瀬奈じゅん・東山義久・青木豪インタビュー 舞台『エジソン最後の発明』「ラジオって古くて新しいメディアかも!」
青木豪、瀬奈じゅん、東山義久
劇作家・演出家の青木豪による7年ぶりのオリジナル作・演出作品となる新作舞台『エジソン最後の発明』が、2017年4月シアタートラムを皮切りに、大阪、名古屋にて上演される。
舞台は東京下町。夫婦、親子、恋人、友…、愛する人との、絆、別れ、出会い、心残りや後悔、それを埋めたいと思う気持ち……。現代社会ではこぼれ落ちてしまいがちな、日々の心模様を、声によって語り掛け、心を繋ぐ、“ラジオ”という存在を通して見つめる人間ドラマだ。
本作に出演が決まった、瀬奈じゅんと東山義久、そして青木に今の心境や作品から感じることを語っていただいた。
--青木さんにとっては7年ぶりの作・演出となる『エジソン最後の発明』ですね。
青木 そうなんです。オリジナル作品は年に1本以上は書いているんですが、作・演出となると実に7年ぶりでして。たまたま作だけ、とか演出だけ、とかをやっていたら「あれ?そういえば作・演出をやってないなあ」と気がついて。今回事務所を(キューブに)移籍した際に「作・演出をやったら?」というお話があって。ずいぶんやってなかったので「喜んで!」ってお返事しました。とはいえ、言われてから動くナマケモノなので、ネタを温めていたわけではないですが(笑) どの作品も煮詰まってから2日くらいで思いつくんです。
--今回、下町を舞台にしようと思った理由は?
青木 町工場を描きたかったんです。それでいろいろ調べていたら、エジソンが最後に発明しようとしていたのが「死者と話ができる機械」だったと知って、これは面白そうだなと。
瀬奈さんとお話をして感じたのが「声が魅力的。ラジオパーソナリティーのようだな」。そこから父と娘の話が生まれ、さらに東山さんと瀬奈さんがディレクターとパーソナリティーかつ、恋人同士で。さらに、こっち(東山)はバツいちで……。
青木豪
東山 え? 僕、バツいちなんですか!? 今初めて知りました!
青木 (笑) 今いろいろキャラクターを動かしているところです。
--今回のキャスティングを拝見して真っ先に思ったのが、「この顔ぶれは、どう見ても、歌って踊ってな芝居だと思うんだけど……ストレートプレイ?」でした。
青木 すみません。ストレートプレイなんです。でも、いろいろな方に同じ事を聴かれているうちに、なんだか歌って踊るシーンを作らないとダメか?という気持ちになってきました(笑)。
東山 僕も最初にこのお仕事のお話をいただいて「ありがとうございます。お受けします」的なやりとりをしたときに、「あ、義久さん。言っておくけど歌と踊りはナシだから」って言われて、「え? じゃあ僕に何ができるだろう」って思いました(笑)。 でも楽しみにしています!
青木 東山さん、おもしろそうだから。最初は「普通のあんちゃんみたいな人が(キャストに)欲しい」って言っていたんです。
東山 ああ、よくあんちゃんっぽいって言われますね。僕は「DIAMOND☆DOGS」という、今年で15周年になるエンターテイメント&ダンスカンパニーをやっているんですが、自分が発起人で年上なので、あんちゃんというかリーダーという役どころ。その感じが出ているんじゃないかな?
東山義久
--先ほども話が出ましたが、瀬奈さんはラジオパーソナリティーという役。この役どころについてはいかがですか??
瀬奈 私、子どもの頃から声にコンプレックスがあって。小さい頃から声が低くてハスキーだったんです。でも「声が好き」って言われることが割と多くて、自分がコンプレックスに思っていることと人が思うことって何かしら繋がるところがあるように思います。そんな私に声の仕事をくださって嬉しいです。
青木 どこかでラジオパーソナリティー的にしゃべる場面を作らないとね。
瀬奈 私の声を聴いて「ラジオパーソナリティーという役にした」という話も今日伺ったばかりですしね(笑)。でも他の設定は知ってましたよ! 青木さんをかばうつもりじゃないですが。少しでもよく書いてもらいたいので、今日はずっとこんな感じで青木さんの味方になろうと思っています(笑)。 (※このインタビュー時点ではまだ本は出来上がってない模様)
瀬奈じゅん
青木 ホント、すみません…(笑)
■発明品で何をしたい?~亡き人に伝えたいこととは~
--ところでエジソンの最後の発明が「死者と会話をする機械」だったこと、ご存知でしたか?
