ホリエアツシのロックン談義 第1回:ASIAN KUNG-FU GENERATION・後藤正文【後篇】
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モテたいっていう気持ちを見透かされたらお終いだった(ホリエ)
~“カッコつける”とは何なのか 昔と今~
ホリエ:俺は(2004年に)『ソルファ』が出たときは、あまりにも売れていくアジカンに身震いをしてたんだよね。
後藤:本当!
ホリエ:『めざましテレビ』とかで取り上げられてるのを見ながら、ブルブルしてた(笑)。
後藤:『めざましテレビ』出たときなんて、レーベルと大喧嘩だよ。だってさ、朝、どっかのツアーに行くときかなんかに、空港に集合する前にホテルに連れて行かれたのかな? で、「今からめざましの取材だ」って言われて。バンドとしては「テレビには出ません」って言ってあったのに、いきなり断れない状況で持ってきたから。最初に出た『めざましテレビ』とか、俺たちめちゃくちゃ不貞腐れて出てるからね(笑)。
ホリエ:今はさ、みんなテレビに出たがるじゃん。あの頃は出ない方がカッコいいみたいに思ってたし、ワガママにやってきてる感が俺たちの頃はまだあったと思う。
後藤:そうだよね。いろんなことでレコード会社にも歯向かって、建設的な喧嘩というか話し合い? 「俺たちはこう思ってるのに、なんでこうなんだ!」みたいなことをやってたんだけど。……思い出しちゃったなぁ。黒歴史だよね。
ホリエ:その頃の自分は恥ずかしいな、みたいな気持ちがあるの? 今でも共感できる?
後藤:共感、全然できない。だって、もう……なんだろう、わざと不貞腐れた格好とかもしてたじゃん。服とかも。
ホリエ:(笑)。
後藤:思い返すと、当時の下北沢とか渋谷は、女の子にキャーキャー言われたらロックバンドとしては終わりっていう時代だもんね。あの頃。
ホリエ:そう! モテるのはまだ良いんだけど、モテたいっていう気持ちを見透かされたらお終いだったよね。「お前、何モテようとしてんの?」みたいな。
後藤:ライブでもキャーキャー言われてたら周りに引かれるみたいなこともあったじゃん。
ホリエ:怒ってたよね。「可愛い~」とか言われてたら「うっせえ!」みたいな(笑)。
後藤:そういうの絶対にダサいと思ってたからね。ぐんぐんと拗れていった。
ホリエ:恐れられてたからね、ゴッチは。周りの女の子たちに(笑)。
だから、カッコつけるっていうことのベクトルが今とは全然違ったよね。カッコつける=客観的に見てチヤホヤされる方向に行くんじゃなくて、特別感を出したいというか。
後藤:世に媚びたくないと思ってたんだろうね。モテみたいな部分に媚びたくなかった。音楽さえ良ければ人は集まってくるから、別に女の子にキャーキャー言われたくてやってるんじゃない……っていうのを前面に出しすぎて……それでいま俺のコスプレする男の子たちがブス男みたいなのばっかなんだよ(一同笑)。
要するに、昔の俺は“ブス男養成ギブス”みたいなものを着てたわけ。それでブスでいたんだけど、この修行は終わった、もうやめようと思って。最近は。そうしたら「急に小洒落やがって」とか叩かれるわけじゃん。俺のことブス男だと思ってて、昔の方が良かったとか言うやつもいるよ。ブスの方が良かったみたいな。何言ってんだよ!
