【SPICE単独連載】「プロ野球死亡遊戯」の中溝康隆がWBCを語る<第3回WBCの2013年日本代表チームを振り返る>

コラム
2017.1.6
2013年WBC台湾戦

2013年WBC台湾戦

第3回WBCの2013年日本代表チームを振り返る【バック・トゥ・ザ・WBC 第3話】

世の中には、勝利よりも勝ち誇るに値する敗北がある。

ジャンプコミックス『キン肉マン』第7巻でも引用された、フランスの哲学者モンテーニュの有名な言葉である。だが、WBCの舞台ではこの言葉は当てはまらない。ある意味、結果がすべて。それが国際大会の面白さでもあり、怖さだ。侍ジャパン二連覇で迎えた第3回大会は準決勝でプエルトリコ代表に敗退。勝負どころの痛恨の重盗ミスでジ・エンド。ベンチでは涙を流す内川聖一の姿。今回の原稿を書くにあたり、2013年日本代表チームの映像をスコア片手に1試合ずつ見返してみたが、過去2大会より印象に残るシーンが圧倒的に少ないことに愕然とした。確かに8回に一挙3点を奪い逆転した第1ラウンドのブラジル戦は手に汗握る熱戦だったし、実際に東京ドームで観戦していた第2ラウンド台湾戦9回二死からの鳥谷敬の盗塁、井端弘和の同点打は鮮明に覚えている。だが、これまでの大会ではイチローの韓国戦でのセンター前タイムリーや、川崎宗則がキューバ戦で見せた神の手スライディング等、常にトーナメント決勝戦や準決勝でのちに語り継がれるような伝説的プレーの数々が生まれていた。しかし第3回大会は盛り上がりのピークが日本ラウンドで来てしまった感は否めない。裏を返せば侍ジャパンが大会序盤から、それだけ苦戦していたということだろう。

過去大会は圧倒的な存在感でチームの中心に君臨していたイチローは、大会3カ月前に「今回もWBC日本代表として声を掛けていただいたことに感謝しています。ただ、僕の中で09年の第2回大会を終えた時点で、3回目の出場は考えられませんでした」と代表辞退。ただでさえ監督選出問題で混迷を極めた侍ジャパンにとって、選手間の絶対的リーダー不在はあまりに痛かった。
悪いことは重なり、大黒柱・阿部慎之助のサポート役を期待された、チームで唯一メジャープレー経験のある松井稼頭央が強化試合で腰痛を発症し本大会では無安打。さらに写真週刊誌に代表合宿中の選手スキャンダルが掲載されるなど揺らぎ続けた侍ジャパン。試合中はNPBがチームに密着する映像班をベンチ裏まで入れて、選手同士の会話をカメラに収めるとそのままテレビでオンエアしてしまう。ゲーム前の円陣でも「カメラが気になって思い切ったことを言えなかった」とチーム最年長の稲葉篤紀は嘆いた。40歳、百戦錬磨の稲葉ですらこうだったのだから、代表経験の少ない若手選手にとって常に見張られているプレッシャーは相当なものがあったはずだ。

当時のチームが抱えていた様々な問題については、内野守備・走塁コーチを務めた高代延博による自著『WBC侍ジャパンの死角』に記載がある。宮崎合宿の練習日と試合日が交互する不可解な日程、ただでさえ移動で体力を使うアメリカラウンドで2試合も強化試合をやる理解に苦しむハード調整。NPBは独断でスケジュールを決めずに事前に現場の希望を聞き、主催側のWBCIとネゴシエーションをしてほしいと怒りを露にする高代。そして、打撃投手や裏方のスタッフまで12球団が温度差なく全力のサポートをするべきだと現場目線から訴える。中には合宿初日に打者に当ててしまい、腕が萎縮して満足に投げられなかった打撃投手もいたという。

この高代の著書で最も興味深いのは、代表チーム内の雰囲気は決して悪くなかったという事実だ。紆余曲折があり代表監督就任が決まった山本浩二監督は、ことあるごとに「みんなで飯を食おう」と呼びかけ、息子以上に歳の離れた選手たちに溶け込もうと努力。広島の監督を退いて10年近く経過、"ミスター赤ヘル"と称された現役時代を知る代表選手は少ない。アメリカのステーキハウスでは「俺、あいつらとあんまり話したことがないから」と各テーブルを回り、丁寧にビールを注いだという。通算536本塁打の伝説的名選手が自分たちのところまで降りてきて、ここまでしてくれる。俺なら泣く。もちろん意気に感じた選手たちも「コージさんを胴上げしたい」と一致団結。……それでも優勝できなかったことにより、あの代表チームは失敗だったと言われてしまう勝負の世界の厳しさと悲しさ。

今思えば、山本監督自ら携帯に電話をかけて交渉した現役メジャーリーガーたちがひとりも参加できなかった逆風の中、すでにイチローや松坂大輔もいなければ、まだ大谷翔平や山田哲人もいない過渡期の侍ジャパンを率いて、「ベスト4」という結果は健闘したと言ってもいいのではないだろうか。

そんなナイスガイで周囲のコーチ陣の意見も柔軟に聞く山本監督だったが、チーム編成において断固として譲らないポイントが二つあったという。まず12年首位打者と打点王に輝き絶頂期を迎えていた阿部慎之助に主将を任せ、4番捕手として起用すること。もうひとつは当時23歳中田翔の代表選出である。「中田はこれからの日本を背負っていくことになるバッターだ。戦力としてどれだけのものになるかは分からないが、日本の野球界の将来も考えて入れておきたい」、山本監督はそう熱弁をふるった。

あの屈辱の敗戦から4年…。27歳になった中田翔は日本の4番打者として2017年第4回WBCを迎える。
to be continued……

(参考資料)
『WBC侍ジャパンの死角』(高代延博/角川書店)
「Number臨時増刊号 WBC侍ジャパンの「天国と地獄」。(文藝春秋)
スポーツニッポン12年11月20日 イチロー WBC辞退は事実上の代表引退「3回目は考えられない」
『キン肉マン』第7巻(ゆでたまご/集英社)

イベント情報
World Baseball Classic 2017(ワールドベースボールクラシック2017)

WBC強化試合
開催日:2017年3月3日(金)~3月6日(月)
会場:京セラドーム大阪

WBC 1次ラウンド
開催日:2017年3月7日(火)~3月11日(土)
会場:東京ドーム

WBC 2次ラウンド
開催日:2017年3月12日(日)~3月16日(木)
会場:東京ドーム

 

プロフィール
中溝康隆(なかみぞやすたか)

1979年埼玉県生まれ。大阪芸術大学映像学科卒。
デザイナーとして活動する傍ら、2010年よりブログ「プロ野球死亡遊戯」を開始。累計6900万PVを記録し話題に。
昨年は初の単行本「プロ野球死亡遊戯 そのブログ、凶暴につき」(ユーキャン)を上梓。
3月25日には著書「プロ野球死亡遊戯 さらば昭和のプロ野球」(ユーキャン)と「隣のアイツは年俸1億 巨人2軍のリアル」(白泉社)が2冊同時発売された。

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>>ベースボールチャンネルにてコラム連載中(毎週金曜日更新)
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ほぼ日刊イトイ新聞主催「野球で遊ぼう。」にライターとして参加。

 

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