東山 僕は知ってました。TVか何かでその話を聞いたことがありました。だから小野武彦さんが演じる「下町のエジソン」が、すでに亡くなった奥さんと話をしようと発明するのかなあ……なんて想像してました。まだ本がないので予想と違うかもしれないですが。
瀬奈 私は全然知らなかったです。ありえないでしょ。その機械を発明しようとする繊細さは素敵だなって思うんですが、私はもっと現実的なので「絶対発明できないって!」って思ってしまう。夢がない人間なんです。
--なぜそんな機械を作ろうとしているのか、その理由が気になります。会いたい人がいるのか、生きている人にもう興味がないのか・・・・・・想像が膨らみますね。
青木 僕も気になります(笑)。でも僕らの親の世代ってもう亡くなった人のほうがずっと多い年齢ですから。エジソン自身はよくよく調べてみると亡くなった誰かと話したかった……って考えではなかったみたいです。紙に何かを書いて箱に入れ、その内容を読み取る霊能力者……透視能力者みたいな人と出会って「そんなことがこんな人にできるなら科学的にもできるんじゃないか?」って思ったみたい。
瀬奈 科学で証明したかったんだ!
青木 そうそう。それで、思うんですが、誰かが自分の事を観ている「視線」ってあまり証明されることってないじゃないですか。あと、エジソンが電話とか電球とかを発明したときは、今のように遠くの人とこんな携帯電話で話ができるようになるなんて思ってもいなかったんじゃないかな。そんな、目に見えないものを物理的に解き明かすこともできるんじゃないかなって考えたのがエジソンで。
--エジソンは科学での証明のためにその発明をしようとしたと思いますが、さて。もし「死者と話ができる機械」が本当に完成されたなら、誰と話をしてみたいですか?
東山 僕は自分の祖父ですね、母方の。僕が思春期に入る頃に亡くなったんですが、「お爺ちゃんの形見だから」と何かが包まれているものをもらったんです。舞台の初日や楽日などは必ずそれをお守りのように持って現場に入るんです。封印されているので何が入っているかわからないんです。いつか開けてみようと思っていますが。
瀬奈 開けようよ、稽古場で! いい機会だから……(ニヤニヤ)
瀬奈じゅん
東山 えええっ!? 開けちゃいます? まだそのタイミングじゃないような……。でも、お爺ちゃんとは話をしてみたいですね。子どもの頃、僕は身体が小さくて、いつも心配していたそうです。まさか僕がこんな仕事をしているなんて知らないでしょうし。どこかで見守ってくれていると思いますが。一緒にお酒を飲んでみたいですね。
瀬奈 (東山さんのバッグを漁る動きをしながら)「(お守りの中に)こんなん入ってましたよー!」ってやろうよ!
東山 アカン!アカンから!(笑)
--瀬奈さんは誰と話したいですか?
瀬奈 私もお爺ちゃんですよ。母方のお爺ちゃんは宝塚歌劇が大好きで、私が中一のときに亡くなったんですが、私がその後宝塚を受験しようとしたことも合格したことも、ましてやトップスターになったことも知らないので「トップスターになったよ、頑張ったよ」って報告したいですね。お爺ちゃんに宝塚を薦められた訳でもないし、一緒に観劇したこともなかったのに不思議ですね。
あと、私も形見を持っているんですが…。
東山 何ですか? 開けましょう!
瀬奈 いやもう開いてますから(笑)。バーバリーの水玉柄のスカーフなんです。いつも胸ポケットに入れていたんですって。海軍の船長さんでおしゃれな人だったそうです。いつも海軍の制服の胸ポケットに香水を入れていて、敵に胸を打たれたらその香水が撒かれて遺体の臭いがしないように、別のところを撃たれて死ぬときは自分で取り出して身体にかけるから、っていうお爺ちゃんでした。あと、お爺ちゃんはタンゴが得意で。船上は社交の場でもあるので大人のたしなみとしてそういうこともできた人だったそうです。
--そのお話だけで作品が1本できそうですね。
青木 すみません、そのネタいただいても……(笑)。
瀬奈 どうぞどうぞ!