ホリエ:それは母性本能をくすぐられるんだよ、そういうほうが。私が色々やってあげたい!みたいな心理があるわけよ。
後藤:育てたいみたいな? なんだよ、俺はポケモンじゃないよ(笑)。
ホリエ:俺なんかはあくまでも、トム・ヨークとかデーモン・アルバーンみたいな、ああいうカッコいい人になりたくて、最大限努力しているわけで。……ま、結果的にああいう人達はモテ男なんだけどさ。
後藤:そうだね。今の俺はモテたくて色々やってるわけじゃなくて、好きな服を着たいとか、昔よりナチュラルになっただけっていうか。
“ブス男養成ギブス”をしてるのも逆の意味で媚びてることと同じだなって、意識的に媚びないようにしているのは媚びてるのと一緒なんだって、俺は最近思い始めた。
ホリエ:あぁ、そこもあるよな。
後藤:それで自然体でいようと思ったら、急にこう頭がクルクル、パーマみたいになり始めて。……まぁ、パーマ掛けたんだけどね(一同笑)。そういうこともやりたくなったらやれば良いんじゃないかなって思うようになった……40のおじさんだしさ。
でも当時、ストレイテナーはキャーキャー言われてたでしょ? 俺たちより。
ホリエ:いや、キャーキャー言わせてなかったね、俺たちの方がよっぽど。ゴッチなんかは、やっぱりキャラが一人歩きして「メガネ~!」みたいになってたけど、俺なんかはもうただの無口キャラみたいな、名前すら呼ばれなかったからね。
後藤:MCもしなかったもんねぇ。「俺たち、ストレイテナーっていいます」くらいしか言わなかったもん。
ホリエ:(笑)。お客さんが曲間、チューニングとかしてるときに名前を呼んだら、シーンってなっちゃってて。
後藤:返事すらしないからねぇ。
ホリエ:そうそう。それで誰も呼ばなくなっちゃって。そしたら、あるときから急に、「ひなっちー」って言ってきた子にひなっちがリアクションしたり手を振ったりするようになって、そしたらひなっちばっかり呼ばれるようになって。
後藤:ひなっちはファンサービス、ちゃんとしてたもんね。
ホリエ:そう、テナーの無愛想キャラを脱するのは、ひなっちが早かったね。
後藤正文 撮影=西槇太一
震災があって言葉が必要だって気付いたんだと思う(後藤)
~ライブ中にしゃべるようになったバンドたち~
後藤:今はMC、わりとしゃべるよね? 俺が最後に見たときでもわりとしゃべってたし。
ホリエ:しゃべる。計算したら、この前のツアーは2時間20分ライブやってて、リハーサルで曲だけ通したときは1時間50分だったから、30分くらいしゃべってる。
後藤:長いなあ、それは(一同笑)。でも、そういうギャップってあるじゃん。しゃべってたやつの方がしゃべらなくなって、しゃべらなかった人の方がしゃべり出すっていう……TOSHI-LOW現象?(笑)
ホリエ:そうそうそう!
後藤:怒られるけど多分(笑)。
ホリエ:俺たちの先輩世代はしゃべってなかったからね。チバ(ユウスケ)さんにしたってTOSHI-LOWさんにしたって。
後藤:そうだね。TOSHI-LOWさんなんて、鬼気迫る感じでバーって曲だけやって帰ってく、みたいな。
ホリエ:それについて、この間TOSHI-LOWさんとしゃべったんだよ。「なんでしゃべるようになったか」とか、「あの頃どういう風なことを考えてたのか」みたいな話をしたんだけど……そのあと飲みすぎて忘れちゃったよね(笑)。
後藤:なるほどね(笑)。でも多分、震災があって言葉が必要だって気付いたんだと思うよ……うん。
ホリエ:伝わらないもんね、曲がカッコよくたって。そこで打ちのめされるよね。音楽で伝えようとしたって、人間味みたいなところまではなかなか伝わっていかないから。
後藤:うん、わかるよ。それに多分、10何年黙っていたぶん練られた言葉が、TOSHI-LOWさんの中から出てきてる感じがする。黙ってたからこそ、あんなに良い言葉が出てくるんだと思うよ。
俺は最近逆にしゃべるの嫌になってきちゃったんだけど。MCしたくないって、MCしなくても良いですか?とか言うんだけど、「お前のMC面白いからちゃんとやったほうがいいよ」とか言われちゃって。
ホリエ:(笑)。実際面白いからね。一人でちょいちょいメンバーをいじったりとかして。
後藤:でも、そうでもしないとアジカンの楽屋、シーンってするんだよね(笑)。あのね、一回びっくりしたのが、みんながmacとか買い始めたときがあって、2006年くらいかな。俺は結構早くからmac持ってたんだけど、そのうちどういうわけかメンバーにも事務所から貸し出されるようになって。
ホリエ:そのタイミング、俺、見守ってたかも。
