藤原祐規×演出家・キムラ真インタビュー! 舞台『PERSONA3 the Weird Masquerade』完結作を語る
(左から)キムラ真、藤原祐規
日本のみならず海外でも絶大な人気を誇るゲーム・『ペルソナ』シリーズ。その中のひとつ『ペルソナ3』を舞台化した舞台『PERSONA3 the Weird Masquerade』は、2014年1月に第1弾「青の覚醒」、同年9月に第2弾「群青の迷宮」、2015年6月に第3弾「蒼鉛の結晶」を上演。そして2017年4月、ついに完結を迎える。今回は第4弾「藍の誓約」と、最終章「碧空の彼方へ」の2作が同時上演となり、これまでと同様に蒼井翔太と阿澄佳奈がWキャストで主演を務め、男性主人公または女性主人公の回に分かれてそれぞれの物語を描く。今回は初演から続投の真田明彦役・藤原祐規と、第2弾から演出を担当するキムラ真の2人に、インタビューを実施した。過去の公演を振り返りながら、ファイナルへ向けての意気込みを語る。
――2014年の初演から始まり、約3年がかりで最終章を迎えることとなりますが、これまでの公演を振り返って思い出深いシーンはありますか?
藤原:キャストの皆と一緒に3本の公演を行ってきたので、チームワークはとても良いと思います。キャラクターと一緒に怒りや悲しみなどの感情も共有してきたので、そういった意味でも特別な舞台だと思いますが、なかでも藤田玲くん演じる親友・荒垣真次郎が死んでしまう第2弾がとても印象に残っています。
――仲間の死を乗り越えて、キャラクターを演じる上で気持ちの変化はありましたか?
藤原:そうですね。第1弾ではどうやってキャラクターに近づけよう?という気持ちばかりでしたが、第2弾で親友の死という一番大切な事件を実際に演じられたことで、それ以降はキャラクターに近づけようという思いよりも真田としていれば大丈夫なんだと。そういった意味では、僕も一緒に成長してきたのかなと思います。
真田明彦役:藤原祐規
――キムラさんはいかがですか?
キムラ:僕は第2弾から演出を担当していて、今だに印象深く覚えているのが第2弾の顔合わせの時です。物語の舞台が高校なので、心境的には転任してきた先生みたいな気持ちでした。例えばフッキー(藤原)が演じる真田という役は、世界中を探しても藤原祐規だけしか演じていないので、僕の中では藤原祐規=真田明彦になっていて。そうして本物のキャラクターたちが揃っている状況で「これから一緒に作っていくんだ」と思ったときの心境が忘れられません。そしてフッキーも言っていましたが、キャラクターが成長して、同じように本人たちも成長して。そうしてリンクする部分があるので、毎回とても楽しみでした。
――キムラさんはさまざまな作品を演出されていますが、2.5次元など原作がある舞台とオリジナルの舞台とで、何か違いや苦労された点はありますか?
キムラ:僕は2.5次元とは思っていないんです。もちろん原作があるものなので、原作に対する責任は大きいです。役者たちのプライドも大切ですが、原作者や原作ファンに悔しい思いをさせないよう、カンパニー全員で責任を持って取り組んでいます。ただキャラクターが飛び出してくるだけでなく、仕草や心情という原作では描かれない余白の部分、その世界で生きているということを表現したい。そういう意味で、ストレートプレイだと思っています。
演出家:キムラ真
――本作は第4弾と最終章の2本立てということですが、どんな内容になるのでしょうか?
キムラ:第4弾は大まかに言うと愛情の物語です。恋愛があるかもしれないし、友情もあるかもしれない。そうして傷ついたり悩んだりして成長していく、この物語で言うところの“心の成長”というメインの話を経て、最終章へとつながっていく。シャドウとの戦いもあるんですけど、キャラクターの内面がもっと表に出てくるのではないでしょうか。
――過去の回想シーンなども描きつつ、最終決戦へと向かうのでしょうか。
キムラ:そうですね。時間軸でいくと原作とは違うかもしれませんが、第4弾から見てもこれまでのことが分かる構成になっています。……だからまた真田もソロを歌うかもしれないね?(笑)
藤原:そこだけの回想はつらい(笑)。
インタビュー中の様子
――藤原さんの役どころは?
