Halo Orbit オルタナ好きには福音のごとく響くだろう1st『Halo Orbit』はいかにして完成したのか
シュガー吉永(HALO ORBIT/バッファロードーター) 撮影=鈴木 恵
洋楽ロック、とりわけオルタナティブでエッジの効いたサウンドに目がないリスナーには、福音のごとく響くだろう。バンド名はHalo Orbit(ヘイロー・オービット)。デヴィッド・ボウイ『★』への参加で名を挙げたマーク・ジュリアナ(Dr)、日本が誇るオルタナバンドの代表格、バッファロー・ドーターのシュガー吉永(G)、そしてマーズ・ヴォルタなど多くのバンドで活躍してきたホアン・アルデレッテ(B)。三位一体で生まれたこのサウンドを、傑作と呼ぶ以外に何と表現すればいいか。1stアルバム『Halo Orbit』は2016年12月にリリースされ、2017年2月には日本公演も決まった。聴けよ、さらば開かれん。シュガー吉永に、バンドの成り立ちと音楽性について訊いた。
ほんとに、織姫と彦星なみに会えない3人なんですよ(笑)。次はいつかわからないと思うと、3人のテンションも高いです。
――今日は1月8日、デヴィッド・ボウイの誕生日なんですよ。
あ、そうですよね。
――何か縁を感じますね。この作品の中にも、どこかにボウイの曲の面影が、よぎる瞬間があったりして。
私とホアンはロック畑から来てるんで、デヴィッド・ボウイに影響を受けてる部分はもちろんあるし。そして、奇しくもマークが、あのアルバムに参加してるもんだから。
――そうなんですよね。『★』に。
でもね、この録音をした時は、彼があのアルバムに参加する前だったんですよ。後々になって、彼が『★』に参加して、ロックとの接点ができてきたというか。
――余談ですけど。どの時期のボウイが好きですか。
世代的に、70年代はまだ子供だったんで。『スケアリー・モンスターズ』がどんぴしゃだったんですね。あれは今でも大好きです。私、ニューウェーヴ少女だったんで、ああいうギターとか、シャウトとか、アレンジが大好きで。変な曲じゃないですか(笑)。後追いで70年代のものを聴いて、それもいいなと思ったりしました。でも最後のアルバムはすごい好きです。超名盤ですよね。
――ホアンとは、聴いてきたものが近いのかな?って、想像してるんですけども。オルタナとか、メタルっぽい感じとか。
ホアンとは長い友達で、最初にバッファロー・ドーターのアメリカツアーで出会って以来、気が合って、仲良くしてるんですけど。意気投合したのは、音楽的な趣味の共通点があったからだと思うんですけど、レーサーXでヘヴィメタルをやっていたのに、本人いわく「俺はメタルを好きだったことは一度もない」とか言ってて。
――あれ? レーサーXはばりばりのメタルでしたけど(笑)。
そうそう(笑)。でも彼はヒップホップが好きだったり、いろんな音楽を聴いてるから。もともとニューウェーヴが好きだって、最近聞いて知ったんだけど、やっぱりそこが共通なんだなと思いましたね。そういう意味では、今回のアルバムを作るにしても、自分が好んでやりたいサウンドに共通点があったので。あんまり説明しなくてよかった部分はあったと思います。
シュガー吉永(HALO ORBIT/バッファロードーター) 撮影=鈴木 恵
――もともと、バンド結成の言い出しっぺはホアンですよね。
そうなんです。ホアンが“バンドやろうぜ”って急に言い出して。ちょうどマーズ・ヴォルタもそろそろ終息するみたいな時期で、彼も新しいことをやりたいと思っていたみたい。“バンドやんない?”“いいよ。どんなバンドやる?”“エレクトリックでかっこいいことがやりたい”とか言って。よくわかんないけど、“いいんじゃない?”って(笑)。
――なかなか大雑把な(笑)。
自分で書き溜めた曲や、アイディアをいっぱい持っていたので、いくつか聞かせてもらって“なるほど、こういうことか”と。じゃあやろう、でも“ドラマーはどうする?”って、数人名前が挙がったんですけど、“ニューヨークにマーク・ジュリアナという奴がいて、すごくいいと思う”って言うから、ホアンがいいドラムと言うなら絶対いいに決まってるから“誰でもいいよって”。で、声をかけたら、マークも“ぜひやりたい”と言ってくれた。だから、ホアンのもとに集まったという感じですね。
――マークは、ジャズ畑のドラマーということでいいですか。
もちろんジャズもいっぱい聴いてるんですけど、エレクトロニクスっぽい音楽が好きで、新しいシーンがすごく好きみたい。ホアンが“ジャズもやってるけど、エレクトロニクスも大好きな奴だから、たぶん気が合うよ”って言ってたんですけど、実際会ったら、いわゆるコンテンポラリーなジャズのスタイルじゃなくて、打ち込みで聴かれているようなドラムを、人力で全部やっちゃうようなタイプだったから。ホアンの言う“エレクトリックでかっこいい”という音楽に、ばっちりだったんじゃないかな。いわゆる典型的なロックドラムのタイプで、この音楽をやったら、もうちょっと違う方向に行ったかなと思うんですけど。彼のエレクトロニクスっぽいスタイルのドラムが入ったことによって、こっちも刺激されて出てくるフレーズもあるし。そういう意味では面白いバランスだと思います。
――曲作りとレコーディングは、どんなふうに?