後藤:そうでしょ? そうしたらみんなiTunesで音楽聴くのに、共有しないでイヤホンで聴くんだよ。で、密閉タイプの良いイヤホンあるでしょ? ああいうので聴くようになって、あれ小さいから(イヤホンを)してるのに全然気づかずにワーッとひとしきりメンバーを弄ってたんだけど、シーンとしてて(笑)。俺がしゃべってるの、誰も気づいてなかったんだよ。10分くらい。
ホリエ:よく気づかなかったね、ゴッチが(笑)。
後藤:いやこれ、このままじゃ解散する!と思ったよ(笑)。そういう寂しさはあるんだよね。今でこそ聞いてくれるけど、20年もやってると建ちゃんとか話を流し始めちゃってさ、俺が何を言っても「あ、イジってきたな」みたいな空気を察知して、良いこと言ってるのに流しちゃったりとかさ。俺も「あ、これは流してる返事だな」っていうことが分かるようになってきたり。そういう関係になってきたよね、アジカン。
ホリエ:でも、それも良いよ。そうやって続いていくんだなって思う。
後藤:うん、面白いね。……でも、モチベーションをどうやって保っていくのかがやっぱり難しいよ。やっぱり常に自分にとって新しいことはやりたいじゃん。
ホリエ:その点はね、全く俺は突き当たった感はないんだよね。ストレイテナーは。
後藤:良いと思う。わりとメンバーみんなが新しいもの好きな感じもするし、ひなっちの探究心とかすごいなと思うし。
ホリエ:ここ最近、ちょっとJ-POPっぽいことを俺がやりたくなって、そういう楽曲を出していくんだけど、それにもみんな乗っかってくるし。
ホリエアツシ / 後藤正文 撮影=西槇太一
J-POPをカッコよくすれば良いじゃん(ホリエ)
~ポピュラーミュージックであることへの向き合い方~
後藤:この間のアルバム(『COLD DISC』)はそのJ-POP感みたいなものと、ちゃんと向き合ってた感じのアルバムだもんね。
ホリエ:うん、自然と。でも4人でアレンジをしていくとJ-POP感はそんなに出ないから、そこで「あ、いいバンドだな」って。
後藤:うんうん。J-POPをどこまで咀嚼するかっていう感覚でしょ? その割合って難しいところだよね。……でも、(自分たちは)否応無く“J”だもんね。
ホリエ:そうなんだよ。
後藤:“J”か、“J”じゃないかって言ったら、間違いなく“J”。ジャパニーズだからね、何をやろうが。
ホリエ:それをね、若い頃はとにかく否定したかったんだよね。
後藤:分かる!
ホリエ:「“J”じゃないんだ、俺たちは!」っていう勢いで。
後藤:そうなんだよね。でもなんでJ-POPに逆らっちゃうんだろうね? J-POPのクセして。日本のポピュラーミュージックは全てJ-POPなのに。
ホリエ:それは今になってやっとわかったし、J-POPをカッコよくすれば良いじゃん。そういう風に背負えるから。
後藤:それはとても良い言葉だね。「J-POPをカッコよくすれば良いじゃん」って。
ホリエ:当時はそうじゃなかったんだよね。俺たちはその流れの中にはいねえぞっていう。
後藤:そうそうそう。お前らとは違うんだ、みたいなね。ああいう抵抗をしていて、それが悪かったとは思わないけど……なんだろうな。
ホリエ:下北とかで対バンするバンドの中にも、共感できるバンドとできないバンドって、歴然としてたわけで。
後藤:なんていうか、俺の中では、芸能人になりたいやつに対しては、ちょっと気持ちが乗らないというかさ。俺たちは音楽をやりたくて音楽をやってるわけで、有名になりたくて音楽をやってるやつのことは嫌いだった。
だから、そういうやつの作ってる音楽を称して、俺は“J-POP”って呼んでたんだと思う。けど、いざ音楽をやっていくと、J-POPを超真面目に作ってる人もたくさんいて。
ホリエ:そうだよね。
後藤:真面目っていうより、本当にこれがやりたくて、カッコいいと思って作ってる人。そういうのって本当に自分たちの耳が追いついてくると「よくできてるなぁ」とかね、そう思えるようになったのは大きいことだなって。
ホリエ:結局、音楽を作ってる当の本人っていうよりも、周りを取り巻く人たちがどうしたいのかで見え方が変わってくる部分もあるしね。まぁ、もともとスターになりたい!みたいな人もたまにはいるけど。
俺たちは結果としてそこで意地を張り続けてきて、今になってあの意地って何だったんだろうなって思うけど、それが無かったら今のバンドはいないし、今のバンドを好きでいてくれる人もいないんじゃないかな。
後藤:もちろんそうだね。バンドマンだったりミュージシャンだったり、そういう存在でありたいっていうのはあったよね。何なのかワケのわからないものじゃなくて。
ホリエ:だから、お洒落したいんだけど、お洒落させられてる感は絶対出したくない、とか。
後藤:わかる。そういうことに対して意固地な時期はあったなぁ。スタイリストとか全部断ってたもん。メイクも絶対いらないって。言ってたでしょ?
