結成10年を超え、一際輝く構成力で魅せる藤原功次郎(トロンボーン)&原田恭子(ピアノ)

レポート
2017.3.31
藤原功次郎(トロンボーン)&原田恭子(ピアノ)

藤原功次郎(トロンボーン)&原田恭子(ピアノ)

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藤原功次郎(トロンボーン)&原田恭子(ピアノ) “サンデー・ブランチ・クラシック” 2017.3.12. ライブレポート

「クラシック音楽を、もっと身近に。」をモットーに、一流アーティストの生演奏を気軽に楽しんでもらおうと毎週日曜の午後に開催されているサンデー・ブランチ・クラシック。3月12日はトロンボーン奏者藤原功次郎(ふじはら こうじろう)が2回目の出演となった。藤原はこれまでに多数の国内外のコンクールを制し、ウィーン交響楽団で首席奏者を務めるなど、その実力は折り紙つき。現在は、日本フィルハーモニー交響楽団で首席トロンボーン奏者を務める傍ら、洗足学園音楽大学で非常勤講師として後進の育成にあたるなど、日本を代表するトロンボーン奏者としての地盤を今まさに固めつつある音楽家だ。

前回の出演時は、自身の似顔絵がプリントされた「功次郎Tシャツ」を衣装にまとってステージにあらわれた藤原だが、今回は「オケマン(オーケストラプレーヤー)」にとっての正装である燕尾服を着用して登場。ピアノの前奏に導かれて聴こえてきた旋律は、スタンダードナンバーの「アメージング・グレイス」だ。

リラックスできる環境で極上の音楽を

リラックスできる環境で極上の音楽を

トロンボーンの音色がしとやかに、やや低めの音域でゆったりとしたテンポでアメージング・グレイスのメロディーを奏でていく。穏やかで温かみのある伴奏と相まって、心にじんわりと沁み渡るかのよう。旋律をひとしきり吹き終えると、ピアノの間奏を挟んで半音2つ上のキーへと転調(1回目)。テンポも前向き、少しばかり明るい雰囲気を醸し出し始める……のだが、またすぐに落ち着いた雰囲気に戻ってしまったところで再び転調(2回目)。今度は半音3つ上がり、落ち着いてはいるが最初よりも高い音で朗々と旋律が歌われてゆく……と、突如としてピアノが派手なグリッサンドをかき鳴らし、またもや転調(3回目)。今度はいきなり半音5つ分も上がったためこれまで以上に盛り上がり、ジャジーなヴィブラートを伴ったトロンボーンによる満ち足りた響きでクライマックスが築かれていった。

これだけ濃厚なドラマを、なんと3分20秒ほどのなかに詰め込んで聴かせてしまうのだから尋常ではない。そして楽器はトロンボーンとピアノの2つしかないにもかかわらず、まるで様々な楽器の組み合わせに切り替わっていくかのように聴こえるので、否応なしにオーケストラを連想させられる。1曲目からこれだけスケールの大きな音楽を聴かせたのだから、この後はどうなってしまうのか? 楽しみであると同時に少し恐ろしくなってくるほどだ。マイクを握った藤原は、やはり1曲目からかなりのエネルギーを費やしたようで「ちょっと頑張って演奏したので、興奮冷めやらぬ感じです(笑)」と、息を切らせながらご挨拶。

MC中の様子

MC中の様子

続いて演奏されたのはカッチーニの「アヴェ・マリア」。カッチーニは今からおよそ400年前、バロック時代初期に活躍した作曲家だが、藤原自身からも説明があったようにこの曲が書かれたのは1970年頃のこと。ロシアの作曲家V.ヴァヴィロフ(1925–1973)が「作者不詳」と偽って発表した作品が、1990年代にカッチーニの作品と誤解され広まってしまった作品だ。いわゆる偽作ではあるのだが、演奏頻度の高い楽曲である。

