本場英国RSCのジョン・ケアード演出『ハムレット』で浅野ゆう子がシェイクスピア演劇に初挑戦
『ハムレット』合同取材会にて(撮影/石橋法子)
英国ロイヤル・シェイクスピア・カンパニー(RSC)名誉アソシエート・ディレクターのジョン・ケアードが演出する日本版『ハムレット』に、浅野ゆう子がハムレットの母ガートルード役で出演する。浅野にとって初のシェイクスピア劇。ジョン・ケアードはこの4大悲劇のひとつを斬新な解釈で練り上げるといい、主演の内野聖陽をはじめほぼ全キャストが複数の役を演じ分ける。「この年齢で新たなことに挑戦させていただけるのは光栄なこと」と、浅野が大阪で合同取材会に応じ、作品への意気込みを語った。
「ジョン・ケアードという”ビッグネーム”に惹かれました(笑)」
ーーはじめに、ご出演までの経緯をお聞かせください。
一昨年の12月の頭ぐらいにジョン・ケアードさんからガートルード役でオファーをいただきました。もう2年越しですね。それまで商業演劇が中心だったのでお声掛けいただいたことにまず驚きました。ちょうどその頃、藤原竜也さんらと翻訳劇『とりあえず、お父さん』に出演中で、難しいと思い込んでいた翻訳劇も「私は外国人だ!」という演じ方をしなければ面白いんだなと、ちょうど見る目が変わっていた時期だったので。竜也くんにも「絶対にやるべき」と背中を押していただき出演を決めました。この年齢で新しいことにチャレンジさせていただけるというのは非常に光栄なことで、役者としても嬉しいですよね。こんなチャンスは二度と巡ってこないだろうと。何より、ジョン・ケアードという”ビッグネーム”に惹かれました(笑)。
『ハムレット』合同取材会にて
ーー実際にお会いしたジョン・ケアードさんの印象は。
人としての器の大きさと、本当にシェイクスピアを愛しているんだなということを感じました。私は自分で言うのもおこがましいですが、非常に素直なんですよ。メンタリストのDaiGoさんにも「マニュアル通りの答えを出してくれる」と言われるくらい(笑)。ジョンさんの舞台には”ジョン・マジック”があるらしいので、シェイクスピアを研究し尽くした彼がいう通りにできれば、それは間違いないことだろうと。新たな自分との出会いにまず自分自身がびっくりするでしょうし、ひとつの財産になるのだろうと思います。
ーーガートルード役についてのお話はありましたか。
ガートルードは、ハムレットの父である最初の旦那さんが殺されたことには一切荷担していないし、殺されたとも思っていない。それが途中から「もしかしたら…」と気づいて、そこからどんどん狂気に入って欲しいとの指導をまずはいただきました。
『ハムレット』合同取材会にて
ーー浅野さんが考えるガートルードとは。
芯の強い女性なんじゃないかと思っていたんですが、ジョンさんが言うにはそうじゃないみたいです(笑)。ガートルードはいろんな人の愛を独り占めしたいひとなんだと。だからハムレットの反抗的な態度に傷ついたり、グイグイ来られる方が好きみたいで、気位の高い前の夫より全身全霊で(言い寄って)来る弟クローディアスの方に揺らいでしまったとか。そういう提案をいただき、なるほどなと。
ーー現段階で、浅野さんの中に役との共通点はありますか。
基本的に「私をみて!」というタイプではないので、あんまり(笑)。旦那さんが亡くなった一ヶ月後に再婚したのもよく分からない。もしかして不倫してましたか?という気持ちにもなりますし。悪気なくそういうことをしてきた方だとしたら、これはなかなかしたたかな女だなと(笑)。これまで自分でキャリアを重ねていく強い女性役の方が多かったので、ちょっと戸惑っている部分はありますね。
ーーもう一役演じられるそうですね。
旅芸人の王妃役のひととも聞いたんですけど、翻訳本を読むと同じ場面にガートルードも出ているので、それは無理だろうと。台本でどうなるのかはわかりませんが、2役は必ずあるそうです。
ーー初のシェイクスピア劇で2役とはハードルも上がりそうです。
まずシェイクスピアの言葉は台詞ではなく、ポエジーだと言われました。当時の現実社会で使われていた言葉かといえば、そうではないと。でも、シェイクスピアの芝居は彼の言葉がある上でなんですよ。だから、どう覚えようかなと。わりと台詞はスッと頭に入る方なんですが、最初に全部覚えると凝り固まった解釈になりそうだし。とはいえ、お稽古しながら覚えるのも難しいだろうなと。ガートルードでいっぱいいっぱいな所に、また同じ節回しの違う役を演じ分けるのは難しいだろうなと思います。
「日本人が『ハムレット』に求めるもの何なのか、そこを演じたい」
ーーこれまでシェイクスピア劇を観劇されたことは?