ホリエ:うん。今は抗えないけどね、老けに(笑)。
後藤:夢が無くなっちゃうもんね。
ホリエ:それに、そういう仕事の人がいるんだもんね。俺たちが「いらねえ」とかって言ったってさ、よくよく考えるとそれはそういう仕事の人たちを否定することにもなるなって。
色々な仕事をしている人たちに出会うと、その人たちの想いとかを知っていくじゃん。当時はヘアメイクさんとかスタイリストさんっていう職業の人をよく知らなかったから、「バンドにはそんなのいらねえよ」みたいに言えてたけど、実際に関わると、彼らに意志があるし俺たちの意志をちゃんと理解した上で仕事してくれる。
後藤:テレビにメイクして出るのは、エ
ホリエ:自分が興味あるところにしか意識が向かなかったから。
後藤:その点、今の若い子たちなんかは、羨ましいかはよくわかんないけど、すごいフラットな世代になったよね。テレビとかに関してはね。それこそバンプ(BUMP OF CHICKEN)だってテレビに出るわけで。
ホリエ:バンプがちゃんとコンセプチュアルな衣装揃えてね。
後藤:ストレイテナーは実際どうなの? Mステとか。
ホリエ:俺たちはね、一回苦み走ってた頃に出ちゃったから、苦味が出過ぎてて(苦笑)。それも一つのアレだよ。黒歴史みたいな?
後藤:また出たらいいじゃん。
ホリエ:いや、今は全然出たいよ。ちゃんとバッチリメイクして。
後藤:パッチリ二重で。
ホリエ:アイプチして(一同笑)。
後藤:……って、こんなにダラダラ話しちゃって大丈夫なのかな。 ねぇ、大丈夫?(笑)
ホリエアツシ / 後藤正文 撮影=西槇太一
外に出て行くっていうことに対してはすごく可能性が増えてる(後藤)
~今の音楽シーンをどう捉えているか~
――これまでのお話のなかで、僕が聞きたかったことはほとんど出てきてるので、全然問題ないですが、最後にひとつだけ。先ほどお話にも出た若手アーティストを含めた今のシーンに対して思うこと、またその中でお二人がどのような立ち位置をとっているのか、お聞きしたいです。
後藤:若手はもう、ホリエくんが転がしまくってるから(笑)。インスタ見てるといっつも若手と酒飲んでてさ。
ホリエ:俺は転がしてないよ!(笑) だからさ、俺なんかはさほどリスペクトされてなくて、接しやすいっていうだけで。
後藤:うーん、そうなの?