藤原は1分以上ある前奏をなんと無伴奏で吹きはじめたのだから、また驚かされてしまう。斬新なアレンジだが実に効果的で、憎い演出だ。ピアノ伴奏が入ると、お馴染みのメロディーが登場。シンプルな伴奏ではじまるピアノパートも、曲が展開していくと少しずつ雄弁になっていくことで曲が盛り上がっていく。そしてトロンボーンは、単に美しい旋律を情感豊かに歌うだけでなく、終盤にはカデンツ(終止形)の和音にあわせて、細かな音符も取り込むことで緊張感も高めていく。4分強ぐらいの小品にもかかわらず、またもやお腹いっぱいになってしまいそうなほどの充実の演奏であった。

藤原功次郎

藤原功次郎

あたたかな拍手が鳴り響くなか再びマイクをとり、今度はピアニスト原田恭子の紹介をする藤原。昨年(2016年)は2人がデュオを組んでから10周年であり、そしてイタリアの国際コンクールで優勝するなど、ふたりにとって大きな節目の年となったようだ。コンクール優勝の副賞として、今年5月にはアメリカのカーネギーホールでの演奏も控えているのだという。

次に今回が初お披露目となった新編曲で、ラフマニノフの『交響曲第2番』より「第3楽章:アダージョ」が演奏された。先ほどの偽作についての詳しい解説につづいて、こちらでも丁寧にこの曲が書かれた背景を藤原は分かりやすく紐解いていく。藤原曰く「ロシアの別荘にある桜の木を見ながらラフマニノフが作曲」したのが、この「第3楽章:アダージョ」なのだという。ピアノに割りふられた3連符のたゆたうような音型がまるで桜がひらひらと舞い落ちるかのようであるという解説には、大いに膝を打った。

原田恭子

原田恭子

原曲は十数分ほど演奏時間がかかる楽章だが、藤原はなんと3分弱に再構成し、そのうえオーケストラのために作曲された音数の多いこの作品から、本当に大事なエッセンスだけを見事にピアノとの二重奏に移し替えてしまった。それもそのはず、藤原はトロンボーンを学びだす前から作曲やピアノを始めており、現在でも創作活動を行う作曲家でもあるのだ。大胆な省略をしたり、劇的な盛り上がりをつくりあげる構成力は彼の大きな魅力であり、強みでもある。

そうした構成力の妙は、プログラムラストのピアソラ「リベルタンゴ」でも大いに活かされていた。「リベルタンゴ」のカバーというと、大きく3つのタイプ(①ピアソラのオリジナルに近づける/②ヨーヨー・マのカバーに近づける/③自由なアレンジ)に分けられ、クラシック音楽のミュージシャンは1つ目か2つ目のタイプが多い傾向にあるが、藤原のリベルタンゴはこのうちの3つ目。大胆な省略や変更も含むアレンジによって、新鮮な魅力を引き出していた。

盛大な拍手に応えてアンコールは、なんと2曲。毎年3月になると演奏するという「青春の輝き」(カーペンターズ)と、いまや藤原のテーマソングにもなりつつある2014年の大河ドラマ『軍師官兵衛』メインテーマ(菅野祐悟 作曲)が演奏された。

「青春の輝き」は歌詞のなかで「人々の出会いと別れ (people come and go)」が歌われているだけに、この季節にはうってつけの楽曲。サビに向かって盛り上がっていったあと、後奏で繊細なサウンドに移り変わると、感傷的な雰囲気は頂点に達した。「軍師官兵衛」は、大河ドラマ本編でも劇中音楽のトロンボーンの音をすべて担当したこともあり、藤原自身にとっても思い入れの強い作品。原曲のオーケストラ版がもつスケール感を損なうことなく客席に届けてしまう2人に終演後、その“編曲(アレンジ)”と“演奏”の秘密をうかがった。

藤原功次郎(トロンボーン)&原田恭子(ピアノ)

藤原功次郎トロンボーン)&原田恭子(ピアノ)


――今回、トロンボーンのために作曲された楽曲はなく、全ての演目が「アレンジもの」でしたよね。市販の譜面をそのまま使われているわけではないようですが、どのように編曲をなさっているのでしょうか?