藤原:まず第1弾では、『ペルソナ3』という作品の世界観やキャラクター紹介などを詳細に説明する必要があり、第2弾からようやくキャラクターにスポットを当てて話が進み出しました。その中でも毎回ペルソナが覚醒する話があって、活躍するキャラクターがいる。
第2弾は僕が演じる真田明彦、第3弾では桐条美鶴(田野アサミ)と岳羽ゆかり(富田麻帆)がメインで色濃く描かれました。そして次の第4弾から最終章に向けては、伊織順平(大河元気)と主人公(蒼井翔太・阿澄佳奈)が頑張るときが来ます。その上で真田の役どころというと、先輩として見守るのか、その状況に流されていくのかはまだ分からないですが。
僕個人としては、ちょっとおもしろさを添えつつ頼れる先輩を演じて、最後は真田として感動できればな、と。そんな集大成にしたいです。
真田明彦役:藤原祐規
――この舞台では男性主人公と女性主人公が分かれており、上演回によって物語が少し変わるところも見どころです。藤原さんも意識して演技を変えられているのでしょうか?
藤原:僕はまったく変えてないです。キャラクターによっては友情と恋愛感情くらい心情が変わる者もいますが、真田は最初から主人公のことを頼れる後輩として見ています。でも第2弾で、真田にとって大切なキャラクターである荒垣真次郎の話が、男性主人公と女性主人公とで大きく変わった事例もありましたので、今後どうなっていくのか楽しみです。ただ第4弾と最終章が同時上演される次作で、もし男女両パターンの台本が違う場合、僕らは限られた時間の中で4本の舞台を作らなければいけないという……。
キムラ:あらすじを見た限り……どうだろうね?
藤原:でもまぁ無責任な言い方をすれば、みんな大変そうだなと思いつつも、いちペルソナファンとして楽しみたいです(笑)。
資料を見ながら……
――まさに先輩として見守る立場ですね(笑)。次作のあらすじを読んで、演じ方に対するイメージは変わりましたか?
藤原:真田という人物の根幹となる部分が描かれた第2弾のときは、どう演じようかと本当にすごく考えました。僕がメインとなる話はもう終わっていますが、その気持ちはずっと変わっていません。ただ次作のあらすじを読んだとき、これはやばいぞ。頑張らないといけないな、と思いました。プレッシャーや不安はありますがめちゃくちゃ楽しみです。
――キムラさんは、演出のつけ方の面でいかがでしょう。
キムラ:『ペルソナ3』という舞台は、映像と融合しています。他では見られないものを常に心がけています。そうしたテクニカル面はもちろん、演技の部分ですと、過去の公演ではキャストに肉体的な負荷をかけつつお願いしていましたが、第4弾ではメンタルが大切になってくると思います。次に活躍する順平役の大河も言っていましたが、どうなってしまうのか分からない。それくらい追いつめられると思うので、先ほどフッキーも言っていたように、演出として見守る感情を引き出してあげるのも必要かと。そして最終章の終わりには今まで見たことないような、オリンピックの演出にも勝てるような特別なものを……。
藤原:めちゃくちゃお金かかるよ(笑)。
キムラ:このカンパニーは、これが初舞台という役者やスタッフが多く、舞台『ペルソナ3』のために頑張ってきたチームなんですね。だから出し惜しみなくチャレンジもしながら、いろんな面で魅せていきたいなと思っています。
演出家:キムラ真
――チームワークが魅力のカンパニーですが、おふたりが初めて出会ったときの印象はどうでしたか?