ホリエ:ゴッチとか細美くんとかは接しにくいから、リスペクトされてても寄ってこないんだよ。
後藤:細美くんとか俺は多分、リスペクト関係なく“リアルに接しにくい”からね(一同笑)。
ホリエ:いや、でもリスペクトはすごくされてると思う。だからこの間の『Sky Jamboree』のときもフォーリミ(04 Limited Sazabys)とか「アジカン好きなんだ?」っていうパンク寄りの連中も「ゴッチとしゃべりたい」ってポケモンボール投げてくるわけで。
後藤:(笑)。
ホリエ:でもゴッチが自分で聴くとしたら、若手でももっと陽の当たらないようなところにいるやつの音楽の方が好きじゃん。
後藤:そうだね。
ホリエ:クセしかない、みたいな。やっぱり自分にないクセを持ってるやつのほうが面白いって思うもんね。
後藤:そうなんだよ。
ホリエ:俺なんかは特に、洋楽でもみんなが聴いてる……アークティック・モンキーズとか、そういうちゃんと売れてるロックじゃなくて、誰も聴かないようなローファイなやつばっかり聴いてた時代があって。2005年から2008年くらいとか。
後藤:いろいろ教えてくれたもんね。なんかイタリアのバンドとか。
ホリエ:そうそうそう。あれ良いバンドだよね。ヤッピー・フルー。
後藤:なんでこんなの知ってるの?みたいな。日本にも来ないし、まだやってるのかもわからないくらいの。
ホリエ:そういう方向に行きがちだったんだけど、今は逆に洋楽を聴かなくなっちゃって、日本の若いバンドで「これは勢いがあるな」とか、「じゃあ、なんでそんなに支持されてるの?」とかが、気になるようにはなってきたね。
その中でもかっこいいライブをやってたりとか、いかす曲を作ってる人とかに出会えたら、積極的に心を開くようにはしてる。
後藤:なるほどね。俺の場合、自分が好きなタイプの若手のバンドとか、「アジカンとかあんまり好きじゃないんだろうな」っていう前提で考えちゃうから。
ホリエ:わかる、ネガティブになっちゃうんだよね。
後藤:で、話したら意外と「聴いてました」とかあるんだけど。
ホリエ:世代的にも結構入れ替わってもきてるから、10コ下とかになってくると、(自分たちが)最初にロックに触れた原点だったりとかするじゃん。
The fin.っていうバンドなんかは、初めて観にいったバンドがアジカンで、そのときに対バンで出てたストレイテナーが結果的に初めてライブを観たロックバンドだって言ってたし。でもThe fin.がやってる音楽は全然俺たちを通った感じがしないという(笑)。
後藤:関係ないもんねぇ。俺も思ったもん、「本当に好きだったの?」って(笑)。彼らはいま海外に移住か留学かしてるみたいなんだけどさ、俺は若い子にそういうパターンは増えると思うよ。
北欧のミュージシャンが英語で歌ったりするのは何故かっていったら、国内だけでは食えないっていうのがすごく大きくて。ほかのヨーロッパとかアメリカに出て行かないと、そもそも音楽をやるマーケットが無いっていう話だから。日本ももしかしたらそうなっちゃうかもしれなくて……ことこういうロック音楽とかだったらね。
ホリエ:うんうん。
後藤:そういう意味では、まぁ……今、俺が二十歳で何かをやりたいんだったらニューヨークかロサンゼルスに行きたい。貧乏でもいいからって思うんだよね。ロンドンとかは今あまり盛り上がってるイメージが無くて、とにかく今はアメリカの音楽がすごく盛り上がってて。
ホリエ:アメリカの音楽は自由だよね。ロックもそうだし、すごくメジャーなシーンもインディ化してる気がして。
後藤:そうだよね。交流がそこにあるからね。互いにパクってパクられてみたいなこともあるし、インディのやつをカニエ・ウエストが引っ張り上げたりとかさ。だから、今の世の中、国外に出て行くっていうことに対しては、すごく可能性が増えてるようには思う。そういう方がむしろ、創造性の役に立ちそうな気がするんだよね。
ホリエ:シーンの状況もここからどんどん変わって行く気はするよね。いまはちょっと、フェスでどうやったら盛り上がるか、そこからどんどんファンを増やしていって……っていう作戦めいたアピールの仕方をしてるバンドが多いから。
後藤:そういうバンドも、そのうち食えなくなるかもしれないわけで……あれじゃないかな、これからは好きなやつしか出来なくなると思う。音楽なんて。でもそれで良いんじゃないかっていう気はするね。