東山 うちは陸軍の伍長さんだったって。ドロドロになりながらフィリピンの山の中に入っていったっていうので……清潔感がまるで違うなあ(笑)。
瀬奈 そういえばお爺ちゃんが捕虜を連れて、その人の言葉を翻訳してくれる日本人のもとに連れていったことがあったんですが、そのとき翻訳を担当したのがなんと父方のお爺ちゃんで! 後日、父と母が結婚してからそれが分かったんですって。
全員 うわあああ! すごい巡り合わせ!!
瀬奈 お爺ちゃんはその話を私にしかしていないようなんです。だから「死者と話ができる機械」ができたなら、なぜそういう話を私だけにしていたのか聞いてみたいですね。人って誰かに秘密を話すことで楽になりたいと思っているのかもしれませんが、お爺ちゃんは私にしたその話をもっと他の人に広めてもらいたいんだろう、と思っていたし、みんなにもお爺ちゃんの素敵な話を聞かせてあげたいと思っています。まあ、でもそんな機械を発明するのは絶対無理だと思うので(笑)、これからも私が伝えていきたいと思います。
--青木さんは?
青木 僕は昔一緒に舞台美術をやっていた人と話がしたいです。劇団旗揚げのときにすでにご高齢で、僕がまだ新米の時にお世話になっていた人。「おまえ、お金ないだろうが、おもしろいから2回目からは俺と一緒にやろうよ」って声かけてくださったんです。僕の本質的なところをわかってくださって、グッとくるような事を毎回言ってくださっていたんです。「おまえ、毎回『死』みたいなところを通らないと書けないんだな。キツイよな」とかポロッと言ってくださって。その頃、毎回キツイ話ばかり書いていて自分もキツイなって思っていたので。その頃は技術がないので一度死の淵まで行ってみないとわからない、と思いながらやっていた頃。だからこそ「今の俺、大丈夫ですか?」って聞いてみたいです。
青木豪
■「発明してほしいもの」は何?~ものに込めた想いとは~
--逆の質問ですが、「下町の発明家」に作ってもらいたいものってありますか?
青木 イスカンダルにあると言われている放射能除去装置ですかね、やはりそれを真っ先に作っていただきたいですね。(※元ネタがわからない人は『宇宙戦艦ヤマト』と共にググってください。)
瀬奈 先日TVで観たんですが、洗濯をして、それを全部乾かして、さらに畳んでくれる機械ができたと聞いて……それが欲しいです! 愛する妻のために開発されたとか……ぜひ欲しいですね。今まで不可能だと言われていたものがほしいですね。
--あれは食器洗い機みたいに、一度モノをセットするところは自分でやらないとダメらしいですよ。
瀬奈 じゃ、いらない(笑)。 ともあれ、できるorできないじゃなくてそこに至るまでの「想い」が大切なんじゃないかな? ……うん、いいこと言った(笑)。
--東山さんはいかがですか?
