェルカム、ミスター・ズッケロ!」

布袋寅泰『8 BEATのシルエット』【BEAT 7】2016.12.1(THU) NHKホール 撮影=山本倫子

アンコール。布袋がステージに呼び込んだのは、イタリアのアーティスト、近年交流を深めているズッケロだ。ヨーロッパでアリーナ級のコンサートを展開するロック・スターのズッケロが、10月に行なわれた自身のロイヤル・アルバート・ホール公演に布袋を招待し、共演を果たしたことへの、真心こもった恩返し。古き良きブルースとロックンロールの香り高い「Partigiano Reggiano」「Ti Voglio Sposare」「Iruben me」の3曲で、ブルージーな熱唱を聴かせるズッケロを、あたたかくサポートする布袋。「Iruben me」の、むせび泣くギターソロは、まさに絶品だ。

「パーティーを続けようか!」

ズッケロを送り出したあと、間髪入れずに刻みだしたソウルフルなアップビート。BOφWYの1985年のシングル曲「ホンキー・トンキー・クレイジー」だ。蝶のように舞うステップで、蜂のように鋭いビートを刻む布袋に、満場一致の狂喜乱舞が止まらない。続く超高速ロカビリー・チューン「バンビーナ」は、間奏でダックウォークを繰り出し、後奏では「Marionette」「BEAT SWEET」など何パターンものギターソロを即興で奏で、盛り上がった火にさらに油を注ぐ。まだまだ終われない。5曲を終えてメンバーがステージを下りても、さらなるビートを求める声は鳴りやまない。

「久しぶりに一緒に歌おうぜ。俺たちのテーマソング!」

ダブル・アンコールの1曲目は「LONELY★WILD」。1992年、デビュー10年を超えた布袋が、戦い続けた数年間を振り返り、熱い思いをストレートに叩きつけた自伝的チューン。言葉をかみしめながらぐっと拳を握る感覚は、あの頃も今もきっと変わらない。そしてこの日の24曲目、本当のラスト・チューンは「DEAR MY LOVE」だった。1996年のアルバム『King&Queen』の最後を締めくくった壮大なロックバラードを、万感の思いを込めて歌い、弾く。<夢を見るのさ、今夜はそっとおやすみ>。日々を戦う大人のための優しい子守歌が、火照った心をゆっくりと冷ましてゆく。

「みんなのおかげで最高のファイナルになりました。また今日のような笑顔で会いましょう。生きていくのは晴れの日ばかりじゃない。俺も頑張るから、みんなも頑張ってください」

心のこもったラスト・メッセージに、あたたかい拍手が湧き上がる。24曲、3時間弱。少しは丸くなったかもしれないが、ロックを体現する男のシルエットはあの頃と変わらず、エネルギッシュでパワフルだった。そして『8 BEATのシルエット』は、残すところあとひとつ。年末のアリーナ・ライブ『【BEAT 8】“Climax Emotions~35 Songs from 1981-2016~”』を終えれば、2017年、布袋寅泰は36年目に突入する。新しいビジョンと、まだ見ぬ夢を掲げて、走り続ける。エイトビートは鳴りまやまない。この男がいる限り。

取材・文=宮本英夫 撮影=山本倫子

布袋寅泰『8 BEATのシルエット』【BEAT 7】2016.12.1(THU) NHKホール 撮影=山本倫子

 
セットリスト
布袋寅泰 35th ANNIVERSARY『8 BEATのシルエット』
【BEAT 7】Maximum Emotion Tour ~The Best for the Future~     
2016.12.1(THU) NHKホール

01 POISON
02 BEAT EMOTION
03 NO.NEW YORK
04 BE MY BABY
05 SERIOUS?
06 SURRENDER
07 ラストシーン
08 WILD LOVE
09 WANDERERS
10 Stereocaster
11 ESCAPE
12 8 BEATのシルエット
13 C'MON EVERYBODY
14 Dreamin'
15 SCORPIO RISING
16 TEENAGE EMOTION
17 スリル
<ENCORE>
18 Partigiano Reggiano [with ZUCCHERO]
19 Ti Voglio Sposare / ティ・ヴォリョ・スポザーレ(君と結婚したい) feat. 布袋寅泰[with ZUCCHERO]
20 Iruben me [with ZUCCHERO]
21 ホンキー・トンキー・クレイジー
22 バンビーナ
<ENCORE 2>     
23 LONELY★WILD
24 DEAR MY LOVE

 

ライブ情報
布袋寅泰 35th ANNIVERSARY 『8 BEATのシルエット』
【BEAT 8】Climax Emotions ~35 Songs from 1981-2016~

12月22日(木)名古屋国際会議場センチュリーホール
12月25日(日)神戸ワールド記念ホール
12月30日(金)日本武道館

 
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