藤原:市販のピアノソロや連弾のバージョンを参考にしながら実際に2人で合わせ(リハーサル)をしてみて、お互いにアイデアを出し合いながら「功次郎譜面」みたいなものを作っていくというスタイルに……最近、なりましたよね?

原田:そうですね。アレンジものは一回音を出してみて、色んな楽譜を一応見ながら良いところを上手くまとめるみたいな感じです(笑)。
 

――アレンジでは、たとえば「アヴェマリア」で前奏を無伴奏にしてしまったり、「リベルタンゴ」で主要な対旋律をカットしてしまったりと、随所で大胆に音を省略されていたことに驚かされました。それによって、盛り上がりがより際立つんですよね。

原田:確かにバッサリやります。無駄を省くんです(笑)。聴き手側に伝わりやすくというか、分かりやすくというか。

藤原:それは常に思っていますね。独りよがりにならず、常に聴き手目線に立って、自分たちも聴衆に寄り添いながらやるということを、やっぱりすごく意識しています。

原田:さっきおっしゃってくださったように「引いて、出す」という単純なことですけれど、それが分かりやすいような構成にするよう心がけています。演奏している自分たちがテンションを持っていきやすいようにしているところもありますね。
 

――お2人の“編曲”はリハーサルをしながら、まさに共同作業で構築されていっているのですね。では“演奏”の部分については、どのように作られていっているのでしょう?

藤原:金管楽器だと、リハーサルでは本番のようにしっかり吹かないという方は多いと思うんですけれど、僕はガンガン吹くんですよ。本番の前に抑えてしまうと、本番でそれが出来なくなってしまうと言いますか……。自分としては「余裕が良い演奏をうむ」という意識をもっています。情熱を持ちながら演奏するんですけれど、冷静になっている部分も音楽家として必要じゃないかなと。
 

――なるほど、情熱的で感情に強く訴える音楽でありながらも、技術(テクニック)の安定度も高い次元で両立されていることに圧倒されてしまいました。ご自身としては技術面をどのように意識されているのでしょうか?

藤原:音楽の良さに寄り添うことでこういう音色で吹こうとかっていう意識が湧いてくるんです。だけどそのときに“技術”のことを考えすぎてしまうとそういう音楽になってしまうんですね。だから最初の譜読みの段階が大事で、原田さんは「譜読みとは、ニュアンスを読み取り、曲を理解することだ」とよく言っているんです。
 

――ただ音を正確に追うだけではないと。

藤原:そうです。楽譜から読み取ったニュアンスを考えることで、音楽の素晴らしさが「ふわっと」溢れてくる。管楽器奏者というのは息の芸術だと思うので、そこの部分を攻めていくことによって、人の琴線に触れるような演奏が出来るんじゃいかなと思いながらやっております。

インタビューに応える二人

インタビューに応える二人

――では、原田さん側からすると“演奏”をどのように作っていっているのでしょう?

原田:私もソロを弾いているわけではないので、彼がやろうとしているものを読み取って、それが活かせるように弾く役目だと常に感じています。その日その日でやっぱりちょっと違いがあるのでそれに合わせたり、反対に彼が私側にも敏感に反応したりもします。お互い萎縮してしまうと良くないので、伸び伸びやっていただけるようにと思っています。

藤原:よくTwitterとかで「藤原功次郎の演奏があるのは、原田恭子のピアノがあるからだ!」というのを言われるというのは、その通りだなってすごく思いますし、すごく感謝しています。

原田:求めているものや、目指しているものが似てるというか、共感できるっていう関係ではあるとは思います。

藤原:原田さんは先輩なんですけれども、僕が学生のときに藝大の伴奏助手でずっと働かれていて、そのときに本当に色々教えていただきました、ビシバシと(笑)。
 

――原田さんはもともと、弦楽器を中心に伴奏されていたと伺いました。

原田:そうなんです。

藤原:ニュアンスに対しての意識っていうのは、恭子さんから教えられて、僕もそれが良いなと思って……だから恭子さんに褒められたいから頑張っていたというのもあるんです(笑)。
 

――なるほど、では藤原さんにとっては、原田さんは先生でもあったんですね!