2012年の初頭だから、もう5年前ですね。ホアンがリハーサルスタジオを持っていて、そこで3人でセッションして、2~3日ぐらいやったかな。そこでリフの素材とかを作りつつ、あらためてスタジオに入って、ホアンが作った曲と私が作った曲と、用意した曲をバーッと録音して。あとは別の日のスタジオで、またその日の気分でセッションしたのを、録りっぱなしで録音して。それはすごく長いデータになったんですけど、その中からEXTRACT(抜き取る)してアルバムに入れた曲もあったりするんですよね。そこにまたダビングしたりとか。そういうやり方ですね。
――スリリングな即興の要素と、緻密にエディットした構築感と。ハードに歪んだ音もあれば、ファンキーなものも、アンビエントっぽい要素もあって。融通無碍、という言葉がよく似合うサウンドだなあと思います。
みんなベテランというか、セッションは、特にマークはジャズドラマーだし。一緒に会って、誰かが音を出すと、それに対し次々に、違う人が音を出していく感じで。言葉で説明とかじゃなくて、音を出すと、そのままどんどん曲が流れていくんですよね。
――シュガーさんが用意していった曲というのは、たとえば?
2曲目の「One Of These Days」は、私が用意していたトラックです。マークのドラムと差し替えて、最後にラップを入れました。すごく長いデータからEXTRACTしたのは、7曲目の「Brothers And Sisters」と、その次の「Trieste」という、ちょっとアンビエントっぽいやつもそう。ボーナス・トラックの「Birds Eye View」もそうですね。
――「Brothers And Sisters」は、最高にファンキー。サックス、オルガンがいい味出してます。
だいぶ前なんで、はっきり覚えてないですけど。これはたぶん、ホアンがファンキーなベースラインを弾き始めて、マークが叩き始めて、という流れだったような気がします。途中でいろんなエフェクトをかけてるのも、その場でやってるから、純粋なセッションですね。そこにマニー・マークのオルガンと、マルセルのサックスは、あとで入れました。
――「Trieste」は同じセッションでもまったく違った、アンビエントな音像で。
ホアンはフレットレスベースが上手な人で、“ちょっと弾いてみるわ”って。そこになんとなくマークと私が入って、というセッションだったと思います。そうやって違う楽器を弾くと、違うアイディアも出てくるから。“これをやろう”ってやるんじゃなくて、とにかく音を出して、そうするとほかの二人が反応する、そういう感じですね。あんまり打ち合わせしてないんですよ。出たとこ勝負。
――それがこのプロジェクトの本質ですか。
そう。それが面白い方向に行くから、このバンドは面白いなと思って。そういうことができないバンドもあると思うんだけど、それが面白くできる3人だから。そういうスタイルが合っているんでしょうね。
――シンプルに言うと、楽しそうですよね。時にプログレっぽい、テクニカルな技の応酬みたいな時もありますけど、聴いた感じが開放的でファニーというか。
そこがたぶん、ホアン、マーク、私の共通点なのかもしれないですね。変にシリアスな感じにはならないというか。
――それは、アーティスト写真を見ても思いましたね(笑)。
そうですね。ふざけてますね(笑)。これはホアンのアイディアなんで、ホアンがそういう奴ってことですね(笑)。そのアイディアが面白いから、私とマークが「それいいね」って、乗っていくみたいな。
Halo Orbit アーティスト写真(L→R:マーク・ジュリアナ/Dr、シュガー吉永/G、ホアン・アルデレッテ/B)
――ハイテンポのミニマルなリフの応酬がスリリングな「Angels Flight」は、ミュージックビデオが作られました。ピクセル・グラフィックという、点描を生かしたポップなアートワークで、強烈なインパクト。
7分近くあって、“途中で飽きて見ない奴は見なくていい!”とか、ホアンは言ってますけど(笑)。カバーアートも作ってくれたテン・ドゥ・テンさんというアーティストが、素晴らしい映像を作ってくれて、全然飽きないし、3人ともすごい気に入ってます。映像がつくと曲のイメージも変わってきて、赤、白、黒はポップなイメージだし、現代的に聴こえてくるし。いいビデオができてよかったなと思います。
――この曲はダンスミュージックの要素も感じますけど、そういう意図はあったんですか。
あんまり考えてなかったですけど、最初にホアン言い出した“エレクトリックでかっこいい”というのは、要は“新しいからかっこいい”ということだと思ったんで。そういう意味で、ギター、ベース、ドラムという、オーソドックスなロックバンドのパターンなんですけど、そうじゃなく、2017年という年に聴いて新しいみたいなものを作りたかったので。カバーアートや映像も含めて、アップデートした形で。しかもそれがシンセをいじってるわけじゃなくて、ギターとベースとドラムでやってるところで、ロックバンドとしての新しい見せ方ができたらいいなというのはありました。
――あくまで、スタンスはロックバンド?