だって、今フェスで人気のバンドたちも俺たちのように歳をとっていくわけで、そうなってくると右肩上がりの音楽ライフではないわけじゃん。浮き沈みも出てくるというか……若さゆえの爆発力ではなくて、どうやって歳をとっていくかっていうことも、もう40を目前にして、俺たちにとってはテーマになりつつあるわけだよ。だからそういうことも考えると、好きじゃなかったらやめる以外無いと思うんだよね。
ホリエ:そうだねぇ。
後藤:食うために別の仕事をするとかね。でも、別の仕事をしながらでも音楽をやりたいやつはやるし、実際、インディーズのおじさんとかも面白い音楽をしてる人は作り続けてるんだよ。状況がどうなろうがね。で、そっちの方が夢がある気がするというか。
……だから本当に好きじゃなきゃできない。金が無いからやめます、みたいな人たちはもうやめるしかないんじゃない?って思う。金が無くてもどうにかしてやりたいんだっていう人だけが残っていく、音楽が良くなる、またそこにお金も機会も集まる、そうなると良い循環になるんじゃないかと俺は思ってるんだけどね。
とにかく好きなことをやめないこと、続けることっていうのが世の中を良くしていくような気がするんだけど、かといって人からチヤホヤされたいみたいな気持ちが全くなかったら、ポップミュージックとしては良いものは生まれない気がしていて。そこのせめぎ合いが、正しいポップミュージックを生む上で大事なんじゃないかなって思うね。スケベ心みたいなものと求道心の振り幅の中に正解があるみたいな。
ホリエ:何も狙わずに作ったって、それがカッコよかったら、誰かしらが気づくからね。カッコいいものに対する欲求は誰しも持ってると思うし、それは多分俺たちの時代に他の対バンとか観てても「このバンドかっこいいな」っていうのは明らかだったから。光り方が全然違うっていうか。
後藤:サバイブみたいな部分はバンドにとってテーマにはなっちゃうけど、そういうバンドが経済的にもうまく回せた時代って俺たちが多分最後で、そこから下の世代はなかなかしんどいよね。俺たちにしたって、今やCDを売るのがとても難しい時代になってて、みんないくらかはしんどくなってるんだけど。多分新しい何かがこの先にはあるんじゃないか?とは思いつつ……あとはちゃんと“場”を用意しないといけないなって思ってるよ、最近。
ホリエアツシ 撮影=西槇太一
ストレイテナーは間口を開いていかないと(ホリエ)
俺も最近、アジカンはそういう気分でやってる(後藤)
~どうなる? これからのアジカンとテナー~
ホリエ:場?
後藤:インディロックがみんなで不幸にならなくていい場みたいなものを、どうやったら作れるかな?って。聴く人が減っちゃったらアレだし、そういう意味ではもう俺たちはオトナだから、しっかりと横で繋がりながら、ロックをちゃんと文化にしていかなきゃいけないな、ある種のカルチャーにしていかないといけないっていう。実際、ハイスタの世代のおかげで、ライブハウスっていうものが本当にカルチャーになったからね。
ホリエ:そうだよね。だって今やロックバンドたるもの全国各地でライブをやらないと、やっぱ「ダサい」ってなるもんね。
後藤:その先にある、もう少しの成熟みたいなものがほしいなぁとは思うよ。例えば、デス・キャブ・フォー・キューティみたいな音楽性のバンドのことを「ロックじゃない」って言い切っちゃう土壌が日本にはあるわけじゃない。ああいう美しい音楽を。
ホリエ:うん(苦笑)。高揚が無いと思われがちだけど、あれこそめちゃくちゃ高揚があるからね。
後藤:そう。そういう静かな音楽とかもロックなんだ、っていうね。ヨンシー(シガー・ロス)だってロックだしさ、そういうものに対する理解を、もうちょっと。
ホリエ:ロックの間口をもうちょっと広く持たせたいっていう風に思うけどね。
後藤:ロックなんて、J-POPと同じくらい広い言葉だからね、ロックの中に全部入っちゃうみたいな。だからあまりこだわらないでやった方がいい。
あとはコンサートとかももっともっと人が増えていけばいいと思う。今は増えているとはいえ、フェスには人は入ってるけど、ツアーになるとなかなか厳しいみたいな状況があるから。そこはみんなでどうにかしていかないと。
ホリエ:うん、そうだね。また小規模なイベントとかだとさらに入らなかったりとかするからね。