東山 いや、この後にしゃべるの、無理やわ!(笑) マジメに考えよう……ええと。やはり「どこでもドア」みたいなものはあるといいですよね。でも「どこでもドア」はあると便利だけど、目的地までの過程で、知らない酔っ払いに出会って、友達になって……ってことあるでしょ? 僕はそういう事がよくあるんですけど(笑) 、そういう過程は僕らの仕事にも必要な経験だったりもするので、エジソンが最後に発明しようとしていたものにもそんな想いが込められているのかもって思っています。画期的な発明だけど人間を退化させるものもあると思うので。作らないほうがいいモノもあったかもしれないし。
東山義久
--例えばSNSなども便利かと思いきや、炎上して大問題になったりしますしね。
青木 モノを書いていてもgoogleで検索して調べるじゃないですか。すると一発でわかっちゃう。これが井上ひさし先生の時代なら、自分が知りたい事までたどり着くのにものすごい量の本を読むと思うんです。すると本人がGoogleみたいになってる。それを思うと「やばい、俺すぐわかっちゃうから知識が浅い」って焦りますね。
東山 青木先生みたいにずっとやっていらっしゃる人が「あれ、何だっけ?」でパッと調べるのはいいと思うんだけど、何もそういう作業をしないでただ答えだけを探して積み重ねるのはどうなんだろうって思いますね。調べる過程が面白かったりするのに。
青木 ホントに「先生」はやめて。あの~、僕らはまだそういう作業をしてきた世代だと思うけど、やっぱり僕の子供ぐらいの世代になると、調べようと思ったらすぐスマホ、みたいな感じはあるでしょ。あれは「大丈夫かな?」とか思うよね。
■「ラジオ」の存在意義
--ふと、思ったのですが、スマホをいじっているときでも、すっと耳に入ってくるのがラジオなのかな?って。
青木 そうなんです。本を考えていくうちにそんなことも考えてきて。今って情報が溢れすぎているから、ダイレクトに入ってくる「声」はつい聴いてしまうし、そこから想像力とかいろいろ広がっていく。そう思うとラジオってすごいメディアなんだなって思いますね。
瀬奈 私が車に乗るときは、いつもラジオを聴いているんです。ラジオってどうでもいいことを言ってて欲しいんです。いい事をあえて言わなくてもいい。情報が欲しいときもあるけれど、まるで一緒に会話をしているような、どうでもいい会話を聞いている感じでいたいんです。そういうパーソナリティーになりたいなと思いますね。
青木 そこに「人」がいるって感じだね。
青木豪、瀬奈じゅん、東山義久
--東山さんはいかがですか?
東山 ラジオって、リスナーの助手席に座って「これ、いい曲だから聞いてみてよ」って言ったりする感じなのかな。古いんだけど、ラジオって今になってみれば新しいメディアなのかもしれないって思いますね。
青木 ラジオってなくならないよね。
東山 そうですね。震災のときもラジオで情報集めていたし。
--ラジオを聴くためのツールが逆にスマホのアプリとして入ってくる時代ですしね。
青木 うう。すみません、ガラケーなんです……。
瀬奈 あら、アンティーク!
東山 なんでガラケーなんですか? スマホを嫌っているとか?
青木 うーん……。なんでかなあ。俺ね、携帯電話って、酔っ払ってよくわからないところをミスタッチしたときにあとで架空請求されたりするのが怖いのよ。
瀬奈 それはそういうところをそのまま観なければいいんですって!(笑)
青木 LINEとかもやってないんです。「LINEは嫌だ」って言ったら人から誘われなくなりました(笑)。この前、旅公演で俺だけ飲み会に誘われてなくて。なんで誘ってくれないの? って聞いたら他のみんなはグループLINEでやり取りしてたから忘れられたみたい。「豪さん、LINEやってないから……」って。
瀬奈 今回は地方公演もあるから!
青木 僕だけまた部屋にいて「誰も誘ってくれないな」って……。
東山 わかりました! 部屋呑みしましょう!(笑)
青木豪、瀬奈じゅん、東山義久
インタビューの冒頭、本作のフライヤーを見ながら、「僕のイメージってこれなんですかね?」と東山さん。お気づきの方も多いかと思いますが、フライヤーのイラストを手掛けたのはお二人とも共演経験のある岸祐二さん。「どう見ても僕をつぶそうとしてますね(笑)」と東山さんが言えば、「岸くんの悪意を感じますね、このイラストは(笑)」と瀬奈さんも乗っかりつつ笑っていました。
(イラスト:岸祐二)
岸さんの反論(?)をお待ちしております!
取材・文・撮影:こむらさき
ヘアメイク:武井優子(瀬奈、東山)
スタイリスト:松島三季(瀬奈)
【名古屋公演】 2017年5月1日(月) 青少年文化センター アートピアホール
【大阪公演】 2017年5月2日(火)、3日(水) サンケイホールブリーゼ
瀬奈じゅん 東山義久 岡部たかし まりゑ 安田カナ 武谷公雄
八十田勇一 小野武彦
■オフィシャルサイト https://edison.amebaownd.com/