ロックバンドだと思ってやってるわけじゃないんですけどね。でもとにかく、この3人が集まった時に、現在進行形の新しい音楽の形が出せればいいという、そういうことです。着地点は、ロックっぽいですけどね。それが私たちの考える、“エレクトリックでかっこいい”ということだったんだと思うんですけど。
シュガー吉永(HALO ORBIT/バッファロードーター) 撮影=鈴木 恵
――何曲かで歌っているリサ・パピノーは、どんなプロフィールなんですか。
リサは、ホアンと一緒にBIG SIRというバンドをやっていて。過去にもバッファロー・ドーターで対バンしてるんですけど、素晴らしいシンガーなので。この人もロックボーカルじゃないですからね。だからと言って、何ボーカルでもないんだけど。歌い方も、メロディや歌詞の入れ方も、面白いアプローチをしてくれるので、“歌が入ったほうがいいね”という話をした時に、ホアンがリサに頼んで、歌ってもらった感じですね。
――リサさんの歌っている「Love Or Lost」はどんなふうに?
「Love Or Lost」は、どうやってできたか知らない(笑)。ホアンの曲なんだけど、“リサのボーカル入ったよ”っていう状態で送られてきたから。インストでもかなり好きな曲だったんですけど、“歌を入れたい”というから、どうぞって。ダビングに関しては、ホアンはロス、マークはニューヨーク、私は東京で、データをやりとりしながら進めたので。
――ダビングとミックスに、かなり時間をかけましたよね。3年ぐらい?
その時間が長かった(笑)。
――それは、興が湧くのを待っていたというか、急ぐ必要もなかったというか。
まあ、締め切りがないプロジェクトだったということもあると思うんですけど。自分たちとしては、さっさと仕上げたかったんだけど、それぞれが忙しいんですよ、とにかく。データを送るんだけど、なかなか戻ってこないとか。それで時間がかかってしまったんですけど。でも最終的にはまとめられたし、出せてよかったなと思います。途中で、このままお蔵入りになるかなと思ったんですけど(笑)。
――二人は、出来上がりに関しては、どんなことを言ってました?
気に入ってましたよ、もちろん。すべてのことを、カバーアートも含めて、みんな大満足で。ただ、ライブをやったことがないんですよ、私たち。
――そうらしいですね。お客さんの前では。
そこを今楽しみにしてる感じですね。“どうなるんだろう?”って。一緒に会って演奏するのが、何年ぶりなんですよ。レコーディングの時以来だから。そこから何年かたって、アルバムが出て、“じゃあライブで何をしようか?”って、お互いに楽しみにしているところですね。
――まず、2月にロスで一回やったあとに、日本公演が3回。2月22日の広島、23日の東京、24日の大阪と回ります。どんなライブになりそうですか。
2月にロスに行ってリハーサルするんで、その時にはもうちょっと、何をするのかわかってくるだろうけど。今のところは、このアルバムの曲をやりつつ……でもライブになったらどう発展するかわからないし、インプロ的な展開もしつつ、という感じですかね。でも3人とも、小難しい人たちじゃないんで。インプロっていうと、小難しく聴こえるんですけど、たぶんそういうふうにはならなくて。このアルバムもそうですけど、インプロでやってるんだけど、インプロっぽく聴こえないんじゃないかな? と思うので。そういうふうな見せ方には、なるんじゃないかなと思います。
――シリアスかハッピーか? というと、断然ハッピー。
そうですね。楽しまないとね。まず3人で会えること自体がうれしいし、演奏してても楽しいんで、まず自分たちが楽しみ、それはおそらくお客さんが見ても楽しいんじゃないかな? というイメージですね。
――今日はありがとうございました。最後に、ライブを楽しみにしてるファンへ、メッセージを。
ほんとに、織姫と彦星なみに会えない3人なんですよ(笑)。このスケジュールが取れたのも奇跡的で、たまたま3人が空いたんですよ。だから、観ないとまずいと思いますよ。来年まで会えないかもしれないから。そういう意味で、次はいつかわからないと思うと、3人のテンションも高いですし。
――まさに長い軌道(Orbit)の中にいるような。
そうですね(笑)。たまたま今会えましたという、そういうチャンスをぜひ見届けてほしいなと思います。
取材・文=宮本英夫 撮影=鈴木 恵
Halo Orbit『Halo Orbit』
BRC-536 ¥2,200+税
<収録曲>
01. Subump
02. One Of These Days (feat. Del The Funky Homosapien)
03. Angels Flight
04. Love Or Lost (feat. Lisa Papineau)
05. Halo Orbit
06. Warped Descent (feat. Lisa Papineau)
07. Brothers And Sisters (feat. Money Mark and Adrian Terrazas-Gonzalez)
08. Trieste
09. Roll The Dice (feat. Lisa Papineau)
10. Birds Eye View (feat. Lisa Papineau)