ないんですね。拒否してるわけではないんですけど機会がなかったので、今回ジョンさんにもブロードウェイやイギリスで観てきた方がいいですかと聞いたら、「それもひとつの手かもしれないけど、まったく必要はない」と。それは、従来のものとは違う作り方をしたいということなんだろうなと。今まで触れてこなかった人間が観ることで、凝り固まるのを嫌がったということかもしれません。
『ハムレット』合同取材会にて
ーー『ハムレット』という作品については、どんなご感想をお持ちですか。
ハムレットはファザコンであり、マザコンではないか。特に母に対してあれだけ執拗に攻めたり、自分の中で許せない存在になっていくのもマザコンゆえのことではないのかなと思って。それをジョンさんに伝えたら「それはない」と、一刀両断されました(笑)。
ーー内野聖陽さんとの親子役についてはいかがでしょう。内野さんは「この年齢でハムレット?と思われた方も、ご期待ください」とコメントされていました。
内野さんがハムレットだと伺ったとき、当然私はオフィーリアだろうと思ったら母親役だと。だって、過去にドラマで夫婦役やりましたよ、とジョンさんに伝えたら「うん、時にはそういうこともあるよね」って。400年ぐらい前なら、8歳ぐらいで産んだ人もいるのかな~(笑)。内野さんがどれほど若く見せてくれるかですよね。
ーー4大悲劇としても有名ですが、やはりそういう印象ですか。
みんないなくなってしまいますからね。ハリウッド映画や日本の作品にしても、最後は必ず救いがある作品がほとんどじゃないですか。それがシェイクスピアの場合は、あまりにも救いがなさすぎるような気がしますよね。一番最初に読んだ『ロミオとジュリエット』からして救いがないなと、若い頃から思っていたので。厳しいですよね。心がほっとなる感じがしない。
ーーそれでも、上演が繰り返される理由はどこにあると?
人間は悲劇が好きなんでしょうか。よくツラいことや悲しいことを見て「私じゃなくて良かった」と思う、そういう見方もあるというのは聞くんですけど。分からないですよね。日本人がハムレットに求めるものって何なんでしょうね。そこを演じたいですよね。多分幕が開いて、お客様の反応を見させていただくことで、なるほどここはそう言うことなんだと、少しずつ気がついてくるのかなと。自分のなかで確信と確証をもって初日を迎えたいので、そうも言ってられないんですけど。
『ハムレット』合同取材会にて
ーー力のある共演者の存在も、助けになりそうです。
今は全員が相当に悩んでいる状態で、大御所の國村隼さんもシェイクスピアは初めてで「分からない、どうしよう」という状態ですので。素晴らしい力を持った役者さんが、今からどんな風に傷ついたりしながらひとつの芝居を作り上げていくのか。私たちにとっても楽しみですし、おそらく観てくださる皆様にとっても新鮮な体験になるんじゃないかなと予想はしています。
ーー最後に、地元兵庫公演を含めお客様にメッセージを。
兵庫には昨年の『真田十勇士』でもお邪魔して、みなさん温かく迎えてくださいました。私も関西人なので払った分は楽しもう!という思いが絶対にあるし、それをすごく感じました。それにより、役者も「どうですか!」と演じることができると思うので、東京と関西で芝居が変わるかも。國村さんも関西の方なので、関西弁の夫婦になるかもしれません(笑)。
『ハムレット』合同取材会にて
取材・文・撮影:石橋法子
■演出:ジョン・ケアード
■音楽・演奏:藤原道山
■出演:内野聖陽、貫地谷しほり、北村有起哉、加藤和樹、山口馬木也、今拓哉、大重わたる、村岡哲至、内堀律子、深見由真、壌晴彦、村井國夫、浅野ゆう子、國村隼
2017年4月9日(日)~28日(金)※プレビュー公演4月7日(金)・8日(土)
■会場:東京芸術劇場 プレイハウス
2017年5月3日(水・祝)~7日(日)※プレビュー公演5月3日(水・祝)13:00
■会場:兵庫県立芸術文化センター 阪急中ホール
2017年5月10日(水)
■会場:高知市文化プラザかるぽーと 大ホール
2017年5月13日(土) 、14日(日)
■会場:北九州芸術劇場 大ホール
2017年5月17日(水)
■会場:まつもと市民芸術館 主ホール
2017年5月21日(日)
■会場:上田市交流文化芸術センター 大ホール
2017/5/24(水) ~ 2017/5/26(金)
■会場:穂の国とよはし芸術劇場PLAT 主ホール