野田秀樹、宮沢りえ、妻夫木聡、古田新太ら、作り手と演者の舞台愛に胸が熱くなるNODA・MAPの新作『足跡姫』、ゲネプロレポート!
NODA・MAP『足跡姫』~時代錯誤冬幽~ ゲネプロより (写真撮影:中田智章)
作品を発表するたびに毎回、驚くような切り口や見せ方で観客を楽しませ、深く考えさせもして新鮮な演劇体験にいざなってくれる野田秀樹。今回のNODA・MAPの新作『足跡姫~時代錯誤冬幽霊(ときあやまってふゆのゆうれい)~』は、野田の盟友だった故・十八代目中村勘三郎へのオマージュとして書かれ、宮沢りえ、妻夫木聡、古田新太といったNODA・MAPには常連といえる(といっても、宮沢と妻夫木、妻夫木と古田はこれが舞台初顔合わせだというのも見どころのひとつ)キャストを得ての、大注目作となっている。1/18(水)の初日開幕を控えた前日に公開されたゲネプロを観た。
劇場に入ってまず目に飛び込んできたのが、一階客席左手に特設された花道。この花道も、舞台全体も板張りとなっているところが早くも歌舞伎、芝居小屋を連想させる。チョーン!と柝(ひょうしぎ)の音が響くと、舞台床に広げられていた、桜の大木が描かれた緞帳がゆっくりと上がっていく。再度、チョン!と柝が鳴ると、面をつけた古田と宮沢が登場。このプロローグでは能の謡曲『田村』が流れる中、台詞もなく、面をつけたままの古田と宮沢の存在感に惹きつけられながら、このあとの物語の行方を思い、想像力を刺激される。やがて宮沢が面をはずし、アンサンブルたちと共に薄絹姿で妖艶に賑やかに踊り出すと、もうそこは江戸時代のひなびた芝居小屋。いよいよ、物語が始まる。
江戸幕府から御法度とされている女カブキが上演されている芝居小屋。<三、四代目出雲阿国>(宮沢)と<踊り子ヤワハダ>(鈴木杏)たちが足を踏み鳴らしながら艶やかに舞い踊っていると、彼女たちを取り締まろうとして<伊達の十役人>(中村扇雀)が入ってくるが、阿国の弟である<淋しがり屋サルワカ>(妻夫木)ら男たちがすり替わり、その場は難を逃れた。だが一座の座長<万歳三唱太夫>(池谷のぶえ)の怒りにふれたことで、阿国とサルワカは、さらにそれぞれにある目的があって一座に潜り込んでいた<腑分けもの>(野田)、<戯けもの>(佐藤隆太)と共に一座を追い出されそうになってしまう。そこで阿国はサルワカに、女カブキの“筋”なるもの、つまり物語、台本を書かせることを思いつく。机に向かい、書き始めるサルワカだが思うように筆は進まない。するとそこに<売れない幽霊小説家>(古田)が現れ、“ゴーストライター”として大衆にウケる新作『足跡姫』を書き上げるのだが……。
女カブキ、出雲阿国、口上、大向こうの掛け声、太鼓や笛、鼓など和楽器の生演奏など、歌舞伎に関するキーワードやモチーフ、エピソードが満載な中、いつも以上に野田作品ならではの駄洒落のような言葉遊びが多数使われ、台詞もストーリー展開も小気味よいほどにスピーディー。キャストも皆、全身全霊をかけてそれぞれの役に取り組み、熱演、好演。中でもやはり圧巻だったのは、宮沢の声の持つ魅力と伝達力、“足跡姫”ならではのステップを多用する踊り、パフォーマンス表現の力強さ。そして妻夫木の無垢な真っすぐさに和み、古田の美しい刀さばきと圧倒的な存在感に見惚れ、佐藤の勢いある演技に目を奪われ、鈴木のしなやかな艶っぽさにときめき、池谷の達者さに改めて脱帽し、扇雀の軽やかさに何度も笑わされ、そして案の定、野田の怪演に心地よく引っ掻きまわされた。単に豪華なだけではない、2017年の今、観るべき、ぜひとも観ておきたい才能が集結したキャスト陣だからこその安心感と充実感、それを目撃できたことに幸福すら感じた。
そして当然、中村勘三郎へのオマージュであるので、勘三郎ファンはもちろんのこと、勘三郎の人柄、才能を少しでも知る人なら誰もがおそらく胸が熱くなること、しばしば。しかしそれだけでなく、歌舞伎に限らずすべての肉体表現者、舞台に携わる者、舞台そのものをただただ愛する人々すべての心を強く揺さぶる感動が、そこにはあった。確かに舞台の上にあるもの、舞台上で起こることは虚構、ニセモノかもしれない。物語上の人物は死んでも、芝居が終われば演者は素に戻る。それなのに、実際の肉体に必ず訪れるのが死。それを踏まえて演じる者が考える、生きて豊かに表現するということ、死してなお残ること。消えないものは必ずあって、その意志を継ぐ者が現れるということ。肉体芸術に生命を賭けて取り組んだ人のすぐそばにいたなら、より強く感じたであろう心の動きや口にしてしまったであろう言葉の数々が、この物語の流れ、台詞の端々からにじみ出てくるように思えた。書き手も演者も同じ気持ちで、一丸となってこの舞台を作り上げているということがしみじみと伝わってくる幕切れには、こちらも涙せずにはいられなかった。この渾身の一作をオマージュとして捧げられたあの盟友も、きっと劇場のどこかで微笑んで、いやゲラゲラと笑い、手を叩いて大喜びしながら見守っていてくれるに違いない。
NODA・MAP『足跡姫~時代錯誤冬幽霊(ときあやまってふゆのゆうれい)~』はこのあと、3/12(日)まで、東京芸術劇場プレイハウスにて上演中。
取材・文:田中里津子 写真撮影:中田智章
■出演:宮沢りえ 妻夫木聡 古田新太 佐藤隆太 鈴木杏 池谷のぶえ 中村扇雀 野田秀樹
■美術:堀尾幸男
■照明:服部基
■衣裳:ひびのこづえ
■作調:田中傳左衛門
■サウンドデザイン:原摩利彦
■音響:zAk
■振付:井手茂太
■映像:奥秀太郎
■美粧:柘植伊佐夫
■舞台監督:瀬﨑将孝
■会場:東京芸術劇場プレイハウス
■協賛:住友生命
■共催:東京芸術劇場(公益財団法人東京都歴史文化財団)
■主催・企画・製作:NODA・MAP
■お問合せ:NODA・MAP 03-6802-6681 http://www.nodamap.com