後藤::そうなんだよ。フェスに殺されかけてるじゃん、俺たちが(苦笑)。
ホリエ:俺たちが3バンドとかでさ、カッコいいと思うバンドに声をかけて一緒にやろう、でもジャンルはバラバラで、みたいなイベントをやったらさ、まぁ入んないよね。こっちから発信したいけどそこにファンがなかなか心を動かそうとしてくれない。
後藤:うん。それに関しては、情報過多で受け手の側もみんな捌ききれてないのもあると思うんだよね。例えば俺のソロのツアーとか、そもそもやることを知らなかったとかさ。そういう届いてないってこともあるわけで。でも、じゃあその知らなかった人は熱心にディグってたのかって言ったらそういうわけでもないと思うし、ディグらなくても目の前のタイムラインに情報が流れて来て、そのときに見れなかったら無かったことになってしまう状況があるから。
ホリエ:どんどん流れていっちゃうからねぇ。
後藤:そうそう。そういうことにも抗いつつ、どうやって活動していくかってことも今後はテーマになるというか……難しいなと思うよ、最近。
本当に告知の難しさってあって、ライブとかでも、「あれ? CDがこのくらい売れたならもっと入るはずなんだけどな」とかね。フェスシーズンにツアーが被ってしまったら「あれ?」みたいなことにもなるわけだし。
ホリエ:そうなんだよ。だって、一個の情報が欲しかったらそこだけをフォローすれば良いわけで、そうなると他の情報を求めなくなるじゃん。そうじゃなくて新聞みたいにバーンと何もかもの情報が一度にチェックできてっていう媒体が少ないというか、選ばれないというか。
後藤:雑誌とかだよね、一番良いのはね。映画の話も音楽の話も、お笑いの話も載ってるもんね。
ホリエ:知らなかったジャンルの情報とかも、なんとなくパラパラめくってたら目について、気になって。そういう出会いが今はなかなか出てこないよね。
後藤:そうやってムラ化していくとマズイんだよ、今後は。もうみんなで混ざっていかないと。ムラ化していくとどんどん先細っていくから、ロックもロックのやつらで固まっちゃいけないんだよ。
ホリエ:そうだなぁ。
後藤:うん。ロックのそういう共通言語っていうか、自分たちにしかわからない言葉で話しちゃって、そうしたら新しい人が来なくなるからね。そういう意味では若い子たちがテレビに出たりするのは、――本当に出たいっていうのもあるだろうけど――ある種、みんなで混ざっていかないといけないっていうことに対する、無意識的な反応なのかもしれないよね。
あとはさ、おじさんとかがもっと音楽を聴いたほうが良いんだよ。サラリーマンとかで音楽に興味が無い人、多すぎだと思うよ。
ホリエ:自分の時代の音楽にしか興味が無い、みたいなね。
後藤:だし、例えば、ロックバンドの音楽を聴いてても「まだ聴いてるの?」的な感じに言われちゃうんでしょ? おそらく俺の予想では。だから、良い年こいたやつは全員フジロックに行かなきゃダメだよ!
ホリエ:はっはっは。
後藤:もうちょっと、歳をとっても音楽を好きな人を増やさないといけないと思う。キッズのものだけになりすぎてる。おじさんのロックを作んなきゃダメだよ、ホリエくんも次はそれだわ。
30代、40代、50代とかの……子育て中の人たちも子連れで一緒に観に来れるような、普遍的なロック。
ホリエ:それだ。うちはお一人さんが多いんだよね。ストレイテナーのファンはね、ストレイテナーの音楽の中に入り込みすぎちゃってて、お一人さんが多いんだ(笑)。
後藤:開いていかなきゃダメだよ。家族連れがバンバン観にきてるバンドにならないと。……じゃあ、そういう存在が実際にいるの?って言ったら、なかなかいないんだよ。おじさんが観る対象だと、それこそボブ・ディランとか、ニール・ヤングとかさ……ポール・マッカートニーなんかはまだ若い子がいるんだけど、ボブ・ディランなんて若い子が観に来てないからね。……渋い、なんていうか、拗らせあがったおじさんしかいないんだよ。
ホリエ:(笑)。
後藤:ボブ・ディランがもう原曲と違う演奏をガンガンにしちゃってて、何の曲か分からなくても、「あの曲をやると思わなかったな」とかさ(笑)。「あの曲のアレンジがよかった」とか言いながら帰っちゃうような、拗れたおじさん。そういう人たちしか、音楽聴いてないんだよ。マイ電柱とか立てちゃったりする人たちしか。
ホリエ:マイ電柱?