キムラ:今から5年前、僕が初めて外部で演出させてもらった朗読劇で藤原くんと会いました。ふたりとも同い年なんですが、プロの役者としても素敵で、さらに良くするためにどんなこともノーと言わずやってくれる。だから舞台『ペルソナ3』のカンパニーに藤原祐規がいるっていうだけで、すごくやりやすかったですね。基本的には好きなので(笑)。
藤原:僕は初めてお会いした時、演出席にデカくて金髪で髭が生えてて怖い人がいるなーと思ってて(笑)。それで挨拶したら、「よろしくお願いします!」って高い声で返ってきて、かわいらしい人でよかったなと思いました。
キムラ:(笑)。
藤原:僕も舞台『ペルソナ3』という作品は、ただのキャラクターショーになってしまうことは一番避けたいと思っています。だから第2弾でキムラさんが演出されると決まったとき、一緒にごはんを食べながらその気持ちを伝えたら、「2.5次元ということはまったく考えなくていいと思う」とおっしゃってくれて。僕らは芝居がやりたい、キムラさんは芝居を作りたい。それでオールOKなんだという話をしました。付き合いも長いし、キムラさんが主催されている劇団にも出させていただいてるので、もう盟友みたいな感じです。
(左から)キムラ真、藤原祐規
――おふたりとも考え方が同じなんですね。
キムラ:そうですね。分かり合えるまでがすごく短いです。例えばフッキーが首をかしげるだけで、今のは違うんだなと分かるから、じゃあどうしたい?と聞ける。まわりくどいことがいらない、盟友ですね。
藤原:……今ちょっと乗っかったね。
キムラ:(笑)。
撮影中に談笑するふたり
――他の共演者とのエピソードもお聞きしたいのですが。バックステージの映像を見ると、とても仲のいい様子が伝わってきました。何かおもしろいエピソードはありますか?
藤原:めちゃくちゃありますよ! 第1弾のときにクリスマスをまたいでいたからか、なぜかプレゼント交換会をやろうという話になって。クリスマスイブに誰一人帰らず……それもどうなんだっていう話なんですけど(笑)、近くの公園に行って大きな木をみんなで囲んで、回りながらプレゼント交換をしました。
笑いの絶えないインタビューでした
――ちなみに何をいただいたんですか?
藤原:その時は何をもらったんだっけなぁ。ただ、僕があげたものがあんまり嬉しそうじゃなかったなっていう。僕は今までで一番おすすめのゲームを入れたんですよ、これはぜひやってもらいたいという気持ちで。それが蒼井翔太の手に渡ったんですけど、その場では「わぁ~ありがとうございます!」って言いながら、絶対やってないんですよ。
(一同爆笑)
藤原:今のは代表的なエピソードですけど、ふざけるところと仕事の部分がはっきりしているカンパニーです。特にそういうのは女性陣がうまいのかな。ふざけるところはふざけて、不安に思っているところはストイックに解消していく。そんなメリハリのついた現場です。
キムラ:天田乾役(坂口湧久・鈴木知憲)のふたりの存在もすごく大きいですね。最初は中学校一年生だったのが今受験生で、次の公演ではもう高校生になっているという。身長が伸びたり声変わりがあったり、そういう男として一番大事な時期がペルソナに繋がっていて、彼らが頑張ることで大人キャストも刺激される。成長期のなか同じキャストで見られることが本当に素晴らしいと思います。
ZAQ(アイギス役)は歌手だけど、舞台は『ペルソナ3』だけ出てくれているんです。そうして新しいキャストが入ることで強くなっていく、仲間はずれのない素晴らしいカンパニーです。
演出家:キムラ真
――みなさんの中で、盛り上げ役やまとめ役などだいたいの役割は決まっているのでしょうか?