藤原:そうなんです(笑)。

原田:いやいや(笑)。そもそも私は当時、金管楽器というものにあまり興味がなかったもので……。

一同:(爆笑)。

藤原:出た出た(笑)。

原田:弦楽器の伴奏をやっていた身からすると「金管?」という感じだったんですけれど、彼が後輩だったことをいいことに、私も金管のことをよく知らないから、多分無茶なことをすごく彼に要求したんだと思うんです。金管だからということが分からなかったので(笑)。でも、それが彼が成長する上で役に立った部分はあるかもしれないですね。

藤原:僕自身もピアノが弾けたり、曲を作ったりするスキルがあったからこそ、彼女の言っている意味が理解できたし、それが良いなと思って。

原田:だから管楽器という感覚がないところから、この2人の音楽は始まっていると思いますね。

グッズを紹介する藤原

グッズを紹介する藤原

――少し話は変わるのですが、終演後にオリジナルのグッズを販売されていましたよね。こうしたグッズは、ライブ会場以外では購入できるのでしょうか?

藤原:有り難いことに結構人気があるのですが、これは演奏会場に来ていただいた方限定で、ずっとやっていけたらいいなと思っています。実用性のあるものを展開しようと考えていまして、次回はお小遣いで気軽に買える「クリアファイル」をラインナップに加えようかと(笑)。街とかで歩いているときに、功次郎グッズを見た瞬間に「ニヤっと」するのが夢なんです。

一同:(笑)。
 

――ファン同士でもお互いにグッズを見て「ニヤっと」することもありそうですね(笑)。今日は素晴らしい演奏と、お腹が痛くなるぐらいの楽しいお話をありがとうございました!


エンターテイメント性と、芸術的なレベルの高さを鮮やかに両立してしまう藤原&原田のデュオ。彼らがこれから結成20年、30年……と音楽を深めていった先でどんな音楽を奏でているのか、期待は高まるばかりだ。今後も2人の活動から目が離せない。

原田恭子(ピアノ)&藤原功次郎(トロンボーン)

原田恭子(ピアノ)&藤原功次郎(トロンボーン)

将来、日本の音楽会を背負って立つに違いない「未来の巨匠」を聴ける『サンデー・ブランチ・クラシック』は、毎週日曜午後1時から。休日のランチに"500円"を足すことで最高の演奏まで聴けてしまう「ちょっとした贅沢」を楽しんでみてはいかがだろうか。
 

取材・文=小室敬幸 撮影=鈴木久美子

サンデー・ブランチ・クラシック情報
4月2日
鈴木舞/ヴァイオリン&實川風/ピアノ
13:00~13:30
MUSIC CHARGE:500円

4月9日
小野明子/ヴァイオリン&益田正洋/クラシックギター
13:00~13:30
MUSIC CHARGE:500円

4月16日
尾崎未空/ピアノ
13:00~13:30
MUSIC CHARGE:500円
 
■会場:eplus LIVING ROOM CAFE & DINING
東京都渋谷区道玄坂2-29-5 渋谷プライム5F
■お問い合わせ:03-6452-5424
■営業時間 11:30~24:00(LO 23:00)、日祝日 11:30~22:00(LO 21:00)
※祝前日は通常営業
■公式サイト:http://eplus.jp/sys/web/s/sbc/index.html​
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