後藤:自分の家のオーディオ環境を良くするために。ピュアな200Vを引き込むためにマイ電柱を。
ホリエ:良いの? それ。
後藤:良いらしい。全然違うんだって。……っていう、そういう極端なおじさんしか音楽聴いてないっていう現状があるから。ヤバイでしょ?
でも、欧米に行くと……フー・ファイターズをドイツで観たけど、50代のお父さんと20代の息子たちとか、40代のお父さんと中高生くらいの息子たちが一緒に観に来てて、お父さんお母さんはビール飲みながら。
ホリエ:あぁ、そういう意味ではバンプがそうなってるかもしれないね。
後藤:そうそう、バンプがそうかもしれないね。そういうバンドがもっと増えていくのが一番いいと思う。中学生の子供と一緒にお父さんも一緒に観に来れる、ロック。だから、もうそろそろお父さんになるストレイテナーファンもいるだろうし、その人たちが子供に送れるようなアルバムを作ればいいんじゃない? お父さんも息子もロックオンできるような作品。
ホリエ:だね。そこはインディに捉われずに。インディに捉われた音楽はentで出し切ればいいからさ。
後藤:そうなの?
ホリエ:うん。ストレイテナーは間口を開いていかないとなって思ってる。
後藤:俺も最近、アジカンはそういう気分でやってる。同じ感じだ。
ホリエ:かといって、「アジカンもストレイテナーもここにきて開いた」「ちゃんと大人から子供までわかる音楽を作っている」みたいに周りから評されると、ちょっと癪だったりもするんだけど(笑)。
後藤:ね(笑)。でも、ただ自然体でやってるだけなんだよね。
ホリエ:そうそう。本当にそういう音楽が好きになってるっていうのはあるよ。
後藤:例えば、入口を変にすごく独創的な玄関とかにしないで、まずはちゃんと家の形をしてるっていう(笑)。だって家だから。そういう気持ちだよね。
ホリエ:いきなり“猛犬飼ってます”みたいなこともなく、ね(笑)。
後藤:そう、飼ってもいないのにシール貼っちゃう感じでもないし(笑)。……って感じでね、もう10年、やれたら良いんじゃないかなぁ。
取材・文=風間大洋 撮影=西槇太一
後藤正文 / ホリエアツシ 撮影=西槇太一
発売中
初回盤
<仕様>透明スリーブ&銀箔
[通常盤 (CD)] KSCL-2811 ¥2,913+税
通常盤
【CD】
01.振動覚
02.リライト
03.ループ&ループ
04.君の街まで
05.マイワールド
06.夜の向こう
07.ラストシーン
08.サイレン
09.Re:Re:
10.24時
11.真夜中と真昼の夢
12.海岸通り
【DVD】(初回生産限定盤Disc 2)
『ソルファプラス』- a day with AKG -
1.「夕暮れの紅」Recording Documentary
2.「夕暮れの紅」Music Clip
2017年1月10日(火) 日本武道館
OPEN 18:00 / START 19:00
2017年1月11日(水) 日本武道館
OPEN 17:30 / START 18:30
2017年1月14日(土) 福岡国際センター
OPEN 17:00 / START 18:00
全席指定¥6,480(税込)
*3歳以上
*高校生以下対象当日会場にて¥1,000キャッシュバックあり
www.akglive.com/20th/
2017.1.11 Releasse
品番:初回盤デジパック TYCT-69108
1.How To Fly
2.悲しみが生まれた場所
3.Autumn Nightmare
4.Healer
5.Perfect Light
6.The Awakening
7.Forever and Ever
8.Imagine
9.素子-Soshi-
10.Sunset Moonrise
11.Silver Moment 12MIX
「Autumn Nightmare」配信リンク
iTunes URL:(http://po.st/it_ent_element)
レコチョク URL:(http://po.st/reco_ent_an)
The Birthday×ストレイテナー
2017年3月16日(木)
時 間:開場 18:00 / 開演 19:00
会 場:恵比寿 LIQUID ROOM
出 演:The Birthday ストレイテナー
主 催:J:COM/エニー
企画制作:福和家プロモーション
※未就学児童入場不可
お問合せ:
JCOM
一般販売 2017年1月28日(土) 〜