藤原:だいたい女性じゃないですか。田野アサミちゃんがとにかく明るくて……うるさいくらい(笑)。
キムラ:麻帆もそうだけど、ちゃんと周りを見て明るくやっているよね。で、その様子を見てる(山岸風花役の)田上とか阿澄がいて……女性って強いなって思います。
藤原:うん、強い。女性がフォワードでとにかく前にいるんで、僕とか元気はディフェンスに回ったり。
(左から)キムラ真、藤原祐規
――蒼井翔太さんと阿澄佳奈さん、主演のおふたりはどうですか?
藤原:いやぁ、すごいですよ。主演というプレッシャーもあっただろうし、その中でよくここまで腐りもせずみんなをまとめてきたなぁと。
キムラ:ちゃんと座長だよね。
藤原:翔太は元々歌手ということもあって、とにかく歌が上手。あすみすは、自分で歌は得意じゃないと言ってたけどセンスがある。
キムラ:あすみすは、そんなことはないのに、自分が迷惑になっちゃだめだっていう思いで責任を負うタイプだから。だからこそ陰で薙刀を練習したり、稽古場でそれが出るんだろうな。
藤原:だから僕らも帰れないんですよ。稽古場のセットの裏で薙刀を振ってるのが見えるから、俺もプロテイン飲むかって(笑)。……とまぁ、そういう感じで翔太が歌をもって無言で引っ張っていくとしたら、あすみすは目に見えない努力で引っ張っていく。タイプの違う座長ですね。
キムラ:その背中を見せて頑張ろうよってアタックをしてくれるからね。言葉じゃなくて、彼らの向かう姿勢でカンパニーが変わるからすごいと思う。
真田明彦役:藤原祐規
――おふたりの姿に皆さんが刺激されているんですね。そんな仲のいいカンパニーですが、いよいよ完結を迎えます。意気込みを聞かせてください。
藤原:舞台『PERSONA3 the Weird Masquerade』は今回を含めて5作あります。完結までのすべてを演じられる経験はめずらしいことだし、すごいことだと思います。だから次の舞台だけを良くしようという気持ちではなく、シリーズとしてうまく決着させたい。自分の役さえ認めてもらえばいいのではなくて、みんなで良かったねと言い合って終わりたい。そのための努力は惜しみなく、観に来てくれた人に絶対後悔をさせないよう、みんなで一丸となってやっていきたいと思います。
キムラ:ついに終わるのか、という思いが一番大きいですが、カンパニーの意識が高く、誰もがやらされたという思いでやっていない。僕もこの3年で学んだことがあるし、それを全部ぶつけていきたいと思います。何よりもペルソナという作品を生んだ人たちや、ファンの人たちに対しての責任を抱えて、カンパニーとしての生き様を見てもらいたいです。そして終わりたくない! という気持ちで最後を迎えるのではなく、すべてを完全に出し尽くして終わりたい。ずっと残り続けるものにしたいです。
――最後に、最終章を楽しみにしている方々へ、メッセージをお願いします。
藤原:(前回の第3弾から)約2年空いて、ストーリーを忘れかけている人もいるかもしれません。そんなふわっとした思いも吹き飛ばすような、これまで見たことのない舞台を作りたいとキャスト・スタッフの全員が思っています。安心して観に来てください。楽しませます。
キムラ:2年間空いた意味が分かる舞台になると思います。この時期にまた奇跡的に集まったキャストとスタッフで、どのシーンでも1分たりとも出し惜しみせず、最高のエンターテイメントを観せたい。楽しみにしていただければと思います。(男性主人公と女性主人公を2作品ずつで)計4本を見ていただけたら最高ですね。
(左から)キムラ真、藤原祐規
インタビュー・文=堀江有希 撮影=中田智章
(C)ATLUS (C)SEGA / P3 the WM Project 2016
第4弾「藍の誓約」 最終章「碧空の彼方へ」
会場:シアターGロッソ
演出:キムラ真
蒼井翔太/阿澄佳奈